プーチン大統領の外交演説(2016年6月30日)

2016.07.02.

ロシアのプーチン大統領は6月30日に、諸外国及び国際機関に駐在するロシアの大使・常駐代表の第8回会合で演説し、国際情勢に関する基本認識を述べるとともに主要外交問題に関するロシアの基本的立場を明らかにしました。特に国際情勢認識に関しては、アメリカの覇権追求の対外政策が世界を不安定化し、予見不可能にしている元凶であると厳しく指摘するものです。主要外交問題として取り上げられているテーマ(ウクライナ問題、国際テロ問題、シリア問題等)に関しても、その問題の根本原因がアメリカであることを鋭く指摘しています。私は、公正かつ客観的に見て、プーチンの認識は基本的に正確であると判断します。
 プーチン・ロシアの対外政策を理解する上で極めて重要だと思いますので、要旨を紹介します。

<国際情勢の基本認識>
 今日の世界は安定からほど遠く、情勢は一貫してますます予見しにくいものになっている。国際関係のすべての分野で巨大な変化が起こりつつある。影響力及び資源をめぐる競争が増大している。同時に、21世紀における国際的統治メカニズムをどのように構築するかに関する異なるビジョンの対立及びすべてのルール及び条約を投げ捨てようとする一部の国々による動きがある。
 以上のことにより、危機を解決するための効果的な多国間の努力を組織することがより難しくされ、新たな緊張の温床が生み出されている。紛争の種は成長し続けている。安全、経済及び人道上のリスクは減少するのではなく、成長し、増大し、世界中で広がっている。
 私は、対話と共同作業を通じてのみ、危険な破壊と制御できない事態の展開を回避することができると確信する。国際共同体は、共通のかつ分割できない安全及び集団的責任という原則の上に築かれる、より公正な世界秩序を樹立するべく進歩を遂げなければならない。
 今日の世界は明らかにますます相互依存であり、諸国が直面する課題の多くは共通の挑戦である。協力、共通意志そして妥協を探る意思こそが、世界のどこで起こるにせよ、もっとも重大かつ複雑な問題を解決するためのカギである。
 ところが、我がパートナーの中には、地政学的支配における自分たちの独占を維持しようと頑固な試みを続けている国々がある。これらの国々は、抑圧、弱体化そして国々の対立を煽るという数世紀にわたる経験を用い、また、政治的、経済的、金融的、そして今では情報というテコを自分たちに有利に使おうとしている。
 それらの例としては、他国の内政に対する干渉、地域紛争の挑発、いわゆる「カラー革命」の輸出などがある。これらの政策を追求するに当たり、これらの国々は、テロリスト、原理主義者、極右民族主義者さらには正真正銘のネオファシストをも共犯としている。
<ウクライナ問題>
 以上の彼らの有害な政策の直接の証拠はロシアの国境で起こっている。2年前、地域的なホットスポットにウクライナが加わった。我々はウクライナ問題が可及的速やかに解決されることを心から願っているし、ノルマンディ方式に参加する国々及びアメリカと共に努力していくつもりだ。我々が見届けたいのは、善き隣人であり、平和的に暮らす、当てに出来る、文明的なパートナーとしてのウクライナだ。しかし、そうなるためには、キエフ当局は、ドンバス並びにドネツク及びルガンスクとの直接対話の必要性に気がつかなければならず、ミンスク合意に基づくキエフの責任を全面的に実行する必要性に気がつかなければならない。
 ウクライナ危機を長引かせることも、他国特にロシアを非難することもともに受け入れられない。それは欧州大陸におけるすでに不健康な情勢をさらに悪化させるだけであるし、NATOの巨大な間違った決定に基づく結果をさらに深刻にするだけである。NATOの巨大な間違った決定とは、対等なパートナーとしてのロシアとともに大西洋から太平洋に至る平等かつ不可分な安全保障の新しい枠組みの構築を始めるのではなく、東方拡大を行うという決定のことだ。
<NATO>
 今日のNATOは、反露の立場をひけらかすショーを行っているようだ。NATOは、ロシアの行動の中に自らの正統性を確認する口実及びその存在理由を見つけようとしているだけではなく、正真正銘の対決的措置をも取っている。イランの核の脅威という神話は今やなくなった。イランの核の脅威はミサイル防衛システムの必要性を正当化するために使われたのだが、東欧に同システムのインフラを作る作業は今も続いている。この計画が姿を現したとき、我々はイランの核の脅威というのはウソであり、見せかけであり、口実に過ぎないと指摘した。事実はそのとおりだった。軍事演習の頻度は劇的に増加し、それには黒海及びバルト海が含まれる。我々の軍事活動が常に非難されるが、それはロシアの領内でのことだ。ところが我々に対しては、我が国境沿いに軍事力が構築されることを正常なこととして受け入れることが期待されている。ポーランド及びバルト諸国には緊急対応部隊が展開され、攻撃兵器の配備も行われている。以上のすべては、数十年にわたって達成されてきた軍事的均衡を損なおうとするものだ。
 我々は起こりつつある状況を常に注目している。この状況における適切な対応の仕方を我々は心得ており、今後必要に応じて対応するだろう。しかし、我々は軍事的激情に駆られて自分を見失うことはない。相手は我々をそうさせようとし、コストの高い無駄な軍備競争に追い込むことにより、ロシアの社会経済発展のための資源及びエネルギーを無駄にさせようとしている。我々がそうすることはないだろう。しかし、我々は信頼できる防衛を確保するし、自国及び自国市民の安全を確保するだろう。
<イラク・リビアと国際テロリズム>
 イラク及びリビアに対する軍事干渉は、この無責任かつ誤った政策のもっとも明白な例であり、この政策がテロリズム及び過激主義の台頭を導いた。この政策がイスラム国のような恐るべき組織の台頭の原因だ。テロリストは、国家システムの崩壊及び中東・北アフリカにデモクラシーを輸出しようとする西側の無骨な実験による結果を利用しようとし、それに成功してきた。テロの脅威は大幅に増大し、今や世界の安全に対して挑戦している。確かにテロリストはまだ先進的兵器システムを所有するには至っていないが、化学兵器にはすでに手をつけている。彼らの行動は一地域の範囲を超えて広がっており、どこで新たな攻撃が起こるかを予見することは困難である。
<シリア>
シリアはテロに対する戦いの中心である。シリアの将来に中東の将来がかかっているだけではなく、テロとの戦いが決せられるのはシリアにおいてであると言って決して過言ではない。
テロリストは、リビア、イエメン、アフガニスタン、中央アジア諸国、我が国境地帯に足場を築く目標を設定している。我々が去年の秋にシリア政府の要請に応えてテロリストとの戦いに応じたのは正にそれゆえであった。我が軍にお礼を言いたいのは、テロリストを撃退し、シリア内政に対する外部の軍事介入を防止し、シリアの国家の保全を守ったことである。ロシア外交もまた積極的な役割を果たした。
我々は同時に、アメリカその他とも協力して、シリアの一部に停戦を実現することに成功した。このことは、私が以前から言ってきたこと、すなわち、今日におけるもっとも深刻な問題は協力し合ってのみ解決することができるということを再確認している。
我々は、シリア人による交渉プロセスを開始した。最終的解決に達するまでの道のりはまだ極めて長いことは確かだ。しかし、過去数ヶ月間にシリアで我々が得た経験により、共同の努力及びロシアが一貫して呼びかけてきた広汎な反テロ戦線に向けて働くことによってのみ、今日の脅威に対抗し、テロリズムと戦い、今日人類が直面しているその他の挑戦を解決することができるということは極めて明らかである。
先週タシケントで行われた第15回上海協力機構サミットで議論されたのもそのことであり、我々は中央アジアにおける安全を保障する措置について検討し、政治的、経済的、文化的、人道的及び情報に関する協力を強化し、インド及びパキスタンの加盟による組織の拡大を行った。これは実に重要な政治的ステップである。以上のことは、ロシアと中国とのかつてないレベルの協力と信頼によってのみ可能となったことも指摘しておきたい。
<トルコ>
南の隣国であるトルコに関する情勢についても触れておきたい。昨日、私はトルコ大統領と話をした。アンカラがロシア戦闘機撃墜について謝罪したことも皆さん承知のとおりだ。この状況を受けて、我々は、二国間の協力を回復するべく、早急に措置を取ることを計画している。
<ユーラシア経済連合>
我々の優先的課題の一つは、まぎれもなくユーラシア地域の戦略的パートナーシップを強化することである。ロシアは、白ロシア、カザクスタン、アルメニア及びキルギスとともにユーラシア経済連合(EAEU)という統合プロジェクトを進めつつある。この連合内では、貿易及び投資に対するすべての障壁を取り除くだけではなく、多くの経済分野及び共通スタンダードにおける共通政策による、WTO諸原則に基づく共通の社会経済空間を創設することになっている。
ユーラシア経済連合は、他の国々及び統合体との間で、自由かつオープン、そして世界貿易に関する普遍的に受け入れられたルールの尊重に基づいた協力を行おうとしている。EAEUは40以上の国々及び国際組織との間で自由貿易地域を作ることについて協議中だ。我々はすでにヴェトナムとの間で自由貿易協定を締結したし、イスラエル及びセルビアとは交渉中であり、近くエジプトとの協定をも見こんでいる。
先週中国を訪問した際に、ユーラシア経済連合及び中国のシルクロード経済ベルト構想に基づき、ユーラシアに包括的な貿易経済パートナーシップを作る交渉を開始した。これは、EAEU諸国、他のCIS諸国、中国、インド、パキスタン、そして将来的にはイランをも含むユーラシア・パートナーシップを創設するための第一ステップであると考えている。5月にソチで行われたロシア・ASEANサミットで、この構想について東南アジア諸国首脳の支持も受けたことをつけ加えておく。私は、EAEUとEUとの緊密かつ相互尊重の協力の発展についても、サンクトペテルブルグで行われたEUの欧州委員会委員長及びイタリア首相と議論した。
<欧州>
欧州の人々は現在楽ではない。イギリスの国民投票の結果は市場を揺るがせた。しかし、中期的に見れば、すべては収まるだろう。この点に関して強調したいのは、この国民投票はイギリス人が行った選択であり、我々はこのプロセスに干渉しなかったし、これからもしないということだ。もちろん、事態の動きを注視していくし、ロンドンとブラッセルとの交渉及び欧州にとって起こりうる結果についてフォローしていくだろう。明らかなことは、この国民投票がもたらす影響が判明するまでには長い時間がかかるだろうということだ。
<アメリカ>
アメリカに関しては、大統領選挙キャンペーンが最終段階にある。当然のこととして、アメリカ選挙民の選択を我々は尊重するし、誰が次期大統領となろうともその人物と協力する用意がある。
さらに我々は、国際問題についてもアメリカと緊密に協力したい。しかし我々は、どの分野で両国が協力し、どの分野では制裁を含む圧力を行使するかをアメリカのエスタブリッシュメントが決定するというアプローチは受け入れない。我々が求めるのは、平等及び互いの利益を考慮する基礎の上でのパートナーシップだ。
<ロシアの対外政策>
ロシアが今日直面する国際問題、脅威そして挑戦における多岐性及び複雑性により、政治、経済、人道及び情報の各分野における外交手段を不断に豊富にすることが求められている。ロシアの新外交ドクトリンに関する文書の起草は終わりに近づいている。そこでは、国際の平和と安定を促進し、国連憲章に基づく公正かつ民主的な世界秩序を擁護するための活動の方向を設定することになっている。
 ロシア外交は、現在ある紛争を解決し、新たな緊張と紛争(特にロシア国境沿いのもの)の温床が現れることを防止し、主権と領土保全を強化し、我が国の利益を守るために、より積極的な役割を担うべきである。
重要なことは、他国との協力及び善隣関係の雰囲気を創造し、社会指向型市場経済の法治国及び民主国家としてのダイナミックな発展を保証し、我が国市民の繁栄を高めるための良好な外的条件を作ることである。
世論に影響を与え、公共の雰囲気を形成するための闘いが今日如何に重要であるかは、皆さんが知ってのとおりだ。近年、我々はこの問題を重視してきた。しかし今日、我々は、いわゆるパートナーと称する国々からのロシアに向けた情報攻撃にますます直面しつつあり、我々としても更なる努力が必要である。我々は情報化時代に生活しており、情報を制するものは世界を制するという諺は今日の現実を的確に要約している。我々は西側メディアによる情報の独占に対して強力に抵抗しなければならず、外国で活動するロシアのメディアを支援するためにあらゆる手だてを講じなければならない。もちろん、我々はロシアに関するウソにも対抗し、歴史を歪めることも許してはならない。