THHAD配備問題と中韓関係

2016.07.29.

韓国がTHHADの韓国への配備に同意した朴槿恵政権に対する中国の怒りはすさまじいものがあります。今回は、中国高官の発言及び主要論調を紹介します。

1.中国高官発言

 中国高官の発言としては、訪中したアメリカのライス大統領補佐官に対する藩長龍・中央軍事委員会副主席及び楊潔篪国務委員の発言(ともに7月25日)並びにASEAN外相会議に出席した王毅外交部長が韓国の尹炳世外相に対して行った発言(7月24日)があります。

<藩長龍>
 藩長龍は、次のように強調した。中国の南海問題に関する原則的立場は動揺することはあり得ず、中国はいわゆる南海仲裁裁定を受け入れずまた承認しないし、中国人民はいかなる外部からの圧力に屈伏することもあり得ないし、中国軍は断固として国家の領土主権及び安全を擁護する堅強な後ろ盾となる。
藩長龍は次のように指摘した。アメリカがどうしても韓国にTHHADシステムを配備するのであれば、中国の戦略的安全を直接危うくし、半島の緊張した情勢を高め、中米間の戦略的相互信頼に深刻な打撃となるだろう。アメリカは、このような誤った行動を停止しなければならない。
<楊潔篪>
 楊潔篪は南海及びTHHAD問題に関する中国の原則的立場を重ねて述べ、フィリピンの南海仲裁に対する立場は明確で、確固としたものであると強調した。中国は引き続き、南海における領土主権及び海洋権益を確固として擁護するだろう。中国は、アメリカが真剣に中国の関心に対処し、韓国へのTHHADシステムの配備を行わないことを強烈に促す。
<王毅>
 王毅は次のように述べた。中韓は隣国同士であるとともに戦略的パートナーでもある。近年、両国は全方位の協力を行い、両国人民に実際的利益をもたらした。しかし、韓国にTHHADシステムを配備するならば、中韓の相互信頼を必ずや傷つけることになる。THHADは単純な技術問題ではなく、紛れもない戦略問題である。THHADが最終的に韓国に配備されれば、半島情勢、地域の安定及び中韓関係に対してマイナスの影響をつくり出すだろう。我々は再度、韓国が中国の正当かつ合理的な関心に真剣に対処し、プラスとマイナスを考慮し、慎重の上にも慎重に熟慮して行動し、中韓関係のやっとのことで手にした良好な局面を大切にしかつ擁護することを忠告する。

2.主要論調

 本件に関する論調は少なくありませんが、ここでは、韓国国防部がTHHAD配備の決定を発表した7月13日の直後に発表された7月14日付環球時報社説「韓国星州郡に対する制裁を準備し、ミサイルの照準をTHHADに合わせる」、朴槿恵大統領が国家安全保障会議でTHHAD配備の決意を述べた7月21日の翌日である7月22日付の同紙社説「韓国メディアのTHHADに関する8つの奇譚怪論をご賞味あれ」、7月25日付環球網所掲の労木署名文章「THHAD配備 韓国メディアが中国の「内政干渉」と誹るのはいかなる道理か」、7月27日付中国青年報所掲の李敦球署名文章「戦略的迷路に入り込んだ朴槿恵」の要旨を紹介します。
 なお、7月28日付の中国網所掲の李大光(国防大学教授)署名文章「THHADシステムは必ずしも万能に非ず」は、「THHADが韓国に持ち込まれれば、中米韓の朝鮮核問題における協力を続けることはほとんど不可能になるだろうし、朝鮮核問題の解決で中国が米韓と協力することは極めて難しくなる」と指摘し、7月29日付環球時報所掲の董向栄(中国社会科学院アジア太平洋及びグローバル戦略研究院研究員)署名文章「眠ったふりをしている韓国を起こすのは誰か」も、「中露両国はもともと積極的に朝鮮に対する制裁を支持して非核化を推進してきたのに、現在、米韓により背後から切りつけられる羽目に陥っている。THHADが配備されることとなれば、朝鮮半島非核化のエネルギー源は失われる可能性が高い」と述べていることを紹介しておきます。これは、7月14日付環球時報社説の「中国は、対朝鮮制裁が生み出した地縁政治的効果とTHHAD配備が生み出す結果とを総合的に考慮し、調整を行う必要があるのであればそうするべきである」という指摘の意味することを端的に指摘したものです。

<7月14日付環球時報社説>

 (星州郡への配備決定は、同郡が中国から比較的離れていることで中国の受けとめ方にも配慮しているとする韓国メディアの指摘に触れて)韓国国土は縦深が数百キロしかないのに対し、THHADのレーダーの探索可能距離は2000キロに及び、韓国のどこに配備されるかということは中国に対する脅威という点で実際的意味はない。
 本紙はTHHAD配備を受け入れる行政単位に対して制裁を行うべきことを主張してきたが、中国関係当局が即刻星州郡に対する制裁措置に関する研究を開始することを呼びかける。星州郡では反THHADデモが起こっているが、同郡が本気の抵抗でTHHADの配備を阻止しない限り、同郡に対する制裁に影響があるべきではない。
 我々としては、現在から開始して、中国各地の星州郡との様々な往来を中止し、同郡が生産する商品も中国市場で歓迎されないようにすることを希望する。また、制裁範囲については、同郡が所属する慶尚北道にも拡大することも検討することができよう。これらの措置によって星州郡に圧力をかければ、その圧力が同郡におけるTHHAD配備に対する激しい反対に転化するだろう。この目的が達成できないとしても、こういう方法で韓国のTHHAD配備に対する我々の断固とした態度を表明できる。この姿勢は長期にわたって維持し、一定の時間が過ぎたら収まるというものではない。
 また我々は、解放軍がミサイルの照準をTHHADシステムに合わせることを呼びかけたことがある。このことは、星州郡が東北アジアにおける大国の駆け引きにおける潜在的な台風の目になるということを意味し、韓国全体が中国のミサイルのデタランスの範囲内に飛び込むということを意味する。つまり、THHADは中韓関係における長期にわたる 楔になるということであるが、それは韓国が自ら選択したことだ。
 THHAD配備の公表は南海仲裁公表の前後だが、米韓は、南海問題で圧力をかけられている中国はTHHAD「第2戦線」を設ける力はないと考えたのかもしれない。それは完全な考え違いだ。韓国の中には、この2年間韓国がいくつかの問題で中国を支持したからTHHAD問題では寛大だろうと考えるものもいる。これも考え違いだ。
 THHADシステムは中国に対して戦略的脅威となるし、米韓同盟強化のシンボルでもあり、中国としては、こういった強化そのものが中国の安全を損なうという意味があると疑うだけの理由がある。中国は断固としてTHHADの韓国配備に反対するべきであり、中韓関係がこれによって影響を被るのは必然であり、もしも韓国が意に介さないのであれば、中国も意に介する必要はない。
 中国は、対朝鮮制裁が生み出した地縁政治的効果とTHHAD配備が生み出す結果とを総合的に考慮し、調整を行う必要があるのであればそうするべきである。人によっては、それは正に平壌の望むところだと考えるだろうし、確かにそうかもしれないが、朝鮮半島情勢に関しては出来上がったシナリオはないのであり、中国としては自分が監督だと幻想することもできない。中国の戦略的安全を守ることが中国のすべての政策の出発点であるべきである。朝鮮が核実験を行ったとき、中国はこれに対して懲罰を加えた。韓国がTHHADを配備するならば、中国がそれに対して遠慮することはできない。
 朝韓は完璧に愚かなマイナスの安全保障上の争いをしている。米韓は朝鮮を恐喝し、朝鮮は一切を顧みずに核武装し、その結果と言えば、今日の朝鮮は30年以上前の金日成時代の安全には遠く及ばない。韓国が朝鮮と似たようなキレ方をするならば、韓国がますます安全から遠ざかることは間違いない。過去においては朝鮮のミサイルだけが韓国に照準を合わせていたが、将来的には朝中露3国のミサイルが韓国国内の目標に照準を合わせることになる。東北アジアで戦略的に勝負を決する状況が現れるときには、韓国は真っ先に被害者となる可能性がある。
 アメリカの太ももにかじりついていさえすれば万事めでたしめでたしと考えないことだ。東北アジアにおける大国間のバランスが維持できなくなれば、アメリカの言うとおりになるものは、本来であれば部外者であったのに、戦略的力比べの中に自らを追い込むことになる可能性がある。韓国は、中国のTHHAD反対の決意を深刻に過小評価している。まず最初の結果として、この事件は、中国社会における韓国に対するイメージの重大な転換点となるに違いない。

<7月22日付環球時報社説>

 朴槿恵大統領は、(7月)21日に主催した国家安全保障会議で、THHADの韓国配備に関する決意を再度述べた。彼女は、「私は最近少なからぬ非難と反対に遭遇しているが、大統領としてそのために腰が定まらないということであれば、国家の安全を語りようがない。私は、国家の安全のために最大の努力を尽くすものであり、いかなる非難にも屈伏しない」と述べた。
 朴槿恵の自信に満ちた姿勢の表れは、韓国国内のTHHAD配備支持勢力の統一的姿勢でもある。韓国のいくつかの主流メディアは、国内のTHHAD配備に対する反対の声を顧みず、強弁を連ね、韓国公衆を誤った方向に極力誘導するのみならず、一再ならず中国を非難し、韓国が「強いられて」THHAD配備の決定を行ったことに責任を負うべきだと言い張っている。
 韓国メディアがTHHADに関して、なかんずく中国に対していかなる歪理邪説を流しているかを見てみることは、それなりに極めて面白いことだ。まとめるとおおむね8点ある。
 一つは、この配備が「第3国に対するものではなく、中国に対しては無害だ」とするものだ。しかし、周知のとおり、THHADが第3国に対するものであるかどうかについて韓国には語る資格はないし、何を言っても意味がない。このシステムはアメリカが支配するのであり、その戦略的意義については、中米は明確に理解している。
 二つ目は、「中国は現在南海問題でアメリカとやり合っており、THHAD問題について韓国に報復できない」というものだ。これは明らかにソウルの思い込みである。
 第三に、「中国は韓国に報復する勇気はない。そうすることは韓国をアメリカの懐に追いやるだけだから」というものだ。どうやら韓国人は自らを買いかぶりすぎているようだ。彼らは多分、中米という大国の間にある自らの戦略的重要性故に、大国はすべて韓国に対して「ごまをする」と考えているらしい。
 第四に、「中国は韓国に対して申し訳が立たない」というものだ。なぜならば、韓国はアジア開発銀行に加入し、朴槿恵は9.3閲兵式にも出席したのであるから、中国の面目を大いに施してやったと思っているのだ。韓国にとってそうすることが自らの利益になるということをとりあえずさておいて、こうしたメンツのためだけで自らの国家としての安全は要らないとでも言うのか。韓国の立場だったら、そうするかということだ。
 第五に、「中国は換位思考で、核の脅威を受けている韓国の立場で問題を考えるべきだ」というものだ。我々としては次のように反問したい。韓国はどうして、中国がアメリカの脅威を受けているという角度から換位思考しようとしないのか。もう一言。THHADはソウルに対する保護的役割はないと政府側の解釈でも認めているのであって、そんなTHHADが本当に韓国にとって大きな意義があるのか。
 第六、「中国は、朝鮮核問題の解決について責任を尽くしたかどうかを反省するべきだ」というものがある。これは韓米のお決まりの言いぐさだが、朝鮮核問題は中国が努力すれば解決できるものなのか。中国はすでに、朝鮮との関係冷却化という代償を払い、朝鮮核問題に関して外交的損失が最大の国家だ。韓米は、自分たちが作りだした朝鮮核問題を中国に「押し付け」、中朝が険悪になり、朝鮮のミサイルが中国に照準を合わせ、韓米は売り逃げする、ということができないことを恨んでいる。
 第七、「中国は朝鮮に対する制裁問題でインチキしている可能性がある」というものだ。中国政府はこの方面でいかなるシグナルも発していないのに、どうして韓国は先回りしてびくびくするのか。ソウルは、自らが中国の安全上の利益を損ない、制裁に関して作られたばかりの共通認識とロジックをかき乱しているということが分かっていないのだろうか。
 第八、「東北アジアには中露朝対米日韓の新冷戦が現れる可能性がある」というものだ。そう言うこと自体、韓国人の頭の中で冷戦的発想がうごめいていることの結果だ。問題は、韓国はそう願っているのかということだ。もし願っていないのであれば、アメリカと一緒になってそういう方向に一肌脱ぐということをしないで欲しいものだ。
 このほか、韓国の朝鮮日報は、7月11日付の社説で次のように厚かましくも述べた。「中国は、24年前に韓中両国が外交関係を作ったときの状況を思い出すべきだ。当時、韓国は中国の「一つの中国」の要求を受け入れて台湾と外交関係を断絶した。ところが中国は、朝鮮を放そうとせず、「2つのコリア」政策を維持している。」このような常識を欠いた文章が韓国の大新聞の社説に現れたのだ。社説執筆者は、朝鮮が国連の正式の加盟国であるのに対して、台湾は1971年に国連から追い出されたということを知らないとでも言うのか。「2つの中国」と「2つのコリア」とは同じことなのか。
 以上のまとめから、THHADの韓国配備を支持する韓国の勢力は完全に自己中であり、彼らの考えは自分だけの利益であることが容易に見て取れる。中国としても彼らと同じような考え方をしないとダメで、しからざれば中国は間違っているということなのだ。
 しかし、世界はそういうものではない。中国は韓国に申し訳が立たないことはしていないというのに、韓国は今やアメリカと一緒になって中国の国家的安全を貶めようとしている。もし韓国があくまでそうするというのであれば、必ず代価を支払うことになると言う以外にない。

<労木署名文章>

 (7月22日付環球時報社説の第一と第六の点について同工異曲した後)韓国と朝鮮は同文同種であり、もともとは一つの国家だった。韓国が太陽政策を実行した時期には、南北関係は非常に接近し、本当の太陽の光が現れた。今日、南北関係がここまで悪化したことについて、韓国メディアは、中国に汚水を浴びせるのではなく、政府に反省を促し、政策を調整するようにさせることだろう。
 韓国メディアの中には、中国が韓国へのTHHAD配備に反対するのは「内政干渉」だとまで誹るものがある。このばかげたロジックからすると、朝鮮が国内で核実験をすることに韓国が反対するのも内政干渉ということになる。しかし事実は、朝鮮の核実験が反対されるのは、それが内政だからではなく、他国の安全に対する脅威だからである。韓国THHAD配備も同じだ。
 ここで、韓国メディアに1962年のキューバ・ミサイル危機について思い出してもらおうか。当時のソ連は、アメリカとの覇権争いをするため、キューバと協議して大量のミサイルと戦闘機をキューバに持ち込み、「アメリカ全体を射程内に収めた」。ケネディ政権は発見後、強硬な外交的軍事的圧力を行使し、フルシチョフにすべてのミサイルと戦闘機の引き上げを強いた。当時の世論は、これをキューバ内政に対する干渉とは見なかった。なぜならば、ミサイルをキューバに配備することは他国に対して巨大な脅威を構成したからだ。アメリカの同盟国である韓国のメディアは当時、力の限りアメリカを弁護したのだ。
 歴史はくり返さないとしばしば言われるが、歴史上の現象は驚くほど似ていることがある。半世紀以上前のキューバ危機と今日のTHHADの韓国配備は正にその例である。人々が期待するのは、同じような状況で幕が開くとともに、同じような結末で幕が閉じることだ。「起こりえないことはない」と諺が言うではないか。

<李敦球署名文章>

 韓国現政権は、何故に国内民衆の抗議及び中露の断固たる反対にもかかわらずTHHADを韓国に引き入れることに固執するのだろうか。主な原因としては、朴槿恵大統領が戦略的迷路に入り込み、THHADの韓国配備はマイナスよりもプラスが大きいと考えている可能性があるということだ。朴槿恵政権が戦略的誤断を行った原因としては以下の諸要素と関係があるのかもしれない。
 第一はアメリカからの圧力だ。朴槿恵登場以来、朝鮮半島問題における立場はアメリカとほとんど完全に一致してきた。韓日関係の分野でも、アメリカの圧力に屈して、「慰安婦問題」という歴史的懸案に政府レベルでケリをつけた。対中外交においては、朴槿恵政権は以前必ずしもアメリカの意見に完全に従うということではなかった。例えば、アジア開発銀行加入や9.3閲兵式出席などだ。ところが、THHAD問題ではアメリカの圧力に屈し、アメリカのアジア太平洋リバランス戦略のために中露を傷つけることを惜しまない。
 第二に、国内政治的利益における必要性ということだ。韓国の政権党は議会選挙で過半数の議席を獲得できなかったために、少数与党という政治的圧力に直面しており、韓国国内世論の朴槿恵に対する意見及び非難が多いために、彼女の政治的掌握力は低下しており、彼女はTHHAD配備を通じて保守派と世論の支持を回復し、政治的苦境を脱したいと幻想しているのだ。
 第三、韓国政府は、今回の行動が中韓関係特に両国の経済貿易関係には傷をもたらすことはないと誤断したことだ。7月20日付環球時報の報道によれば、韓国の黄教安首相は、19日の議会質疑の中で、中韓関係は今や「高度に密接」であり、中国は今や韓国に対して経済制裁を実施する術はないと述べたという。また、韓国の尹炳世外相も、中国政府は韓国に対して経済制裁を行うとは言っておらず、その可能性を示唆する発言もないと述べた。韓国があえて中国の戦略的利益を挑発する原因の一つかもしれない。
 第四、中国にとって不利なタイミングを見計らってTHHAD配備の決定を明らかにすれば、中国は顧みるいとまはなく、韓国は天下泰平と考えたことだ。その目的は、中国が腹背受敵になって共に顧みられず、韓国に対する圧力が減じられるということだ。その意図は陰険というべきだ。  筆者の見るところ、THHAD配備を招き入れるという韓国の行動は、自ら災いを招いて身を滅ぼすにほかならず、戦略的には自殺行為であり、その最終的結末は、「人を殺めようとして、逆に自らを危うくする」であり、必ずや韓国の命運の転換点となるだろう。
 まず、地縁政治の角度から見て、半島国家である韓国は、大陸勢力と海洋勢力との衝突地となることを可能な限り避けるべきであり、大陸と海洋との交流の架け橋となるべきなのであって、それによってのみ生存と発展の道がある(例として日清戦争に言及)。歴史が早々と証明するように、大陸勢力と海洋勢力が半島で衝突し、戦いを交えるときは、真っ先にして最大の被害者は韓国自身なのだ。
 韓国政府は、THHAD配備を引き入れるということは米中(さらにロシア)の戦略的対立と衝突を直接引き起こすことを意味するという歴史的な教訓と痛みとを忘れたかのようだ。中国の指導者及び政府は多くの機会に、韓国にTHHADを配備することは地域の戦略バランスを壊すものであり、断固反対すると述べており、ロシアも同じ立場だ。韓国は、地域の戦略的バランスがいったん崩されれば、多事多難を迎え、矛盾と衝突は免れず、韓国は真っ先にやり玉に挙がるということを知るべきである。韓国の命運も重大な試練に見舞われるだろう。
 次に、中韓関係の角度から見る場合、中国政府が中韓関係発展の成果を重視し、大切に思っているからといって、韓国政府が中国の国家的戦略的利益を深刻に損なう行動をいい加減に扱うということはあり得ないことだ。王毅外交部長は、7月9日の記者インタビューの際、「我々は、THHAD配備が韓国の安全にとって本当に有利なのか、半島の平和と安定にとって本当に有利なのか、半島の核問題の解決に本当に有利なのかということを韓国の友人たちが冷静に考えることを希望する。関係方面は慎重に事を進め、誤りを犯すことを避けるべきである」と述べた。
 事実においても、中韓関係には微妙な変化が生まれつつある。香港の鳳凰テレビの報道によれば、韓米がTHHAD配備の決定公表を行う前に、朴槿恵は中国の指導者に電話で説明を行うことを希望したが、拒絶されたという。李克強総理は7月中旬に蒙古を訪問し、ウランバートルで開催されたASEM首脳会議に出席する期間中、多くの国々の指導者と会見したが、朴槿恵とは会見しなかった。7月11日の朝鮮中央通信に拠れば、中朝友好協力相互援助条約55周年に際し、中朝両国の元首である習近平と金正恩は相互に祝電を送りあった。
 筆者は1年前に書いた文章で、「韓国の安全保障戦略はアメリカの戦車に縛り付けられているのに、韓国経済は中国の列車の中におり、これは調和させることのできない構造的矛盾であり、短期的には何事もないかもしれないが、長期的にみれば、必ず衝突が起こるだろう」と書いた。この予言は正に現実となろうとしているようだ。中国は今のところまだ正式に韓国に反撃していないが、これは韓国にチャンスを与えるということであり、韓国が崖っぷちで立ち止まり、THHAD配備を直ちに中止することを希望しているということだ。思いとどまれば天空海闊ということだ。しかし、朴槿恵は7月21日に招集した国家安全保障会議で引き続きTHHAD配備の必要性を強調し、いかなる圧力にも屈しないと述べた。韓国は誤った道をひた走りしているようであり、となれば、歴史の悲劇は韓国で再演されることになる可能性があるだろう。