朝鮮の第5回核実験と中露の公式反応

2016.09.11.

1.朝鮮の公式発表

9月9日、朝鮮核兵器研究所は以下の発表を行いました(同日付朝鮮中央通信)。

 朝鮮労働党の戦略的核戦力建設の構想に従って、われわれの核兵器研究所の科学者、技術者は北部核実験場で新しく研究、製作した核弾頭の威力判定のための核爆発実験を断行した。
核弾頭爆発実験が成功裏に行われたことに関連して、朝鮮労働党中央委員会は北部核実験場のわれわれの核科学者、技術者に熱烈な祝賀を送った。
今回の核実験では、朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊が装備した戦略弾道ロケットに装着できるように標準化、規格化された核弾頭の構造と動作特性、性能と威力を最終的に検討、確認した。
実験分析の結果、爆発威力と核物質利用係数などの測定値が計算値と一致するということが実証され、今回の実験で放射性物質漏出現象が全くなく、周囲の生態環境にいかなる否定的影響も与えなかったということが確認された。
核弾頭の標準化・規格化によってわれわれは、いろいろな分裂物質に対する生産とその利用技術を確固ととらえて小型化、軽量化、多種化されたより打撃力の高い各種の核弾頭を決心した通りに必要なだけ生産できるようになり、われわれの核兵器化はより高い水準に確固と上がるようになった。
今回の核弾頭爆発実験は、堂々たる核保有国としてのわが共和国の戦略的地位をあくまで否定し、わが国家の自衛的権利の行使に悪らつに言い掛かりをつける米国をはじめとする敵対勢力の脅威と制裁騒動に対する実際的対応措置の一環として、敵がわれわれを侵すなら、われわれも立ち向かって打撃する準備ができているというわが党と人民の超強硬意志の誇示である。
米国の増大する核戦争脅威からわれわれの尊厳と生存権を守り、真の平和を守るための国家核戦力の質量的強化措置は続くであろう。

朝鮮核研究所に関しては、9月10日付の韓国・朝鮮日報WS所掲の李竜洙(イ・ヨンス)記者署名記事「北核実験:体制危機に追い込まれ核武装を急ぐ金正恩氏」において、次の説明がありました。

 「北朝鮮は9日、核実験の成功を発表するにあたり、初めて「核武器研究所声明」という形式を取った。1回目から3回目までの核実験では「朝鮮中央通信報道」、4回目の核実験では「政府声明」を通して核実験を公開した。チャン・チョルフン北朝鮮大学院大学教授は、「核武器研究所」について「寧辺の核施設、豊渓里の核実験場などを総合的に管理する機関。核兵器の技術的信頼性と専門性を誇示しようとする狙いがある」と語った。核開発に没頭する金正恩委員長が、今年3月9日に初めてこの研究所を訪問したという北朝鮮メディアの報道を考慮すると、金正恩委員長が設立を直接指示した可能性もある。」

米韓日中を通じて共通の認識としてみられるのは、朝鮮が核ミサイルの開発を確実に、しかも当初の予想よりも早く進めているということです。

2.中国及びロシアの公式反応

<中国>

中国外交部は9月9日、以下の声明を発表しました。

 本日、朝鮮民主主義人民共和国は、国際社会の普遍的反対を顧みず、再び核実験を行った。中国政府はこのことに対して断固とした反対を表明する。
 朝鮮半島の非核化、核拡散防止及び東北アジアの平和と安定を守ることは中国の確固とした立場である。我々は、朝鮮が非核化の承諾を守り、安保理の関連決議を遵守し、情勢を悪化させるいかなる行動を取ることも停止することを強く促す。
 中国は国際社会とともに、半島非核化の目標を確固として推進し、6者協議を通じて関係する問題を解決することを堅持する。

同日、中国外交部の華春瑩報道官は定例記者会見での質問に答え、上記声明内容をくり返したほか、さらに次のように述べました。

 本年初以来、半島情勢には複雑な動きがくり返され、地域の平和と安定を深刻に損ない、国際社会の普遍的な期待に背いている。事実が一再ならず証明しているとおり、半島関係当事諸国の安全保障上の関心は、各当事国の利益に合致する方式によってのみ解決するべきであるし、またそれによってのみ可能となるのであって、自らの利益のみに立って一方的な行動を取ることはすべからく「袋小路」となり、情勢の緊張を強め、問題を複雑化し、最終的には自国の安全保障上の関心を解決することに役立たないのみならず、所期の目標の実現をさらに難しくするだけである。中国は、各国が大局に着眼し、言動を慎み、互いにさらに刺激し合うことを控え、並びに半島非核化プロセスを推進し及び半島の平和と安定を実現するために、共同で真正の努力を行うことを強く促す。
 (制裁強化を支持するかという質問に対して)制裁に関しては、中国は安保理常任理事国として、また、国際社会の責任ある一員として、全面的かつ十全に安保理関連決議を一貫してかつ今後もまた実行し、果たすべき国際的義務を履行していく。中国は朝鮮半島の非核化を堅持し、核拡散に反対であり、今後も以上の立場に基づき、責任あるかつ建設的な方式で安保理の関連する議論に参与していく。
 (事前に朝鮮から予告なり情報なりがあったかという質問に対して)提供できる情報を持ち合わせていない。
 (朝鮮大使に対して抗議表明を行ったかという質問に対して)外交部責任者が朝鮮大使館の責任者に申し入れを行うだろう。

9月10日、外交部の張業遂次官は朝鮮の池在龍大使と会見し、朝鮮の核実験に対して次のように中国の立場を表明しました。

 張業遂は次のように表明した。朝鮮半島の非核化を実現し、半島及び地域の平和と安定を守り、対話と協議を通じて問題を解決するということは、半島問題に関する中国の確固とした、一貫した立場である。朝鮮が核兵器の開発を堅持し、不断に核実験を行うことは、国際社会の期待に反し、半島の緊張した情勢を激化し、半島の平和と安定にとって不利となる。中国は、朝鮮が緊張を強める可能性がある行動を再び取らず、非核化という正しい方向に早急に戻ることを促す。

<ロシア>

ロシア外務省は9月9日、以下の声明を発表しました(同日付ロシア外務省WS英文版)。

 9月9日、北朝鮮は、国連安保理諸決議に違反して更なる核実験を行った。
 国際法諸規範及び国際共同体の意見に対するこのような公然たる無視は、もっとも強い非難に値する。
 グローバルな不拡散体制を損なうことを狙った北朝鮮の行動は、朝鮮半島及びアジア太平洋の平和と安全に対する深刻な脅威を構成する。そのことは、主に北朝鮮自身に対して消極的な諸結果をもつだろう。我々は北朝鮮に対し、危険で向こう見ずな行動を終え、国連安保理のすべての指令に誠実に従い、核ミサイル計画を放棄し、NPT体制に戻ることを主張する。

9月10日付中新網モスクワ電は、ロシア外務省の上記声明を紹介するのに加え、以下の諸点を報道しました。

 9日、ロシア大統領府のペシュコフ報道官は、朝鮮が行った核実験に対する「最大限の憂慮」を表明すると述べた。朝鮮の新たな核実験は国際法に違反し、非難されるべきである。朝鮮のかかる行為は、半島に安全と相互信頼の雰囲気を作るという目標に背馳し、緊張した情勢を激化するだろう。ペシュコフは同時に、関係諸国が冷静を保つことを呼びかけた。
 ロシア連邦委員会主席のマトゥヴィエンコ(音訳)は9日、朝鮮の行動を非難するとともに、ロシアは朝鮮と外交交渉を行うことを支持し、核保有国が増えることに反対すると述べた。
 ロシア議会副議長で国際問題委員会副委員長のロマヌゥィッチ(音訳)は、政治的外交的方法で朝鮮核問題を解決するべきであり、朝鮮を速やかに交渉テーブルに復帰するようにするべきだと述べた。

なお、9月9日の朝鮮建国68周年に際し、同日付の朝鮮中央通信は、メキシコ労働党のグティエレス全国指導者(1日)、エリトリアのアフェウェルキ大統領(6日)、アルジェリアのブーテフリカ大統領(8月31日)、イランのロウハニ大統領(6日)、コンゴ(旧ザイール)のカビラ大統領(3日)、エチオピアのテショメ大統領(2日)、インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(7日)、チュニジアのカイドセブシ大統領(8月26日)、ミャンマーのティン・ジョー大統領(5日)、カンボジアのシハモニ国王(6日)、ウガンダのムセベニ大統領(1日)、ボスニア・ヘルツェゴビナ幹部会のイゼトベゴビッチ議長(9日)、キューバ共産党中央委員会第1書記でキューバ閣僚評議会議長であるキューバ国家評議会のラウル・カストロ議長(9日)から金正恩国務委員長に対して祝電が送られてきたことを紹介しましたが、ロシアのプーチン大統領からも9日、次の内容の祝電が寄せられたことを紹介しています(ただし、ロシア大統領WSでは10日現在紹介なし)。

 尊敬する金正恩閣下
わたしは、朝鮮民主主義人民共和国創建68周年に際して貴方に心からの祝賀を送る。
ロシア連邦と朝鮮民主主義人民共和国間の関係は、伝統的に友好的な性格を帯びている。
わたしは、互恵的な双務協力を各分野にわたってさらに発展させることがわが両国人民の根本利益に合致し、朝鮮半島と北東アジア地域全般の安全と安定の強化に寄与すると確信する。
わたしは、貴方が健康で成果を収めることを祈るとともに、朝鮮民主主義人民共和国の全人民に幸福と福利があることを願う。

私が興味深く思ったのは、プーチンの祝電の日付が9日付であることです。恐らく、準備された祝電が9日の朝鮮建国記念日に当たって事務的に送られたのでしょう。なぜならば、核実験が行われたのはソウル時間の午前9時30分(韓国軍部発表)で、モスクワ時間では午前4時30分だからです。万が一、朝鮮が核実験を行ったことを知った後になお上記祝電を送ったとすれば、それはそれで大きな政治的メッセージとなりますが、今の時点では事実関係の確認のしようがありません。
 ちなみに、中国外交部とロシア外務省の声明の内容には興味深い違いが見られます。中国は明らかに、朝鮮の今回の核実験が朝鮮半島情勢に及ぼす深刻な影響に最大の懸念と関心をもっています。これに対してロシアの場合は、朝鮮の行動が国際法違反であることを指摘することに最大の力点が置かれています。プーチン・ロシアが、パワー・ポリティックスのアメリカに対して国際法に基づく民主的な国際関係を標榜して対抗する姿勢は、朝鮮の核問題に関しても貫かれているというのが私の強い印象です。
 ただし、朝鮮の核問題には限らないのですが、ロシアの安保理決議の位置づけに関しては、重大な疑問点があることを改めて指摘しておく必要があるでしょう。すなわち、ロシアは安保理決議が国際法を構成しているという立場であることは声明から明らかです。しかし、安保理決議の拘束力は、国連加盟国が「安全保障理事会の決定をこの憲章に従って受諾し且つ履行することに同意する」という国連憲章第25条に根拠がある(「合意は拘束する」)のであって、決議そのものが国際法であるわけではありません。
 実は、中国もロシアと同じく、安保理決議が国際法としての効力を持っているという理解であるのです。しかし、中露両国がこうした重大なかつ誤った理解であることが、アメリカをして、米ソ冷戦終結後の安保理における大国協調体制を利用することを可能にしてきました。
 しかし、特に朝鮮の核問題に関しては、NPTを脱退した朝鮮にNPTに基づく核不拡散遵守の法的義務があるとする中露の主張は成り立ちませんし、宇宙条約に基づく宇宙の平和利用の権利行使として朝鮮が人工衛星を打ち上げることを安保理決議によって禁止することもできないはずです。この2点については、私がこれまでこのコラムで何度も指摘してきたことですし、朝鮮が明確に指摘していることでもあります。中露両国がこの問題を直視し、朝鮮核問題に関するアプローチを根本的に改めることをしない限り、朝鮮が、アメリカはもちろん、中露の主張にも耳を傾けるという状況は出てこないでしょう。