朝鮮半島の統一のための周辺国の役割と課題

2016.08.15.

*7月30日に行われた集会で行った発言のテープ起こし原稿に若干手を入れたものです。

本日は、最近の朝鮮半島情勢の変化要因、そして、中国と日本の朝鮮民主主義人民共和国にたいする態度、政策について述べたいと思います。

1.朝鮮半島情勢の変化要因

最初に、この一年のあいだに朝鮮半島情勢をはじめとする国際関係に変化をもたらした重要な三つの要因、ポイントについてお話します。
 三つのポイントの一つは、2015年8月に南北朝鮮間に生じた一触即発の事態「8月危機」、二つは、朝鮮労働党第7回大会で明確に定式化された「並進路線」、三つは、THAAD(高高度防衛ミサイル)システムの韓国への配備問題です。

<8月危機>
 「8月危機」とは、2015年8月に朝鮮がはげしく非難し警戒する米韓合同軍事演習「ウルチ・フリーダム」が強行されているさなかに、韓国軍兵士2人が地雷によって負傷する事件が引き金となっておこった南北間の一触即発の危機をいいます。
「8月危機」は急におこったことではなく、米韓の軍事戦略・計画が背景にあることを見る必要があります。
 2006年にアメリカは「おあつらえデタランス」戦略をつくりだしました。「おあつらえデタランス」は、英語ではtailored deterrenceといいます。"tailored"は「寸法をはかってつくる」という意味ですが、それを「おあつらえ」と私が訳したものです。
 「デタランス=deterrence」は日本では「抑止」と訳されています。しかし「抑止」という訳では平和をもたらすような良い意味にとらえられてしまうため、わたしは使いません。もとのデタランスという英語は、「相手を脅かしひるませる」という意味なのです。
 これまでアメリカは、「デタランス=脅かし」をあらゆる敵にたいして一律に適用していました。ただし、冷戦時代にアメリカが脅威の主な対象としたのはソ連でした。ところが、1990年を前後して社会主義ソ連が崩壊しロシアになり、アメリカにとって主な脅威ではなくなりました。
本来であれば、アメリカが権力政治(パワー・ポリティックス)的思考を清算する客観的チャンスだったのですが、そうはなりませんでした。アメリカは、自らの世界に対する覇権を維持するために、ありとあらゆるアメリカの覇権に挑戦する不安定要因を「脅威」と位置づけたのです。その結果、デタランスを一様に適用するのがむずかしくなり、脅威の対象によってその中身をかえるという意味で、2006年に「おあつらえデタランス」戦略をうちだしたのです。朝鮮にたいしては、核の先制攻撃を含む内容の「デタランス」となっています。
2010年には韓国も「積極デタランス」戦略をうちだしました。「積極デタランス」戦略の最大の特徴は、先制攻撃を盛り込んだことと、前線部隊の判断で反撃という名目の攻撃を行うことを認めたことにあります。
「おあつらえデタランス」と「積極デタランス」の二つの戦略をもとに、2013年に「米韓共同局地挑発作戦計画」が作成されました。この計画も、朝鮮にたいして先制攻撃を行う可能性を念頭において作成されたものでした。
 米韓が作成した以上の軍事戦略・計画は、朝鮮から見れば、いつ何時侵略戦争に直面するか分からないという大きな脅威であり、それにいかに対処すべきかが喫緊の課題にならざるをえませんでした。
そのような状況を背景として、2015年8月4日、北と南の軍事境界線である38度戦沿いで地雷爆発事件がおこり、韓国軍兵士2人が負傷したのです。
これを朝鮮の仕業だと決めつけた韓国が、8月10日、対朝鮮宣伝放送を再開することにより緊張が一気に高まっていきました。
8月20日には韓国軍の観測装備により、朝鮮軍が「ロケット砲と疑われる」砲弾を韓国側に発射したことを発見したとして、韓国側はこれにたいして、現地軍の判断で数十発の155ミリ口径砲弾で朝鮮側に反撃したと発表しました。
 以上の韓国側の行動は、朝鮮からすると、韓国が積極デタランスに基づく先制攻撃の戦争を仕掛けようとしていると理解したとしてもまったく不思議なことではありません。
 したがって、朝鮮は朝鮮労働党中央軍事委員会非常拡大会議を緊急招集して臨戦態勢を取って対抗しました。正に一触即発の戦争の危機がせまり、8月21日には米韓の合同作戦システムも起動しました。
 幸いなことに、朝鮮が呼びかけた南北交渉に韓国も応じて、8月22日から 23日の二日にわたる交渉がおこなわれ、その結果、共同報道文を発表するにいたりました。こうして戦争の危機は土壇場で回避されたのです。
 このできごとの本質と教訓は何でしょうか。
 それはすなわち、「おあつらえデタランス」戦略、「積極デタランス」戦略および「米韓共同局地挑発作戦計画」は、韓国とアメリカは朝鮮にたいしていつでも自分たちの望むときに望む事件をつくりだし、軍事攻撃をしかけることができるということです。それが今回の事件により具体的に示されたのです。
 「朝鮮総聯国際統一局通信」(2015年8月26日)のなかで、朝鮮人民軍の黄炳瑞総政治局長が、「南朝鮮当局は、根拠のない事件をでっち上げ、一方的におこった事態を、一方的に判断し、一方的な行動で相手側を刺激する行動にでた場合、情勢だけを緊張させ、あってはならない軍事的衝突をもたらすしかないという深刻な教訓を得たと思う」と述べています。
 また、金正恩委員長は、共同報道文に関連して、つぎのように述べています。
 「自衛的核抑止力を中枢とする無尽強大な軍事力とわが党のまわりに一心団結した無敵の千万の隊伍があるので(戦争回避が)なしとげられた。」
 もう一つの教訓は、朝鮮の核デタランスを韓国も無視できず、韓国も最後の一線をふみこえる踏ん切りがつけられなかったために、戦争にいたらなかったということです。
 朝鮮はいつ何時米韓による軍事攻撃がおこるかもしれないという危機感を新たにしました。それと同時にそれを阻止するためにも、核戦力をさらに強化しなければいけないということを教訓としたのだと私は見ています。
 さらにもう一つ加えるならば、すでに安保法制ができた現在の日本は、もう一度「8月危機」というようなことがおこって朝鮮半島において砲火をまじえる事態になれば、自動的に参戦していくことが可能な状況になっているということです。

<並進路線>
 つぎに朝鮮半島情勢をはじめとする国際情勢に変化をもたらす重要なポイントの二つ目の「並進路線」について述べます。
 経済建設と核武力建設を並進させる路線は、朝鮮労働党中央委員会2013年3月総会ですでに金正恩委員長によってうちだされていました。それをさらに朝鮮労働党第7回大会報告において「恒久的に堅持していくべき戦略的路線」として位置づけました。 金正恩委員長はつぎのように述べています。
 「わが党の新たな並進路線は、激変する情勢に対処するための一時的な対応策ではなく、朝鮮革命の最高の利益からして恒久的に堅持していくべき戦略的路線であり、核武力を中枢とする国防力を鉄壁のごとくうちかためながら経済建設にいっそう拍車をかけて、繁栄する社会主義強国を一日も早く建設するためのもっとも正当かつ革命的な路線です。」
つまり、今や「並進路線」は、6者協議などの外交交渉や、外からの圧力により断念するといった性格のものではなく戦略的路線として位置づけられるに至ったのです。
ただし、朝鮮の核放棄はありえないのかというと、かならずしもそうではないと私は判断しています。
朝鮮は一貫して東アジアの非核化、世界の非核化を実現する立場であり、その中に朝鮮の核政策をも位置づけています。
金正恩委員長は朝鮮労働党第7回大会報告においてつぎのように述べています。
「アメリカによって強要されている核戦争の危険を強大な核抑止力に依拠して根源的に終息させ、地域と世界の平和を守るために力強くたたかうでしょう。

わが共和国は責任ある核保有国として侵略的な敵対勢力が核でわれわれの自主権を侵害しないかぎり、すでに明らかにしたように先に核兵器を使用しないであろうし、国際社会にたいして担った核拡散防止の義務を誠実に履行し、世界の非核化を実現するために努力するでしょう。」
朝鮮政府のスポークスマン声明(2016年7月6日)によれば、「われわれが主張する非核化は朝鮮半島全域の非核化であり、これには南の核廃棄と南朝鮮周辺の非核化が含まれている」と述べています。ちなみに、「南朝鮮周辺の非核化」には、日本におけるアメリカの核の傘の撤廃も含まれます。
スポークスマン声明は、つぎの5つのことを述べています。
一、 南朝鮮に引き入れて是認も否認もしない米国の核兵器をすべて公開すべきである。
二、 南朝鮮からすべての核兵器とその基地を撤廃し、世界のまえで検証を受けなければならない。
三、 米国が朝鮮半島とその周辺に随時展開する核打撃手段を二度と引き込まないという保証をしなければならない。
四、 いかなる場合にも核で、核が動員される戦争行為でわれわれを威嚇、恐喝したり、わが共和国にたいして核を使用したりしないということを確約しなればならない。
五、 南朝鮮で核の使用権を握っている米軍の撤退を宣布しなければならない。
すなわち、朝鮮が求めているのは、アメリカの対朝鮮政策の全面的転換ということです。全面的転換をするならば、朝鮮も非核化に応じる用意があるということを示唆しているのだと思います。
つまり、朝鮮としては、6者協議による交渉のなかで、なんらかの取引によって核問題をあつかうということはもはやまったく念頭になく、アメリカが朝鮮敵視政策を完全に転換するならば、朝鮮も非核化を考えていくということになります。
このことは、こんごの朝鮮半島情勢に大きな影響をおよぼす重大な決定であったととらえることが重要です。

<THAAD(高高度防衛ミサイル)システムの韓国への配備問題>
朝鮮半島情勢をはじめとする国際情勢に変化をもたらす重要なポイントの三つ目は米韓のTHAADミサイル・システム配備です。
ここではTHAAD配備が国際政治にもつ意味について述べます。
重要なことは、今年7月8日に韓国の朴槿恵政権がTHAAD配備のを受け入れを決定したことにより、中国、ロシアの対韓姿勢が硬化していることです。
ここで中国の論調について紹介します。
一つは、キューバ危機になぞらえてTHAAD配備の決定について言及していることです。つまりソ連と協議してソ連のミサイルを受け入れたキューバによる軍事的脅威に直面したアメリカに自らをなぞらえて、アメリカの要請を受け入れて、朴槿恵政権が韓国へのTHAAD配備を受け入れたことの中国にとっての深刻な意味合いを指摘しているのです。それほど中国は深刻なこととしてTHAAD配備をとらえています。
中国の論調の二つ目は、韓国政府がアメリカの言うがままになるならば、朝鮮半島の非核化、朝鮮の核廃絶について、中国が米韓と協力することは困難であると言及していることです。
論調の三つ目は、THAAD配備を撤回しなければ、中韓間の良好な関係は維持できないという指摘です。
論調の四つ目は、中国の大手の新聞の一部に、中国のミサイルの照準を韓国に配備されたTHAADシステムに向けるべきだという主張まであらわれていることです。
一方、中国の朝鮮にたいする姿勢においては、好転への兆しがあります。まだ模索の段階ですが、朝中友好協力および相互援助に関する条約締結55周年に際して、今年7月11日、金正恩委員長と習近平主席とのあいだで祝電の交換がおこなわれました。
その反面、7月にモンゴルのウランバートルで開催された アジア欧州会合(ASEM)首脳会議で、中国の李克強首相は、精力的に外国首脳と会いましたが、朴槿恵大統領とは会いませんでした。

2.中国の対朝鮮半島政策

つぎに中国の対朝鮮半島政策について述べます。
基本戦略については、当面の政策と中期的、長期的戦略があります。ただし、中国の対朝鮮政策には重大な問題があります。この点についても触れておきたいと思います。

<当面の政策>
当面の政策としては、ダブル・トラックと中国が名付けている政策があります。ダブル・トラックとは、休戦協定の平和協定への転換と朝鮮半島非核化の同時並行的推進です。休戦協定の平和協定への転換は朝鮮に配慮したもので、朝鮮半島の非核化はアメリカ、韓国に配慮したものです。その具体化としては、6者協議を再開し、休戦協定を平和協定に転換し、さらに朝鮮半島を非核化していくというプロセスを考えています。
しかし、いずれもむずかしい課題があります。6者協議については、朝鮮は「死んだも同然だ」と公言しています。また、6者協議再開の前提として米日韓は、も朝鮮の非核化が先だというハードルを設けています。そして今や、THAAD配備問題がでてきたため、中国が朝鮮と米日韓または南北朝鮮をとりもつために主動的に動くことはますますむずかしくなってきています。
休戦協定の平和協定への転換ということについては、米韓が強く反対しています。また朝鮮の主張する朝鮮半島の非核化については、アメリカの「核拡大デタランス」、すなわち「核の傘」を撤廃するということが含まれるため、アメリカが、核戦略を根本的に見直さない限り、まず応じる可能性はありません。
一方、就任直後に「核のない世界」構想を打ち出したことがある米国のオバマ大統領は広島訪問以降、任期が終わるまでに何か格好をつけたいとでも思ったのか、急に核政策の見直しを示唆する発言をしています。そのなかに核の先制使用をやめることを検討項目に加えているという報道話もありますが、これには米軍部、日韓なども強硬に反対するでしょうから、実現する見込みはゼロと言って良いでしょう。それ以前に、政権末期の大統領が言うことは誰もまともに聞こうとしないでしょう。

<中期的政策>
つぎに中長期的には、「一帯一路」構想への朝鮮半島の組み込みという政策構想ことがあります。「一帯一路」というのは「陸のシルクロード」と「海のシルクロード」の双方を実現するという中国の中長期経済戦略であり、そこへ朝鮮半島を組み込み、南北対立の構図を経済的に解消していこうという考え方です。これはまったく実現不可能な話ではないといえます。
「一帯一路」構想は、ロシアが積極的にすすめようとしている、朝鮮の羅津港の対海外開放なども含む「ユーラシア経済圏」構想との親和性も高いものがあります。朝鮮にとっても、朝鮮の「並進路線」はもともと経済建設を重視しているところから、受け入れやすいでしょう。韓国も「半島統一」構想の一環として受け入れる可能性があります。
もちろん、朴槿恵政権下では見通しはありませんが、つぎの政権になれば新たな動きもあらわれてくる可能性があるでしょう。この点についてはこんご注視する必要があります。経済的な交流が深まっていくことによって、東アジアの政治的な環境、情勢がかわっていく可能性がでてきています。

<長期的戦略>
中国の戦略の最終目的は、アメリカの軍事戦略に左右される朝鮮半島の基本構造を抜本的に解消するということです。この点については、時間の関係もありますので、具体的には立ち入りません。

<中国の対朝鮮政策の重大な問題>
中国の具体的な対朝鮮政策においては、核問題とミサイル問題がネックになっています。
中国としては、日韓が核開発する口実に朝鮮の核武装が使われてしまう危険性を重視しているため、基本的には朝鮮に核をもってほしくないと考えています。また、中国は大国のみが核保有を許され、それ以上に核が拡散することを防止しようとするNPT(核不拡散条約)体制を守りたいとも考えています。
しかし、朝鮮は核があってはじめて米韓の先制攻撃を思いとどまらせることができると確信しているため、自ら核を放棄することはありません。しかも朝鮮の核開発はNPTを脱退したうえでおこなっており、朝鮮の核開発はNPT違反、安保理決議違反とする中国の理屈は、国際法的には通らない論理といえます。
ミサイル問題にしても同じことがいえます。ミサイル実験を規制する国際条約はありません。また、朝鮮は、人工衛星打ち上げを宇宙条約で各国に認められた、宇宙の平和利用という国際法上の権利の行使としておこなっています。
これにたいして中国は、アメリカなどに同調して朝鮮の人工衛星打ち上げを含むミサイル発射を非難し、制裁する安保理決議のを採択に賛成していきました。しかし、日本その他が大っぴらに行っているミサイル実験を朝鮮についてだけ禁じるというのは道理がありませんし、宇宙条約で認められた権利を安保理決議で否定するというのもあり得ないし、あってはならないことです。以上のとおり、核にしてもミサイル、衛星打ち上げ問題にしても国際法に照らせば、朝鮮に分があるのは明確です。
いまTHAAD配備の問題で中国が朝鮮にたいする政策を再検討する可能性がでてきましたが、当面の最大の焦点は、核、ミサイル問題について中国が朝鮮に対して取ってきた道理がない政策を改めるかどうかということです。
いずれにしてもアメリカ、日本、韓国と中国の対朝鮮アプローチには決定的な違いがあります。特に、核、ミサイル問題以外に決定的な矛盾をもたないのが中朝関係です。
それにたいして、アメリカ、日本、韓国と中国のあいだには多くの問題、矛盾が山積しています。さらに中国が決定的に米日韓と異なる点は、朝鮮の政治的安定を切望しているということです。なぜなら朝鮮半島でいったんことがおこれば、中国東北地方を中心に中国は深刻な影響をうけることは必至だからです。
朝鮮半島で戦争がおこる場合、それは核戦争を意味し、中国にとって傍観できることではありません。それゆえ中国の朝鮮政策はとても重要な意味をもつのです。
もちろん朝米関係が朝鮮半島の将来を決定する決定的要因です。それに中国がどのように外交的な力を発揮していくのかということがも、大きなポイントになっていくでしょう。

3. 日本の対朝鮮政策

<日本の対朝鮮政策のポイント>
日本の対朝鮮政策について重要な点を述べます。
日朝関係の出発点は日朝平壌宣言(2002年9月17日)です。それに国交正常化実現のためのすべての条件が網羅されているといえます。
2002年9月17日、小泉純一郎首相と金正日総書記がピョンヤンで会談をおこない、日朝平壌宣言を発表するにいたりました。
前文にはつぎのように記されています。
「両首脳は、日朝関係の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本的利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与するものとなるとの共通の認識を確認した。」
そしてこの「宣言に示された精神及び基本原則に従い、国交正常化を早期に実現」(第一項)させることが課題として位置づけられています。
第二項では、日本側の謝罪として「過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した」としています。
また第二項では、朝鮮にたいして無償有償の経済協力をおこなうことが確認されました。
さらに第二項では、「1945年8月15日以前に生じた事由に基づく両国及びその国民のすべての財産及び請求権を相互に放棄するとの基本原則」が確認されました。
第三項では、「拉致」問題に関連して「朝鮮民主主義人民共和国側は、日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとることを確認した」としています。
以上を整理すると、日朝平壌宣言が成立することを可能にした要因としては、一つは、日本が日本による植民地支配にたいする反省とお詫びを表明したこと、二つは、朝鮮が賠償にかわる経済協力、個人の請求権放棄を受け入れたこと、三つは、朝鮮による「拉致」再発防止措置を確認したことにあります。
2014年5月29日にはまた、日朝合意文書が作成されました。この文書ができた背景には、日本側の事情があります。当時尖閣問題がクローズアップされ、安倍政権は「中国脅威論」を前面におしだしました。逆にいえば、「朝鮮脅威論」を声高にとなえる必要がなくなったという現実的な打算も働いたでしょう。
もう一つは、本音は別として、安倍政権は「拉致問題」の解決を公約にかかげているため、最低限の外交交渉をおこなう必要があるという判断もあったと考えられます。
これにたいして、核開発と経済建設の並進路線を推進しようとする朝鮮も、日本の「制裁」緩和をひきだし、経済建設をおしすすめることに役立てるという考慮が働いたことは十分考えられます。
といいますのは、朝鮮が経済建設を推進する上で重視しているのは韓国資本、中国における朝鮮族の資本、そして在日朝鮮・韓国資本です。 そのような意味からも、朝鮮としては可能であれば日朝関係を改善したいという気持ちがあるのは当然のことです。 以上の日朝両国の思惑が働いて、日朝合意文書が作成されたのだと思います。
日朝合意文書は、「平壌宣言に則った国交正常化実現」について確認し、日本側は「拉致被害者及び行方不明者を含む全ての日本人に関する調査を要請」したとなっています。
朝鮮は「全ての日本人に関する調査を…実施し、最終的に、日本人に関する全ての問題を解決する意思を表明」しました。
それにたいして日本は「これに応じ、最終的に、現在日本が独自に取っている北朝鮮に対する措置(国連安保理決議関連措置は含まない)を解除する意思を表明」しました。
しかし現実は、安倍政権は国連人権委員会に朝鮮を提訴し、その一環として朝鮮総聯にたいして敵対行動を深めていきました。さらに今年も朝鮮の第4回核実験、人工衛星の打ち上げにたいしてさらに制裁を強化しています。
朝鮮に敵対的な安倍政権により、日朝関係改善のための条件は何も整っておらず、何の期待ももていないというのが現状です。

<日朝関係と日中関係の関連性>
最後に、日朝関係と日中関係との関連性について触れておきます。
中国が重視しているのは、THAAD問題と「南シナ海」問題です。この「南シナ海」問題については、日本がアメリカのお先棒を担いで対中国批判の先頭にたっています。日本国内の報道だけを見ると、中国の拡張主義の端的なあらわれが「南シナ海」問題だということになります。
しかし実際は、「南シナ海」問題においては中国の主張が国際法的には正当性があり、それにたいしてアメリカ、日本があらぬ言いがかりをつけているのです。
南シナ海における仲裁裁定があり、仲裁裁定は法的効力があるため、中国はそれにしたがうべきであるという議論が日本ではまことしやかに流布されています。しかし中国は、国連海洋法条約にもとづいて仲裁裁定自体が無効であるという立場であり、その主張は正しいのです。ところが、安倍政権の安保法制懇の座長を務めた柳井俊二氏が国連海洋法裁判所所長であるという立場を利用して、日本政府の意向を受け、仲裁裁定をでっちあげたというのが事の真相です。
一方、韓国がTHAAD配備の受け入れを表明したのは、ちょうど仲裁裁定がおこなわれる時期と重なります。さらに配備場所として星州を指定したのは、仲裁裁定の発表の直後なのです。中国からすれば、「南シナ海」問題とTHAAD問題はアメリカが背後で日本と韓国を操って仕掛けている対中対決政策であるのです。
中国は米韓にも、日本にも怒りをもっており、そのようななかで、朝鮮の核問題について中国は日米韓と積極的に協力する意思はありません。日中関係も、日朝関係も当面は打開の展望はないというのがわたしの判断です。
 今日、日本人全体の問題として、アジア蔑視、朝鮮蔑視の風潮が強まり、差別、排外主義の考え方が広がっています。
 日本をどのような国、社会にしていくべきかを考えるうえで、わたしたちは歴史認識を正しながら、朝鮮や中国をはじめ近隣諸国と友好関係をきずいていかなければならないと思います。