THAADに対する対抗策(環球時報社説)

2016.08.12.

8月12日付環球時報社説「日本もTHAADを配備しようとしている 中露は手を組んで対抗すべし」を掲載しました。しかし、このタイトルは社説の内容を正確に反映したものではなく、中心的論点は、高価で本当に100%当てになるかどうかも分からないミサイル防衛システムに力を注ぐよりは、それを突破できる攻撃システムの開発(及びその分野での中露協力)に力を入れるべきだと言うにあります。
 私は1980年代にアメリカのレーガン大統領が「スター・ウォーズ」(SDI)計画を発表し、ミサイル防衛システム開発に乗り出したときの経緯を覚えています。当時も、開発コストが莫大すぎて、かつ、その迎撃能力がどこまで高められるかに関してはなはだ疑問視されました。また、当時のソ連が攻撃ミサイルを大幅に増やすことで対抗する(つまり核軍拡競争で対抗する)という姿勢を示し、結局アメリカも断念し、1972年に米ソ間で締結したABM条約を遵守することで落ちつきました。
 ところがアメリカは、米ソ冷戦終結後、地域大国による戦域弾道ミサイルの脅威に対抗するという計画を推進するようになり(ブッシュ(父)政権時代のGPALS(Global Protection against Limited Strikes)、クリントン政権時代のTMD(Theater Missile Defense))、ブッシュ(子)政権はABM条約を破棄して本格的なミサイル防衛システムの構築に乗り出し、オバマ政権もそれを引き継いでいます。しかし、私からすれば、莫大な開発コストがかかり、しかも信頼性についてははなはだ疑問というミサイル防衛システムの根本的問題は何ら解決されていない代物であり、アメリカが推進しようとしているミサイル防衛システムは、軍事的に極めて疑問符がつくものでしかありません。
 今回の環球時報社説は、ミサイル防衛システムの以上の致命的問題点を踏まえた上での中国としての対抗策を提言するもので、私としてもその内容には首肯できるものがあります(首肯できるのは、中国の対抗策の軍事的方向性ということであって、「目には目を」という発想に賛同するわけではありません)。ということで、その内容を紹介します。

 日本のNHKは(8月)10日、中韓がTHAAD問題で緊張しているおりに、防衛省もTHAADを導入するか否かについて早急に結論を出すことを決定したと伝えた。日本国内ではこれまで、日本がTHAADを導入するのは中期防衛5年計画が終了する2018年以後のことだと一般に考えられていたので、この報道は、防衛省のこの決定は2018年以前に繰り上げということを意味するとしている。
 東京がこの時期にTHAADの前倒し配備を流すのは、中韓の摩擦に乗じて騒ぎを起こそうとしていることは明らかだ。中国に照準を合わせて事を起こすということは日本外交の一つの中心線になっているかのごとくであり、東京は、中国が愉快でない行動を取り、それによって北京にとっての面倒を増やすことができれば、極めて満足ということなのだ。
 日本がTHAADを配備することは既定のことであり、時間の問題であるにすぎない。1998年に朝鮮がテポドンを発射した後、日本はすぐさまアメリカの戦域ミサイル防衛システムに参加し、早くからアメリカのグローバルなミサイル防衛システムの一部分となってきた。THAAD配備は、日本のミサイル防衛能力を向上させるものであり、米日間で合意されれば、このエスカレーションを阻止できる力は誰にもない。
 アメリカは、ミサイル防衛システムを地球上のカギとなるすべての場所に配備し、最終的にワシントンが支配するグローバルなミサイル防衛システムを構築する野心を持っている。このシステムの目標は、ロシア及び中国のすべてのミサイル活動を監視し、露中のミサイルを捉える成功率を大幅に向上し、それによって露中両国の対米戦略核デタランスを瓦解させることにある。
 このグローバルなミサイル防衛システムはさらに強力な政治的紐帯となり、アメリカの総合的実力が相対的に低下しつつある中で、ワシントンと同盟国との関係を強固にするものとなる可能性がある。例えば、中韓両国の貿易額は、韓国と米日両国との貿易額を合わせたものより大きくなっており、中韓の交流が全面的に深まることは、韓国が中米間で占める地位及び利益関係に関する認識に影響を及ぼす可能性がある。しかし、ワシントンが韓国をTHAADシステムに組み込むことにより、状況は瞬時に変化する。韓国はさらにしっかりとアメリカ側に組み込まれるのだ。
 しかし、ミサイル防衛システムの実戦上の意味合いについては極めて検証が難しく、本当に使うとなるときには、東北アジアが全面的な災難に陥るだろう。現在は平和な時期であり、ミサイル防衛はむしろ地縁政治上の道具という役割である。つまり、その物理的作用は一方の側の平安を保つということであり、攻撃的兵器の効力を失わせるということなのだが、これは理論上のものであるにすぎない。実際の状況といえば、核時代の相互確証破壊能力は、特殊なバランスをつくり出すことによって平和の真の基礎となっている。ミサイル防衛というのは一種の気休めであり、相手側の核デタランスを本気で無力化しようとすることは、(維持されている)バランスに対する狂気の挑戦であり、それがもたらすのは平和ではなくて新たな激動である。
 アメリカが同国にとって信頼性のあるグローバルなミサイル防衛システムを構築することは不可能である。特に、攻撃的兵器の開発はより急速であり、高超音速の兵器、複数個別誘導技術、無人機技術は不断に進歩しており、これがアメリカのミサイル防衛システムに対する挑戦となる。ただし、これらすべては検証不可能なので、アメリカのミサイル防衛システムの形成という掛け声は国際関係の動きに少なからぬ影響を及ぼし、時には人心を動かす主題ともなる。
 中国のミサイル防衛技術は、国際的に見て比較的先進的であるが、100%の確実性を求めることは、コストが莫大となるだけでなく、しかも実現できる可能性はゼロだ。他方、中国の攻撃的ミサイル技術は日進月歩だが、これまでの扱いはあまりにもロー・キーだった。この分野でアメリカと駆け引きする上では、THAAD配備に反対することに加え、さらに頼りになるのは、攻撃的兵器の防衛突破能力の向上をさらに速めることだ。我々としては、これによってアメリカのグローバルなミサイル防衛システム体制に対抗し、アメリカがミサイル防衛という「底なし沼」にお金を注ぎ込む意思を動揺させる方がより現実的だろう。
 中露は、戦略的攻撃兵器の防衛突破領域で協力を進めることで、アメリカのグローバルなミサイル防衛システムの威信を失墜させるべきだ。両国は、連合してTHAADシステムを突破する机上演習を試したり、両国の戦略核打撃力を接触させたりすることなどにより、アメリカ及び同盟国がTHAAD外交を大っぴらに行うことを牽制することもできよう。
 日本がTHAAD配備研究を加速させることを決定し、韓国が配備することと合わせ、米日間の3国間システムがさらに具体化しようとしている。心にやましいことがあるためか、最近の日韓メディアは、露中朝が対抗的なシステムに向かうのではないかという疑問の声を発するようになっている。我々の見るところ、露中朝が米日韓を模倣するようなことはないが、東北アジアが新冷戦に向かう可能性は大きく増加するだろう。
 以上の不確実性に対処するため、中国は、戦略核戦力を新しいレベルに向上させ、世界で最先進の運搬技術を開発するという緊迫した任務に直面している。中国のロケット工業、エレクトロニクス及びマテリアル工業などが世界のトップレベルを猛然と追っている中、THAADは中国が世界一流の核戦力を建設することに対してより十分な理由を提供しており、したがって、長期的にみれば、必ずしも悪いことではない。