中国の対朝鮮政策:朝鮮の第5回核実験と「中国責任論」

2016.09.18.

9月9日の朝鮮の第5回核実験とそれを受けて飛びだしたアメリカのカーター国防長官の「中国責任論」を受けて、中国国内では活発な議論が起こっています。カーター発言が飛び込む前の段階では、中国の怒りは朝鮮に向けられました。そのことを端的に示すのが、9月9日付環球時報社説「朝鮮の核弾頭は情勢をかき乱すには十分だが、戦略デタランスの威力からはほど遠い」です。その要旨は以下のとおりです。
 ちなみに、朝鮮の核デタランスが無力だとする環球時報社説の以下の主張は、「限定的核デタランス」を自ら奉じている中国のものとは思えない、実に説得力に欠ける議論であることはつけ加えておく必要があります。限定的核デタランスの要諦は、相手が先制攻撃を思い止まらざるを得ないだけの核報復力を備えるということにあります。アメリカとしては、朝鮮がアメリカ本土の大都市を標的にする核戦力を朝鮮が保有する場合はもちろん、同盟国である韓国、日本の任意の標的を朝鮮が破壊しうる核戦力を保有する場合でも、先制攻撃をすることは思い止まらざるを得ないはずです。9日の核弾頭実験の「成功」により、朝鮮が以上の意味での核報復力を保有するに至ったということは、米日韓としても評価せざるを得なくなったとするならば(ただし、私は額面どおりに米日韓の「評価」を受けとめてはいません)、朝鮮は明らかに限定的核デタランスを保有するに至ったということです。
 もう一点蛇足を加えるならば、朝鮮が韓国、日本を標的にする核戦力だけでは満足せず、アメリカ本土をも標的に収める核戦力開発に邁進しようとしているのは何故かという私なりの疑問については、9月17日付の朝鮮中央通信社論評「相手をはっきりと知ってのさばれ」の次の一文が答を出していると思いました。
そこでは、「かいらい(注:朴槿恵政権)が期待をかけている米国の「核の傘」「THAAD」などは、われわれの強大無比の核抑止力、核報復打撃力の前ですでに無用の長物になった。このような状態にある上司が「用途廃棄」された朴槿恵一味などを救うとして命を投げ打たないということは、火を見るより明らかである。」と述べています。つまり、アメリカは韓国(及び日本)に対する核拡大デタランス(「核の傘」)のコミットを本気で守る意思はない(=いざとなれば韓国、日本を見捨てる)と朝鮮は判断しており、したがって、朝鮮としてはアメリカ本土自体を標的にする核報復力を保有する必要があると考えているということです。
 しかし、韓国、日本を標的に収める朝鮮の核戦力は、韓国、日本にある米軍基地を壊滅することができるということですから、そのアメリカに対する核デタランスは十分すぎるものがあると私は判断します。したがって、私としては、朝鮮がアメリカ本土をも射程に収める核戦力構築に邁進することは不必要であるだけでなく、国際政治的にも、また、朝鮮の並進路線遂行上もマイナスだと考えざるを得ません。

 今回の実験は1月の「水爆」実験から隔たることわずか8ヶ月であり、これまでの核実験における時間的間隔がもっとも短いものだ。朝鮮は2週間前に水中発射弾道ミサイルの実験を行ったばかりであり、数日前には3発のミサイルを発射しており、正に「狂乱」に近いリズムだ。
 平壌が「徹底的に対決する」姿勢を示すのは、朝鮮に軍事圧力を加える米韓をはね返し、国際社会に対して半島非核化の主張をあきらめさせようとするものだ。しかし事実は、朝鮮が作りだしているのは憤怒、無念、困惑であって、外部世界の度肝を抜いて朝鮮に譲歩させる可能性は小さく、停滞に陥った6者協議の他の5ヵ国が(核保有国としての朝鮮を)受け入れることを選択することはさらにあり得ないことだ。  朝鮮が注意するべきは、核兵器は戦略デタランスの手段であって、本当に使用することはできないものだということだ。朝鮮の資源と経済的実力は限られており、これまでの核実験の当量は極めて小さく、仮に実戦用の核兵器を作り出すことができるとしても、その数量は非常に限られるだろうし、総爆発力の威力も高くなく、世界の核大国としての最低の敷居にまで到達することはあり得ない。米朝の核兵器保有量はさらに比較にもならない。アメリカには次のような基本的な判断がある。平壌がいったん核兵器を先制使用すれば、それはすなわち朝鮮の国家・政府の壊滅を意味し、朝鮮にアメリカに対する先制核攻撃を行う意志がないとしても、第2撃(報復攻撃)を行う能力もないということだ。これらの要素を合わせてみれば、朝鮮が伝統的意味における核デタランスをつくり出すことは不可能だということだ。
 大国の核兵器を仮に戦車に見立てるならば、米韓は恐らく朝鮮の核を「小型のトラクター」と見なすだろう。ワシントンは朝鮮の核保有を考慮するだろうが、朝鮮の核がアメリカをして平壌に対して戦略的譲歩を行わせるだけの強制力とはなり得るはずがない。
 他方、平壌が核兵器開発のためにどれほど多くの戦略的犠牲を払ってきたかを考えてみよう。朝鮮は現在世界でもっとも孤立した国家であり、経済が深刻な困難に陥っているだけではなく、苦境を脱する希望もほとんどない。最近数年、朝鮮の最高指導者は一度として外国訪問をしておらず、平壌の首脳外交はゼロに近い。核保有は朝鮮に戦略的手段を増やしたかがごとくだが、様々な対外チャンネルを遮断されたことにより、この「国力の増大」を有効な影響力に転化させるすべがない。
 核保有は絶対に朝鮮の政治的安全の守り神にはなり得ないし、まったく逆に、徐々に朝鮮を窒息させる毒性が効き目をあらわすプロセスとなりつつあるのだ。核保有は朝鮮をして次のような国家に導いている。すなわち、数個の本物か偽物かも定かではない核装置を後生大事にしてほかには何もない、繁栄も開放もない、自らの安全についても自信がない国家へ、ということだ。平壌は全神経を四六時中研ぎ澄まし、かすかな事・音にも敏感となり、眠るときにも目を見開いていなければならないということではないか。
 第5回核実験が行われた今、朝鮮はそれによってさらに強くなったのではなく、半島核問題の固結びがさらにきつくなったということなのだ。(第5回核実験を行った)9日という日は、朝鮮の国家的安全がさらに損なわれた一日であるに決まっている。
 今日9日は朝鮮の建国記念日であり、朝鮮が如何に社会を鼓舞し、国家としての求心力を高める必要があるかについては理解できる。しかし、核兵器という代物は、朝鮮の新たな危機を告げる狼煙台で立ち上る煙なのだ。平壌が賢明な洞察力を持ち、国家にとってのプラスとマイナスについての公式計算を正しく見直すことを心から希望する。

ところが、カーター国防長官が、「(朝鮮の核実験は)中国の責任だ。事態の展開について中国は重大な責任を負っているし、事態を転換させるためにも重大な責任がある」と発言したことに対して、中国の怒りはアメリカに対しても鋭く向けられることになりました。それを端的に示すのが、9月12日及び13日に行われた中国外交部の定例記者会見における華春瑩報道官の発言です。報道官は次のように発言しました。

<9月12日>
 (カーターの発言に対するコメントを求める質問に対して)カーター氏は謙遜しすぎている。朝鮮核問題の由来と原因は中国にはなく、アメリカにある。朝鮮核問題の実質は朝米矛盾だ。アメリカは、半島核問題の展開プロセスを全面的に回顧し、真に有効な解決の方策を真剣に考えるべきだろう。鈴を外すのはそれをかけたものによるべきであり、アメリカは当然の責任を担うべきだ。(中略)
 ひたすら圧力をかけ続けること及びそれに対する反発とは、半島核問題というこの結び目をますます固くするだけであり、ついには「固結び」になってしまう。核問題を含む半島の諸問題を根本的に解決するためには、関係諸国はそれぞれの責任を負担し、自らがなすべきことをするべきだ。中国は、朝鮮核問題を根本的に解決するためには、最終的に対話を通じ、半島関係諸国の安全保障に対する関心をバランスを取って解決し、半島の長期にわたる安定という解決策を探究するべきだと堅く考えている。我々は再度、各国が大局に着目し、言動を慎重にし、互いに刺激し合うことを避け、半島非核化プロセスを推進し、半島の平和と安定を実現するために、共同で親の努力を行うことを強く促す。
<9月13日>
 (アメリカのTHAAD配備が中国の対朝鮮政策に及ぼす影響に関する質問に対し)世界の万物が相互に関係する要素をもっている。この2つの問題に対する中国の立場は非常に明確だ。中国が一貫して強調しているのは、半島問題の由来は錯綜して複雑であり、最終的には対話と協議を通じて解決しなければならないということだ。アメリカにせよ韓国にせよ、THAADを配備しさえすれば朝鮮半島核問題を一気に解決できると考えるものがいるだろうか。事実が一再ならず証明しているように、半島の関係諸国の安全保障上の関心は、各国の利益に合致する方法によってのみ解決すべきであるし、そうしてのみ解決できるのだ。自国の絶対的安全保障を追求し、自国の利益のみに基づいて一方的な行動を取ることは、情勢の緊張を強め、問題をさらに複雑化するだけであり、最終的に自らの安全保障上の関心の解決に資さないばかりか、関連する目標の実現をもさらに困難にするだけだ。だからこそ中国は、関係諸国が大局に着眼し、言動を慎重にし、相互に刺激し合うことを避け、緊張した情勢がさらにエスカレートすることを避けることを強く促しているのだ。だからこそ我々は、当面の情勢が如何に深刻で困難とはいえ、関係諸国は対話と協議を通じて朝鮮核問題の解決を図るという見通しを放棄するべきではないと呼びかけてきたのだ。一縷の希望、チャンスそして可能性がある限り、各国は100%の努力を払ってそれを追求するべきである、というのが中国の一貫した立場だ。

以上のカーター発言に対する中国政府の公式的反応をさらに敷衍して展開したのが、9月12日付の環球時報社説「朝鮮の核実験に対して「中国は責任を負うべきだ」とするのはとんでもない屁理屈だ」、及び9月14日付人民日報所掲の鐘声署名文章「朝鮮核問題 アメリカは局外者でもなければ裁判官でもない」です。私は、両文章ともに十分に説得力があると判断しています。

<環球時報社説>
 アメリカのカーター国防長官は先の金曜日に、今回の朝鮮の最新の核実験に対して中国は極めて大きな責任があると言い放った(カーターの発言を紹介)。これは朝鮮の核保有に関する赤裸々な「中国責任論」だ。以前にもワシントンは似たようなことを言ったことがあるが、まだ含みをもたせ、婉曲的だった。
 朝鮮核問題は本質的に朝鮮と米韓との間の事柄であるのに、アメリカはここ数年事態を緩和させることに何もしていないのであって、朝鮮のほかに「責任者」を探すとすれば、第一は間違いなくアメリカだ。中国の当局者は名指しでアメリカの責任を問わないのに、カーターがこのように居丈高に中国に向かって叫ぶということを見ると、朝鮮核問題に関する偏執の程度において、ワシントンは平壌といささかも劣らないようだ。
 アメリカ人は、朝鮮核問題の起源、その展開プロセス、さらにはそのプロセスにおいてワシントンが如何にマイナスの役割を演じてきたかについてまったく考えようとしない。米韓が憚りなく朝鮮に対して軍事的威嚇を行い、アメリカがいくつかの小国の政権(浅井注:リビア、シリアなど)を乱暴に除去するということがなければ、平壌が核兵器を開発しようとする動機はこれほど強烈ではなかっただろう。1990年代の第一次朝鮮核危機が勃発した後、ワシントン(浅井注:クリントン政権)が朝鮮との間に達成した核枠組み合意を忠実に守っていたならば、今日、朝鮮に対して核を放棄するように勧めることの難しさはより小さかったかもしれない。
 今のワシントンは朝鮮核問題の根源を取り除く努力を完全に放棄して、この複雑な問題を簡単に、北京の対朝制裁のレベルが米韓の要求水準に達しているかどうかにすり替えている。朝鮮が新たな核実験を行い、新たなミサイル発射を行うたびに、アメリカ人は、「それ見ろ、すべてはお前たちが見過ごしてきた結果だ」という汚水を中国の頭にぶっかけるのだ。
 知らぬ顔をし、世論を欺し、自らが負うべき責任を他人におっかぶせること、これこそがカーター国防長官等のワシントンのエリートが今正に行っていることだ。我々としては次のように理解するほかない。アメリカは朝鮮核問題を解決する気持ちはまったくなく、この問題を解決することはあまりに面倒であり、東北アジアで行うべき戦略的見直しは余りに多く、現在は朝鮮核問題をそのままやり過ごすに如くはなし、ということだ。さらにワシントンは次のように考えている可能性が非常に高い。すなわち、朝鮮核問題は東北アジア及び中国にとってやりきれないものだが、アメリカにとってマイナスかどうかは絶対とは言えず、プラスかマイナスかについては極めて判断が難しい、ということだ。
 現在の問題は、韓国がアメリカ的考えで洗脳されているということであり、中国が制裁を強化すれば問題は解決されると信じて疑っていないことだ。しかもソウルは、朝鮮に対する軍事圧力を強めることに全力を注いでおり、韓国側の最新情報によれば、ソウルは現在「大規模懲罰報復作戦概念」を作成しており、必要なときに平壌の一部地域を地図から消し去る能力があり、さらには朝鮮の最高指導者及び朝鮮軍指揮部門に対する消滅行動を実施する「レンジャー部隊」を編成したという。韓国がこのように朝鮮との間で互いに恐喝をくり返すならば、朝鮮が第6回核実験を行うことも「さして遠くないこと」だろう。
 ワシントンは一貫して平壌との間で和平協定を署名することを拒否しており、中国が朝鮮に対して勧告することについてはいかなる協調も得られない以上、中国が平壌に対して核放棄を勧告する力がないことは明らかである。勧告が効果ないので、中国は国際制裁に加わった。すなわち、我々は、第一に中国が朝鮮に対する厳しい制裁に参加することを支持する、しかし第二に中国の制裁は当然なこととして国連の枠組みの範囲内であるべきであり、しかも、我々の制裁は朝鮮の核能力に対するものであって、朝鮮の政権をぶち壊すためのものではない。したがって、米日韓との間には姿勢において距離がある。
 米韓には朝鮮核問題を「中国に押しつける」意図があり、米韓と朝鮮との衝突を朝鮮と中国との衝突に転化し、中朝間の矛盾を半島の主要矛盾とし、そうすることによって彼等自身は中朝が疲弊することを待ち、さらには中朝衝突によって漁夫の利を得ようとしている。しかし中国はそれほど「純真」ではなく、鈴を外すのはそれをつけたものによるべきであり、米韓が真剣に朝鮮との矛盾を解決しようとしないのなら、彼らが「のうのうとしている」ことを手助けし、その「先兵になる」べきではない。
 ただし、中国の朝鮮に対する制裁は平壌が新たな核実験をするたびに強化されていくに違いない。また、朝鮮の核問題に関する明確な国際的解決のロジックがない限り、中国としては、朝鮮半島に突然危機が勃発したときに迅速かつ断固として対応できる能力を持つように戦略的準備を真剣に行うべきだ。
 朝鮮が勧告に耳を傾けなければ、単独で米韓と対決のエスカレーションに直面するリスクがある。核問題で半島に乱が起こるならば、もっとも後悔して止まなくなるのは恐らく平壌だろう。
<人民日報鐘声署名文章>
 アメリカは戦略的短視眼及びわがままによって余りに多くの面倒をみだりに作ってきた。しかも自分では対応できなくなると、アメリカはますます自らを局外者と装い、傲岸にも他国を恨み、責任をなすりつけるようになっている。アメリカのやり口は国際的道義に背馳するだけではなく、問題の解決に対して巨大な障害を作りだしている。
 (朝鮮の第5回核実験の)ニュースが伝わってからというもの、ワシントンは問題の複雑さ及び深刻さを無視し、また、何の根拠もないままに「中国責任論」を言いだした。すなわち、カーター国防長官は、朝鮮の新たな核実験に言及した際、「これは中国の責任だ」、「中国は事態の展開に重大な責任があるし、事態を転換させることにも重大な責任がある」と称した。
 朝鮮核問題に関して、アメリカに局外者を装ういかなる資格があり、勝手に情勢悪化の責任を他国になすりつけるいかなる資格があるというのか。朝鮮半島核問題の歴史的脈絡については明々白々であり、問題の由来と原因はアメリカにはないとでも言うのだろうか。アメリカに責任がないとするのならば、朝鮮はどうして一貫してアメリカを直接対象とする核打撃能力を不断に追求するのだろうか。
 アメリカは朝鮮半島核問題の真相については十分すぎる理解があり、ワシントンが自ら宣伝する「中国脅威論」を信じているとは想像しがたい。ワシントンが本気で力を尽くし、朝鮮核問題を解決の方向に向かわせる意思があるかどうかを疑うべき理由がある。すなわち、朝鮮が第4回核実験を行ってから、アメリカは、半島の安全保障構造に対する刺激を増加させることを惜しまず、地域の諸国の安全保障上の利益を損なうことを惜しまず、韓国にTHAADシステムを配備することを極力推進した。もちろん、アメリカはTHAADを配備しさえすれば恒久的に朝鮮半島核問題が解決できると考えているはずはないが、利己的な考慮により、朝鮮の核実験という口実を「うまく利用」し、「十分に利用」することを選択したのだ。
 近年の多くの国際問題において、アメリカが有効な公共財を提供する能力は不断に低下しているが、面倒を作りだす意欲はいささかも衰えておらず、朝鮮半島の核問題はそのうちの一例に過ぎない。ウクライナ問題においては、西側がロシアの戦略的スペースを強引に狭めたことが「平衡点」を超えてしまったことに対して反省しないだけでなく、全責任をロシアにおっかぶせた。東アジアにおいては、アメリカは「アジア太平洋リバランス」戦略を打ち出して以来、一貫して南海問題を地域における自らの覇権的地位を擁護し、中国に対して戦略的牽制を行うための重要な手がかりと見なし、あからさまに関係諸国間の矛盾を挑発し、同時にまた「ルール守護者」の装いで立ち現れ、中国に対して不断に非難を浴びせかけた。
 本来であれば問題の元凶であるのに、「局外者」という姿勢で高飛車に他国を非難するというアメリカのやり口は、国際道義に悖るだけでなく、問題の解決に対して巨大な障害を作りだしている。朝鮮半島核問題に即して言うならば、次のことをワシントンに対して勧告する必要がある。すなわち、この長引かされた難問の前では、いかなる僥倖的心理、傍観的意識、投機的姿勢もすべて冒険主義であり、私的目的だけで大局を無視するやり方は半島情勢をさらに緊張させるだけで、問題の解決をさらに困難にさせるということだ。
 現在、朝鮮半島の緊張した情勢は明らかに新たなエスカレーションの段階に入っており、関係諸国は大局に着眼し、言動を慎み、相互に刺激し合うことを避け、緊張した情勢がエスカレーションのくり返しになる事態を避けるべきである。アメリカは特に、朝鮮半島核問題の進展プロセスを全面的に回顧し、真に有効な解決の方策を真剣に考え、然るべき責任を負うべきである。

他方、中国の対朝鮮政策に関し、内外から中国に対して政策見直しの声が上がっていることに対して、中国としては戦略的不動心(中国語:「定力」)を備えることがますます必要となっているという立場から議論を展開したのが、9月14日付人民日報海外版WSに掲載された、王俊生(中国社会科学院アジア太平洋グローバル戦略研究院副研究員・海外網特約評論員)署名文章「中国の対朝鮮政策は間違っているか」です。
 この文章はもちろん王俊生の認識を表明したものですが、私は非常に刺激を受けましたし、「米韓の対中期待値は「高すぎる」」の項で示された米韓の対朝政策の本心に関する分析は本質を突いて見事だと思いました。総じて極めてレベルの高い文章だと感じ入りました。
 ただし、終わりの方にある「朝鮮の第5回核実験後の制裁に関しては、韓国及びアメリカと合意ができない場合には単独の制裁を行う」というのは明らかに王俊生の勇み足です。中国はロシア同様、安保理決議の授権がない単独制裁には原則として反対であり、王俊生のこの指摘は明らかに初歩的過ちです。

<中国は「朝鮮の核」のために大量の外交資源を使った>
 国際関係の学者はすべからく次の道理を弁えている。すなわち、いかなる優れたかつ実務的な外交戦略及び政策も、本国の利益を出発点とし、同時に関係諸国の利益にも合致するものであるべきだということだ。中国の半島問題における3原則、すなわち「朝鮮半島の非核化、半島の平和と安定、対話と協議による問題解決」は正にそれであり、それはまた半島問題における中国の3つの目標でもある。
 中国は、この3つの目標を実現するため、1994年の朝鮮第一次核問題を解決することを目的としたジュネーヴ中米朝間4者交渉、2003年3月の中米朝会談、2003年3月に開始した6者協議に参加した。また、2008年以来の朝鮮半島の膠着に直面して、本年2月に王毅外交部長は停戦協定を平和メカニズムに転換する交渉及び6者協議再開を内容とするダブル・トラック案を正式に提起した。また、中国は外交上の知恵を提供しただけではなく、朝鮮半島に緊急事態が起こるたびに、しばしば高官を派遣して斡旋を行い、時には2名の高官を派遣することもあった。中国の利益と関係諸国の共同利益を実現するため、中国は巨大な外交資源を使ってきたと言うべきである。
 中国は、朝韓関係の改善を積極的に推進し、なかんずく2000年の南北首脳会合においては背後で大量の働きを行った。中国はまた、米朝関係改善を積極的に推進し、朝鮮と他の国々との関係改善を激励した。歴史的、地縁的等の原因により、半島問題の解決において中国がほかの関係諸国と比べてより多くの資源をもっていることは確かであるが、事実が表明するとおり、中国は、朝鮮半島問題を解決することにおいて、自分だけのことを考えて他国の利益を損なうということはかつてあったためしがない。中国の半島に関する上記3原則も、歴史のテストで証明済みであり、朝鮮の今回の核実験も中国の外交的智恵及び公明正大さを再度証明している。それとの対比でいえば、今回の朝鮮の核実験は正に関係諸国がこの3原則に背いていること、これら諸国の対朝政策が失敗であることを証明している。
<米韓の対中期待値は「高すぎる」>
 オバマ政権と朴槿恵政権の対朝鮮政策の共同の出発点は朝鮮が崩壊するだろうということだ。両者の違いは、オバマ政権は戦略的忍耐心があり、朝鮮が崩壊するのを待つということであり、それまでは半島の適度の緊張を利用して自らのアジア太平洋戦略に十分利用するということだ。朝鮮核問題が解決するか否かは主に中国等の朝鮮周辺国の問題であり、アメリカにとっての急務ではない。これに対して朴槿恵政権の場合、朝鮮の崩壊を迅速に推進し、それによって統一という偉大な事業を実現したいということだ。平和的解決、平和的対話によって朝鮮を「軟着陸」させることは朝鮮が「生きる」時間を長引かせるだけで、朴槿恵政権としてはそれを望まない。
 したがって、アメリカと韓国の近年の対朝鮮政策においては2つの極めて間違った政策を行っている。一つは、朝鮮がまず核兵器を放棄し、それを待って他のことを話すということだ。もう一つは、全面的に圧力をかけ、朝鮮を崩壊させるか、さもなければ、朝鮮に頭を下げさせるということだ。この2つの条件は、金正恩政権ならずとも、いかなる政権も満足しないだろう。
 以上の基礎の上に、米韓はさらに韓国にTHAADシステムを配備することを推進し、中国をも「圧力行使」の対象にしている。本質的に言って、THAADシステムはアメリカが中国を封じ込めるために配備しようとするミサイル防衛システムである。韓国に関して言えば、第一にはアメリカに対しての忠誠心を表明することで、中米対決においてアメリカと一緒になるということであり、第二には、国内の真相を知らない人々を落ちつかせるということだ。このことが犠牲にするのは中国の安全保障上の利益であり、また、地域の微妙な戦略的バランスである。笑ってしまうのは、一方では中国の力を借りて朝鮮に圧力をかけようとし、他方ではTHAAD配備を通じてアメリカが中国に対処することに協力するということであり、韓国は中国の忍耐心と善良さをバカ扱いしているのだ。国境線から40キロ足らずの韓国は、朝韓戦争が勃発した場合、朝鮮が韓国に対して一斉砲火を浴びせるから、THAADが韓国を守る上でなんの役にも立たないことはアメリカ人でも知っていることだ。
 米韓が中国をも圧力行使の対象とする真意は、朝鮮が今日核放棄を行わず、崩壊もしないのは、中国が十分な圧力行使をしないという責任があるという理屈だ。しかし、圧力行使によって朝鮮を崩壊させるというのはジョークではないか。朝鮮の崩壊で生み出される大量の難民及び国境での混乱のツケは中国が払えというのか。しかも、中朝は主権国家であり、一体どんな権利と資格があって圧力行使で他人様をぶっ壊すというのか。
<朝鮮の核実験は間違いの上塗り>
 朝鮮には間違いがないか。もちろん間違っているし、間違いの上塗りをしている。金正恩が政権に就いてから今日までの外交政策は、簡単に言って2つの判断に基づいている。一つは中国とあまり近づきにならないということだ。もう一つはいかなる代価を払ってでもアメリカとの関係を改善するということだ。以上の判断の下、朝鮮の対中姿勢は中国の経済援助等には頼りつつ、同時に中国とはつかず離れずで、自身の目標を実現するためには中国の利益には一切思いを致さない。アメリカに対しては猛烈に争い、頻繁にミサイル発射実験と核実験を行うことを通じて関係改善を迫り、国際社会が朝鮮を核兵器国であることを承認することを迫るということだ。己の私心のためには地域がむちゃくちゃになることを厭わないと言えるだろう。仮に中国が朝鮮との窓口を閉め切って朝鮮の圧力抵抗能力を脅かすとした場合、朝鮮国内に米韓のいういわゆる「崩壊」が起こるかどうかは定かではないが、再び艱難辛苦の道を歩む可能性は避けられず、しかもその被害をモロに受けるのは一般の朝鮮の人々なのだ。中国の善良と国際道義とを利用して「猛烈に闘う」カードとするというようなことは朝鮮だからできることだと言えるだろう。
 総じて言えば、中米朝韓4国の中では中国のみが初心が変わることがなく、各国共通の利益に合致する方法で半島問題の解決を推進している。4ヵ国の中では、客観的に言って、中米には長期的な戦略的計画がある。中国の場合は半島問題の「3原則」を実現し、最終目標としては地域の持続可能な安定と平和を実現することである。アメリカの戦略目標は朝鮮崩壊であり、そのためには10年でも、20年でも、さらにはもっと長く待つことができる。これに反して、朝鮮と韓国は短期的目標のために一刻の猶予もできない。朝鮮は国際社会をしてその核兵器国であることを承認させること、また、韓国は急いで朝鮮に圧力をかけて崩壊させ、速やかな統一を実現することだ。朝鮮と韓国のこのような実際離れした目標がどうして実現する可能性があろうか。
<中国が軽率に国家「カード」を切ることはあり得ない>
 以上から見て、また歴史的経験が証明するように、中国の3原則のみが生命力があり、半島問題の解決にもっとも合致した現実的なものであり、各国の共通の利益にも合致するものだ。今回の朝鮮の核実験は正に中国の半島政策が正しいことを表しており、韓国の戦略的忍耐政策の破産と韓国のTHAAD配備による朝鮮封じ込めと圧力の政策の破産とを表している。もちろん、引き続いて出される対朝制裁は再度、核実験で最大の被害を受けるのは朝鮮自身であること、換言すれば、朝鮮が自らの私心のために「猛烈に闘う」ことは自らの立場をさらに難しいものにするだけだ、ということを表している。
 今回の朝鮮の核実験及び韓国がTHAADを配備しようとすることにより、朝鮮半島非核化を解決するための国際協力が袂を分かつことになる可能性があることは間違いない。中国はすでになすべきことはすべてしたのであり、朝韓が互いに猛烈に闘い、圧力を行使するという方法で問題の解決を図ろうとするのであれば、そしてその過程で中国の利益をまったく考慮しないというのであれば、そしてさらに中国が各国の利益の解決のために提起した政策に耳を傾けないとするのであれば、中国としてはこれ以上思い悩み、怒る必要はさらさらない。
 中国は責任を負う大国として、いかなる時にも問題の道理の有無に基づき、反対するべきは反対し、支持するべきは支持するのであって、ややもすれば他国の「カード」を切るようなことはあり得ない。換言すれば、朝鮮が協調しなくても、中国は相変わらずTHAADの韓国配備に断固反対するし、朝鮮の第5回核実験後の制裁に関しては、韓国及びアメリカと合意ができない場合には単独の制裁を行う。朝鮮半島の平和と安定及び自主的平和統一に関しては、我々が推進しえない以上、我々はなすべきことをし、そのほかのことは歴史をして決定させるということだ。畢竟するに、このことは朝鮮及び韓国にとっての核心的利益であり、半島問題においては両国だけが主要当事国なのだ。したがって、中国は朝鮮政策を反省するべきだと騒ぎ立てる国々こそがもっとも自らを反省する必要があるのではないだろうか。