プーチン訪中:対米声明と環球時報社説

2016.06.28.

1.対米声明

 21世紀に向けた戦略協力パートナーシップ発表20周年及び中露善隣友好協力条約締結15周年に際して、プーチン大統領は6月24日-25日に訪中し、中露共同声明、ネット空間発展推進の共同声明、グローバルな戦略的安定強化に関する共同声明(以上の署名者は両元首)そして国際法推進に関する声明(署名者は両国外相)が発表されました。
 中露共同声明では、中露が一致して「国連安保理が定める枠組みを逸脱した一方的制裁は国際法原則に合致せず、国連憲章が規定する安保理の職権を損ない、安保理の現行制裁制度の効率を低下させ、制裁を受ける国家がふさわしくない損害を被るのみならず、自国領域外で制裁を実施することも第三国及び国際貿易経済関係に対して不利な影響を生む」と認識するという、名指しこそしていないけれども、アメリカの対外政策を真っ向から批判する表明があります(ちなみに、上記くだりに続いて、「中露は、第二次大戦戦勝国、国連創設国及び安保理常任理事国として、第二次大戦の成果を断固として守り、第二次大戦を否定、歪曲及び偽造する企みに反対し、国連の権威を擁護するとともに、ファシズム、軍国主義等の罪行を解除し、解放者を中傷する行動を断固として批判し、世界大戦の悲劇の再演を防止するためにあらゆる努力を行う」という表明もあります。これは、アメリカに対して向けられたものである以上に、日本に対して向けられたものと見るべきでしょう。プーチン・ロシアがこの点で習近平・中国と同じ認識に立っていることを明示したものとして、プーチンに根拠のない期待を寄せる安倍政権に対するメッセージ性は強烈なものがあります)。このくだりをさらに独立して扱ったのがグローバルな戦略的安定強化に関する共同声明と国際法推進に関する声明ということになります。
 中国とロシアが足並みを揃えてアメリカの覇権主義に対して断固として立ち向かっていく立場を明確にしたもの(2.の環球時報社説参照)として、これらの声明は極めて重要だと思います。アメリカに好意を抱くものが80%を超え、国際関係に関する報道は圧倒的にアメリカのプリズムを通して見ることに慣らされてしまっている日本国内では、アメリカの危険極まる対外政策及びご都合主義の国際法利用に対して正確な認識がほとんどありませんが、この2つの声明は正確にアメリカの対外政策の本質的問題を批判しています。日本にとっては領土問題、さらに国際関係では朝鮮半島、南シナ海、さらにはシリア問題等々、今後の中露両国の共同歩調が強まれば、アメリカの世界戦略に対して大きなカベとなって立ちふさがる局面もますます増えてくることが予想されます。以下、その内容を紹介します。

<グローバルな戦略的安定強化に関する共同声明>

 今日、グローバルな戦略的安定に影響を与えるマイナス要素が世界各地で増加しており、我々はこのことに対して深く憂慮している。この傾向の危険性は第一に、個別の国家及び軍事政治同盟が軍事及び軍事技術の分野で決定的優位を獲得することにより、国際関係において憚ることなく軍事力の使用またはその威嚇を通じて自らの利益を実現しようとしていることにある。彼らは、各国の安全保障が損なわれてはならないという安全保障に関する基本原則を公然と無視し、他国の安全保障を犠牲にして自らの安全保障を獲得しようと狙っている。この政策は、軍事力増大を制御不能にし、グローバルな戦略的安定システムを揺り動かし、効果的な国際的監視の下で普遍的かつ全面的な軍縮を実現するという理念と背馳するものである。
 軍事的優位の地位を獲得しようとする国家及び同盟は、決定的な軍事的優位を保障する兵器を削減し、制限する議論を頑なに拒否しており、これこそはグローバルな戦略的バランス及び安定が破壊されることになる重要な原因である。
 ミサイル防衛分野における状況の展開は特に憂慮されるものだ。戦略的ミサイル防衛システムを一方的に開発し、世界各地で配備するという非建設的な行動は、国際的及び地域的な戦略バランス及び安全にマイナスの影響を及ぼし、多国間の政治・外交手段を定めかつこれを通じてミサイル及びミサイル技術の拡散に対処するという基盤を破壊している。
 注意するべきは、域外国が憶測に基づく理由を口実にして、欧州においては「イージス」システムを配備し、また、アジア太平洋地域では東北アジアに「THHAD」システムの配備を計画していることだ。このことは、ミサイル拡散分野が直面している現実の挑戦及び脅威とはまったく関係がなく、彼らが明らかにしている目的とも明らかに合致せず、しかも、中露を含む域内諸国の戦略的な安全保障上の利益を深刻に損なうものであり、中露両国はこれに強烈に反対する。
 いくつかの国家が研究開発している「グローバル・リアルタイム打撃システム」等の長距離ピンポイント打撃兵器は、戦略的なバランス及び安定を深刻に破壊し、新たな軍備競争を引き起こす可能性がある。
 宇宙の兵器化及び宇宙を軍事的対抗の領域にしようとする脅威はますます高まっている。この傾向が進むことは戦略的安定を破壊し、国際的安全保障に対する脅威となるだろう(として中露が提案している条約案に言及)。
 軍備管理は国際的な安全及び安定を強化する重要な手段である。この分野におけるいかなる措置も、1978年国連第1回軍縮特別総会で締結された最終文書が確定した基本原則を遵守するべきである。これらの原則は完璧に現実的意義を有している。特に、軍縮及び軍備管理は公正かつバランスが取れたものであるべきであり、すべての国家の安全を強化することに有利なものであるべきである。
 非国家主体がテロ活動及び暴力活動を行うために化学生物兵器を獲得する危険性は不断に高まっており、重大な懸念を引き起こしている。「イスラム国」武装勢力がイラク及びシリアにおいて度々化学兵器を使用していることはその例証である。この脅威に対処する方法の一つは関連する国際法の基礎を改善することである。したがって、ジュネーヴでの軍縮交渉の会議において「化学生物テロリズム防止条約」を制定することは重要な現実的意義がある。
 国際社会においては、「戦略的安定」を核兵器分野における純軍事的概念と見なす惰性がある。このことは、現代の戦略問題が抱える広がり及び多面性を反映していない。平和と安全を守るという目的を実現するためには、さらに幅広い角度から戦略的安定を国際関係の状態と見なすべきであり、その主要な特徴は以下のとおりである。
 -政治領域においては、すべての国家及び国家集団は、国際法及び国連憲章における軍事力使用及び強制措置に関する精神及び原則を遵守し、国際的及び地域的問題を解決するに当たり、すべての国家及び人民の合法的な権利及び利益を尊重し、他国の政治生活に干渉することに反対するべきである。
 -軍事領域では、すべての国家はその軍事的能力を自国の安全を保障する必要の最低水準に維持するべきであり、また、国際社会の他のメンバー国がその国家的安全に対して脅威となると見なし、破壊されたバランスを回復するための対抗措置をとることを強いられるなどの軍事建設並びに軍事的及び政治的な同盟を拡大する行動を取るべきではなく、積極的かつ建設的な対話を通じて問題を解決し、相互の信頼と協力を増進するべきである。
 中露は、国際社会のすべてのメンバー国が、世界の平和、安全及び安定を強固にするためのこれらの原則を行動の基礎とすることを呼びかけるとともに、この基礎の上で国際社会との対話、協力及び交流を強化することを希望する。

<国際法推進に関する声明>

1.中露は、「国連憲章」及び「1970年の各国が国連憲章に基づいて友好関係を建設し及び協力することに関する国際法原則の宣言」に反映された国際法原則を全面的に遵守することを重ねて表明する。両国は、平和共存5原則を遵守する。国際法原則は、協力共嬴を核心とする公正かつ合理的な国際関係を構築し、人類運命共同体を作り、平等で分割できない安全及び経済協力の共同空間を打ち立てる基盤である。
2.中露はともに、主権平等原則は国際関係の安定にとって極めて重要であると認識する。各国は、独立、平等の基礎の上で権利を享有し、並びに相互尊重の基礎の上で義務及び責任を担う。各国は、国際法の制定、解釈及び適用に平等に参与する権利を享有し、国際法を善意で履行し及び統一的に適用する義務を有する。
3.中露は、国家は国連憲章に違反して軍事力を使用しまたはその脅迫を行うことはできないとする原則を重ねて述べ、これに基づき一方的な軍事干渉を非難する。
4.中露は、他国の内外問題に干渉しない原則を断固支持し、この原則に違反した、他国の合法政府を変更することを目的とする、他国の内政に干渉するいかなる行為をも非難する。中露は、国際法と合致しない、国内法を域外適用するやり方を非難し、このやり方は他国の内政に干渉しないという原則に違反する一つの例証であると見なす。
5.中露は、平和的に紛争を解決する原則を重ねて述べるとともに、各国は、当事国が合意した紛争解決の方式及びメカニズムによって争いを解決するべきであり、様々な紛争解決方式はすべからく適用しうる国際法に基づいて平和的方法で紛争を解決するという目的の実現に役立つものであるべきであり、したがって緊張した情勢を緩和し、紛争当事者間の平和的協力を促進するものであるべきであると確信する。以上のことは、様々な紛争解決のタイプ及び段階に平等に適用される(その他の紛争解決メカニズムを使用することを前提にした政治及び外交方式を含む)。国際法秩序を擁護するカギは、各国が協力の精神に基づき、国家の同意の基礎の上で紛争解決の方式及びメカニズムを善意で使用するべきであり、これらの紛争解決の方式及びメカニズムを濫用してその趣旨を損なってはならないということにある。
6.中露はともに、公認された国際法原則を善意で履行するべきであり、二重基準の採用または一定の国家がその意思を他国に押しつけるやり方に反対するべきであると考える。国際法に合致しない一方的な強制措置を採用すること、すなわち一方的制裁はこの種のやり方の一つの例証であると考える。いくつかの国々が国連安保理の採用する措置のほかに一方的な強制措置を行うことは、安保理が取る措置の目的及び趣旨を妨げ、これらの措置の十全性及び有効性を弱めるだろう。
7.中露は、あらゆる形式及び現れ方を取るテロリズムをも非難し、テロリズムは国際法を基礎とする国際秩序を弱めるグローバルな脅威であり、この脅威に対処するに当たっては国連憲章を含む国際法に基づく集団的行動に完全に依拠するべきであると考える。
8.中露は、各国はいかなる時においても、他国並びにその財産及び管理の免除にかかわる国際義務を等しく履行するべきであると主張する。これらの国際義務に違反するやり方は国家主権の平等原則に違反し、緊張した情勢のエスカレーションを導く可能性がある。
9.中露は、海洋活動を守る法治という分野において1982年の国連海洋法条約が備える重要な役割を強調する。極めて重要なことは、この普遍性を備える条約の規定は統一的に適用するべきであり、締約国の権利及び合法的な利益を損なうことはできず、同時に条約が設立した法律制度の十全性を破壊することはできないということである。
10.中露は、両国の戦略的パートナーシップに基づき、さらに協力を強化することにより、国際法を守り及び促進し、国際法を基礎として公正で合理的な国際秩序を樹立する決意である。

2.環球時報社説

 6月27日付の環球時報は、「アメリカは中露声明の「指定席に着く」ことも差しつかえない」と題する社説を掲載しました。今回のプーチン訪中がアメリカに向けた中露両国共同の明確な立場を明らかにすることを目的とした、極めて政治的性格の強いものであることを歯に衣着せずに明らかにしたものです。解説は不要でしょう。以下はその内容です。

 プーチンが6月25日、国賓として行った短い訪中は豊かな成果を収め、習近平とプーチンは、「グローバルな戦略的安定強化に関する共同声明」等3つの共同声明に署名し、中露が核心的問題で相互に支持する姿勢を表明し、東欧における「イージス」システム及び東北アジアにおけるTHHADミサイル計画を歯に衣を着せず一致して批判した。共同声明はまた、南海のすべての関係する紛争は当事国の交渉で解決することを主張し、南海問題の国際化及び外部の干渉に反対した。そのほか、両国外相はもう一つの声明に署名し、さらに一連の経済貿易協定にも署名した。
 共同声明は基本的にアメリカを名指ししていないが、取り上げた問題の狙いは極めて明確であり、アメリカが「指定席に着く」ことが非常にふさわしい。「グローバルな戦略的安定強化」という提起の仕方も新しく、アメリカが今日におけるグローバルな戦略的リスクの最大の源であることを連想させるものだ。今回の中露共同声明がアメリカに対して発した批判はもっとも率直であり、このことは、中露がアメリカの追求する世界覇権に対して飽き飽きしていることを反映している。
 声明において中露は、両国関係が同盟的性格を持っておらず、第三国に対するものではないことを表明しているが、これは中露の真実の考え方であると言うべきである。中露が同盟を結ぶことは時代を画するショックとなるであろうが、両国はそういうことを望んでおらず、それぞれが全面的な外交を展開し、西側との正常な関係を維持することを願っている。
 しかし、アメリカの中露に対する戦略的圧力は不断に激しさを増しており、中露が核心問題において相互に支持し合う必要性をますます作りだしている。中露共同声明では18回にわたり「支持」という言葉を使っているが、そこにはアメリカという要素の「貢献」があると言わざるを得ない。
 アメリカは「グローバル帝国」になる野心を明らかにしており、その「グローバル・リアルタイム打撃システム」の脅威は世界のすべての国々の安全保障に対する脅威であり、同時に欧州及びアジアの双方向からロシアと中国に対してかけている戦略的圧力は傲慢に近い行動であり、中露が背中合わせでそれに対抗することを余儀なくさせている。
 人権を口実として他国の内政に干渉することに対する反対、テロ問題における二重基準に対する反対、不法な外部からの干渉によって他国の政権交代を実行することに対する反対という点で、中露の立場は高度に一致している。アメリカ及び西側は、中露が彼らの一方的な主張に反対するとき、彼らの主張のいわゆる「普遍的価値性」はうそ偽りであることを知るべきである。中露の背後には多くの途上国がおり、西側世界は実際には相当に苦しい立場にある。(中略)
 アメリカは「中国という龍」と「ロシアという熊」を同時にのみ込むことは不可能である。中露は往時のソ連のような進攻的性格は持っていないが、中露のいずれもがアメリカとしては消化しきれないだけの戦略規模を備えている。中露がさらに相互を支持する戦略的スペースはまだ極めて大きく、アメリカが両国に対する圧力を強めれば、その分だけ中露の相互支持が強まるだろう。中露米間の戦略的バランスがアメリカの絶対的覇権によって取って代わられる可能性はまずないだろう。(後略)