21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

トランプ政権と米中関係(米中首脳電話会談)

2017.2.17

トランプが大統領に当選してからというもの、中国メディアにはおびただしい量の文章が現れてきました。その中でも、環球時報はトランプ及び彼の周りを囲む人々の一挙手一投足を事細かくフォローする社説を異例の頻度で発表してきました。今回は、環球時報社説の論調の変遷を見る形で、トランプ政権下の米中関係の方向性について観察してみることにします。

 私は、トランプがアメリカ大統領に当選して以来、環球時報社説の社説に注目してきました。その直接のきっかけは、トランプ当選がアメリカ政治ついて持つ意味に関する私の直観的捉え方が(2016年)11月9日付の同紙社説(タイトル「トランプ勝利 アメリカ伝統政治に対する猛烈な衝撃」)と一致していたからです。翌11月10日付の社説(「強い大統領か 弱い大統領か」)は、中国がアメリカの戦略上の主要な相手であり、トランプが同国の外交戦略に調整を加えるとすれば、その影響を真っ先にまともに食らうのは中国であると認識し、それゆえにトランプが強い大統領か弱い大統領かが大きく影響するという判断を示したのでした。トランプが強い大統領になるのか、弱い大統領に留まるのかは、その後も環球時報(に代表される中国指導部)にとっての最大の関心事となってきました。
 11月14日に習近平はトランプに電話をかけて祝意を表明しました。翌日(15日)付の社説(「習近平とトランプの電話 積極的シグナルを送る」)が解説したように、「トランプは「政治の素人」であって、彼の興味及び方向性は前任者と違うようだ。彼の世界認識もワシントンのエスタブリッシュメントによって縛られておらず、アメリカの国家利益に関する見方もビジネスライクであり、したがって、プラグマティック(実事求是)に大国関係のあり方を作り直すべく踏み出す可能性を持った指導者であるかもしれない」という判断の下、習近平はトランプに対して中米関係について前向きに取り組もうというメッセージを送ったのです。
 しかし、その後のトランプの気まぐれな言動によって中国の対トランプ観が右往左往する様は、環球時報社説にも如実に反映されました。すなわち、11月14日付社説(「トランプは本当に中国を「為替操作国」に指定するだろうか」)は、11月11日にトランプの経済顧問が、質問に答えて、「トランプは言ったことはやる人だ」と発言したことに反応したものです。11月17日付社説(「人をしてめまいを起こさせるTPP、RCEP、FTAAP」)は、トランプが主張するTPPからの離脱に対する中国の複雑な受けとめ方を披瀝しました。そうかと思えば、12月7日には、トランプは中国を知悉するアイオワ州知事ブランスタッドを駐中国大使に指名して中国側を驚かせます。12月9日付社説(「トランプはツイートして「世界が議論する」ことを好む」)は、この人事に対する歓迎、戸惑いそしてぬか喜びを自戒する複雑な受けとめ方を正直に表しました。
 しかし、トランプが12月11日に台湾の蔡英文の電話を受けて話を交わし、その後にフォックス・テレビ局とのインタビューで、「一つの中国」政策については知っているが、「貿易その他の問題で中国と取引できない場合には、何故に「一つの中国」政策に制約されるのか」と述べるに及んで、中国は一気に素面に戻されます。12月12日付社説(「トランプよ、「一つの中国」は売買の対象ではないことを認識せよ」)及び翌13日付社説(「幻想を抱かず、トランプと腕相撲する準備をしよう」)は次のように述べて、怒りを爆発させました。

(12月13日付社説)
 多くの人は、アメリカの新指導者が「根っからの商売人」であり、外交面では子ども程度の理解しかないことにため息をついたに違いない。…トランプは何でも値段がつけられると考えており、彼の実力を以てすれば何でも強引に売買できると思っているようだ。…トランプは外交問題を虚心に学習する必要があり、なかんずく中米関係とは何ものであるかについて理解する必要がある。重要なことは、本や3つの中米共同声明を読ませるだけではダメで、中国としては、彼と断固とした闘争を行って、彼が痛い目を味わって、中国を侮ることはできないことを体で会得してのみ、彼はやっと悟ることができるということだ。
(12月14日付社説)
 大国外交の実際の経験がない次期大統領は自分が何を言っているのか本当に分かっていない可能性がある。彼はアメリカが世界を主宰する能力を過大評価しており、この時代におけるアメリカの力が限られていることを理解していない。…彼の一連の常軌を失した発言が示しているのは、彼が戦略的に中国を軽視しているということだ。彼はホワイトハウス入りする前に、中国をゆすりあげるはずの切り札(浅井注:「一つの中国」政策見直し)を切ってしまった。…中国としては、トランプ政権をして中国を尊重するようにさせなければならず、さもなくば、今後4年間の中米のやりとりにおいて手の打ちようがなくなる。宥和政策によってトランプ政権が中国の急所を放棄することを取引できると幻想してはならない。新たな闘争を行い、双方の実力関係においてふさわしい相互尊重はいかなるものかをはっきりさせることによってのみ、互いに然るべく収まることができるようになる。…
 仮にトランプが周りにそそのかされて、本気で「肉を切らせて骨を切る」ゲームを仕掛けてくるのであれば、中国は断固としてお付き合いすべきだ。(台湾海峡、南シナ海、経済貿易等について中国と戦うことは)アメリカにとって国内の支持が得られない、分けのわからない「遠征」だが、中国にとっては核心的利益を防衛する決定的な闘いであり、我々が失敗することはあり得ない。…
 トランプは常規に基づいてカードを切る人間ではないから、彼とやりとりする上では、中国も外交上の想像力が必要だ。我々もトランプの意表を突く行動をとる必要があり、「相手の土俵ではなく、自分の土俵で相撲を取る」という新しい対米構造を作る必要がある。

 その後も環球時報は社説を連発します。12月13日にプーチンの友人として知られるティラーソンが国務長官に指名されると、12月14日付社説(「トランプは人事を通じて中米露大三角形に衝撃を与えることができるか」)が出ました。12月14日付では、ジェーン年鑑が中国の国防費増大を取り上げたことを捉えて、「中国の軍事費及び戦略核戦力はまだ足りない」と題した社説が出ます。また、前下院議長ギングリッチが中国の武力による台湾解放の挙は座視しないと発言したのに対して、12月15日付社説(「台湾海峡情勢再構築 大陸は有言実行」)が強硬姿勢の表明で応じます。
 周知のとおり、南シナ海問題はオバマ政権のもとで米中間のホット・イッシューになりました。12月に南シナ海で中米両海軍の間でAUV(Autonomous Underwater Vehicle)をめぐるやりとりがありました(中国海軍が拾い上げて米海軍に引き渡して一件落着)。トランプは、この件に関してもツイッターで放言しました。12月19日付の社説(「火に油を注ぐトランプ 次期大統領の器に非ず」)は、トランプが大統領就任後も相変わらずこのような無責任な態度をとり続けるならば、中国もそれ相応の対応を行うべきだとして、次のように主張しました。

 一つはっきりしていることは、トランプには世界を気ままに動かす力量もなければ、彼の意志によって中米関係及び両国の交わり方を作り替える力量もないということだ。彼がまだホワイトハウス入りしていないため、中国政府はこれまで彼の激しい言辞に対して自制してきたが、彼が就任後もツイッターでしゃべる形で中国に接し続けるのであれば、中国側の自制が維持され続けるはずはない。
 トランプは、オレがこうしろといえば中国は直ちにそうするべきであり、中米関係がむちゃくちゃになっても構わないという姿勢を示している。彼が就任後もそういう態度であるならば、中国がそれでもなお彼にすり寄ることはあり得ない。新中国成立以来、中国は誰にも頭を下げたことはないのだ…。我々は政府に対し、トランプが就任後も勝手に振る舞うのであれば、彼の攻撃に対して一撃でお返しすることを強く主張する。彼が強硬ならば、我々は彼より強硬に出て、事実を以て一つの中国原則とはどういうことか、トランプは何故中米関係のボトム・ラインに触れることができないのか、仮に彼が触れるならば、我々に多大な損害を与えるとしても、彼はさらに大きな損害を引き受けなければならないということを彼に分からせる必要がある。
 トランプに対して引き続き観察を続けることは良いが、絶対に幻想は持ってはダメだ。トランプと闘争することはきわめて趣のあることかもしれない。この闘争は中国にとって一連のチャンスであり、大国としての中国がさらに成熟し、健康になる可能性を提供しているかもしれないのだから。

 12月21日にトランプが対中強硬派の学者として知られているナヴァロをホワイトハウスの国家貿易委員会主任に指名すると、環球時報は23日付の社説(「タカ派の学者がホワイトハウス入り 中米両損の確率増大」)で反応します。22日にトランプがツイッターで核戦力強化について発言したのに対しては、24日付社説(「戦略核強化 中国は損得勘定に構っていられない」)で応じます。
 新年冒頭の1月3日付社説(「2017年の世界はさらに激動するか」)は、「国際政治における最大の不確定要素は、トランプがオバマ政権とは正反対の路線を実行するか否か」だと指摘しつつ、「中国が培った強大な国力を以てすれば、いかなる外からの挑戦も恐れるに足りない」という自信を示しました。また、1月5日付社説(「中国通商 前門に花、後門に棍棒」)は、中国に不公平な貿易慣行があることを非難した経歴を持つライトハイザーが通商代表部代表に指名されるなど、トランプ政権の経済貿易関係閣僚が保護貿易主義者で固められたことに対して、中国の商務部門が心してお付き合いすると述べています。さらに1月8日付社説(「トランプ、蔡英文と会わず 大陸、「恩に着る」必要なし」)は、蔡英文が中米4ヵ国を訪問する途次にアメリカに立ち寄った際に米台間の接触がなかったことを取り上げつつ、「李登輝及び陳水扁当時と比較して、両岸の力関係は質的変化が起こっており、大陸の優勢は圧倒的である。中米間の力関係にも巨大な消長が起こっている」と述べて、自信のほどを示しました。さらにまた、1月13日付社説(「ティラーソンは何をもって中国の南沙島礁入りを阻止するつもりか」)は、1月11日に国務長官に指名されたティラーソンが米上院公聴会で行った発言を取り上げ、彼の中国に対する強硬発言部分は上院向けのものであり、ティラーソンの本心は中国とのパートナーシップ構築という発言にあることを希望するとしつつ、「闘争を準備することにおいてはいささかの曖昧さもない」という言葉で締めくくっています。
 このように、トランプに対する警戒感を高めてきた中国ですが、トランプが1月13日にウオールストリート・ジャーナルに掲載されたインタビューで、「一つの中国を含めてすべて交渉マターだ」と述べたことに対しては、16日付社説(「驚くべきトランプのど素人と聡明気取り」)が次のように反応しました。

 もしもトランプが素人の理屈及び超傲慢さで対外政策を推し進めるのであれば、中国が自らの利益を守るために立ち上がるだけではなく、世界の多くの国々も行動をとるだろう…から、世界は混乱に向かうだろう。
 これまでのアメリカは、システムにおけるルールを通じて利益を得てきた。なぜならば、要するにアメリカが今日の国際システムの制定者であり、操作国であるのだから。例えば、国際通貨としての米ドルの地位がアメリカの問題をどれだけ転嫁したかは計り知れないものがある。ところがトランプは率先して国際秩序を破壊し、赤裸々な脅迫によって途方もない利益を獲得しようとしており、そんな試みはきわめて難儀なものになるだろう。…
 台湾問題に関しては、トランプは一つの中国原則を損なう動きをとる可能性はある。しかし、中国の報復のすごさはトランプを決して「失望」させないだろう。…トランプが台湾を援助しようというのは、信念に基づくものでもなければ、アメリカの長期的利益を守ろうとする意図に出たものでもなく、要するに台湾を使って目先の利益を得ようとするだけのものだ。これはきわめて浅ましい大国の戦略的エゴであり、哀れな台湾はその犠牲になる可能性が大きい。

 1月15日にトランプが、NATOは古くさい、EUはドイツの道具になった、イギリスのEU脱退賛成などと放言すると、中国の対トランプ認識はさらに深刻なものになります。1月19日付社説(「大変化を予見させるトランプの「NATOは古くさい」論」)は次のように深刻な懸念を表明しました。

 多くの人々はアメリカのシステムがトランプを押さえ込むと信じてきたが、彼はどうやら本気で大統領職を使って自らの個性を発揮しようとしているようだ。あるいは彼は、21世紀に「トランプという刻印」を残すかもしれない。…彼にとって重要なのは、誰がアメリカにとって「役に立つ」か、誰がアメリカに直接的なうまみをもたらすかであり、アメリカが世界の「指導者」になるかどうかは本当にどうでも良いのかもしれない。…これは正に巨大な思想的転換である。…一つの中国(原則)は現在の国際秩序の一部分だが、トランプは一つの中国に我慢できないだけではなく、「まっさらな変化」を見届けようとしている可能性がある。乱世の時代には、自らの力を強化することが重要だ。…中米間には厳しい対決が起こる可能性がきわめて大きく、中国としては切迫感を以てトランプ政権の厳しい挑発に対応する準備を行わなければならない。この対決に「打ち勝つ」ことにより、中米間の正常な関係のあり方に対して基礎を提供することになるだろう。…

 1月17日、トランプ政権の上級顧問となるスカラムッチがBBCのインタビューの中で、中国製品に対して高い関税をかけると述べ、貿易戦争も厭わないとしたことに対し、19日付社説(「トランプ・グループは貿易戦争で中国を威嚇することなかれ」)は、中米貿易関係の合理性を指摘するとともに、アメリカの仕掛ける貿易戦争には断固として対決姿勢で臨むことを明らかにしました。
 1月20日のトランプの大統領就任に当たり、同日付社説(「本日大統領に就任するトランプに寄せる言葉」)は、①大統領の権限にふさわしい責任感を示すこと、②建設的なアメリカ経済振興計画を推進すること、③トランプ・グループが集団的謙虚さを保つこと、を呼びかけました。また、21日付社説(「トランプ就任演説が発したシグナル」)は、その内容に歓迎に値する変化がないことを指摘した上で、「これまでの国際的色分けは政治制度及び価値観によって線が引かれてきたが、トランプ政権期にあってはこの線引きが曖昧になり、国家の経済利益による線引きが突出する可能性がある」という認識を表明し、「トランプは就任演説で「普遍的価値」にも地縁政治にも触れなかった。彼の興味は本当にこういうことにはない可能性がある」と喝破しました。また、1月23日付社説(「西側世界はかつてない十字路に立っている」)も、「トランプは国際関係全体を「商業化」し、様々な原則及び政治的関係を「アメリカ第一主義」に基づいて品定めすることにより、伝統的な政治的観点からすると想像できないような奇異な時代へ国際関係を追いやるかもしれない」という不安感を表明しました。
 以上のように、トランプ政権下の国際関係及び米中関係に対して「お先真っ暗」な見通ししか持ちえなくなっていた中国にとって、2月1日、春節を祝う行事を行っていた中国大使館に、トランプの長女イヴァンカが娘を伴って出席したことは、良い意味での青天の霹靂でした。2月3日付社説(「イヴァンカの対中善意表明が大きな関心を集めたのは何故か」)も好意的に受けとめることを忘れませんでした。現金なもので、社説は、イスラム教徒を狙い撃ちにした大統領令が、アメリカにとって役に立つサウジアラビア及びエジプトを除外していること、影響力が衰退傾向のアメリカの伝統メディア媒体には攻撃的なのに、新興メディア媒体には顔色を窺うことなどの例を挙げて、「トランプにも歩留まり感覚がないわけではない」ことに留意しています。
 中国はすばやく動きました。2月3日に楊結篪国務委員はトランプ政権の国家安全保障担当のフリン補佐官に電話をかけ、中米関係の改善について話し合いました(同日付中国外交部WS)。また、崔天凱駐米大使がトランプの顧問を務めることになったクシュナー(イヴァンカの夫)と頻繁に連絡を取り合ったことも報道されました。
 そして2月3日には、トランプ政権の出鼻をくじく、連邦裁判所による大統領令差し止め処分の決定が行われました。2月6日付社説(「トランプ大統領 歴史上稀に見るにらみに遭遇」)は、アメリカの三権分立というチェック・アンド・バランスのシステムがトランプの猪突猛進を押しとどめたことを指摘した上で、「この種の闘争がくり返されるならば、アメリカは深刻な憲政危機に向かい、「何が起こっても不思議ではない」ことになる可能性があると指摘するとともに、「この事件がトランプに反対する集団に与える心理的鼓舞は尋常なものではないだろう」し、「トランプが人並みでないのはその「性格」だけで、特別な政治的資質を持っているわけではない」とも指摘します。そして、「こういう状況下でトランプが「中国戦線」まで手を広げることにはよくよく考える必要がある」と見通し、「彼には面倒事が多すぎる。トランプは、中国が「どんなに良い協力者」であるかを次第に分かるようになるだろう」と皮肉たっぷりに予想して見せました。
 以上のいわば急転直下の展開を受けて、2月8日にトランプが中国の春節を祝す手紙を習近平に送り、2月10日(アメリカ時間2月9日)には、習近平とトランプによる首脳電話会談が実現したというわけです。その内容については、米中それぞれが公表しました。
米側発表文はきわめて短いものですが、そこでは、「習近平の要求に応じて、トランプが「一つの中国」政策を尊重することに同意した」と指摘されています。これに対して中国側発表文では、「トランプは、アメリカ政府が一つの中国政策の高度の重要性を遵奉(中国語:「奉行」)していることを十分に理解していると強調した。アメリカ政府は一つの中国政策の遵奉を堅持する。習近平は、トランプがアメリカ政府は一つの中国政策を堅持すると強調したことを賞讃した。」と表現されています。
 米中の発表文におけるもう一つの大きな違いは、中国側発表文には中米が良好な協力パートナーになることができるとし、中米の国際的責任に言及しているのに対して、アメリカ側の発表文にはそうした言及はないことです。
 トランプが「一つの中国」原則を再確認したことは、中国にとって大きな成果であるには違いありません。しかし、それは中国にとっては本来当たり前のことであって、米中関係を改めてスタート・ラインに立たせることを首脳間で確認したに過ぎません。これによって、中国側のトランプ政権に対する見方が180度転換するはずはありません。その点については、2月6日付のコラムで記しましたので再説はしません。また、安倍訪米に対する環球時報社説(「米国のアジア政策を示唆するトランプ-安倍会談」)についても、2月13日付のコラムで取り上げました。
ここでは、フリン国家安全保障担当補佐官が2月13日に辞職したことを取り上げて、トランプ政権の今後を分析した2月15日付社説(「フリンの辞任追い込まれ トランプ・グループに対する再度の打撃」)の要旨を紹介しておきます。

ホワイトハウス内部の情報は絶え間なく外に漏れ、フリンが駐米ロシア大使と何を話したかについても、フリンは隠し通せない。このことから、トランプ・グループはきわめて非友好的な体制環境の中にいることが分かる。彼らの周りには「内報者」がおり、彼らの「悪材料」を外に漏らすことが不道徳とも見なされていない。そのため、トランプ・グループが何かにつけて非難に曝されるリスクが格段に増えている。
フリンが去ったことは、トランプ政権が米ロ関係を仕切り直しする難しさを改めて示した。米ロ間で雰囲気的な緩和を演出することはさほど難しくないかもしれないが、制裁撤回とか、重要な協定を締結するとかの成果を出すことについては、多くの波乱に直面することになるだろう。
 トランプが就任して以後、これまでのアメリカの国際政策に徐々に戻りつつあり、彼が以前に示した新しい政策を打ち出すという意思表明も引っ込め始めている。例えば、朝鮮が弾道ミサイルを発射実験した後のホワイトハウスのまれに見る自制は意外と受けとめられている。…
 1月20日以前にも、トランプはエスタブリッシュメントにはかなわないと予想する向きは多かった。今にして見ると、これらの予想は口から出任せの類ではなかったようだ。トランプとアメリカの体制との間で生まれた衝突は前例のないものだったし、アメリカの体制のトランプに対する縛りもまた歴史的記録を刷新するものである。
 本年4月には、トランプ就任後初めてのホワイトハウス記者協会の晩餐会が予定されており、これはアメリカの体制下における大統領とメディアとの意思疎通の伝統的行事だ。しかし、一部の記者がこの晩餐会に抵抗しようとしているという情報が伝えられている。仮にそうなると、トランプにとってきわめて難しい事態となるだろう。
 度重なる事実が証明するとおり、トランプが「強い大統領」になることはきわめて難しいようだ。彼の支持率は歴代新大統領の中で最低であり、エスタブリッシュメントのほとんどが彼と相容れない。彼は性格がきわめて強く、また自信満々で、即断即決を好むが、彼のこうした個性がアメリカの体制における集団的スタイル及び行動に転化することはきわめて難しい。…
 指導者たるものは権威を樹立することが必要で、それはアメリカにおいても同じだ。フリンの失脚は再度トランプの新大統領としての権威の土台を損なった。トランプの執政の始まりはきわめて順調でない類と言えるだろう。