日中首脳会談(中国外交部発表文)と評価(環球時報社説)

2016.09.10.

9月5日、習近平国家主席は、杭州G20サミット出席のため訪中した安倍首相と会見しました。この会見における習近平発言の内容について、中国外交部WSは次のように会見の内容を報じました。

 習近平は次のように指摘した。中日は互いに重要な隣国であり、両国関係が長期にわたり健康的かつ安定的に発展することは両国人民の利益に合致するとともに、地域の平和と安定にも有利である。現在、中日関係は相変わらず時として複雑な要因によって妨害される。双方は、妨害を排除し、中日関係が速やかに正常な発展軌道に戻ることを推進するべきである。
 習近平は次のように強調した。中日関係を改善し、発展させようという中国の基本的立場には変化はない。両国関係は現在、胸突き八丁(中国語:「爬坡过坎」)、前進しなければ後退するのみというカギとなる段階にあり、双方は、責任感と危機意識を強め、両国関係における積極面を拡大し、消極面を抑制し、両国関係の安定と改善を確保するように努力するべきだ。来年は中日国交正常化45周年、再来年は中日平和友好条約署名40周年などの重要な契機であることを踏まえ、中日関係の発展を推進する必要がある。
 習近平は次のように強調した。中日双方は、中日間の4つの政治文書及び2014年末の4点の原則に関する共通認識を遵守し、両国関係の政治的基礎が動揺しないことを確保するべきだ。両国は、古い問題をうまくコントロールし、新しい問題を防止し、「障害物」を減らすべきである。
 中日協力に言及して習近平は次のように指摘した。中日両国の経済的補完性は高く、双方は、マクロ経済政策の意思疎通を強化し、各分野における実務的協力レベルを引き上げ、民間の友好の伝統を発揚し、地方交流を推進することができる。双方は、協力共贏という新しい理念に従い、地域協力を共同で推進し、グローバルな挑戦に対応するべきである。
 習近平は次のように指摘した。中日双方は、4点の原則に関する共通認識の精神に基づき、対話と協議を通じて意思疎通を強化し、東海問題を適切に処理し、東海の平和と安定を共同で守るべきだ。日本は、南海問題においては言動を慎み、中日関係の改善に対して障害をつくり出すことを避けるべきである。

 以上の習近平発言を受け、翌9月6日付の環球時報は、「日本は中日指導者の会談のチャンスを大切にすべし」と題する社説を掲げ、以下のように論じました。社説の日本(というより安倍首相)に向けた最大のメッセージは、首脳会談は関係促進のためのものであるべきであり、安倍首相のように関係を悪化させるために首脳会談を要求するということであるならば、中国としてはこれ以上お付き合いすることは願い下げにしたいということです。他者感覚の豊かな、内容的にも説得力ある内容だと私は受けとめました。

 習近平主席は(9月)5日に安倍首相と会見したが、習近平・安倍会見は2014年の北京でのAPEC中が最初であり、第2回は2015年のインドネシアAAサミット中であり、今回は第3回目である。今回の会見は、現在の「胸突き八丁、前進しなければ後退するのみ」の中日関係が前に向かって進むチャンスと見なされた。
 安倍が再び首相となってからの3年間、中日関係はすでに「冷え切った」と言うことができる。双方の関係が改善するエネルギーに乏しい根本原因は、日本に真実の誠意が欠けており、しばしば言行不一致であることにある。中国と対決するということが日本外交のほとんど全面的な原則となっており、中国が擁護することには日本はすべからく反対するというのが多くの中国人の受けている印象だ。したがって、中国の世論は、中日関係改善に対して次第に確信と興味を失いつつある。
 今回の会見の前にも、日本ではメディアに対するブリーフィングにおいて、安倍が東海及び南海問題を取り上げ、中国の自制を要求すると述べたのであって、両国指導者の会談に良好な雰囲気をつくり出そうというものではなかった。
 会談後に中国側は、比較的積極的言辞のプレス・リリース(浅井注:上記中国外交部WSの発表文)を発表し、中日関係が速やかに正常な発展軌道に戻ることを推進する願望を表明した。日本のブリーフィングにおいても一定の積極的内容が示され、安倍が会談で中日戦略互恵関係に言及したこと、双方は各分野各レベルでの対話を推進することについて共通認識を達成したこと、東海における偶発的衝突を回避するための日中防衛部門間の海空連絡メカニズムの協議について一致が達成されたことが明らかにされた。しかし、日本側のプレス・リリースは双方の違いをも同時に強調するものだった。
 また、同日夜に行われた記者会見の席上、安倍は再び南海問題について大いに語り、杭州サミットに出席した20ヵ国の指導者の仲で、南海を公然と論じることがもっとも多い一人だった。
 中国の安倍に対する態度は、恐らく「その言を聞き、その行いを観る」以外にない。安倍の中国に対する見方は極めて複雑なようであり、アメリカに対しても矛盾した受けとめ方があるようだが、アメリカに対してはそれをさらけ出す勇気はないので、そういう気持ちがある程度中国に対して向けられてくるということなのだろう。彼は、一方では本当に中日の緊張を緩和したがっているようだが、もう一方では下心を持って中国と対決しようとしており、彼の対中思考は矛盾に満ちており、緩和姿勢と挑発行動とが入り交じっている。
 例えば、南海問題では、日本はアメリカよりも露骨であるし、フィリピン、ヴェトナム以上に激しく、南海は日本にとっての重要な貿易ルートであるということも日本には通じないようだ。日本は米日共同で軍事的に南海を支配することに躍起であり、それによってのみ安心が得られるという極端な安全保障観であり、これは正に冷戦的思考様式で中国を観察し、これに対処していることを示している。
 日米同盟関係は中国の安全保障に対する最大のチャレンジの一つだが、東京はひたすらこの要素の影響を拡大しようとしており、それが中国に対していかなる消極的受け止めをもたらすかについてはまったく考えようともしない。しかも東京は中日関係における政経分離を主張するが、その趣旨は、日本が政治及び安全保障面で勝手なことをすることを中国は受け入れるべきであり、同時に、日本の経済的利益にはいかなる損害も及ばないことを確保したいというものであって、これは、日本のために奉仕するべく、東アジア情勢を政治的、安全保障上及び経済的に一体化しようとする極めて自己中な発想である。
 中日はかつて「戦略的互恵関係」を共同で定義したが、今の日本は口先で言うだけで、本気で中国との「戦略的互恵」を考えてはいないようだ。日本は、中国との関係を打算的な経済貿易及び人文の往来へと調整し、戦略上は中国との間でゼロサム・ゲームを行っているようだ。  共同通信の報道によれば、対中戦略の検討に参与したことがある日本政府関係者は、「今日の日中関係は衝突が回避できれば合格だ」と述べたという。中国の学界でも、多くの人が同様の心配をしており、中日関係は本当に楽観できないように見える。
 世界における大国関係においては、トップ会談が矛盾の解決、相互間の善意拡大に重要な推進的役割を担うという一般的な法則がある。中国とほとんどすべての大国との間の状況もおおむねそうであり、願わくば日本には例外となって欲しくない。安倍は常に中国の指導者と会うことを要求するが、彼にはこの会見を大切にすることを願いたい。「ダメになればなるほど話をし、話をすればするほどダメになる」という悪循環に陥るのであれば、北京としては東京にお付き合いする時間は作れなくなるだろう。