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ティラーソン国務長官歴訪と中国(環球時報社説)

2017.3.26.

ティラーソン国務長官の日韓中3国訪問における最大の焦点の一つは、朝鮮の核ミサイル開発問題を中心とする朝鮮半島情勢でした。一連の報道から浮かび上がった興味深い事実の一つは、日韓両国では朝鮮に対する強硬姿勢を鮮明にしていたティラーソンが、中国においては抑制した発言に終始したことです(王毅外交部長との共同記者会見)。これは、巷間伝えられる習近平の近々の訪米計画を控え、米中関係の対立面を表立たせることを憚ったという事情もあると思いますが、私としては、トランプ政権の対朝鮮政策の全面的な見直しにおいて、「すべての選択肢がテーブルの上にある」とするトランプ政権の立場についても考慮する必要があるのではないかと考えます。
 すでにこのコラムでも指摘してきたとおり、トランプ政権の対外政策は、過去に縛られず、商売人・トランプの損得勘定的発想に基づいて立案しようとする姿勢が顕著です。対朝鮮政策においては、先制・予防攻撃という超強硬手段を採用する可能性のみが喧伝されていますが、朝鮮による韓国及び日本に対する報復攻撃の可能性をゼロにすることは不可能である(つまり、日韓両国が到底耐えることのできないほどの打撃を蒙ることは不可避であり、そのことは経済的に計り知れないダメージをアメリカ自身にも及ぼす)以上、トランプ的発想に立てば、かかる超強硬手段は到底取り得ないはずです。したがって、すでにアメリカのメディアが流しているとおり、トランプ政権としては軍事力行使以外のありとあらゆる手段で朝鮮を締め上げるという、結果的にはこれまでのアメリカの対朝鮮政策の延長線上の政策を採用する以外にないという流れになっています。
しかし、私としては、「すべての選択肢がテーブルの上にある」というトランプ政権の損得勘定の中には、超強硬手段を試みた上で成果がなければ朝鮮との交渉によって問題を打開するという選択肢も当然含まれていると考えるのです。それこそが、イデオロギーあるいはアメリカのヘゲモニー確保に対するこだわりとは無縁の商売人・トランプの発想の面目躍如ということになるはずです。つまり、トランプが強調する「アメリカ第一主義」はあくまで経済面に着目したものであり、イデオロギー(政治)とかヘゲモニー確保(軍事)とかには強いこだわりがないことこそが、これまでのアメリカの対外政策とトランプ流対外政策とを隔てる最大かつ最重要のポイントなのです。
 じつは、韓国でももっとも保守的とされる朝鮮日報社説(3月21日付「韓半島の未来は予測できない、最悪の状況に備えを」)はトランプ政権の対朝鮮政策が以上の方向で激変する可能性をかぎ取っています。そのさわりは以下のとおりです。

 米国トランプ政権の核政策について、これが近く見直される可能性を示唆したティラーソン国務長官の言葉をわれわれは決して軽く受け流してはならない。ティラーソン氏は今回、韓国、中国、日本の3カ国を相次いで訪問した際、メディアからの取材に対し「テーブルの上には全てのオプションがある」とコメントしたが、…その直後に「未来は予測できない」ともくぎを刺している。…
 (ティラーソンなど)がことあるごとに言及し、またある意味当然でもある事実だけはわれわれもはっきりと認識しておかねばならない。それは「未来は予測できない」ということだ。とりわけ国際情勢あるいは各国の安全保障政策に100パーセントということはなく、確実なことがあるとすれば、それは「いつ何が起こるか分からない」ということだけだ。
 北朝鮮が近く6回目の核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を強行し、米国の情報当局が北朝鮮の核武装を認めるに至った時、韓半島(朝鮮半島)情勢がどのように変わるか現時点で予測は難しい。米国が軍事行動に出ることもあり得るし、逆に米国と北朝鮮が平和協定と在韓米軍の撤収を議題として話し合うことも考えられるだろう。…かつてクリントン元大統領は2000年末に平壌訪問を真剣に検討し、ブッシュ元大統領は北朝鮮と平和協定を結ぶことを一時は考えていた。…
 われわれはトランプ政権における韓半島政策と韓米関係が、これまで想像もできなかった方向に突然向かうこともあり得るという事実からまずは受け入れておくべきだろう。つまり「誰も未来は予測できない」ということだ。…

 以上を踏まえた上でティラーソンの日韓中3国訪問に対する中国の反応を見るとき、朝鮮核問題解決に関する中国のアプローチが、商売人・トランプの損得勘定の発想に訴える形で、交渉(具体的には、3月11日付コラムで紹介した、王毅外交部長の提唱による「双方暫定停止」「ダブルトラック同時並行」に米韓が応じること)による解決をアメリカに強く促そうとしていることを確認することができます。その点を、環球時報の3社説によって確認しようというのが今回のコラムの趣旨です。

<3月17日付社説「アメリカの対朝政策 誤りの上塗りだけはやめておけ」>

 この社説は、トランプ政権が過去20年間のアメリカの対朝鮮政策は誤りだったとしながらも、結局は制裁強化という同じ政策にしがみついていること、そして朝鮮が核放棄に応じない責任を中国に丸投げしようとしていること(これまた従来と同じ)の非を説くとともに、中国も朝鮮の非核化を要求する立場では米韓と同じであること、中国の対朝鮮政策の変化については正当に評価されるべきこと、しかし、中朝国境閉鎖などの極端な措置は予測不可能な事態を引き起こす故に絶対に取り得ないこと(浅井注:この点は、損得勘定で物事を考えるトランプ政権に訴えることを狙ったものでしょう)を指摘して、アメリカに対して中国の提案に応じることを促しています。

 ティラーソンは東京で、アメリカの過去20年の対朝鮮政策は失敗だったと述べ、調整が必要だとした。ティラーソンはさらに、中国が「朝鮮の経済及び政治における主要な支持の源」であるとし、中国は極めて重要な役割を発揮できると述べた。米日韓の世論は、ティラーソンは中国に対して朝鮮に対する制裁で「もっと多くのことをする」ように要求するだろうと盛んに推測を行っている。
 半島情勢が緊張の度を加え、朝鮮は一方的に核ミサイル活動を暫定停止することを拒否し、米韓は新しいアプローチを取ることなく、中国の対朝鮮圧力が足りないと恨むだけというのが今や凝り固まった考え方になっている。ニューヨーク・タイムズは、匿名の国務省筋の話として、朝鮮の核ミサイル計画を縛ることに中国が手助けしないならば、アメリカとしては弾道ミサイル防衛を強化し、中国の金融機関に対する圧力を強化する準備を整えると報じた。またCNNの報道によれば、朝鮮と取引を行っている中国の企業及び銀行に対するペナルティを強化する準備も行っているという。
 これは「盗っ人猛々しい」議論といわなければならない。THAAD韓国配備に対する中国の厳しい反対は変わるはずがないものだ。中国が一時的にアメリカを思いとどまらすことができないとしても、北京には韓国を厳しく制裁する能力はあり、このことはワシントンにとってきわめて不都合なことだろう。
 中国が今もなお朝鮮に「輸血」しており、中国の銀行及び様々な企業が朝鮮との間で大量の協力関係を維持しているというのは、まったくアメリカ的な考え方だ。アメリカの新しい外交担当者がこのような間違った判断に基づいて新たな対朝政策を制定するとすれば、過去20年よりもさらに深刻な誤りを犯すことになるだろう。
 一つの基本的な事実は、朝鮮の核保有に対する反対の真剣度において、中国は米韓とまったく同じように断固としたものだということだ。中国は朝鮮半島と接しており、半島で核実験が行われ、配備されることは、中国の安全保障にとって潜在的な長期的リスクであり、なんらかの方法で平壌をして核放棄を促すことができるのであれば、中国としてはそうしない理由はない。
 北京はすでに本年末まで朝鮮産石炭を輸入しないと公表したが、このことは平壌の外貨獲得に深刻な影響を及ぼすだろう。北京はまた核ミサイル研究開発と関連のある対朝輸出品目リストを厳しく禁止する旨発表しており、中国から鴨緑江対岸に渡るものはない。  しかし、仮に米韓が中国に対して中朝国境を「閉鎖」することを要求するのであれば、それはとりもなおさず朝鮮人民全体を罰することになり、同時に朝鮮政権を死に追いやることになるのであって、それは朝鮮の核ミサイル活動に対するものに留まらなくなる。この一点については、北京は絶対に譲らない。
 そのようなことになれば、米韓は朝鮮核問題を中国に丸抱えさせるに等しく、中国は米韓の対朝鮮戦略に完全に加担するということになる。中朝は「敵同士」ということになり、中朝対立は東北アジアにおける新たな主要矛盾となるだろう。朝鮮核問題は米朝対立によって引き起こされたものであるのに、中国が米韓に代わって「尻ぬぐい」し、全責任を背負い込むことになるし、朝鮮に大混乱が起こったときには、中国は真っ先にその被害を蒙ることにもなるのであって、申し訳ないが、米韓にはそんなことを中国に要求する権利はない。
 さらに、朝鮮はすでに極端に孤立しており、その孤立度は現在の世界でも他に比類を見ないものだ。しかし平壌は屈服していないのであって、仮に朝鮮と往来しない国(中国)が一つ増えたとしても、朝鮮が屈服するわけではあるまい。ワシントンとしては、制裁によってどこかの政権を圧倒した歴史があったかどうかということをよく思い出すことだ。
 つまるところ、米韓の対朝戦略はあまりにも弾力性がなく、あくまで誤ったやり方を堅持し、新しいことを試みようとしない。ティラーソンは過去20年のアメリカの対朝政策は失敗だったといったが、その20年におけるアメリカの対朝政策の基調は何だったか。制裁と威嚇であり、それ以外は何もなかった。制裁と威嚇をさらに強めるだけとするならば、手拭いをさらにきつく絞って最後の一滴の水を絞り出すようなものであり、それが誤りを正すことだろうか。
 中国は、最初対朝制裁に加わらなかったことから、対朝制裁決議に参加、制定及び断固執行するに至るまで、その変化の大きさは、米韓の変化の大きさと比較してどちらが大きいかは明らかではないか。ワシントンは、「双方暫定停止」「ダブルトラック同時並行」といった程度の調整すら行おうとせず、その対朝政策の硬直化にはほとほと失望させられる。
 米韓は、朝鮮核問題において明らかに「絶対に正しい」側ではなく、仮にタクティックスとしてでも「双方暫定停止」「ダブルトラック同時並行」をやってみる価値があるだろう。米韓は朝鮮に対する「威厳を失う」ことを恐れているというわけでもあるまい。米韓はかくも巨大な力があり、片時も「威厳」にこだわる必要があるだろうか。よろしく反省すべきである。

<3月21日付社説「朝鮮核問題の平和解決 残された時間は多くないかも」>

 この社説は、19日に朝鮮が発表した新型ロケット噴射実験の成功に見られるような朝鮮の核ミサイル技術の着実な向上を踏まえれば、米韓対朝鮮の対決は双方が望んでもいない戦争勃発という最悪の事態に早晩向かってしまうという判断(それは、商売人・トランプにとって決して受け入れられないはずだろうというメッセージが込められている)に立ちつつ、朝鮮に対して、現在の核固執政策を見直すことこそが出口戦略になることを論理的に明らかにしようとしていることに従来にない特徴があります。
 しかし、社説が指摘した以下の4点に関しては、いずれも大きな弱点があり、朝鮮に対する説得力が欠けると言わざるを得ません。
 第一に、朝鮮が作り上げようとしている核デタランスは、社説が指摘するような「国際関係における伝統的な意味における核デタランス」ではなく、中国が1964年当時に核開発に乗り出したときの、いわばきわめて「原始的」「初歩的」な核デタランスであるということです。
朝鮮は自らの国力は百も承知です。朝鮮が目指しているのは、アメリカが朝鮮に対する本格的な軍力行使を思いとどまらざるを得ないだけの核報能力を持つことです。ですから、社説が「(朝鮮の)核戦力は国家の政治的安定の十分条件及び経済社会発展の資源に転化することはあり得ない」と指摘するのは、中国の対米核デタランス戦略を機械的に朝鮮に当てはめようとする、まったくポイント外れの議論です。
 ちなみに、朝鮮が獲得を目指している核報復能力とは、具体的には、アメリカの同盟国である日本及び韓国に対して核報復攻撃を行う能力に加え、アメリカが日本及び韓国を犠牲にしてでも朝鮮を攻撃する可能性があると考えて、米本土をも報復攻撃に収めるICBMを持つことです。しかし、私に言わせれば、如何に「アメリカ第一主義」のトランプ政権でも、日韓を犠牲にするという判断はあり得ないので、朝鮮がICBMに固執するのは合理的判断ではないし、アメリカの先制攻撃を誘発する可能性を高めるだけの危険な選択だと思います。
 社説の第二のポイントに関しては、社説が「中米露間には多くの意見対立はあるが、朝鮮の核保有に反対する点では3国の態度は高度に一致」しているとする点こそが、朝鮮のもっとも反発していることです。すなわち、朝鮮からすれば、NPTを離脱した朝鮮がNPTを前提として朝鮮に圧力をかけること(安保理制裁決議)が最大の問題の所在です。朝鮮はアメリカと中露との離間を画策する力・能力を備えていないことは百も承知であり、というより、中国(及びロシア)が当然視するNPT体制そのものに異議を唱えているのです。したがって、この第二のポイントも朝鮮に対してはなんらの「合理的」説得力を持ちません。また社説は、朝鮮が国際的に孤立していると断じていますが、それも事実ではありません。むしろ安保理を中心とする大国協調体制に対しては、国際的には強いかつ根強い批判があります。
 社説の第三のポイント、「米朝間に核戦争が勃発したとしても、双方の損失の性格は異なる。アメリカの場合は物理的な損失だが、朝鮮の場合は亡国という痛みだ」ということも、朝鮮は百も承知です。しかし、朝鮮が目指す核デタランスは、第一のポイントに関して述べたとおり、「アメリカが朝鮮に対する本格的な軍力行使を思いとどまらざるを得ないだけの核報能力」ですから、社説の指摘は朝鮮に対しては何の合理的説得力を持ちません。もう一点指摘するとすれば、「アメリカの場合は物理的な損失」とする社説の核戦争に関する認識表明こそが広島・長崎の原爆体験に対する致命的な過小評価に基づくものです。それはとりもなおさず、アメリカの核戦略に追随して原爆体験を世界に真剣に伝えようとしてこなかった日本政府、そしてそういう日本政府の行動を止めることができないできた私たち主権者の至らなさの反映です。
 社説の第四のポイントに関しては、「朝鮮が自ら進んで核を放棄することがもっとも有利」という点は、朝鮮にとって到底受け入れられない最重要ポイントでしょう。仮に朝鮮が「自ら進んで核を放棄する」姿勢を示すとすれば、それは米韓にとって思うつぼであり、朝鮮からすれば全面降伏を受け入れるに等しいわけです。社説の主張は、王毅外交部長の「双方暫定停止」「ダブルトラック同時並行」の提案からも大きく逸脱するものです。
 「平和的に朝鮮核問題を解決するための時間は一部の人が考えるほど多くないかもしれず、ひょっとするとトランプ大統領の4年の任期よりも長くないかもしれない。各国は緊迫感を持つ必要があり、そうしないと、戦争という魔物を一緒に抱え込む準備をすることになるだろう」とする社説の指摘(これも対トランプ向けというニュアンスがありありです)については私もまったく同感です。しかし、社説の示した朝鮮に対する説得については「あまりにもお粗末」というよりほかありません。

 朝鮮は19日、その前日に行った新型ロケットエンジンの燃焼実験に成功したと発表したが、このことは平壌がICBM獲得に更なる前進を遂げたと広く受けとめられている。トランプは即日「非常に悪らつ」と述べた。朝鮮のロケットの研究開発が不断に進展していることは争えない事実だ。平壌は早晩ICBMを獲得し、米本土をデタランスのカバー範囲に収めるだろう。
 我々は、米韓及び朝鮮のいずれもが戦争対決に向かおうとはしていないと信じるし、情勢は未だ万策尽きたというわけでもない。しかし同時に我々は、朝鮮がこのように不断に突き進むときには、戦争勃発も早晩のことだとも信じる。戦争勃発は、念入りな計画後の急襲である可能性もあれば、なんらかの偶発事件が引き起こす致命的判断の誤りという可能性もある。半島におけるゲームはこのような形でズルズルといくと、最終的な大爆発は回避することができない。
 国際社会としては朝鮮が合法的に核兵器とICBMを保有することを受け入れようがなく、平壌が度を超すにしたがって、国際的な制裁もますます厳しくなり、朝鮮は長期にわたって世界から隔絶させられることになる。軍事面でますます強大になる平壌は窒息させられることに肯んじず、危険な対外的な刺激的行動を取り、不断に新たな対立を招き、最終的に勝負、予想外となる可能性がある。
 朝鮮の核活動が足踏み状態ではないため。朝鮮核問題の破壊エネルギーはますます蓄積されつつある。したがって危機が引き延ばされればされるほど、すべての当事者にとってますます不利であり、それは朝鮮にとっても例外ではない。
 朝鮮核問題の解決には、朝鮮の核兵器放棄と、その引き替えとしての朝鮮にとってもっとも関心があるその安全保障とが必要だ。平壌の核放棄を促すためには、米韓が軍事演習で朝鮮を恐喝することは役に立たない。事実が証明しているとおり、米韓の軍事圧力の効果はすでに出し尽くしであり、さらに圧力を強化しても逆効果である。
 外部世界としては、朝鮮をして以下の道理とロジックを確信するように「説き」明かすべきである。
 第一、仮に朝鮮がホンモノのICBM及び核弾頭を製造したとしても、国際関係における伝統的な意味における核デタランスを作り上げることはできず、その核戦力は国家の政治的安定の十分条件及び経済社会発展の資源に転化することはあり得ない。
第二、平壌が核を放棄しない限り、国際制裁は取り消されず、朝鮮は国際社会の正常なメンバーに復帰することはあり得ない。中米露間には多くの意見対立はあるが、朝鮮の核保有に反対する点では3国の態度は高度に一致しており、平壌は外交手腕で大国間の対立を引き出し、国際制裁を打破する決定的チャンスを作り出すことはあり得ない。
 第三に、平壌はあるいはアメリカが朝鮮の初歩的段階の核装置で腰を抜かしたと思っているかもしれないが、大国の地力は朝鮮よりもはるかに上であり、米朝間に核戦争が勃発したとしても、双方の損失の性格は異なる。アメリカの場合は物理的な損失だが、朝鮮の場合は亡国という痛みだ。
 第四に、朝鮮が自ら進んで核を放棄することがもっとも有利なことだ。なぜならば、そういう状況のもとでは朝鮮は値切り交渉をすることができ、元来核保有によって得ようとした安全保障を達成できるからだ。核兵器は交渉の中においてのみその効用を最大にできるのであり、平壌は積極的に交渉に参加し、政権及び朝鮮社会にとっての最大限の利益を交換で勝ち取るべきだ。
 平壌は現在誰をも信じておらず、北京としても朝鮮との意思疎通はきわめて難しい。とは言え、北京と平壌の間には正常な交流のチャンネルがあり、北京が平壌にアドバイスするのを手伝うために、米韓は是非とも調整を行い、平壌をして、核を放棄すれば、現在よりもさらに安全で、国家の将来ももっと明るいということを見届けることができるようにするべきである。米韓はひたすら軍事圧力をかけるという愚かな方法でかくも長年にわたってまったく効果を挙げていないのであり、いい加減改めるべきだ。
 中国が提起した「双方暫定停止」「ダブルトラック同時並行」は、問題解決のために朝鮮及び米韓に対して提示した苦心作だ。平和的に朝鮮核問題を解決するための時間は一部の人が考えるほど多くないかもしれず、ひょっとするとトランプ大統領の4年の任期よりも長くないかもしれない。各国は緊迫感を持つ必要があり、そうしないと、戦争という魔物を一緒に抱え込む準備をすることになるだろう。

<3月22日付社説「対朝鮮制裁 国際社会は効果を上げていることに確信を持つべし」>

 この社説は、話しかける対象を米韓、国内、米韓そして国内とめまぐるしく変化させており、それだけに焦点が定まらない印象を残す、端的に言えば、日ごろ良きにつけ悪しきにつけ歯切れの良いことが売り物の環球時報社説らしからぬ内容と言わなければなりません。
 国際制裁は効果を上げているというのは米韓に対する主張です。しかし、制裁が効果を上げているということに対して、国内では中朝関係への悪影響を心配する声が上がるわけで、社説はそうした声に対しては、中国は制裁において超えてはならない限度(国境閉鎖、全面禁輸、朝鮮政権崩壊)を弁えているので心配するなと言います。次に社説は、再び米韓に対して「軍事的脅威を減らすロードマップを制定」することを促し、中国の提案が動ける条件作りの必要性を指摘します。その後で社説は再び、「中国人としては主要矛盾を正確に見極め、また、我々は何ができ、何ができないかについても冷静かつ現実的な認識を持つべきだ」と国内向けの主張を行っています。
 3月6日付及び11日付のコラムでも紹介したように、中国国内でも対朝鮮政策のあり方について活発な論争があります。この社説は、そういう国内の対立する論調の板挟みになっている反映かもしれません。そのこと自体、中国政府の朝鮮核問題に対する手詰まり感を反映している可能性もあります。つまり、王毅外交部長の提案に対して、トランプ政権(アメリカの国連大使発言)は素っ気ない反応ですし、本来抵抗感のないはずの朝鮮からも積極的な反応が出ていないために、中国としてはこれ以上手の打ちようがないという閉塞感がこの社説の内容を規定した可能性があります。

 (22日の朝鮮によるミサイル発射実験の失敗報道を取り上げて)今回の発射実験失敗は、朝鮮のミサイル技術の未成熟及び朝鮮の中距離ミサイルは通常の意味における実戦配備レベルまでにはなおかなりの距離があることを外の世界に知らしめた。
 国際制裁はすでに効果を発揮しているというべきだ。第一、制裁は朝鮮がミサイル研究開発を維持するのに必要な資源を獲得することをますますむずかしくしている。第二、国際社会の制裁をめぐる態度が次第に接近してきたことにより、朝鮮が制裁を突破することは困難となり、このような圧力は長期的効果を生むだろう。第三、制裁は朝鮮の核ミサイル研究開発を支持する経済に対して深刻な影響を及ぼすだろうが、短期間に朝鮮政権の存続を脅かすことはなく、この程度の制裁圧力は比較的妥当であり、戦争を引き起こさない状況下での持続性がある。
 朝鮮核危機は今日に至るまで、外の世界は朝鮮をコントロールできないでいるが、朝鮮も制裁に対して辛抱を強いられてきた。1990年代の第一次朝鮮核危機が勃発した当時、平壌は、制裁は「朝鮮に対する宣戦布告」に等しいと強硬に言っていたが、現在では、朝鮮は地球上でもっとも重い制裁を受けている国家である。
 米韓にしても朝鮮にしても誰も「戦争勃発を絶対に望んでいない」ことにより、朝鮮は不断に核ミサイル実験を行い、国際制裁はますます厳しくなり、しかし半島が平和を維持するという局面が今日形成されている。この20数年をふり返るとき、朝鮮の持ち出しは最大であり、核兵器は保有したかもしれないが、全世界でもっとも安全ではない国家となった。平壌は早晩この道理がハッキリ分かるようになるだろうし、国際社会としては朝鮮がそうなるように導くべきだ。
 人によっては中国が対朝鮮制裁に参加することで中朝が敵対することを心配するが、この心配は必要ない。制裁執行は中国が担当するべき大国としての責任だ。中国が朝鮮との国境を完全に閉じない限り、朝鮮に対する食料及び日用品の全面禁輸を実行しない限り、そして朝鮮政権の存続を直接脅かさない限り、平壌はそのことを大切にするだろう。こういう状況のもとで、中朝関係は不断に冷却化していくだろうが、対決という段階までに至ることはない。
 現在、朝鮮が大陸間弾道ミサイルの実験を行うとか、さらには第6回核実験を行うとか言われているが、仮に平壌がそうするのであれば、平壌が一歩進むごとに、中国は安保理が制裁レベルを一段階ずつ引き上げることを支持し、中朝国境の取り締まりをさらに強化するべきである。そうすることは我々の地に足のついた政策となるべきであり、その点において平壌に疑義を持たせないことだ。  しかし、いかなる状況下においても、中朝国境は完全に閉めるべきではなく、食料等の人道的物資は国境を通過できるようにするべきであり、この点に関する中国の立場も100%確固とするべきだ。
 中国は同時に、米韓が朝鮮に対する軍事的脅威を減らすロードマップを制定することを推進し、朝鮮が核ミサイル活動を暫定停止する気持ちになることを推進するべきだ。核放棄が朝鮮の安全を確実にするより良いものだということを朝鮮に見届けさせるべきであり、そのような証拠が明確で信用できるとなれば、朝鮮が戦略思想全体を変更することが可能となるだろう。
 朝鮮半島情勢は非常に複雑であり、見当の付け所はますます多くなり、大国の駆け引きの蔭も近年増えてきている。しかし、こういう状況のもとで、中国人としては主要矛盾を正確に見極め、また、我々は何ができ、何ができないかについても冷静かつ現実的な認識を持つべきだ。朝鮮が核兵器を開発することを制止することは我々の半島政策の主要目標であるべきであり、我々の全体を束ねる政策の第一のスタンスでもあるべきだ。それ以外の問題に関しては、手数のかかる問題には手数の多さで対応し、複雑な問題に対しては複雑な対応で処することだ。
 中朝関係にせよ中韓関係にせよ、長期的に見れば大した問題ではあり得ない。この二国間関係に対する中国の主導権は絶対的であり、現在中国が両国に対して行っている別々の原因に基づく制裁は事実に基づいて行っていることであって、深いしこりを生むようなものではあり得ず、立場の違いがあるとしても一時的であり、状況が変わりさえすれば人々の感情も速やかに変化するだろう。中国とフィリピンとの間の国民感情が如何に速やかに変化したかを見れば分かるとおり、中朝及び中間の間でも同じことだ。