米中開戦シナリオ(環球時報社説)

2016.08.08.

8月1日付の環球時報は、「中米開戦仮説 アメリカの痛みは少ないと思うなかれ」と題する社説を掲げ、アメリカのシンク・タンクであるランド・コーポレーションが7月29日に発表した、中米間の4つの戦争シナリオに関する予測を取り上げて、中国側の考え方を示しました。  この社説が発しているメッセージは、主観的及び客観的に、大きくいって三つでしょう。
一つは、中国は、実力でアメリアに及ばないことを熟知しており、中米開戦はアメリカが戦争を押しつけてきて、中国としてはそれに応じる以外の選択肢がなくなった場合だけであるとしていることです。つまり、日本国内では「覇権主義・中国」というレッテルが世論に浸透していますが、それはアメリカのプリズムによって作られた歪みきったイメージであり、中国は実は極めて受け身的に物事を考えているということです。
 二番目に、ランド報告は中米戦争の敗北者は中国(国内分裂)としていますが、この社説では敗北者はアメリカ(国内の厭戦感情の支配)だとしていることです。抗日戦争の歴史をもち、改革開放後の成功による民族的自信にも支えられている今日の中国を考える場合、そして朝鮮戦争及びヴェトナム戦争の教訓を真摯に汲むことを怠ってきたアメリカ社会、そしてアメリカの総合力の確実かつ不可逆的な衰退傾向を考えるとき、私はランドの判断よりもこの社説の判断の方が説得力があると思います。
 第三に、日中間の軍事衝突が起こる可能性として、社説は南シナ海や東シナ海での島礁紛争が原因になる可能性は極めて小さいとしつつ、米日軍事同盟によって基地を提供し、集団的自衛権を行使しようとしている日本が、アメリカに対する協力者として、米中戦争の一環として、中国の報復としての攻撃対象になる可能性を明言していることです。日本国内では、もっぱら「右バネ」勢力による「中国脅威論」が吹聴されていますし、それが国民世論に浸透している情けない状況がありますが、日中間の本格的戦争が起こる可能性は、環球時報社説が指摘するように、米中戦争の必然的随伴物としてであると私も思います。
 以下、社説の要旨を紹介します。

 ランドは7月29日に最新報告を発表し、中米間で起こりうる戦争における4つの仮想の情景を予測した。報告は、2015年から2025年までを研究対象期間とし、中国の軍事力の向上に従い、中米開戦となった場合、米軍は必ずしも自分の思いどおりの方向に戦争を展開させられるとは限らず、決定的な勝利を必ず獲得できるとも限らないと見なした。2025年に近づけば近づくほど、米軍が勝利することはますます困難となるが、それは中国が戦争に勝利するということを意味するものではないとする。
 報告によれば、中米がいかなる戦争を行うにしても、中国の損失はアメリカよりも大きく、しかもその損失は軍事的だけではなく、経済的及び政治的なものも含まれるという。例えば、アメリカのGDPは5~10%減少するが、中国のGDPは25~35%減少するという。アメリカでは二大政党間の紛争が増大するだけだが、中国では社会の激動及び民族の分裂が起こる可能性があるとする。‥
 ランドはアメリカの政界や軍関係者と関係が密であり、防衛研究ではもっとも影響力があるシンク・タンクであり、中国の政治及び軍事に関する研究報告はアメリカ及び西側において広く重視されている。ランドが10年以上前に出した報告では、中米間に戦争が勃発した場合、アメリカが中国本土に空爆を行うことがあるとし、コソボ戦争の際の駐ユーゴ中国大使館に対する爆撃を例に取り上げて、中国としては「アメリカの陸上攻撃には我慢できない」が、「空爆には我慢するだろう」と妄言を吐いた。
 中米の関係部門が中米軍事衝突の際の対応プランを研究していることはまぎれもないことだが、内部研究と報告発表とでは大きな違いが出て来る。この種の報告を発表すれば、中米両国社会が互いを見る雰囲気を悪化させるだけでなく、世論戦及び心理戦の一部として、マイナスの影響が不可避である。
 ランドが時にこの種報告を発表するということは、アメリカの戦略上の「無頓着さ」を示すものであり、中国を刺激しても「大したことはない」と考え、中国は歓迎しないとしても辛抱すべきだと考えているのだ。アメリカ人のこの種の「自信」は、アメリカ人が常に中国人に口にする、「我々は中国の進歩が非常に早いことを知っているが、アメリカと比較すると、まだアメリカよりはるかに劣っていることも知っている」という認識に由来するものだ。
 中国の軍事力と経済的実力がまだアメリカより弱いことを、中国人はハッキリ知っている。中米間にいったん戦争が勃発すれば、中国の損失がアメリカよりも大きい可能性があることも、多くの中国人は認識している。しかし、中米間にいったん戦争が勃発する状況について中国人の考えることはこういう類だけのことではない。
 中国は戦争について考えないし、ましてやアメリカとの間で戦争が発生することについてはなおさらである。中米開戦があるとすれば、唯一のあり得るシナリオはアメリカが中国の門口に押し寄せ、しかも中国として辛抱しようのない挑発が行われて、中国が戦争に追い込まれるケースだ。中国人は戦争に向かうことに対しては非常に慎重であるが、いざ戦うとなったならば、最後まで戦い抜く決意は恐らくアメリカよりもはるかに強いだろうし、戦争の損失を耐え忍ぶ能力もアメリカより高いだろう。
 ランドの報告は、中国経済の衰退によって中国は混迷し、ひいては国家が分裂するだろうと言い切っている。しかし、我々の見るところ、戦争の損失によって先に混乱するのはアメリカだろう。なぜならば、アメリカが中国の近海で中国と戦うのは同国の真の核心的利益に基づくものではなく、永遠に世界に覇を唱えようとする夢遊病によるものだからだ。戦争による損失はアメリカ社会を目覚めさせるだろう。
 中米開戦によってアメリカ本土が脅威を受けない可能性は条件付きである。すなわち、その条件とは、中国の国土に対して爆弾が投下されないということだ。仮に米軍が、10数年前のランド報告で示されたように、中国の国土に対して空襲を行うとなれば、アメリカの国土も必ず中国の軍事的打撃の範囲に入ってくる。アメリカ人は中国がその能力を持っていることを知っているし、ワシントン及びアメリカ全社会も、中国人にはそうする決意と意思があることをハッキリ知っておくべきだ。
 中米間に軍事衝突が起こった状況のもとでは、アメリカに対して基地及び直接的軍事支援を提供するものもすべてが中国の報復の目標となり得るし、戦争被害リストから免れることは恐らく無理だろう。西太平洋には島礁紛争があるだけであり、それによって戦争が勃発する可能性は非常に小さい。日本、フィリピンなどが戦争に巻き込まれる最大のリスクは、これらの国々が軍事同盟関係によってアメリカの戦車に縛り付けられることによるものとなるだろう。
 ランドの報告は、中国が自らの軍事力をさらに強化することが如何に重要であるかを明らかにしている。中国は、米本土に対するデタランスとなる軍事力を建設しなければならず、それには、米国全域をカバーする核戦力のほか、やはり米本土全域をカバーする非核戦力の構築が含まれる。このような能力が強大になればなるほど、我々の平和に対する姿勢がますます尊重されることとなり、アメリカの好戦勢力もますます自らの衝動を抑えることとなるだろう。
 中米は軽々には戦争できないし、一番良いのは永久に戦わないことだ。しかし、それは恐らく求めて得られるものではなく、アメリカが対中開戦は到底絶えられない損失を意味すると確信したときにのみ、平和は確固不抜となることだろう。