中国核戦略見直し提起(環球時報社説)

2016.11.29.

11月28日付の環球時報は、「日本がTHAAD配備をしようとしている 中国は如何に対処するべきか」と題する社説を掲載しました。その内容の骨子は、米日韓が核相互デタランスを維持することに満足しないで、対中(露)核優位戦略を追求しているとの認識に立って、いまや世界第2位の経済大国になった中国としては、伝統的な「最小限デタランス」戦略(社説は「二流核国家」と表現)をやめ、「ミサイル防衛」を突破できる強力な核戦力を構築するべきだという主張を展開していることです。
 このような思いきった提言は環球時報ならではのことであり、この主張が中国政府の政策であると判断するのは危険です。しかし、私たちが考えるべきことは、アメリカが推進し、日韓が積極的に協力しようとしている「ミサイル防衛」が世界的な核軍拡競争を再び現実のものとする可能性を持っているという事実です。私たちは、日本政府が核兵器廃絶に対して及び腰であることを批判して止みません。しかし、「ミサイル防衛」が世界的核軍拡競争の引き金になる危険性、そして日本政府が前のめりになってアメリカに協力することが核軍拡競争を煽ることに本質があることに対してはまったく無関心です。私は、日本国内におけるこういう「核意識」の現実にこそ重大な問題があることを指摘しないわけにはいきません。本気で核兵器廃絶に向けて取り組もうとするのであるならば、「ミサイル防衛」問題に目の色を変えて取り組まなければならないはずです。そういう問題意識について考えていただく材料として、環球時報社説の大要を紹介します。

 日本がTHAADを配備すれば、朝鮮のミサイルを防ぐことに加え、中国に対する戦略的デタランスが増大するだろう。韓国のTHAADは中国東北地方のミサイル活動を視野に収め、日本のTHAADは中国東南沿海を窺うことになる。日韓は先週軍事情報保護協定を締結したばかりだが、両国がTHAADを配備した後は、東アジアミサイル防衛システムのネットワークが完備し、中国のミサイルのデタランスを弱め、アメリカの対中駆け引きのカードを増やすことになる。
 中国は韓国のTHAAD配備阻止に効果を発揮できなかったが、日本をしてTHAAD計画を放棄させることはさらに難しい。というのは、日米同盟は韓米同盟よりも緊密であり、日本の対中姿勢は韓国よりはるかに強硬で、日本がいったんTHAAD配備を決心したならば、中国の意見が効果を生むことははるかに難しいからだ。日本が現在再びTHAAD配備を提起するのは、トランプのアジア太平洋政策に影響を与えようとする意図がある。こういう状況のもとでは、中国が東京の態度を変更させるためにできることはさらに限界がある。
 アメリカが西太平洋でミサイル防衛システムを積極的に構築することは大勢の赴くところであり、中国としては、トランプがこの戦略の推進から後退することを指をくわえて待ち望むということではダメであり、この局面に対して自ら何をなしうるかに立脚すべきであって、相手が何かをしないように働きかけるということに立脚するべきではない。
 ミサイル防衛システムの役割は迎撃にあるが、最終的には相互確証破壊能力を変じて一方が他方を破壊することに変え、当該他方は当該一方を破壊する能力を失うということを確保することにある。中国は、この両面において努力するべきである。すなわち、一つは、自らのミサイル防衛システムの建設を強化することで、この分野における技術能力は米日に対してそれほど引けを取らない。もう一つは、中国のミサイルの防衛突破能力を大幅に向上させ、この突破能力の増大をしてTHAAD構築を凌駕させることだ。両者を比較する場合、後者の方がさらに重要である。
 韓日がTHAADを配備するという計画は、中国が戦略ミサイルの突破する技術を高め、核兵器保有量を拡大することに対して新たな理由を提供している。中国の現有核兵器保有量は米露と比較して少なすぎるのであって、中国が核兵器保有量を拡大するのであれば、現在そういう計画を制定し、実施するチャンスである。
 指摘しなければならないことは、中国はすでにNo.2の経済大国であり、しかもすでにアメリカは中国を最大の潜在的戦略的相手と見なしているということであり、そうしたことは中国をして大国間の駆け引きの第一線に押しやっているということだ。こういう状況のもとでは、中国が「二流核国家」であることはもはや時宜にかなったものではない。中国が「二流核国家」であるために、アメリカの過激な勢力をして対中強硬、さらには冒険主義の衝動を生み出させており、アメリカが中国に対して圧倒的な核における優勢をもつことは両国関係の長期的安定にとって不利である。
 ミサイル防衛の技術は、精度及び信頼度においてミサイル防衛突破能力の技術を凌駕することは永遠に難しい。中国がその気になりさえすれば、より少ない投資でTHAADを崩壊させるミサイル突破技術を発展することは難しくない。中国は、THAAD構築を時代遅れにし、諦めさせることができる。中国は戦略原潜の製造を加速し、THAAD防衛システムの背後を窺うことを急ぐべきだ。中国の戦略原潜及び戦略ミサイル発射技術はすでにかなり成熟している。
 中国は平和愛好国だが、大国として、平和を実現するという願望だけでは足りないのであって、平和のルールを操る能力を我がものにしなければならない。米日韓はもっぱら中国を威嚇する戦略安全保障という動きを取っており、戦略的バランスに対しては関心がなく、自らの安全と優越性に対してのみ貪欲である。中国は、外交的には弾力的である必要はあるが、同時に、軍事力を堅固にするという堅い道理を堅持するべきである。
 中国としてはTHAAD配備を阻止することが難しい以上、「配備しても無駄だった」というようにする努力が必要だ。そうしてのみ、彼らは新しい行動を取る前に中国の意見を真剣に聞くことに関心をもつようになるだろう。