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米中首脳会談
-トランプのインタビュー発言と環球時報社説-

2017.4.6.

4月3日付フィナンシャル・タイムズ(FT)WSは、同紙がトランプ大統領と行ったインタビュー内容を掲載しました。冒頭では、来たるべき米中首脳会談において取り上げられる朝鮮核問題と米中貿易不均衡問題に関するQ&Aが行われています。トランプは、朝鮮核問題解決における中国の果たすべき役割を強調し、米中貿易問題を絡めて習近平に対して強い圧力をかける可能性を明らかにしました。そこに見られるのは、徹底した商売人・トランプの「取引」という発想であり、また、商売的駆け引きの発想です。
 環球時報は4月5日付社説で、トランプの発言そのものには言及しないながらも、明らかにそれを意識した反論を行っています。また同紙は、トランプのインタビュー発言以前ですが、4月1日付社説で米中貿易不均衡問題に関する中国側立場・主張を展開しました。習近平訪米直前の段階で出された両社説の内容は、習近平がトランプとの会談で取るであろう中国側の立場を予め予想させるに足るものだと思われます。
トランプが商売人根性丸出しで習近平と相まみえようとしているのに対して、習近平としては、トランプの商売人根性丸出しの発想・アプローチを踏まえつつ、その発想に基づいても結局は中国の一貫した主張にたって物事を考える方がトランプにとって「得になる」のだという理詰めのアプローチを取るであろうことを予見させます。
 以下においては、トランプ発言と環球時報社説の内容を紹介します。

<フィナンシャル・タイムズ紙とのインタビューでのトランプ発言>

(質問)あなたは取引上手だが、習近平との間で取引できるか。
(回答)私は習近平と中国に対して非常な尊敬の念を持っている。我々がきわめて劇的な、両国のためになることを成し遂げるとしても、私はまったく驚かないだろうし、そうなることを望んでいる。
(質問)あなたは北朝鮮について話し合い、かつ、前進があるだろうか。
(回答)イエス。我々は北朝鮮について話し合う。そして中国は北朝鮮に対して大きな影響力を持っている。中国は北朝鮮について我々の助けになることをするか否かを決めるだろう。もしするなら、中国にとって非常に良いことだし、しないならば誰のためにもならない。
(質問)インセンティヴは何か。
(回答)トレード(交換・商売・貿易)がインセンティヴだと思う。すべてはトレードだ。
(質問)どのようにして、中国の貿易黒字を急減させるのか。
(回答)今のような不公正な取引をするのであれば、我々は中国との貿易を続けることはできないと言い渡すことによってだ。今あるのは不公正な取引だ。
(質問)関税を同水準にするつもりか。
(回答)まだ関税について話すつもりはない。多分次回会うときになる。だから、まだ話すつもりはない。
(質問)あなたは中国との間でどこまで踏み込もうとしているのか。北朝鮮を解決し、米軍を朝鮮半島から撤退させることで、地域情勢を一変させる壮大な取引が実現するだろうか。
(回答)もし中国が北朝鮮を解決しないならば、我々が解決する。話すことはそれだけだ。
(質問)中国の助けなしに解決できると考えているのか。
(回答)完全に。
(質問)1対1でか。
(質問)それ以上は言いたくない。完全に、だ。
(質問)あなたは、まず北朝鮮を話し合ってから貿易を話すつもりか。それとも逆か。
(回答)答えるつもりはない。われわれは、中東でどこを攻撃するかについて語っていた過去のアメリカではない。…話す理由はない。

<環球時報社説>

〇4月5日付「アメリカよ 朝鮮核の難局を突破する方向をゆめゆめ選び間違えることなかれ」
 朝鮮核問題が長らく埒があかず、米新政権が突破したいと願うのは少しも怪しむことではない。しかし、ワシントンは突破する方向を見定める必要があり、表面的な現象に惑わされることはゆめゆめあってはならない。
 朝鮮核問題は一見したところ非常に簡単に見える。すなわち、平壌は核兵器と中長距離ミサイルの開発にしがみついているが、そのことは平壌に何の利点ももたらさない。平壌に核放棄を迫ることは同時に「朝鮮を救う」に等しく、中国が大いに尽力して、平壌を分からせるか、気が進まないとしても北京の要求を受け入れざるを得ないようにすることは、そんなに難しいことではないはずだ、という筋書きだ。
 しかし実際は、朝鮮半島と東北アジアは掛け値なしの「ゴチゴチ状態」だ。朝鮮はまず横に置いて、中日韓3国について見てみよう。どの関係も矛盾だらけで、今や3辺すべてが対立状態の三角形となっている。
 指摘せざるを得ないが、アメリカは東北アジア情勢の混迷に対して重要な責任がある。アメリカは朝鮮半島の冷戦を終結させていないし、東北アジア諸国に対してあるいは仲間に引っ張り込み、あるいは圧力をかけ、あるいは殴りかかるなど、この地域にあまりに多くの戦略的な不信の種をまいてきた。しかるにアメリカは、朝鮮が進んで核を放棄することを要求し、その前提条件としては、大国が集団的に朝鮮に対して行う安全保障上のコミットメントとアレンジメントを朝鮮が信じることができる、というのだ。
 しかし、平壌は現在何も信じないし、誰をも信用していないのであって、信じるものは原子爆弾だけ、原爆があれば安全、原爆がなければ一巻の終わり、と考えている。朝鮮に対する制裁は、朝鮮全土をマヒさせ、人々を餓死させるレベルにまで行かない限り、平壌は恐らく白旗を揚げない。
 トランプが大統領に就任する前までの米政権の一貫した政策は、対朝鮮制裁を段階的にエスカレートさせると同時に、韓国に対する安全保障上のコミットメントと朝鮮に対する軍事圧力を強めるというものであり、要すれば、朝鮮を圧力で押しつぶすというものだった。ワシントンは未だかつて平壌と真剣に意思疎通を試みたことはなく、平壌の心の病を取り除くことを通じて核の放棄を促そうとしたことがない。
 以上のタクティックスが明らかにうまく行かないとなると、ワシントンは中国が同調しないからだと恨み言をいう。しかし、中国の朝鮮に対する制裁はすでにきわめて厳しいものであり、中国に対する非難は「拡大鏡を持ち出して」行っているようなものだ。この種の批判の最大のメリットは、ワシントンの不首尾な対朝政策を免責することにある。
 仮にワシントンが本当に朝鮮と「1対1で対決する」とするならば、その選択肢はきわめて限られていることが分かるだろう(浅井注:FTの質問にあった「1対1」という表現を使っています)。
 対朝鮮制裁を引き続き強めても、その生み出す実際的効果はますます小さく、制裁というテコの使用を拡大する余地は今やほとんど残されていない。朝鮮に対する軍事的打撃を発動するという可能性については、中露の態度は別問題として、韓国が恐らく真っ先に堪えられないだろう。なぜならば、ワシントンは軍事的打撃の効果について自信があるとしても、朝鮮の反撃がどの程度のものになるかについてはつかめっこないからだ。アメリカのソウルに対する最大のコミットメントは安全保障だが、アメリカによる軍事打撃は平壌によるソウルに対する大規模な火力の報復を招く可能性が高く、その結果、ワシントンの威信は必ずや損なわれるだろう(浅井注:トランプの損得勘定的発想に訴えています)。
 アメリカが本当に朝鮮核問題を解決することを考えるならば、アメリカを取り巻く諸国間の対立を少なくし、カギとなる共通認識を作ることを促さなければならない。それと同時に、アメリカは平壌との意思疎通のチャンネルを開通し、朝鮮に対する圧力行使の中で朝鮮が臨機応変するスペースを作り出さなければならない。
 中国は朝鮮核問題が早急に打開されることを切に希望しているが、どのような事態が発生するとしても、中国にはいかなる代価を払ってでも守るべきボトムラインがある。それは、中国東北地方の安全と安定だ。それと関連することだが、朝鮮の核関連活動は中国東北地方に対していかなる汚染も引き起こしてはならない。さらに、朝鮮が大量の難民を輸出するような激動に向かうことは許されず、鴨緑江対岸に中国に敵対する政権が出現することも許されないし、ましてや米軍が鴨緑江沿いまで進出することは許されない(浅井注:中国がかくもアケスケにボトムラインの中身をさらけ出したのは、トランプという現実的思考の持ち主を意識してのことだと思われます)。  ワシントンが北京と協力を強化して朝鮮核問題を解決することを希望するのであれば、その政策は以上に述べた中国の関心事項に抵触するべきではない。
 以上を要するに、朝鮮核問題の複雑性は客観的なものであり、快刀乱麻で問題を解決したい気持ちは分かるが、善意の願望は地に足がつくことによってのみ良い効果を生むことができる。朝鮮を交渉のテーブルに引き戻すことは、今もなおもっとも現実的な道であることに変わりはない(浅井注:トランプ的発想に立っても交渉による解決しかあり得ないという理詰めの説得です)。
〇4月1日付「自然形成された国際貿易は人為的に歪めることはできない」
 米通商代表部が金曜日(3月31日)に発表した貿易障壁報告は63の国家を名指しで批判している(中国部分の内容を紹介)。別の報道によれば、米政府は「国別、産品別」に貿易赤字の原因を探し出そうとしており、中国のほかに、日本、ドイツ、メキシコなどの対米黒字大国すべてに圧力をかけ、これ諸国に対するアメリカの貿易赤字を大幅に縮小するミラクルを起こし、それによってアメリカにおける就業機会を創造することを狙っている。しかし、どの国との間でもアメリカは巨大な困難に直面している。
 中米貿易に関して言うならば、アメリカの対中貿易赤字がほかの国に対するよりもさらに大きいのは中国の貿易政策が招来したものではない。中米貿易の図体が大きいのは、中国経済の規模が大きく、中米間の経済補完性が強く、相互の需要が多いということの反映である。両国間の貿易においては政府間的性格のものはきわめて少なく、ほとんどが市場原理に基づくものだ。中国は、米産品に対してWTO違反の貿易障壁を設けていないし、対米貿易黒字を政策的に誘導してもいない。
 中国のインターネットの管理には一定の必要な政治原則が含まれているが、それらは中国及び外国の企業に一律無差別に適用され、アメリカのインターネット企業は、中国の法令を遵守する限りは中国で発展することができる。現在の状況は、多くの米企業が中国市場に進出しているが、中国の関連規定を遵守することを拒否するものが自ら市場進出することを放棄しているものもある。また、中国の条件に基づいて進出することを考える企業もあるが、米世論の圧力があり、「中国に頭を下げた」と批判されることを恐れて逡巡するものもある。
 アメリカには長期にわたり、中国が「為替を操作している」という批判の声がある。一部の人々は、人民元が極端に低く抑えられることで中国産品の米国産品に対する競争力を高めていると見なしている。しかし、人民元が今直面しているのは切り下げ圧力であり、この2年間中国政府の関連政策はすべて人民元が切り下げられ続けることを防止することである。「中国の為替操作」という命題が的外れであることについては、アメリカ国内でますます多くの人々によって認識されつつある。
 現実は何かといえば、アメリカはすでにハイテク国であり、その競争力は高いハイテク産品である。しかし、アメリカは中国に先端技術を輸出することを出し惜しみし、自らの貿易上の優位性を極端に犠牲にしている。中国の競争力がある産品は、アメリカがもはや生産していないもの、生産はしているが生産コストが高いものである。中米貿易は双方が利益を享受する自然のプロセスであり、人為的に作り上げたものでもなければ、人為的に勝手に変更させることができるものでもない。
 例えば、中国からは毎年十万人という規模で青少年がアメリカに留学に赴いている。アメリカの優れた教育資源は、中国の多くの中産階級の家庭にとって押さえることのできない吸引力がある。中国世論においてはこの現象に対する大量の批判がある。しかし、この現象は減らないどころか一貫して増加している。アメリカの対中教育輸出は巨大な黒字を計上しているが、この問題を中米両国が政府レベルの協力で解決できるだろうか。中国が改善するとしても、国内における自己改革及びレベル・アップを通じてしかできないだろう。
 政治的圧力を行使することによって貿易赤字を大幅に縮小するというのは、賢明なやり方ではないし、効果を上げることも難しい。国際貿易の今あるのは、民間の様々な市場的要素によって形作られているものであり、市場の形成力に対する政治的手段はきわめて限られている。仮にアメリカが対外輸出を増やそうとするのであれば、外国市場の需要に対応し、サプライ・サイドからの構造改革を進め、各国の消費者が嗜好する産品をより多く生産する必要がある。
 中国経済はすでに高度に市場化しているので、中国市場をしてアメリカの経済的繁栄を促進するようにしたいとしても、それは市場を通じてのみ実現できるのであって、中米経済貿易協力の現実のプロセスは間違いなくそういうものである。
(浅井注:全編を通じて、米中貿易と朝鮮核問題との「トレード」というトランプ的発想がまったく問題解決とかけ離れた非現実的なものだとする中国側の認識を知ることができます。)