グローバルな脅威としてのTHAAD配備問題(中国側論点の転換)

2016.08.07.

7月29日付のコラムで書きましたように、THAAD配備問題に関する中国の論調の力点は従来、中韓関係に及ぼすマイナスの影響におかれてきましたが、8月4日には、核における対中露絶対優位確立を目指すアメリカの世界核戦略の一環としての性格を強調するものが、人民日報、解放軍報、環球時報及び中国網という主要メディアに一斉に登場しました。私が特に重要だと思うのは、こうしたアメリカの危険な核戦略が中露の戦略的協力関係の強化による対応を引き起こさざるを得ないという警告を発していることです。
 私はこのコラムで一貫して、アメリカ(米日韓)の強硬一本槍の対朝鮮政策が朝鮮をして核開発・武装に駆り立てる元凶であることを指摘してきました。アメリカによる韓国へのTHAAD配備決定は今や、中露をも警戒させ、グローバルな核軍拡競争を引き起こしかねないということに問題の本質があるということを、中国が正面切ってアメリカ(米日韓)に突きつけていると判断します。
もちろん、アメリカの圧倒的影響力のもとにある西側メディア(日本メディアももちろん含む)は、グローバルな核軍拡競争が引き起こされれば、朝鮮の時と同じく、中露の「挑発」と描き出すでしょうし、日本国内世論もたちまちそれに付和雷同することになると思います。しかし、真実はそうではなく、アメリカがゼロ・サムの権力政治(世界一極支配)に固執し、核分野での対中露絶対優位確立を追求する戦略・政策こそが今後勃発しかねない核軍拡競争の原因であることを、私としてはハッキリ指摘しておかなければならないと判断します。そういう中露の対米警戒心の増大は、朝鮮が8月3日に行ったミサイル発射実験に対する国連安保理の緊急会合において、対朝鮮非難に慎重な姿勢を示したことにも反映されていることを忘れてはなりません。
 本論から離れますが、8月6日の広島の平和式典を支配した、日本を深く蝕んでいる浦島太郎的国際情勢認識・対米認識の恐ろしいまでの実態との乖離ぶりについても言及しておかざるを得ません。
朝日新聞(8月6日付夕刊)によれば、松井市長は、「オバマ氏の広島演説は核廃絶に立ち向かう情熱を世界の人々に示したとし、「絶対悪を許さないヒロシマの思いが届いた証し」と評価した」といいます。また、安倍首相は、「オバマ氏のヒロシマ演説をたたえ、「核兵器のない世界に向けて努力を積み重ねる」と述べた」といいます。私が広島時代親しくしていた広島被団協の坪井直氏は「オバマさんとともに道を歩みたい」と述べたと紹介されています。オバマ政権のアメリカがTHAADの韓国配備を推進して、世界規模の核軍拡競争の引き金を引きかけないこの時に、こういう茶番劇が演じられ、しかも日本のマス・メディアは垂れ流しをしているのです。
 中国側論調の変化については、8月1日、3日及び4日に人民日報に掲載された鐘声署名文章を見ることによってハッキリ分かります。最近の鐘声署名文章は迫力・内容に欠けるものが多く、このコラムで取り上げることがなくなっていたのですが、久々に存在感を発揮しています。また3日間にわたる鐘声署名文章における論調の変化は、中国指導部の認識の所在を反映しているものと見ることが自然だと思われます。
 ということで、以下においては、まず1.で3日間の鐘声署名文章のさわりを紹介します。そして2.で、4日に掲載された他の3つの文章の要旨を紹介することにします。
 なお、私はこれまで「THAAD」と表現するべきなのに、誤った思い込みで「THHAD」と誤記する文章を掲載してきました(7月11日、24日及び29日のコラム)。ここでお詫びし、訂正します。

1.人民日報鐘声署名文章に見る論調の変化

 鐘声署名文章の一つの特徴は、冒頭に文章のさわりとなる文章をポイントとして提起することです。今回は、その冒頭のポイントも訳出しますので、論点の変化を読み取って下さい。ただし、「ポイント」「本文」と示すのは私の個人的工夫であり、鐘声署名文章におけるものではありません。念のため。
 読んでいただければ分かりますように、8月1日付の文章では相変わらず中韓関係を深刻に損なうTHAAD配備問題という角度からの内容になっています。それが8月3日付文章では、中韓関係という角度からの内容を引き継ぎながら、「米韓があえてTHAADの配備に固執すれば、東北アジアに新たな軍拡競争を招くと指摘されている。米韓が独断専行するならば、中露は、米韓が思いもつかない、そして絶えきれないだけの対抗措置を講じる可能性がある」として、グローバルな脅威としてのTHAAD問題というポイントを提起しました。そして4日付文章は、全面的にグローバルな脅威としてのTHAAD問題を論じています。私の推測ですが、3日付の文章の内容では、中国指導部の危機感・認識が十分に反映されておらず、したがって、翌4日付文章で、米韓に中国側問題意識の所在を正確に伝える内容を改めて表明したのではないかと思われます。
 以上の論調の変化を中国の「付け焼き刃」の泥縄式対応と見ることは的外れです。そのことは、鐘声署名文章が指摘しているように、6月の中露首脳会議における共同声明ですでにTHAAD問題に対する中露両国の深刻な懸念を表明していること、さらに7月にも中露がこの問題に突っ込んで対応を協議していることから明らかです。では、何故今になって中露の深刻な関心と今後あり得べき中露共同歩調による対応の可能性に言及するに至ったのでしょうか。それは、アメリカ(をはじめとする西側)との全面的な軍事対決を避けたいという中露の戦略的考慮が働いていたということでしょう。中露にとって、それはいわば「最後の切り札」ともいうべきものであり、できるなら切りたくなかったに違いありません(中露ともに、できる限りアメリカ以下の西側諸国との良好な関係を維持発展させたいと真底希望しています)。しかし、韓国国内の反応はまったく鈍く、また、オバマ政権の反応も正に馬耳東風であり、このままでは既成事実化が進行してしまうという危機感の高まりにより、中国としては切り札を切らざるを得なくなったということだと思います。それだけ、中国の深刻な問題意識が伝わってくるのです。それは、アメリカ・オバマ政権がチェコとポーランドにミサイル防衛システムの配備を進めていることに対するロシアの激しい反応と軌を一にするものであることを忘れるべきではありません。

<8月1日付文章「韓国に必要なのは基本的な自覚と現実感覚」>

(ポイント)
韓国政府についていえば、THAAD配備に同意することは養虎為患、引狼入室にほかならず、迷った道を引き返さなければ、必ず引火焼身、自食悪果となるだろう。
(本文)
 THAADはアメリカが東北アジアに打ち込むくさびと同じであり、朝鮮半島の非核化プロセスに役立たないのみならず、新たな矛盾を作りだし、朝鮮半島情勢をさらに悪化させる。この行動は、韓国に対して政治、経済、安全、環境、社会等々の一連のリスクをもたらし、いったん衝突が爆発すれば、韓国は真っ先にその餌食となり、その命運にも根本的な変化が起こることは間違いなく、その代価は韓国国民すべてが担うことにならざるを得ない。韓国政府は、このような誤りを担うことができるのだろうか。(中略)
 韓国にTHAADを配備して得意になるのは、覇権という昔日のうるわしき夢に溺れているワシントンだけだ。アメリカの「代理人」戦術は手慣れたもので、アフガニスタン、イラクからリビアまで、自らの覇権を強固にするためには手段を選ばず、ある国家あるいは地域をかき乱しておいて自らは身を引き、撤退するという出し物を、人々は少なからず見てきたではないか。韓国政府についていえば、THAAD配備に同意することは養虎為患、引狼入室にほかならず、迷った道を引き返さなければ、必ず引火焼身、自食悪果となり、取り返しのつかない敗着となるだろう。
 韓国がTHAAD配備に同意することは、自ら進んでアメリカのお先棒になるということであり、それは取りも直さず半島に新たな矛盾の渦を巻き起こすということである。韓国の政策決定者は、自国の長期的利益及び人々の利益から出発して、基本的な自覚と現実感覚とを保持するべきだろう。

<8月3日付文章「中国の安全という利益を勝手に損なうことは許さない」>

(ポイント)
 米韓が韓国にTHAADを配備することは中国の戦略的安全保障に対して深刻かつ現実の脅威を構成するものであり、中国はこのことに対して無関心ではいられない。
(本文)
 東北アジアなかんずく朝鮮半島の厳しいかつ複雑な安全保障上の情勢に直面して、韓国が自らの安全を強化しようと図ることは怪しむに足りない。しかし、韓国の政策的選択が地域全体の戦略バランスを突き崩し、他国の安全保障上の利益を損なうとなれば、問題の性格は異なったものとなる。韓国は国家間の関係は厳粛なものであることをハッキリと認識するべきであり、なかんずく核心的利益である安全保障上の問題に関しては、悪戯の余地はないことを認識するべきである。(中略)
 米韓はかつて、THAAD配備問題については中国と協議することを約束していたのに、突然態度を変え、そそくさと配備の決定を明らかにした。米韓いずれを問わず、他国の安全を犠牲にして自国の安全を強化しようとするのは一方的な願望に基づくそろばん勘定に過ぎない。7月28日に中露外交当局は東北アジアの安全保障に関して再度協議を行った。中露双方は、米韓が韓国におけるTHAAD配備を推進することに深刻な関心を表明し、中露が全面的戦略協力パートナーシップとして、もっとも信頼できるかつ有効な方法で両国の利益特に戦略的安全保障上の利益を確実に擁護することを強調した。米韓があえてTHAADの配備に固執すれば、東北アジアに新たな軍拡競争を招くと指摘されている。米韓が独断専行するならば、中露は、米韓が思いもつかない、そして絶えきれないだけの対抗措置を講じる可能性がある。(中略)
 中国は一貫して与隣為善、以隣為伴の近隣外交政策を奉じてきたし、この政策は今後も変わることはあり得ない。しかし、中国の善意には前提があり、原則がある。中国は平和的発展の道を堅持するが、他の国々も平和的発展の道を歩まなければならない。米韓が韓国にTHAADを配備することは中国の戦略的安全保障に対して深刻かつ現実の脅威を構成するものであり、中国はこのことに対して無関心ではいられない。中国の安全という利益を勝手に損なうことは許さない。‥いかなるものであれ、国家の安全を防衛する中国の意思と実力を過小評価することなかれ。

<8月4日付文章「米韓は中露の厳正な警告の深意を把握しなければならない」>

(ポイント)
 中露は共に国連安全保障理事国として、自らの安全保障上の利益を有するだけではなく、世界の平和と安定を擁護する特別な責任を担っている。
(本文)
 朝鮮半島問題が東北アジアの安全保障秩序の転換プロセスにおいて重要な牽引的役割を持つことは疑いの余地のないことだ。中国が一貫して強調してきたのは、朝鮮半島情勢の悪化を阻止するためには、表面だけではなく根本をも正さなければならず、全面的かつ系統的に問題を解決しなければならないということだ。半島の非核化を実現し、関係国家間の関係を正常化し、東北アジアの平和と安全のメカニズムを構築することは、朝鮮半島の平和と安定を確立する上での重要な要素である。その理由は簡単至極であり、戦略的相互不信及び戦略的対決に基づく安全保障構造は長続きし得ないということだ。ところがアメリカとその同盟国は、軍事プレゼンスを強化することによって相手を抑えつけ、実力における優位そして心理的安心感を得ようとする旧思考を決して放棄しようとしない。
 米韓が極力推進しようとする韓国へのTHAAD配備はこの旧思考に基づく今一つの冒険であり、その衝撃波は朝鮮半島及び東北アジア地域をはるかに超えて、グローバルな戦略的安定に対する深刻な脅威となる。ロシアの雑誌『国防』の総編集長であるクロチェンコがいみじくも指摘したように、韓国にTHAADを配備することはアメリカのグローバルなミサイル防衛計画の一部であり、ロシアの核戦力に対する脅威を構成するだけではなく、中国の核戦略を押さえることもまたアメリカの軍事的に最重要なプライオリティの一つである。
 他国の利益を犠牲にして自国の絶対的安全を追求するというのは典型的な理不尽かつ覇道である。これに対しては、強力な反撃を加えなければならない。そうしないと、アメリカ及びその追随者は、「他人のろうそくの灯りを消そうとして、自分の髭を焼いてしまう」という素朴な道理も分からず、さらにはもっとひどくなって、ひっきりなしに新たな問題をつくり出しかねない。
 早くも本年6月、中露両国の元首が発表した「グローバルな戦略的安定を強化することに関する共同声明」は、米韓が韓国にTHAADを配備することと、ミサイル拡散分野で現実に直面している朝鮮の脅威とはまったく無関係であり、米韓が宣伝する目的とも一致せず、中露を含む域内諸国の国家の戦略的安全上の利益を深刻に損なうものであるとし、中露両国はこれに強く反対すると強調した。最近、中露両国代表は東北アジアの安全について再度協議を行い、全面的戦略的協力パートナーシップとして、意思疎通と協力を強化し、もっとも信頼性があり、もっとも有効な方法で両国の利益特に戦略的安全保障上の利益を確実に擁護することを明確に表明した。
 中露はともに国連安全保障理事国として、自らの安全保障上の利益を有するだけではなく、世界の平和と安定を擁護する特別な責任を担っている。中露両国は、域外の勢力が東北アジアにおける軍事プレゼンスを強化し、この地域にアメリカの新たなミサイル防衛の拠点を配備することに反対である。この立場は明確であり、確固不動のものである。次の段階として、中露は、米韓が予測もつかない、絶えきれない対抗措置によってTHAAD強行の挙に対応する。これは、自国の安全上の利益を守ることであると同時に、グローバルな戦略的バランス及び国際関係システムの安定に対する責任を担うものでもある。
 中露両国は、東北アジアが再び冷戦状態に陥ることを見届けたくはなく、国際関係で新たな軍備競争が引き起こされることを見届けたくもない。しかし、国際情勢の方向性及び国際関係の雰囲気というものは関係各国が協力して作るものであり、各国が同じ目標に向かって進むことが必要である。米韓が中露の厳正な警告の深意を悟ることができず、THAAD配備に向けて独断専行するのであれば、米韓はその思い上がった行動が引き起こす結果を引き受け、国際情勢の安定を破壊することに対して責任を負う必要がある。

2.4日付3文章

 すでに7月29日付のコラムで、環球時報社説等の厳しい韓国批判の論調を紹介しました。私がネットで垣間見ている韓国主要メディアの受けとめ方を見ますと、こうした厳しい韓国批判は環球時報などの限られたものであるとする受けとめ方が韓国では広がりつつあったようです。こういう韓国側世論状況を正す意図によるものなのか我必ずしも断定できませんが、中国メディアは一斉に厳しい韓国批判の文章を多数掲載するに至りました。
 鐘声署名文章は、環球時報社説とは異なり、中国指導部の意向をかなり忠実に反映していますから、韓国メディアの受けとめ方も当然ながら、環球時報社説が出たときの感情的反発とは違い、むしろ中国は誤解しているというような言い訳的論調が見受けられるようです(ただし、網羅的に見ているわけではありませんので、あくまで私の印象論程度にお受け取り下さい)。
 以下に紹介する8月4日付の3文章は、鐘声署名文章と軌を一にするものです。特に解放軍報文章は、4日付解放軍報の3面トップに無署名で掲載されていますので、社説に準じた重みをもっていると判断すべきものです。また、光明日報所掲文章は「朝鮮核問題の解決をさらに複雑にする」と指摘し、中国網所掲文章は「THAAD入韓は各国が朝鮮核問題に対処する「統一戦線」を破壊した」と指摘して、THAAD問題が朝鮮半島非核化プロセスに対する中国のアプローチに影響を及ぼすことを明らかにしています(その具体的な最初の表れが、8月3日の朝鮮のミサイル発射実験に対する安保理緊急会合における中露の対応の仕方であることは言うまでもありません)。

<解放軍報「米露は崖っぷちで思いとどまり、冷戦の暗雲の再現を回避するべし」>

 THAAD配備は単純な技術問題ではあり得ず、正真正銘の戦略問題であり、小さな動きが全体に及ぶと言うべきであり、東北アジアひいてはアジア太平洋地域の安全保障情勢を攪乱し、地域の安全に対して多重の潜在的危険を埋め込むものだ。ロシア科学院極東研究所所長のセルゲイ・ルジアニンが述べているとおり、これは近年東北アジアで発生したもっとも深刻な「軍事挑発」であり、新たな緊張した雰囲気をつくり出すものである。‥高度に警戒するべきは、日本がTHAAD導入を検討するという声を上げていることだ。‥予測できることは、アメリカは続いて東北アジア地域のミサイル防衛システムを整理統合し、アジア太平洋「ミサイル防衛アーチ」をつくり、米日韓軍事同盟プロセスを推進することであり、アジア版「小NATO」が現実のものとなる可能性があり、そうなれば、東北アジアは再び冷戦の暗雲のもとにおかれるだろう。
 中露は、いくつかの国々が「門口」で悪意をもって挑発し、勝手に剣を振り回すことを絶対に容認しない。中露は、域外の勢力が東北アジアにおける軍事プレゼンスを強化し、この地域にアメリカの新たなミサイル防衛の拠点を配備することに反対である。7月28日、中露は第4回東北アジア安全協議を行い、米韓が韓国にTHAADを配備することは米韓が宣伝する目的と一致せず、中露を含む域内諸国の国家の戦略的安全上の利益を深刻に損なうと強調した。中露は米韓の関係する計画に断固反対し、情勢の発展に伴って出現するマイナスの要素に対し、双方の協力を強化する措置を積極的に考慮し、もっとも信頼性があり、もっとも有効な方法で両国の利益特に戦略的安全保障上の利益を確実に擁護する。もしも米韓が血迷って悟らないのであれば、中露は次の一歩として、強力な対抗措置を講じる可能性が極めて高く、韓国は最大の敗北者となるだろう。歴史及び現実は、中露の利益を傷つけておきながら、中露に怒りをこらえてじっと我慢することを要求するのは不可能であり、地域の安全を損なっておきながら、自分の経済発展を損なわないというのはなおさら不可能だということを米韓に告げている。(後略)

<光明日報所掲陳文鑫(中国现代国際関係研究院アメリカ研究所副所長)署名文章「THAAD入韓は災いを招く悪手」>

 東北アジアの全体としての戦略的盤面からすると、韓米のTHAAD配備という一手は、自分では妙手と思っているかもしれないが、実は災いを招く悪手に過ぎない。
 第一に、米韓によるTHAAD配備は東北アジア地域の平和と安定を深刻に破壊する。‥THHAD入韓は朝鮮の安全ではないという気持ちを強め、核実験プロセスを停止しないどころか、さらに多くの激しい対抗措置を取るだろう。また、THAADは朝鮮半島防衛上の必要性をはるかに超えるものであり、中露が核戦略及びミサイル配備について再考することを促すだろう。そうなれば、この地域の軍備競争を引き起こし、朝鮮核問題の解決をさらに複雑にするだろう。アメリカは、韓国へのTHAAD配備を通じてアジア太平洋に多層的なミサイル防衛システムを構築し、自らのグローバルなミサイル防衛システムを十全なものとすることによって自らの安全を実現しようとしているが、自国の安全を他国の安全を害する基礎の上に構築するやり方は、この地域にさらに多くの「安全保障上のジレンマ」をつくり出すだけである。
 第二に、韓国がTHAAD配備に同意することはもたらされる結果を計算しておらず、大きな過ちをつくり出すだろう。(中略)
 第三に、米韓のTHAAD配備は中露の戦略的協調強化を促すだろう。アメリカは韓国を戦車の上に引っ張り上げ、グローバルなミサイル防衛システムの重要な一環とするが、それは正に「他の名目(朝鮮)を立てて、実際は中露を狙っている」のであり、中露両国はお見通しだ。(4日付鐘声署名文章が紹介した中露共同声明を引用した後)米韓がTHAAD配備を公表した後、中露は国連に対して共同声明を提出し、韓国へのTHAAD配備に反対した。グローバル及び東北アジア地域の戦略的安定を擁護する中露の意思は断固としたものであり、関係国はこれを疑ってはならず、ましてや誤った判断をするべきではない。米韓が独断専行するのであれば、中露は、米韓が考えもつかない対抗措置を打ち出す可能性がある。(後略)

<中国網所掲王付東(中国現代国際関係研究院朝鮮半島研究室)署名文章「THAAD韓国配備:東北アジアの地縁的夭折」>

 中国にとって、THAAD問題のマイナス的影響は、朝鮮核問題と比較して、勝るとも劣らないものがある。軍事面におけるTHAADの周辺諸国に対する危険をとりあえず横に置くとして、THAADの政治的戦略的危険性はさらに甚だしいものがある。
 (THAAD問題が1990年代からアメリカが温めてきたものであるという歴史的経緯を整理した後)THAADは本質的に朝鮮半島における地縁政治上の問題であり、朝鮮半島における大国の競争が日増しに尖鋭化してきた結果である。半島国家である韓国は、冷戦終結後長らく「バランス外交」を行い、アメリカとの軍事同盟関係を維持するほかに、中国、ロシア、朝鮮半島との良好な外交関係を維持してきた。これは、朝鮮半島が位置する複雑な地縁的情勢を認識した上で採用した政策であった。(中略)
 しかし、このバランス外交は、右翼・李明博政権以後アメリカに傾斜していった。前期の朴槿恵政権は、李明博時代の政策を若干修正し、対中関係を重視し、それによって朝鮮をさらに孤立させた。しかし、朝鮮の第4回核実験以後、朴槿恵政権の外交は再び李明博時代の政策に逆戻りし、ますますアメリカの力に頼って朝鮮を押さえ込むようになってきた。THAADはこういう外交をさらに一歩進めた極端な表れであり、韓国が軍事的にアメリカの対中対露抑え込みに加担するものであり、中露の警戒を引き起こすのは当然のことだ。‥THAADシステムは朝鮮半島を大国の対立及び衝突の構造に巻き込み、朝鮮半島の統一及び繁栄に対して深刻な損害をもたらすものであり、今後の朝鮮半島情勢は錯綜してますます見通しが立てられなくなっている。
 THAAD問題はまた、半島非核化プロセスをも深刻に破壊するだろう。最近3年来の朝鮮核問題における中国と米韓等との協力は衆目の一致するところだ。中国は、厳しい安保理決議2094及び2270に賛成し、決議を厳格に履行し、最近数年来の中朝関係の悪化を招くことをもあえて惜しまなかった。朝鮮は、同国史上もっとも深刻な外交的孤立と制裁に直面し、もしこの流れが堅持されていたならば、朝鮮が核問題で動き回るスペースは最大限に抑制されただろう。THAAD入韓は各国が朝鮮核問題に対処する「統一戦線」を破壊した。
 現在、中露両国の専門家及び世論は、政府に対してTHAADに対抗することを要求しており、朝鮮核問題を弾力的に利用することを主張する声も高まっている。中国は、朝鮮核問題及びTHAAD問題に対処するという両面「作戦」の局面に陥っており、朝鮮核問題に多く用いてきたエネルギーをTHAAD問題への対応に移すことを迫られている。このことはまた、朝鮮が近年の孤立した状況を改善する重大な転機ともなっている。
 今日、THAADをめぐって爆発した朝鮮半島の地縁的対立は、100年以上前の李氏朝鮮末期と比較するとき、隔世の感がある。当時、黄遵憲は『朝鮮策略』を提起し、朝鮮は「中国と親しくし、日本と結び、アメリカと連合する」ことを主張し、朝鮮半島の独特な戦略環境を鋭く概括した。今日、韓国がTHAAD問題で選択するに当たっては、古人の言に大いに思いを致すべきだろう。