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ロシア政治システム(環球時報社説)

2017.3.29.

3月27日付の中国新聞社WSは、26日のモスクワ電として、「ロシア各地で反腐敗デモ勃発」と題する記事を掲載しました。この記事によれば、今回のデモは「腐敗に対する闘い」基金会が組織したもので、モスクワ、サンクトペテルブルク、エカチェリンブルグ、ウファ、ウラル、トムスクさらには西シベリア、極東の10以上の市で行われ、参加者数は1000人(極東)ないし8000人(モスクワ)を数えました。デモにおけるスローガンとしては腐敗反対が主でしたが、中には腐敗官吏の辞任を求める激しい内容のものもあったということです。各地のデモの多くは当局の許可を得られない「違法」デモであり、基金会創始者のナヴァリネイを含め、多数の逮捕者が出ました。
 プーチンに対する支持率が極めて高いロシアで反政府デモということに私は一種の驚きを感じたのですが、もっと驚いたのは、環球時報が3月28日付の社説(「ロシアは如何に政治的挑戦に対処するか 詳細に観察する価値のある問題」)で取り上げ、ロシアの政治システムとの関連で捉える論評を加えたことでした。中露関係は蜜月状態にありますが、社説がロシアの政治システムの本質と問題点(西側の政党政治というシステムを取り入れながら、権威政治の実質を行っているという本質及び両者間の矛盾は不可避という問題点)を、非西側諸国における政治システムの模索という世界的規模の問題という視野の中で率直に論じている、きわめて興味深い内容で、私は少々興奮を感じながら読みました。興味を覚える方もおられると思い、訳出して紹介します。

 この日曜日、ロシアの首都・モスクワほか多くの都市で反プーチン、メドヴェージェフ首相辞任を要求する抗議デモが起こり、当局の推計によれば、集会参加者は7000~8000人、外電によれば少なくとも500人が拘束されたという。
 西側メディアによれば、モスクワのデモ参加者は「打倒プーチン」「ロシアにはプーチンは要らない」などの激しい反プーチンのシュプレヒコールを叫んだ。また、今回のデモは「反腐敗」を打ち出し、メドヴェージェフ首相が豪邸、ヨット、ぶどう園などを持っていると指弾した。首相府スポークスマンは、これらの非難を否定し、「宣伝攻撃」だとした。
 数千人のデモということは、モスクワという大都市としては大した規模ではないが、2012年以来で最大規模でもある。ロシアは2018年に大統領選挙を控えており、今回のデモはロシア政治が新たな活発な時期に入るメルクマールとなるかもしれない。
 ロシアは、西側の多数政党制を導入すると同時に、政治における権威主義的な色彩も突出している。西側はロシアを「民主国家」と承認したことはなく、ロシアの「専制」を厳しく批判しており、このことは長期にわたってロシアに対する圧力となっている。国内の反対派の挑戦に如何に対応するか、反対勢力と西側勢力との結びつきを如何に防止するかということはモスクワにとっての重大課題である。
 ロシアにおける地理的、民族的及び文化的要素は権威主義を呼び寄せるが、ロシアは多党選挙システムを採用しているため、この二つの要素を結びつけることは容易なことではない。世界的に見ても、権威主義でかつ多党選挙システムを取った国家の多くは激動という結末に向かっており、しかも、西側はこれら国家にとってのモデルと見なされるために、この問題がくり返し蒸し返される。
 ロシアはこの問題をこれまできわめて効果的にコントロールしてきたというべきだが、その最重要の要素は、ロシアにおけるプーチンの支持率が極めて高く、しかも多党選挙システムがロシアの政治生活の隅々にまでは浸透しておらず、むしろ一定の範囲内に局限されていることだ。西側は、この政治システムをロシア社会の隅々にまで拡散させようと考え、反対派も同じような強い願望を持っており、しかもそうすることは理論的に「正当性」を有していることもあり、ロシア政治におけるもっとも不確定な方向性を形成しているのだ。
 ロシアでは、ソ連解体後に国家的な方向性喪失及び混迷という苦痛に満ちた経験があり、そのことが残した集団的記憶は今日においても生々しい。ロシア社会がここ数年困難に見舞われていながら相変わらずプーチンを支持するというのは、当時の経験及び記憶と関係がある。多くのロシア人は、ユーラシア大陸をまたぎ、各地の文化の間に巨大な違いが存在する国家が西側と同じ政治文化の途を辿ることはできないと考える傾向がある。ソ連解体後にそれを試みたこともあったが、結局は成功しなかった。
 しかし、ロシア国内には政治的に決定的に「西側」化することを望む人々がおり、彼らがその主張を表明し、堅持する上での法律的な障害はさしてなく、彼らが当局と闘争する上では西側の支持を含む基盤がある。日曜日のデモを組織した反対派の指導者ナヴァリネイは15日間拘留されることになったが、拘束されてもなおツイートで支持者を激励することができる。
 非西側諸国が西側とは異なる政治的コースを歩もうとすることはきわめて困難な模索となる。非西側モデルで長続きしたものはまだ存在せず、多くの国々での実践を共同で検証するということも行われていないこともあり、新しい政治的模索は西側モデルによる自然あるいは意識的な圧力を受ける。日曜日のロシアのデモ発生後、ワシントンは直ちにモスクワがデモ参加者を拘束したことを厳しく非難した。
 ロシアがその独自の道をどのように歩んでいくかということは、非西側諸国にとって非常に重要な参照価値がある。ロシアは西側文化の影響を深く受けており、地理的にも西側と近く、西側の一定の政治的要素はロシア社会で合法的に育つことが可能だ。このような環境のもとで、ロシア社会が依然として西側とは異なる政治運営の方式を支持し、受け入れるということは、実に考えさせられることだ。
 政治的に何が危険で、何が危険のように見えるけれども容易に克服することができるのか。どのような変化が西側主導の世界に融合することに対して意味があるのか、あるいは意味があるように見えて実は機能しないのか。この種の重要な問題を、ロシアという「模型」上で事細かに探すならば、答えを見つけることができるかもしれないし、対応のあり方を見届けることができるかもしれない。