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アジアインフラ投資銀行1年間の業績(李敦球文章)

2017.1.16

1月14日付の人民日報海外版WSは、李敦球署名文章「アジアインフラ投資銀行1周年 めざましい業績」を掲載しました。中国が同銀行の設立を提唱し、主導したこともあって、米日などでは、日米が主導権を握っているアジア開発銀行に対抗する中国の新しい外交攻勢と受けとめ、警戒する声も上がりました(米日両国は未加盟)。
 しかし、中国は当初から、同銀行設立を、習近平指導部が提唱した「一帯一路」戦略推進の一環であり、また、既存の国際金融機関と競合するものではなく、むしろそれを補完するものであると位置づけていました。今回の文章は、過去1年の実績により、同銀行の実績が当初中国の指摘していた政策的方向性に即して運営されてきたことを示すものとなっています。
 もう一つ、読者の皆様には関心がないかもしれませんが、私が個人的に注目したのは、この文章の著者が李敦球であったことです。同名別人かと一瞬思いましたが、肩書きは「中国社会科学院東アジア問題専門家・環球戦略シンクタンク学術委員会副主任」なので、朝鮮問題専門家である李敦球本人であることは間違いありません。こういうポストに就くと、朝鮮半島問題ばかりでなく、東アジア全体までカバーする立場になったのかと思われます。個人的には、朝鮮半島問題に健筆をふるい続けてほしいとも思いますし、今後の彼の朝鮮関係の分析がどうなるか注目していきたいとも思います。
 脇道にそれましたが、私自身もこの銀行の活動がどうなっているのかには関心がありましたし、これまであまり事実関係がまとまった形で紹介されてこなかったとも思いますので、同文章の要旨を紹介します。

 アジアインフラ投資銀行(以下「銀行」)は1周年を迎えた。習近平主席は2017年の新年の辞の中で、銀行の正式な開業を中国にとって2016年における誇りとしていいいくつかの大きな出来事の一つとした。
 この1年、銀行は組織の整備を整え、一連の項目への貸し出しを承認して良好な出発を行い、今後はさらに多くの項目の実現が見こまれている。銀行の創設メンバー国は57ヵ国であり、アジア域内諸国が全体の75%を占める。現在までに銀行が受け取った加入資料を申請した国家は20ヵ国以上であり、2017年中には加盟国数は90ヵ国に近づくと見こまれている。
 不完全な統計によれば、2016年に銀行が貸し出した主要項目は以下のとおりである。
 2016年6月、銀行は最初の4項目、総額5.09億米ドルの貸し出しを承認し、バングラデシュ、インドネシア、パキスタン及びキルギスタンのエネルギー、交通、都市開発等領域に充てた。
 2016年9月29日、銀行の第2期貸し出し、総額3.2億ドルの2項目が承認された。一つはパキスタンの水力発電所拡張工事で、総額3億ドルであり、世界銀行との協調融資である。もう一つはミヤンマーの225メガワット発電所関連で貸出額は0.2億ドル、他の開発銀行及び商業銀行との協調融資だ。
 銀行は12月9日、オマーンに対して2項目の融資、総額3.01億ドルの提供を行うことに同意すると発表した。これは、最初の港湾及び鉄道分野に対する融資であり、またアラビア半島の国家に対する最初の融資でもある。
 12月21日、銀行は創設メンバー国であるアゼルバイジャンの天然ガス・パイプライン項目に対して6億ドルの融資を行うことを承認した。
 こうして、2016年の銀行の融資総額は17.3億ドルに達した。銀行の金立群行長は、銀行は事業規模を徐々に拡大し、今後5年ないし6年内には、毎年の融資額を100ないし150億ドルにまで拡大したいと述べた。
 銀行の設立は「一帯一路」に関するグローバルな反響を引き起こし、「一帯一路」建設に対する人々の確信を高めた。金立群は、「一帯一路」の沿線には65国が存在し、銀行の創設メンバー国は57ヵ国であり、これらの沿線国と創立メンバー国とは多くが重複していると述べている。銀行は決してもっぱら「一帯一路」のために設立されたものではないが、「一帯一路」とある程度密接な関係がある。
 銀行は中国の銀行ではなく、中国の「一帯一路」のためにだけ働くものでもなく、ましていわんや現行世界秩序に対抗しあるいはそれを転覆させようというものでもない。銀行は、現行の多国間国際開発金融機構の外部において有益な補助的役割を担うものだ。その実体は、多国間金融メカニズムに対して「量的拡大」を行うものであり、多国間金融協力メカニズムを作り、協同的役割を担うものである。
 すなわち、銀行の成立はアジアの多くの途上国に裨益するのみならず、中国とユーラシア諸国の互利共贏(ウィン・ウィン)を実現し、さらには世界政治経済構造の良性的発展を強力に促進するものである。