21世紀の日本と国際社会 浅井基文Webサイト

中日韓関係改善の可能性(環球時報社説)

2017.1.29

APAホテルで修正主義史観の書籍が置いてある問題については、1月17日、19日、23日及び26日の中国外交部定例記者会見で取り上げられ、華春瑩報道官が厳しい認識を表明しています。また、1月26日付人民日報も鐘声署名の「歴史を歪曲するふざけた行動は絶対に許さない」と題する文章を掲載して厳しく断罪しました。環球時報・環球網をはじめとする中国メディアにも多くの対日非難の文章が掲載されています。
 そういう厳しい対日姿勢が顕著な中国メディアの雰囲気を背景事情としてみるとき、私が奇異とすら感じたのが1月26日付の環球時報社説「中日韓は関係を改善する可能性があるか」でした。この社説は冒頭で、1月25日に安倍首相が参議院で、本年のできるだけ早い時期に日中韓首脳会談を行うことができるように努力すると発言を行ったことを取り上げ、また、本年が日中国交正常化45周年に当たるため、安倍首相は訪中して中国指導者との間で東シナ海の緊張の緩和を図りたいという希望を有していると紹介しています。
社説は、日本側がこういう情報を流すのは、トランプ大統領が就任し、TPPから正式に脱退する大統領令に署名した時期に当たっていることに注目します。社説はまた、トランプ政権のこの新政策によって深刻な打撃を受けるのは日本であると広く認識されており、しかも、トランプ政権は日本に対して更なる防衛費分担を求めてくる可能性があること、二国間貿易交渉によって日本に更なる譲歩を要求してくる可能性もあることなどを紹介します。
 その上で社説は、この時期に安倍首相が上記発言を行ったのは、「トランプを意識したものである」可能性を排除できないと指摘します。というのは、トランプ政権がまったく安倍政権の気持ちを意に介さないやり方をとっていることが安倍政権に対して少なからぬ屈辱感を与えていること、韓国に至ってはアメリカの「小僧」扱いであること、しかも、日韓両国はこれまで完全にアメリカに身を任せてきたので、戦略的に動く余地がなく、冷戦終結以来で、日韓両国が対米関係でもっとも無力なときになっていることなどの事情があるからだ、というのが社説の判断です。
 そういう背景を踏まえるとき、日韓両国が対中関係の改善によって自らの戦略的環境を強化したいとする必要があるのは明らかだし、中国としてもアメリカからの長期にわたる圧力に対して、中日韓の協力を強化することは自らの外交戦略の弾力性を増大することに役立つというのが社説の判断です。そうした判断の下に社説は以下の議論を展開しています。
社説自身が認めるように、中日韓関係を打開することは簡単ではありません。しかし、トランプ政権のブルドーザー的「アメリカ第一主義」の自己主張(いつまで続けられるかははなはだ疑問ですが)というまったく新しい状況を前にするとき、中日韓関係の改善の可能性を模索する社説が現れたということは、中国がトランプ政権対策としてありとあらゆる可能性を模索していること、今回の社説はその「氷山の一角」である可能性があることを示しているものとして興味深いものです。

 最近数年、中日間では外交的対立が形成され、昨年からは中韓関係も緊張に向かい、日韓関係もまた暗雲が立ちこめており、そのことはアメリカが東北アジアで、「中台間でバランスをとる」などの勝手気ままなカードを切ることを可能にし、中日韓三国はますます高価な外交上のコストを支払っている。
 しかし、中日韓関係の関係を緩和することは、言えばすぐできるというものではない。三国間には戦略的信頼が欠落しており、それには歴史的な紛争もあれば、規模は小さいとは言え領土紛争も近年沸騰している。朝鮮核問題もコントロールが難しい変数だ。最重要なのは日韓がアメリカの同盟国で、アメリカの軍事的保護に頼る日韓の状態はすでにアヘン中毒になっているのと同じだということだ。
 しかしながら、中日韓が戦略的協議を行い、全体の関係を強化することを試みることはきわめて必要なことである。なかんずく中日間では現在公然とした外交的対立にあるが、関係をある程度緩和させる余地は双方の努力如何によって可能性がないわけではなく、そのことは、他の分野における両国の外交的主動性にとってプラスになる。
 中日韓が根本的に対立を解決することは一気にはできないが、対立をコントロールし、紛争を適度に棚上げすることについては、進展を勝ち取る可能性が存在する。現在必要なことは、三国が関係改善の政治的意思を明確にし、この地域における友好的要素の蓄積と噴出とを主導することだ。中日関係は、東北アジア地域全体の雰囲気に対して決定的な影響を持つ。45年前の中日国交正常化という大転換が我々に物語ることは、両国が友好協力を発展させる上ではいかなる障碍でも突破できないものはないということであり、最重要なのは両国がこの点において共通の意思を持つということである。
 現在の状況から見れば、日本政府が歴史問題で深刻な挑発的言動をとらなければ、中日両国が尖閣紛争で自制的な態度を取り、関係を再び緩和及び転換に向ける基礎的条件は備わっている。
 中日は、善意で互いに接する新しい局面を共同で作り出す必要がある。双方が相手側のいかなる善意に対しても積極的に呼応し、両国メディアがそれらのことを十分に報道し、相手側の一つ一つの善意の現れを尊重し、エンカレッジすれば、中日韓の氷河が溶け出す可能性は存在する。
 中日関係を再び正常な軌道に戻すことは、両国政府にとって大きな度量の表れであり、そのことが生み出す影響は問題の根っこを引き抜くような効果があるだろう。日本には誤った歴史観を堅持する勢力がひっきりなしに面倒を起こすため、中日関係の改善は非常になしがたいかもしれない。しかし、この改善の流れが引き起こされ、新しい趨勢となれば、地域諸国すべてにとって不利な東北アジア地縁政治構造に緩みが生まれるだろう。