21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

米中首脳会談を受けた朝鮮半島情勢(環球時報社説)

2017.4.10.

今回の習近平とトランプとの間の米中首脳会談は、朝鮮半島問題ではほとんど具体的な進展はなかったようです。しかし、4月10日付の環球時報社説「中米 相互疑惑から相互信頼へ さらにカギとなる蓄積の一歩」の最後のくだりを読みますと、私の気のせいかもしれませんが、従来の論調とはニュアンスを異にする指摘があるように感じられます(強調は浅井)。

 中国はいかなる時でも自らの核心的利益をキッパリとひるむことなく擁護するべきだ。この点を除けば、我々はより慎重かつ謙虚になって、アメリカその他の国々の気持ちを考慮する必要がある。自信と自制はともに中国にとって非常に重要であり、両者を統一的に協調させることは、中国が台頭するに際して備えるべき集団的知能であるべきだ。途絶えることなく続いてきた唯一の偉大な文明として、中国は、21世紀において、世界が刮目するウルトラ・レベルの知能を発揮すべきだ

 この文章を読んだ上で、同日付の同紙のもう一つの社説「朝鮮が「次のシリア」になることはあり得ない」を読むとき、首脳会談及びトランプが命令して行われた対シリア軍事作戦後の中国(環球時報)の朝鮮半島情勢に関する見方(特に社説は今後ありうる朝鮮の第6回核実験が引き起こすアメリカの超強硬な反応の可能性を警戒)は行間を読むぐらいに注意を払って読む必要があると思います。特に、「もしも朝鮮が新たな核実験を行うときには、北京からワシントンに至るまでの反応は空前のものとなり、恐らく「ターニング・ポイント」とすらなるだろう」という指摘は、私の記憶が正しければ、はじめて見るものです。米中首脳会談を受けた中国の朝鮮に対する姿勢・政策は今後さらに厳しさを増すことを予見させます。それは、上記社説の「(核心的利益を)除けば、我々はより慎重かつ謙虚になって、アメリカその他の国々の気持ちを考慮する必要がある」「ウルトラ・レベルの知能を発揮すべきだ」という指摘の朝鮮核問題への適用と見ることも可能です。
 率直に言って、私自身は、習近平政権が先も読めないトランプ政権との関係構築に「のめり込んでいる」感じすらあることに強い違和感を覚えます。この「のめり込み」がこれまで総じて言えばバランスがとれた中国の対朝鮮半島政策(直近の表れが「双方暫定停止」「ダブルトラック同時並行」の提案。ただし中国は、2006年当時、朝鮮の宇宙条約上の権利行使としての人工衛星打ち上げを、弾道ミサイル打ち上げとして糾弾した安保理決議に賛成するという致命的誤りを犯しており、その誤りを認め、正すことは今日に至るまで行っていません)を誤らせるとすれば、朝鮮半島情勢は唯一のバランサーすら失う深刻を極める事態となるでしょう。今は、この不吉な予感が外れることを願うほかありません。

 アメリカのカール・ビンソン空母戦闘群が朝鮮半島に近い西太平洋に向かっており、アメリカがシリアの軍事目標を攻撃した直後でもあって、カール・ビンソンの動向に注目が集まっている。
 シリア空軍基地に巡航ミサイルを発射したことは、武力行使において、トランプがオバマよりも果断である一面を見せつけた。ワシントンが朝鮮問題においても同様のスタイルを踏襲するか否かについて、ますます現実味を増す懸念材料となっている。平壌はシリアの事態に強烈な反応を示し、「絶対に腰を抜かすことはない」と表明した。
 トランプとオバマとが性格を異にすることは明らかであり、しかもトランプは自分が「普通人とは違う」ことを誇示したがる。シリア攻撃はある程度彼のこうした性格を示すものであり、トランプは世界に向けて、自らが武力行使をためらわない米三軍総司令官であるという強烈なシグナルを送った。
 しかし、トランプがオバマの外交戦略に「回帰」していることを示す材料も多く、政権について3ヶ月近くになるが、トランプはもはや米外交の「革命者」の趣はない。米軍の今回の攻撃は駆逐艦が発射した約60の巡航ミサイルのみであり、戦闘機すら出動しておらず、これは極めて単純なことで、打撃効果もきわめて限られているし、「化学兵器だけに着目した」警告的行動に過ぎない。
 このような攻撃を朝鮮に対して行う場合、効果はさらに限定的となるが、その生み出すリスクははるかに大きくなるだろう。朝鮮の大量の砲火と短距離ミサイルがソウル地域に照準を定めており、アメリカがシリアにおけるような「象徴的攻撃」を行うことは、とりもなおさずソウル地域の人々は一大災難に曝されることになる。
 アメリカのシリアに対する武力行使の決定は迅速で、国家安全保障会議が会議を開き、トランプがゴー・サインを出し、ミサイルが即発射された。朝鮮に対する武力行使はこのように簡単であるはずはなく、アメリカとしては、平壌がソウルに報復を行うことに対してどうするかという問題を真剣に考慮し、答えを出す必要がある。
 したがって、アメリカとしては朝鮮に対して武力行使を行わないか、万一武力行使を行う場合には、朝鮮の核施設及び関連の軍事施設をたたくだけに留まらず、米韓が連合して平壌に対する「斬首作戦」を行い、平壌政権をひっくり返す大ばくちを行うという確率が高い。
 つまり、アメリカが朝鮮に対する軍事攻撃を行う場合には、「限定された範囲」に留めることはきわめて困難であり、最終的に朝鮮半島で大規模な殺戮となる可能性が極めて高いということだ。朝鮮は巨大な犠牲を出すし、韓国も深刻な被害を蒙るだろう。
 予想される筋書きは以上のようなものだが、ワシントンはシリアでの得点に味を占めて、平壌に対する挑発をよりためらわなくなるかもしれない。空襲によって朝鮮の核施設をなきものにするという考え方は、今ではトランプ政権内部では荒唐無稽とはされておらず、しきりに議論される「厳粛な選択肢」となっており、それを発動するに当たっては、「やってから後のことは考える」ことの理由づけが必要とされているにすぎない。
 以上のアメリカ側の状況のもとで朝鮮が第6回核実験を行うとなれば、ワシントンが突っ走る最後の、決定的な理由となる可能性が排除できない。少なくとも、ワシントンにとって絶好な口実となるだろう。本年の状況は昨年とは違う。昨年はオバマ政権の末期であり、彼の朝鮮に対する「戦略的忍耐」7年であり、最後の1年は耐えがたきを耐える1年だった。トランプは政権に就いたばかりであり、朝鮮核問題の解決を新政権の重点課題と公言しており、政権に就いた端緒に平壌に負けたら、トランプは威信失墜と感じるだろう。
 情報によれば、米国家安全保障会議は駐韓米軍に核兵器を配備することをトランプに提案しているといい、仮にそうだとすれば、朝鮮核問題のすべてのロジックを変える可能性が出てくる。すなわち、半島非核化という目標はもはや存在せず、朝鮮の核保有は事実上合法化されるだろう。中露両国は強烈に反対することになるだろう。
 朝鮮が情勢の判断を誤らないことは、今後の一定期間最高に重要となる。朝鮮は際限なく冒険的になってはならず、すでに5回の核実験を行ったのだから、第6回核実験を行っても大したことはないだろうと考えてはならない。もしも朝鮮が新たな核実験を行うときには、北京からワシントンに至るまでの反応は空前のものとなり、恐らく「ターニング・ポイント」とすらなるだろう。平壌は今、ことのほか理性を維持する必要がある。

 社説が朝鮮の第6回核実験をとりわけ重視する理由はハッキリしません。ICBM発射実験あるいは人工衛星打ち上げでも、トランプ政権の神経を逆なでする点においては変わりはないと思われます。近い将来には、朝鮮にとっての記念日とされる日にちがいくつかあり、その際に行われる蓋然性が高いのが核実験であるという判断によるものかもしれません。あるいは、なんらの根拠もありませんが、首脳会談でアメリカ側が核実験がレッド・ラインだと指摘した可能性も排除できません。
 もう一つ指摘しておきたいのは、2月19日付及び3月30日付のコラムで書いたように、朝鮮のトランプ政権に対する姿勢は次第に批判的になっていますが、まだ最終的に対決姿勢を打ち出すには至っていないことは確かであるということです。したがって、この姿勢が維持される間は、朝鮮が第6回核実験やICBM発射実験を控えるのではないかという希望的判断もあり得ると思います。