ロシア外交(中国専門家分析)

2016.09.04.

中国人の国際問題における他者感覚の確かさを知る材料として、前回に続く第2弾として、8月30日付の環球時報所掲の高飛(外交学院ロシア研究中心主任)署名文章「ロシアの外交包囲網突破の実現要因」の要旨を紹介します。

 ロシアは昔から逆境を打開することに優れた国家である。2013年にウクライナ危機が勃発してから、ロシアは西側の度重なる制裁を受け、さらに世界経済の低迷、国際石油価格の下落及びルーブル相場の低落により、ロシアは内外ともに困難な局面に陥った。多くの人はプーチン指導下のロシアがこの苦境をやり過ごすことができるかどうかを疑問に思ったし、少なくとも以前ほどには楽観しなかった。
 ところが、ほとんどのものが予想もしなかったことだが、2015年にロシアがシリアに軍事介入するに従って情勢が逆転しはじめ、ここ半年間のロシア外交は順風満帆だ。すなわち、4月初旬にドイツのシュタインマイアー外相は、1年後にはG7は再びG8に戻ることを議論するだろうと表明した。7月中旬にはアメリカがロシアとの間で専門家グループを作り、シリア和平プロセスを正常な軌道に戻し、米露が危機の解決方向及び行動目標について共通認識を達成したと表明した。8月初にはロシアとトルコが半年以上にわたって凍結していた外交関係を好転しはじめ、トルコはロシア軍に軍事基地を開放することを考慮していると表明した。8月中旬には、イランがロシアに対して基地インフラを提供することに同意し、ロシアのシリアにおける対テロ行動を保障したし、イラクもロシア機に領空を開放し、情報の共有に同意した。最近、ロシアは、9月2日にプーチンが安倍首相とウラジオストックで会談を行うことを高らかに発表した。こうした一連の外交的成果により、西側の制裁はもはやぼろぼろである。ロシア外交は如何にして受動を主動に転じたのかという問題は広く関心を集める問題であり、その中のいくつかの点は参考にするに値するものだ。
<積極的に打って出て道義的な要衝を掌握する>
 外交においては、道義的な要衝を掌握するものが全体を支配することができ、小をもって大を制することができる。
 シリアにおいては、アメリカが多年にわたって握ってきた対テロの錦の御旗がすでにロシアの手に渡ってしまった。プーチンは、シリア問題において、アメリカの目的はアサド政権を打倒することだが、ロシアの目的はテロリズムに勝利することだと述べた。プーチンは、「二股の手法は常に非常に難しいものだ。(アメリカは)テロリストに対して宣戦布告しておきながら、その中の一部のものを利用し、中東において意中のものを据え付けようとしている」と述べた。この発言は、アメリカのシリア問題に対する野心と私心とを余すところなく暴き出すとともに、ロシアをして道義的な要衝を握ることを可能にし、アメリカとしてはロシアがシリアに出兵するのを阻止する理由を見つけることができなかった。
 ロシアはくり返し、その軍事行動が中東の関係諸国の要請に基づいて行われているものであることを強調しており、それはすなわち大義名分に基づく出兵であるということだ。ロシアは、シリアにおける軍事行動を通じて、伝統的盟友を支持し、自らの利益を保全し、競争相手を弱め、同時にウクライナ問題の矛盾・フォーカスを移し換え、道義的な要衝を占領した。
<守りから攻勢に転じ、大国としての存在感を誇示する>
 露米関係はロシア外交のカギである。近年、二国間関係においても地域及びグローバルな問題においても、露米関係は齟齬が絶えない。アメリカの押せ押せのアプローチに対して、ロシアはアメリカとの関係改善を急がず、チャンスをつかまえて守りから攻勢に転じた。
 8月16日、ロシアの爆撃機はイラン空軍基地から飛びたってシリア領内のテロ組織に対する爆撃を行い、安全に帰還した。この軍事行動により、ロシア、イラン、イラク、シリア及びトルコが新たな中東反テロ同盟を結成する可能性を誇示し、アメリカの中東政策はさらに受け身に陥ることとなった。
 「最良の防御は攻撃にあり」といわれるが、この言葉はロシアについてもっともよく当てはまる。モスクワは積極的に打って出てアメリカのこの地域におけるこれまでの政策的アレンジメントをかき乱し、ゲームをワシントンが予想もしなかった方向に発展させ、同時にロシアのこの地域における価値をにわかに高めることになった。しかし、切羽詰まったときに「守りから攻めに転じる」という決定を行うことは気力と実力とを必要とするし、さらには相当な勇気と迫力を必要とするということを認めなければならない。
 現在、アメリカのケリー国務長官とロシアのラブロフ外相がシリア情勢について協議を行っている。アメリカは、ロシアがイランに戦闘機を配備することはシリア国内の衝突停止にとって不利益だと見なしているが、シリア問題に関するロシアとの協力を停止することはあり得ない。ロシアは守りから攻めに転じることにより、西側に対して、「ロシアの参画なしには如何なる国際問題の解決も難しい」というシグナルを不断に発信している。石橋を叩きながらも人の目をくらますが如きロシアの行動を前にして、西側諸国の中には、態度を改め、ロシアとの協力を模索するものも現れ始めている。
<声東撃西の戦略的柔軟性>
 ロシア外交の重点は欧州である。冷戦終結後、NATOの東方拡大はロシアの戦略スペースを不断に縮小させ、ウクライナ危機はこの流れをさらに加速した。現在、NATO28ヵ国は3万ないし4万の兵力をバルト3国及びポーランドに配備することに同意し、アメリカはルーマニアへのミサイル配備を急いでいる。欧州においてロシアが受け身に立たされていることは明らかだ。
 広大な領域と東西双方向外交という伝統は、「東方での攻勢」によって「西側の圧力」を解消させている。ロシア議会上院議長のマトヴィイェンコは、「西側の政治的拡張、NATOの東方拡大及び対露制裁のすべては無駄である。ロシアのスペースは太平洋まで広がっており、地縁政治的に動きうるスペースは十分だ」と述べた。ロシアはまず中国との全方位の関係を強化し、同時に日本、インド、韓国及びASEAN諸国との協力を積極的に推し進め、朝鮮核問題の解決にも積極的に介入した。ロシアは2015年9月以来極東で東方経済フォーラムを主催し、2016年8月には、9月2日から3日まで行われる第2回フォーラムに32ヵ国の2440名の代表が参加することが確認された。ロシア外交の「東方指向」は、一方で安定した戦略的銃後を提供するとともに、他方では西側との問題の解決をも促進する。日本が対ロシア制裁問題で不断に「寝返り」することに伴い、ますます多くの欧州指導者は「ロシアなくして、欧州の長期的安全はない」ことに注意を向け始めている。西側の対露制裁は竜頭蛇尾の傾向を見せ始めているのだ。
<優位性を発揮して大国外交の基礎固めを行う>
 軍事力はロシアの長所であり、経済はロシアの短所であるが、長所を伸ばし短所を避けることはロシア外交成功のカギである。ロシアはソ連の軍事技術の80%を継承し、軍事総合力レベルは低下したとは言え、軍隊の装備水準、作戦経験、指揮能力は依然として世界大国である。ロシア大国外交の成功の重要な一因はその優位性を存分に利用していることにある。
 ロシアがシリアに出兵してテロリスト勢力に打撃を与え、わずか2週間の空爆の成果はアメリカの1年余にわたる努力を凌駕した。事実が示すとおり、アメリカの能力は限定的であり、「イスラム国」とは戦場で「お茶を濁す」程度であって、極めて様になっていない。これに対してロシア軍は、反応は迅速、狙いは精確、軍事力は勇猛果敢、多元的作戦にも順応し、実力を見せつけてきた。近年のロシア経済の成長は多くの困難に見舞われているのに、ロシアは軍事面でのインプットを減らしておらず、ロシアが議会に提出した連邦予算では、2015年の国防支出は3兆2868億ルーブルであり、2014年の2.4兆ルーブルと比較して8121.6億ルーブルの増加である。冷戦の教訓に学んだロシアが戦争を希望しないのは当然であり、外交的にみると、ロシアの作戦は自分の優位性をうまく使いきるということにある。
 結論として、ロシア外交の成功は、ロシア大国外交の蓄積にも由来すると同時に、精確に狙いを定める作戦及び手段にもよっていると言えるだろう。大国外交にとり、東側で芳しくなければ西側で打開するという感じで、融通を利かす余地が極めて大きく、チャンスに事欠かず、ロシアはこれらのチャンスをしっかりと掴んで離さない。ただし、長期的にみれば、現代における国際競争のカギは経済を中心とする総合力であり、ロシアの経済改革が順調に進まず、国家開発の保障がないとなるならば、ロシア外交の長期にわたる成功は引き続き巨大な挑戦に直面することとなるだろう。