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中国の朝鮮産石炭輸入暫定停止決定
-対米韓メッセージ-

2017.2.23(補筆)2.24

2月23日付の朝鮮中央通信は、「汚らわしい処置、幼稚な計算法」と題する.以下の文章を掲載しました。この文章の私が強調を施した部分は、名指しこそしていませんが、どう見ても、朝鮮産石炭輸入の暫定停止を公表した中国に対する激しい怒りに満ちた非難としか受けとめられません(「法律的根拠もない国連の「制裁決議」を口実にして人民の生活向上に関連する対外貿易も完全に遮断する非人道的な措置もためらわずに講じている」の箇所)。また、環球時報社説が朝鮮の核デタランスを「まがい物の核兵器」とするなどの酷評を行っていることに対しても、激しい怒りを露わにしています(「折に触れて「友好的な隣国」と言う周辺国では「初期段階にすぎない核技術」だの、「朝鮮は一番大きな損失を被ることになるだろう」だの、何のとしてわれわれの今回の発射の意義をダウンさせている」の箇所)。
 もう一点、私が気になっているのは、この文章の最後に「正筆」とあることです。「正筆」とは、日本語としては「肉筆」とか「真筆」とかの意味ですが、朝鮮語の意味も同じかどうか私には分かりません。しかし、表題の「汚らわしい処置、幼稚な計算法」といい、この「正筆」といい、これほど激しい、むきだしの中国批判(私の理解が正しいとすれば、ですが)の内容の文章が出されたことはとうてい見過ごすことができません。今後の成り行きを注意してフォローしていくつもりですが、敢えて全文を紹介する次第です(2月24日記)。

「汚らわしい処置、幼稚な計算法」
【平壌2月23日発朝鮮中央通信】最高指導者の精力的な指導の下に12日、われわれが地対地中・長距離戦略弾道弾「北極星2」型の試射で完全に成功した今回の大事は、瞬く間に世界を揺り動かしており、国際社会は質的な飛躍を成し遂げたわれわれの核攻撃能力を確固と認めている。
世界の主要メディアは、われわれの「北極星2」型弾道弾発射の完全成功は衛星による事前探知や迎撃、先制攻撃が事実上、不可能だということを示すもので、これは明白にわれわれの「戦略的優越性の一大誇示となる」と一様に評している。
ところが、唯一、折に触れて「友好的な隣国」と言う周辺国では「初期段階にすぎない核技術」だの、「朝鮮は一番大きな損失を被ることになるだろう」だの、何のとしてわれわれの今回の発射の意義をダウンさせている。
特に、法律的根拠もない国連の「制裁決議」を口実にして人民の生活向上に関連する対外貿易も完全に遮断する非人道的な措置もためらわずに講じている。
国連の「制裁決議」が人民生活に影響を及ぼしてはいけないと口癖のように言いながらも、このような措置を講じるのは事実上、わが制度を崩壊させようとする敵の策動にほかならない。
それでも大国と自称する国が定見もなく米国の拍子に踊りながらも、あたかも自国の汚らわしい処置がわれわれの人民生活に影響を及ぼそうとするものではなく、核計画を阻むためのことだと弁解している。
これに関連して、世界の正義の声は「大国の隣国が米国の機嫌を取りながら朝鮮を制裁している」とあざ笑っているが、われわれの敵対勢力は快哉を叫んでいる。
他国なら数十年もかかるべき核兵器もたった数年間に作り出し、新しい最先端戦略兵器システムも完全に自らの力と技術でわずか6カ月という短期間に完成するのがまさに、われわれの強大無比の国防工業である。
幾ばくかの金銭を遮断するからといって、われわれが核兵器を作れず、大陸間弾道ロケットを作れないと考えること自体がこの上なく幼稚である。
金日成主席と金正日総書記が一生を捧げてもたらした自立的な国防工業があり、党中央の戦略的構想と意図はすなわち実践という信念のスローガンを高く掲げて決死の覚悟で心臓の血をたぎらせて闘う国防科学者、技術者がいるので、われわれは誰も見たことがなく、いかなる国も持ってみたことがない最先端兵器をどんどん作り出すであろう。
われわれは、これらの兵器を持って北東アジア地域と世界の平和と安定を自力で守るであろう。
わが人民は、こんにちの現実を通じてもわが党の並進路線がいかに正当なのかを再度痛感している。
われわれは、並進の道に沿って変わらず真っ直ぐに進み、強力な核抑止力に依拠して米国とその追随勢力に鉄槌を下し、最後の勝利を収めるであろう。
正筆

(以上が2月24日補筆部分です。)

2月18日に中国政府商務部が朝鮮産石炭の輸入を暫定的に停止すると発表したことに関して、内外メディアは「朝鮮による新型弾道ミサイル試射(及び金正男の事件)に対する中国の厳しい姿勢を示すもの」と解釈する報道一色です。金正男との係わり性についてはともかく、朝鮮の新型ミサイル試射に対する中国の一種の態度表明という対朝鮮メッセージ的性格がある可能性については、私も否定する気持ちはありません。
 しかし、2月21日及び22日に行われた中国外交部の定例記者会見における耿爽報道官の発言、2月22日付環球時報社説「朝米韓はけんか疲れしたのではないか? 6者協議に戻ってきなさいよ」を読み、また、同日付けのもう一つの社説「ロッテよ、THAAD支持なら、中国から遠ざかってくれよな」をも読んで、中国の真意はさらに深く、中国が安保理決議を厳格に遵守しているのだから、米韓も安保理決議に示されている平和的解決に向けて真摯な態度を示せ、ということにあることを認識しました。つまり、中国政府の取った今回の行動は、朝鮮に対する意思表示であると同時に、それ以上に米韓に対する対話による解決への転換を迫るものであるということです。
 中国外交部及び環球時報がこのような対米韓メッセージを発した直接的背景として、19日付ワシントン・ポストによる米朝非公式接触に関する報道及び、中国の明確な反対にもかかわらず、ロッテがその支配するゴルフ場をTHAAD配備場にすることに同意した事実があるようです。前者に関しては、21日付文匯報WSが新華社の胡若愚署名文章を掲載して詳しく報道しました。また、「ロッテよ、 THAAD支持なら、中国から遠ざかってくれよな」と題する環球時報社説は、中国との大きな取引を持つロッテが、中国の強い反対を承知の上でなおTHAAD受け入れを選択したことに関して、中国の対韓牽制力に大きな限界があることを率直に認めつつ、そうするロッテには中国からお引き取り願うというのも中国の変わらない決意だと指摘した上で、さらに中韓関係そのものについても次のように踏み込んだ認識を示し、韓国を突き放す姿勢を明確にしました。つまり、アメリカに対しては、米朝直接対話は中国がかねて主張してきたことであり、存分にやって下さいと歓迎する一方、アメリカの薬籠中に進んで入る韓国に対しては中国も遠慮しない、という立場を明確にしているわけです。中国政府の今回の措置を歓迎している韓国はとんでもない勘違いをしているということです。

 我々は、韓国へのTHAAD配備の決定を変更させうる確率は高くはないことを知っているが、そのことは、中韓経済協力のレベルを大幅に引き下げるべきだという我々の態度になんらの影響も与えない。アメリカの中国に対するミサイル防衛システム配備を手伝っておいて、何が友人か。ほとんどの中国人は、このことをもって、韓国はアメリカに手伝って中国の国家的利益を損なう共犯者と見なしている。
 相互の友好的交流以外に、中国が韓国に期待することはない。韓国には、第一、大した先進的技術はない、第二、中国がひどく欠けている資源もない。韓流は中国社会がヨイショするのに大いに与ったので「流行」したのだ。THAADとゴチャゴチャになってからは、中国人にとって韓流は味が変わってしまい、今や一文の値打ちもなくなってしまった。
 東北アジアはかつて活力に充ち満ちていたし、韓国はチャンスに恵まれて力強い発展を実現した。しかし、今はというと、韓国はアメリカの懐に飛び込み、朝鮮を憎み、中国に対して身構えている。このように生まれた変化について、韓国人は朝鮮が誤っており、中国が正しくないと固く信じ、自らが行った選択はすべて正しいと思い込んでいる。今となっては中韓が話し合いを行うことはきわめて難しくなっている。それならそれでいい。
 ソウルはますます強硬になって、居丈高になっており、THAADを配備するだけではなく、中国漁船に対して機関銃を乱射するまでになった。少しは力加減をしたらどうだ。中国には次のような諺がある。いっときは運に恵まれても、いつかは必ず不運な目に遭う。

<中国外交部耿爽報道官発言>

 耿爽報道官が強調しているのは、中国の朝鮮産石炭の輸入暫定停止の決定は、あくまでも安保理決議に定められた義務を履行するために取った措置であるということです。その趣旨は、中国が安保理決議を忠実に履行しているのだから、米韓も同決議に定められている義務、すなわち、朝鮮半島核問題の平和的解決という義務を履行するために積極的な行動(具体的には6者協議再起動に対する積極的コミットメント)をとれ、ということです。

(2月21日)
(質問)中国政府は週末、朝鮮産石炭の輸入を暫定的に停止すると発表した。中国がこの決定を行った背景を紹介してほしい。中国は、この措置がいかなる効果を達成すると期待しているのか。
(回答)先週末に中国の主管部門が関係する発表を行ったことは皆さんの承知のとおりだ。安保理決議を執行することは国連加盟国の共通の義務である。安保理決議2321は、2016年12月及び2017年の朝鮮の石炭輸出について、数量及び金額を明確に規定した。中国主管部門の統計によると、中国の朝鮮からの石炭輸入は、安保理決議が定めた金額に近づいている。そのため、中国関係部門は発表を行い、本年度の朝鮮産石炭の輸入を暫定的に停止することとした。これは、中国が安保理決議2321の関連規定を執行するために取った行動であり、その趣旨は中国が担っている国際的義務を履行することにあり、中国の関連法律規定にも合致するものである。この行動は、中国が朝鮮核問題に関して責任を負う態度及び安保理決議を執行する誠意を身を以て示すものである。
(2月22日)
(質問)昨日、楊結篪国務委員はアメリカのティラーソン国務長官に電話した。報道によれば、双方は朝鮮核問題に共同して対処することに同意した。この状況についてさらに紹介してほしい。
(回答)私は再度、中国は半島の非核化の実現を堅持し、半島の平和と安定の維持を堅持し、交渉、協議を通じた問題の解決を堅持していることを述べておきたい。中国は、半島問題の負の循環を打破することに尽力しており、各国の関心及び半島の現実を総合的に考慮する基礎の上で、半島を非核化し及び停戦メカニズムを和平メカニズムに転換するという「ダブルトラック並行」解決策によって6者協議の復活を促進することを提起している。我が方は、アメリカを含む関係諸国との意思疎通及び協調を強化し、交渉再起動の突破口を共同で模索し、探しだし、朝鮮半島の平和と安定を維持し、朝鮮半島核問題を適切に解決するべく、共同で建設的な役割を発揮することを願っている。

<環球時報社説「朝米韓はけんか疲れしたのではないか? 6者協議に戻ってきなさいよ」>

 私は、社説の冒頭のくだり、すなわち、「中国は、本年末までの朝鮮産石炭輸入の暫定停止を発表し、安保理の対朝鮮制裁決議を真剣に執行する厳粛な態度を明確にした。次は、米韓も問題解決の一括条件の創造的解決のために建設的行動を取るべきだ」が、中国の基本的立場をそのまま反映していると思います。しかも現在の朝鮮半島情勢は一触即発の危険極まる状況にあるという中国の切迫した問題意識(それは、アメリカ国内で、朝鮮に対する「先制攻撃」論が盛んに議論される状況が生まれていることを見ても、決して根拠がないものではありません)は、「朝鮮核問題はすでに深刻な膠着状態に陥っており、それを引き延ばすことは問題の冷却をもたらすのではなく、不断に爆発的要素を注入することになる」という指摘に示されています。
 中国が今回、安保理決議の履行として朝鮮産石炭の暫定輸入停止措置を取ったのは、朝鮮に対する意思表示である以上に、米韓に対して安保理決議のもう一つの中身である、対話による問題解決に米韓が本気で取り組む番だという強烈なメッセージであることは明らかです。

 中国は、本年末までの朝鮮産石炭輸入の暫定停止を発表し、安保理の対朝鮮制裁決議を真剣に執行する厳粛な態度を明確にした。次は、米韓も問題解決の一括条件の創造的解決のために建設的行動を取るべきだ。ブルームバーグ・ニュースには、石炭不買以外に、中国は朝鮮に圧力をかけるべくもっと多くのことをやれるという論評があった。似たような発言はブルームバーグ以外にもある。仮に米韓がこのような発想を以て朝鮮核問題に向きあっているとすれば、この問題はブラック・ボックスに密封され、米韓がさらに施錠を重ねるということを意味する。
 朝鮮核問題はすでに深刻な膠着状態に陥っており、それを引き延ばすことは問題の冷却をもたらすのではなく、不断に爆発的要素を注入することになる。現在、ブラック・ボックスの中に爆薬を放り込んでいるのは朝鮮だけでなく、米韓も一貫して放り込んでいる。米韓は一種の錯覚を作り出している。つまり、朝鮮に対してさらに厳しく当たる者、また、さらに圧力を加える者こそが朝鮮核問題の解決に真剣であり、貢献もさらに大であるという錯覚だ。
 米韓は朝鮮に対処する新しいカードを示せず、しかも悠然と構えてもいられないために、もっとも簡単なことをする以外にない。それがすなわち朝鮮に対する圧力をひっきりなしに強めるということだ。ところが米韓は、そうすることが政治的に正しいとし、いつのまにかそういう考え方に自ら欺されてしまっている。それはあたかも、脅し続ければ平壌が本当に「失禁」し、おとなしく核兵器を差し出すと考えるようなものだ。
 世の中にそんな単純なことがあろうはずがないではないか。子どもを諭し導こうとするならば、ムチのほかに菓子も必要なのだ。ましていわんや目の前にあるのは、核兵器が何よりも重要と固く信じ、しかも核兵器開発のために巨大な犠牲を払ってきた国家なのだ。
 朝鮮を制裁するために中国は「もっとやれ」とするものは、北京が朝鮮核問題解決のカギを持っていると信じるものか、おバカさんか、口角泡を飛ばして謀をめぐらす聡明な策略家だろう。総じて彼らは朝鮮核問題を正真正銘の迷宮入りさせている。
 米韓は、朝鮮を窒息させると誓いを立てると同時に、平壌と接触するもう一つのドアを開け、平壌をしてホンモノの二者択一に直面させなければならない。そうしなければ、平壌としては、どんなにあがいても、最後に直面するのは米韓が平壌を転覆させるだけ、と信じ込むだけだ。
 米韓が平壌との間で積極的に接触することは、平壌が核放棄の実際的行動を取ることと比べればそんなに難しくないはずだ。仮にワシントンとソウルが、朝鮮の外交官の手を取ることは、信管に火がついている爆弾をつかんでいるように危険なことだと考えるとすれば、朝鮮人は「頑固一徹で融通が利かない」とあざ笑う理屈が成り立つだろうか。
 今や、6者協議を再度復活させるときだ。6者協議は2007年以後再開されておらず、朝鮮及び米韓の双方がそれぞれの理由で再開を拒否している。双方が、自らの前提条件が満足されなければ、会談を行うことは「意味がない」と考えている。しかし、10年が経って、接触不在のもとで朝鮮及び米韓の双方が勝手なことをしてきたことが「意味がある」ことだったか。朝鮮は10年前よりもさらに安全になったか。韓国の国家戦略は当時に比べて余裕ができたか。アメリカは朝鮮を抑えつけただろうか。
 米韓と朝鮮との間の膠着状態は「どちらかが生き残り、どちらかが死ぬ」に近い状況であり、こういう状況下では2つの破局の可能性しかない。一つは戦争による決着、もう一つは共存への転換に向かうことだ。トランプは、ロシアの如き戦略的ライバルをも友人にする意志を持っている。朝鮮はアメリカと同じリンクの上に立つ資格もなく、朝鮮が「ニセの敵」であることは明らかだ。朝鮮核問題は「戦略的な障子紙」に過ぎず、トランプがそれを突き破る気魄を持つことを希望する。
 朝鮮の核計画がすべての実験を完成するとしても、それが生み出すことができるのはホンモノの核デタランスではない「まがい物の核兵器」でしかない。なぜならば、核デタランスに必要なのは、核ミサイルだけではなく、さらには政治、軍事及び経済における大量な手段によって核兵器の威力をデタランスに転化する必要があるからだ。しかるに、朝鮮は裸で核兵器を抱きしめているようなもので、核保有が朝鮮にもたらしたのは極限的孤立と更なる危険だけだ。
  6者協議メカニズムは、朝鮮核問題の多面性を考慮に入れており、各国が突っ込んで接触するプラットフォームである。北京としては、米韓と朝鮮が6者協議の場から「私的会合」に向かうことを反対するはずはない。半島の平和に対して有用である限り、中国は喜んでその成り行きを見守る。米韓と朝鮮は我と我が道をまっしぐらに走ってきたのだから、いい加減相手が何を言うのかを聞いてみるのが良いだろう。