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対朝鮮半島政策の根本的見直し提言(李敦球文章)

2017.1.21

1月11日付及び18日付の中国青年報は、「朝鮮半島の地縁政治上の変化及び中国の新たな戦略的選択」と題するり敦球署名文章を2回に分けて掲載しました。1回目が朝鮮半島の地縁政治上の変化(情勢分析)、そして2回目が中国の新たな戦略的選択(政策提言)に当てられています。
私が最も注目したのは、2回目の政策提言の文章の中で、李敦球が「適度に朝鮮核問題を超越して、中朝関係の正常化実現を速めなければならない」と主張したことです。その表現(「適度に」「超越」)は抽象的ですが、トランプ政権下のアメリカが今後も米日韓軍事同盟の強化によって中国を押さえ込む戦略を追求するに違いないという判断の下、中国としては、朝鮮半島非核化という原則は維持しつつも、地縁政治経済的(ジオポリティカル)な立場から、それ以上に戦略的に中朝関係改善に本腰を入れるべきだと提起していることは一目瞭然です。
本文でも書きましたように、私としては「いよいよ来たか」という思いです。なぜならば、私がこのコラムで幾度となく指摘してきたように、朝鮮の核ミサイル開発を安保理決議によって押さえ込もうとするアメリカの戦略に中国が同調することは、国際法上どう考えても正当化できないものであり、朝鮮が主張する「二重基準」という指摘には正当性があるからです。李敦球ほどの専門家がそういう本質的問題を見過ごしているはずはありません。もちろん、その点をズバリ指摘することは不可能(少なくとも現在の段階では)でしょう。しかし、李敦球の「適度に」「超越」すべしとする提言には万感の思いが込められているはずです。
 言うまでもなく、李敦球のこの提言が出たからといって、中国の対朝鮮半島政策がそのまま変化するということではありません。しかし、トランプ政権という不確実性が極めて高い政権の登場を前にして、中国が対朝鮮半島政策を抜本的に再検討することは当然であり、そういう中で、李敦球が直球を投げ込んだ意味は大きく、今後の中国の政策動向から目が離せないことは間違いありません。

<情勢分析>

 第1回目の文章に関して言えば、中国の観点から見た朝鮮半島情勢の特徴として、5つのポイントを指摘しています。同じ朝鮮半島情勢ですが、私たちの目から見るときと、中国の目から見るときでは、描き出される中身がずいぶん異なってくるということに、改めて強い印象を受けます。他者感覚(換位思考)が重要な所以です。特に安倍政権及び保守的な日本国内世論からすれば「歓迎すべき」、中韓及び中朝関係の冷え込み(第1の特徴)及び南北関係の冷え切った状態(第2の特徴)の根本的解決なくしては朝鮮半島情勢を打開することはできない、と指摘する李敦球の鋭い眼差しには、私も改めてハッとさせられました。
 また、日韓関係が質的に「好転」していること(第3の特徴)、アメリカは日韓関係を改善させることで東北アジアに米日韓の小型NATOを作ることに邁進していること(第4の特徴)に関する李敦球の分析も実に鋭く、私たちが真剣に考えなければならない問題提起です。私たちはとかく、集団的自衛権行使の違憲性という国内的視点に閉じこもっています(この問題を朝鮮半島情勢と結びつけてみる視点はほぼ欠落している)が、安倍政権が目指しているのは正に李敦球が指摘する方向性だからです。
 事実関係として注目されるのは、安保理決議を中国が支持し、厳格に履行することによって、「経済文化分野における中朝間の交流及び協力は深刻な影響を受けるに至った」と李敦球が指摘していることです。アメリカ発の情報垂れ流しにならされている私たちはともすると、中国が安保理決議を真剣に履行していないという見方をすり込まされがちですが、事実はそれほど「簡単」なものではないことが窺われます。なお、強調は浅井です。

 アメリカは一貫して朝鮮半島の戦略的地位を非常に重視し、この「冷戦の生きた化石」を重要な支えとして東アジアさらにはグローバルな戦略目標を実現してきた。現在の朝鮮半島の新たな情勢は、アメリカに有利な方向で推移ないし展開しているかのようである。アメリカのトランプ政権は商人及び軍人が主導するという特徴を呈しており、朝鮮半島に対する戦略的目標が変化することはあり得ないけれども、具体的な政策及びスタイルには比較的大きな変化が起こり得る。朝鮮半島の地縁的情勢の新たな主要な変化としては以下の諸点がある。
 第一、中朝関係及び中韓関係が同時に冷え込んでおり、半島における中国の利益が損なわれていること。朝鮮の「経済建設と核戦力建設の並進路線実行」と中国の朝鮮半島非核化政策との間に衝突が生じているため、ポスト金正日、特に2013年の朝鮮の第3回核実験以来、中朝関係は一貫して冷却状態にある。特に、国連安保理が朝鮮の核ミサイル開発に狙いを定めて制裁を実施することを中国政府が支持し、制裁決議の各項目を厳格に執行したことにより、経済文化分野における中朝間の交流及び協力は深刻な影響を受けるに至った。中朝双方の政策に大きな調整が行われない限り、中朝関係は今後も引き続き寒風状態の中にあり続けることになる。
 中韓関係は、国交樹立後急速に発展し、一時期はいわゆる「ハネムーン」を迎えた。しかし、2015年末以後、韓国の対外政策は向きを変え、韓日が接近し、韓米日3国の戦略的協力はさらに強化されることとなった。2016年7月、韓米両国は、中国及びロシアの強硬な反対を顧みず、韓国にTHAADミサイル防衛システムを配備することを発表し、中国の安全保障を深刻に脅かし、東北アジア地域の戦略バランスを損なわせることにより、中韓関係は厳冬に入ることとなった。韓国国内政局は朴槿恵の「女友達」ゲート問題で不安定に陥り、中国政府は何度も韓米がTHAAD配備を中止することを呼びかけたにもかかわらず、韓米は逆にスピードを速め、5月に行われる可能性のある大統領選挙前に配備を完成させ、既成事実を作ろうとしている。韓米のTHAAD配備を阻止できるかどうかは、中国にとってのきわめて大きな試練である。
 第二、朝韓関係が冷戦終結以来の冷え切った状態にあること。冷戦終結後、盧泰愚政権は「北方政策」を実行し、韓国は朝鮮を含む社会主義諸国との関係を、程度の違いはあれ改善した。金泳三政権の時代には、朝韓関係は冷えたり熱くなったりしながらも、全体としては前進した。金大中政権は朝鮮に対して「太陽政策」を実行し、歴史上最初となる南北首脳会談を実現し、朝韓関係の新時代を切り開いた。盧武鉉政権は朝鮮に対して「平和繁栄政策」を実行し、第2回首脳会談、朝韓経済協力、人事交流などを実現した。李明博保守政権は朝鮮に対していわゆる「非核化・開放・3000」強硬政策を実行し、朝韓関係は急速に後退したが、決定的破滅までには至らなかった。朴槿恵政権が登場してから、朝鮮の最高指導者は何度も朝韓関係改善を呼びかけたが、朴槿恵政権は非理性的な強硬政策を行った。特に2016年以後、朴槿恵政権は外交その他の様々な手段で朝鮮に圧力をかけ、封鎖を行うことにより、朝鮮の生存空間を窒息させ、朝鮮内部に韓国が期待するような「変化」を起こさせ、韓国主導の半島統一を実現しようとしたため、朝韓関係は決定的に破滅し、韓国に新政権が登場する前に朝韓間に対話を行う可能性はもはやなくなった。ある意味において、朝韓関係は半島におけるその他すべての問題の病根であると言える。
 第三、韓日関係が歴史的記録を実現したこと。朴正煕大統領は、韓国経済発展のため、1965年に宿敵の日本と国交を樹立した。朴槿恵は、父親の後を継いで、韓日関係において2つの記録を残した。一つは、2015年12月に電光石火の勢いで「慰安婦」問題の最終解決のための合意を達成し、「慰安婦」問題について「最終的かつ不可逆的な解決」を確認したことだ。「慰安婦」問題は韓日間の歴史的経緯が長い古くからの問題であり、彼女以前の大統領は民意を考慮して解決するに至らなかった。もう一つは、2016年11月23日、韓日「軍事情報保護協定」(GSOMIA)をあっという間に正式署名し、文書の形で相互に通報する形で協定は直ちに発効した。
 以上の2つの協定は、韓日関係にとっても、東北アジアに対しても、深遠な影響がある。朴槿恵政権が意表を突く速さで2つの協定を締結したのは、民意の反対を恐れたからかもしれない。朴槿恵は、何故に広汎な人々及び野党の反対を顧みずことさらにそうしたのだろうか。考えられる根本的な原因は、韓国は中米間でバランスをとる政策を放棄し、戦略的に中国と対抗する米日陣営に参加し、それによって韓日関係を改善し、両国間の協力を深めるということだろう。このことは、中国にとり、また、東アジア地域にとっても危険なシグナルである。
 第四、アメリカが主導する「アジア太平洋小型NATO」が形成されようとしていること。アメリカは、「アジア太平洋リバランス」戦略を実行して以来、朝鮮核問題及び朝韓間の矛盾を利用して半島に緊張を醸成し、朝韓関係を破滅させ、中朝関係を離間させ、中韓関係を引き裂き、韓日関係を改善させ、朝鮮半島情勢をして中国にとって不利で、アメリカにとって有利な方向に発展させることに成功してきた。アメリカの次期大統領であるトランプは、「アジア太平洋リバランス」戦略を実質的に放棄することはあり得ず、中国に対抗し、競争し、押さえ込むという手段を引き続き強化する可能性がある。とりわけ我々が注視するのは、アメリカの主導のもと、韓日軍事協力問題がすでに解決し、米日韓のトライアングルの協力が同盟に向かって邁進し、すでに実質的な三者軍事演習段階に入っており、アメリカが構想する「アジア太平洋小型NATO」戦略の青写真が形成されつつあって、アメリカの東北アジアにおける戦略的パワーが顕著に強化されていることだ。
 トランプは1月2日にツイッターで2言発した。一つは、「朝鮮は、アメリカを攻撃できるICBMの発射実験がすでに最終段階に入っていると言った。これは絶対に起こりえない」というものだ。2つめは、「中国は完全に一方的な貿易によってアメリカから大量の資金と富とを稼いだが、朝鮮問題では手伝わない。まったくすごいことだ!」というものだ。これは、トランプ政権が一方では朝鮮に対する高圧的態度を維持していること、もう一方では中国にもっと多くの責任を負わせ、中国をしてアメリカが仕掛ける戦略的ワナにさらに陥らせようとしていることを表している。
 第五、朝鮮核問題は長期性と突発性とが並存する趨勢を呈していること。韓国をコントロールするためにも、朝鮮半島及び東北アジアには強化されたアメリカの軍事力が長期にわたって存在し、アメリカは朝鮮核問題を本気で解決する気持ちはなく、逆に同問題を長期化させ、しかもその責任を中国に押し付け、それによって戦略的に中国を抑え込み、一石数鳥の目的を達成しようとしている。米韓の政策の調整と変化に従い、朝鮮核問題の対決性、突発性、リスク性、不確実性が大幅に増加し、半島の安定を脅かしている。
 以上の5点を正確に認識することは重要な現実的意味があり、我々は、現実の状況に基づき、全体的に謀りめぐらし、総合的に政策を行い、朝鮮半島の安全保障上の困難な状況を突破する方法及び道筋を探究するべきである。

<政策提言>

 中国の今後の対朝鮮半島政策に関する政策提言は、朝鮮半島問題専門家・李敦球が満を持して正面から行った大胆かつ重要なものであり、私は「いよいよ来たか」という気持ちで受けとめました。李敦球は、「アメリカのトランプ政権は商人及び軍人が主導するという特徴を呈しており、朝鮮半島に対する戦略的目標が変化することはあり得ないけれども、具体的な政策及びスタイルには比較的大きな変化が起こり得る」「アメリカの次期大統領であるトランプは、「アジア太平洋リバランス」戦略を実質的に放棄することはあり得ず、中国に対抗し、競争し、押さえ込むという手段を引き続き強化する可能性がある」(前回文章)と述べるに留めていますが、この政策提言は明らかにトランプ政権の登場を視野に収めつつ、中国のこれまでの対朝鮮半島政策の根本的見直し、改変を主張するものです。
 特に注目すべきは、冒頭で指摘したように、中朝関係の改善を正面から提起したこと(第3の提言)です。私アカ個数年中国側論調をフォローしてきましたが、このような政策提言は初めてです。また、米日の陣営に身を投じた(と李敦球が断じる)韓国に対しては強硬な政策を実行するべきだ(「中韓関係の打開は実力による以外はない」)という主張(第2の提言)も、そのストレートさにおいて目を見張らせられます。
 また、「朝韓関係はすべての半島問題の病根であり、朝韓和解を推進すべきである」(第4の提言)、「東北アジアの融合を推進し、アメリカ主導の「アジア太平洋小型NATO」を瓦解させる」(第5の提言)はいずれも、南北関係の分裂・対立の固定化を前提とするアメリカの対朝鮮半島政策を正面突破し、東北アジアの緊張構造を解消することによってアメリカの軍事プレゼンス正当化の基盤そのものを突き崩すべきだという直球提言です。
 事実関係に関しては、「近年における中国の朝鮮半島に対する認識には混乱が生じており、「朝鮮を放棄する」、「朝鮮の戦略的地位は失われた」、「朝鮮崩壊」、「中韓が同盟する」、「朝鮮に対して国連の軍事条項を適用する」「条件をつけて外科手術的に朝鮮の核を除去する」等々、半島の平和及び南北をバランスさせるという我が国の基本戦略に反する言論まで現れ、そのことは、中国の対朝政策の制定及び実施を妨げ、これに影響しただけではなく、中朝間の相互信頼を破壊し、中国の半島政策に対する韓国の認識をも誤らせた。以上の現象については、我々の反省と高度な重視とが求められるべきである」とする指摘は、李敦球からすれば、苦々しい素人議論が横行してきた近年の中国国内における言論のあり方に対する不満の爆発でしょう。

 今日の朝鮮半島には危機が累々としており、近年の朝鮮半島をめぐる情勢の変化は中国の安全保障及び戦略的利益を深刻に脅かしている。我々は、戦略的見地及び戦術的側面から対応する必要に迫られている。
 第一、中国としては半島情勢を正確に認識し、戦略的平常心を保ち、地縁政治上の規律に従わなければならない。近年における中国の朝鮮半島に対する認識には混乱が生じており、「朝鮮を放棄する」、「朝鮮の戦略的地位は失われた」、「朝鮮崩壊」、「中韓が同盟する」、「朝鮮に対して国連の軍事条項を適用する」「条件をつけて外科手術的に朝鮮の核を除去する」等々、半島の平和及び南北をバランスさせるという我が国の基本戦略に反する言論まで現れ、そのことは、中国の対朝政策の制定及び実施を妨げ、これに影響しただけではなく、中朝間の相互信頼を破壊し、中国の半島政策に対する韓国の認識をも誤らせた。以上の現象については、我々の反省と高度な重視とが求められるべきである。中朝は2つの主権国家として、発展の道筋と核心的利益は互いに異なっているが、東北アジアの特殊な地縁政治構造のもとにおいて共通するあるいは似通った利益が存在する。歴史的規律及び地縁政治上の規律は人間の意思によって変えられるものではなく、その点に関する歴史的教訓は少なくない。したがって、朝鮮半島に対する中国の戦略的位置づけに関しては統一した国家的意思が必要であり、諸説が入り乱れることは許されない。また、確固とした戦略目標が必要であり、方向性が定まらないということも許されない。
 第二、THAAD問題に対しては断固とした対応を行うべきであり、中韓関係の打開は実力による以外はない。中国政府は明確かつ断固として韓国へのTHAAD配備に反対しており、中国の指導者も朴槿恵大統領に対して何度となく面と向きあってTHAAD配備計画を中止するように口を酸っぱくして勧告した。外交部と国防部は、相応の措置をとって中国の戦略的安全保障と地域の戦略バランスを擁護することを考慮する、と何度となく表明した。しかし、現在に至るまで、韓国はまったく動ずることなく、しかもTHAAD配備のスピードを速めている。国連事務総長だった潘基文は1月12日、韓国に帰る飛行機の中で韓国へのTHAAD配備を支持する立場を表明した。韓国の保守勢力が頑固にTHAAD配備戦略を堅持していることが読み取れる。このような状況のもとでは、韓国でのTHAAD配備プロセスを阻止するためには中国としては断固とした対応を行わなければならない。時間は切迫しており、国家の戦略的安全保障が第一である。
 国交樹立以来、中国は中韓関係に少なからぬ意を用いてきたし、それなりの展開もあって、そこには韓米同盟を牽制する意味合いも込められていた。しかし、経済貿易関係を中心とする中韓関係では韓米同盟及び米日韓協力システムに対抗することは難しい。その原因は、力の構造がきわめて非対称的であり、半島にちょっとした動きがあると、韓国はためらうことなく米日に付くのであって、THAAD問題における韓国の動きはその最新の証明である。韓国をして「心を改めさせ」、中韓関係を健康的な発展軌道に入らせるためには、韓国に対して「好意を示す」あるいは「善意を示す」だけではダメであり、実力でものを言わせなければならない。
 第三、適度に朝鮮核問題を超越して、中朝関係の正常化実現を速めなければならない。朝鮮核問題の本質は、朝鮮半島の長期にわたる冷戦が生み出した非対称的構造がもたらした結果である。朝鮮が核兵器を開発する根本の目的は、韓米の日々増大する軍事的圧力に対処することにより、不断に拡大する南北間の軍事力のアンバランスを縮小することである。もちろん、朝鮮の核開発は半島及び世界の非核化に利するものではなく、ある意味またある程度は朝鮮半島の安定に不利であり、韓日の核に対する野心を刺激する意味もある。しかし、アメリカが半島の冷戦メカニズムの終結を望まず、半島の停戦協定を平和協定に代えようとしないのであれば、朝鮮の合理的な安全保障上の関心も保証されないわけであり、韓米がひたすら戦略的軍事力を強化し、半島南北のアンバランスを速めることとなれば、朝鮮半島はやはり不安定ひいては災難な状況に陥る可能性がある。アメリカの韓国へのTHAAD配備が中国に対するものであり、朝鮮の核兵器が韓米軍事同盟に対抗するものであることは、実際上は誰の眼にも明らかだ。中国からすれば、両者の間には本質的な違いがある。外交部の華春瑩報道官が1月8日に述べたように、「半島核問題の由来と問題の根っことは中国にあるのではなく、問題解決のカギも中国ではない。」ましてや、核問題を除けば、中朝間には重大な意見の違いはない。以上に鑑みれば、中国としては、朝鮮半島非核化という基本原則及び朝鮮半島非核化と停戦メカニズムの平和メカニズムへの転換を同時並行的に推進するという政策を堅持すると同時に、適度に朝鮮核問題を超越して、中朝関係の正常化実現を速めるべきであるし、そうしなければならない。これは、現実の地縁政治上の必要であるとともに、中国の戦略的利益に合致するものでもある。
 第四、朝韓関係はすべての半島問題の病根であり、朝韓和解を推進すべきである。S字型の曲線すなわち38度線が半島を朝韓両国に分け、朝韓双方の止むことのない争いを引き起こし、しかも東北アジア諸国を巻き込んでおり、朝鮮半島で起こる矛盾、摩擦、対峙、衝突さらに戦争はすべて38度線が引き起こす災いである。朝韓の分裂がなければ韓米同盟はなく、したがってアメリカの半島における駐軍はなく、したがって北南間の軍事力の深刻なアンバランスもなく、したがって、朝鮮が核デタランスを追求してその通常戦力における深刻な立ち遅れを補填しようとする可能性もないわけだ。換言すれば、韓米同盟は朝韓の分裂の上に作られたものであるのに、冷戦後の韓米同盟の方向性は明らかに半島というカテゴリーを超えて、アメリカのアジア太平洋リバランス戦略の重要な支柱の一つとなっている。韓米同盟を揺るがそうとするのであればまずは朝韓和解を推進しなければならず、そうすることによってのみ、半島ひいては東北アジアの地縁政治秩序を中国に有利な方向に転換させることができる。
 第五、東北アジアの融合を推進し、アメリカ主導の「アジア太平洋小型NATO」を瓦解させる。アメリカ主導の「アジア太平洋小型NATO」は着々と形成されようとしており、アメリカのこの戦略目標を根本的に打ち破るためには、東北アジアの融合を推進することで取り除く以外にない。しかし、長年にわたり、中日韓3国間の自由貿易交渉は困難だらけであり、経済一体化の道のりははるか彼方であって、その効果は必ずしも理想的ではない。その原因は多岐にわたるが、朝鮮が東北アジア協力から排除されていることが、その協力プロセスが様々な困難に遭遇し、実質的な進展を得られない深層原因であるかもしれない。
 地縁政治の角度から見れば、朝鮮は東北アジアの中心地帯に位置し、アジア大陸と韓日とをつなぐブリッジであり、チャンネルでもある。ところが、アメリカは東北アジアが融合に向かうことを望まず、朝韓が和解せず、朝鮮が東北アジア協力プロセスに参加することを受け入れないために、朝韓間の鉄道及び道路交通は長期にわたって遮断される状況におかれ、そのことがアメリカに対して緊張を醸成し、東北アジア協力を攪乱するチャンスを与えているのだ。地縁経済の角度から見ると、以上のチャンネルを通じさせ、中朝韓経済圏または経済コリドーを作り、中国の「一帯一路」と接続させることができるならば、中国と朝鮮半島との経済共同体を形成することも可能となる。そうなったときにのみはじめて、日本は自ら進んで東北アジア協力に参加し、東北アジア経済の一体化にもかかわるようになるだろう。なぜならば、そうしなければ日本は脇に追いやられる危険が生じるためだ。以上をまとめれば、地縁政治上及び地縁経済上のテコを使って中朝韓日を含む東北アジア地域協力を駆動させることによってのみ、大本を収めるという効果を達成することができるのではないか。