金正恩の朝鮮労働党大会活動報告(核関連)

2016.06.26.

朝鮮中央通信は、6月20日、「金正恩元帥が朝鮮労働党第7回大会で行った中央委員会の活動報告(全文)」を発表しました。全文6万3000字以上に及ぶ長大なものです。報告は5部構成です。まず「1.チュチェ思想、先軍政治の偉大な勝利」のタイトルのもとで、「(1)社会主義偉業の勝利の前進のための闘い」、「(2)強盛国家建設で収めた誇るべき成果」、「(3)革命偉業の輝かしい継承」について総括を行っています。次に、「2.社会主義偉業の完成のために」のタイトルのもとで、「(1)全社会の金日成・金正日主義化」、「(2)科学技術強国の建設」、「(3)経済強国の建設、人民経済発展戦略」、「(4)文明強国の建設」、「(5)政治的・軍事的威力の強化」の5分野の課題と方針が扱われています。さらに、「3.祖国の自主統一のために」というタイトルのもとで半島統一問題を取り上げました。また、「4.世界の自主化のために」で対外政策を扱っています。最後に、「5.党の強化発展のために」で朝鮮労働党の強化方針を論じています。
 ここでは、朝鮮半島情勢を考える上でのポイントとなる核問題を中心として、金正恩の発言内容を紹介します。
 報告は、朝鮮を取り巻く国際環境はソ連崩壊を受けて極めて厳しい方向で変化したという認識を表明しました。

 「全社会のチュチェ思想化の旗印の下に社会主義の完全な勝利をもたらすためのわが党と人民の闘いは、20世紀の末に世界的な反社会主義、反革命の逆風の中で重大な挑戦に直面しました。
国際舞台で帝国主義者と社会主義の背信者の策動によって多くの国で社会主義が次々と崩壊するという悲劇的な事態が起こり、これを奇貨として帝国主義者の反社会主義攻勢は社会主義のとりでであるわが国に集中するようになりました。帝国主義者は、政治と軍事、経済と思想・文化のすべての方面でわれわれの社会主義を圧殺するための策動を悪辣に行いました。」

 報告は、正にそういう時期に金日成が死去し、朝鮮経済は深刻な試練と難関に遭遇したと指摘しています。

 「民族最大の痛恨事の後、われわれを圧殺しようとする帝国主義者とその追随勢力の政治的・軍事的圧力と戦争挑発策動、経済封鎖は極に達し、その上ひどい自然災害まで重なり、経済建設と人民生活は筆舌に尽くしがたい試練と難関を経ることになりました。わが祖国の安全と社会主義の運命は危機に瀕し、朝鮮人民は歴史に類を見ない「苦難の行軍」、強行軍を行わなければなりませんでした。」

 報告は、そういう苦境において、金正日が先軍政治(金正恩は「銃剣重視、軍事優先の原則に立って軍事をすべての事業に優先させ、人民軍を中核、主力部隊として革命の主体を強化し、それに依拠して社会主義偉業を勝利に向けて前進させていく金正日式社会主義基本政治方式」と定義)を打ち出し、朝鮮の平和と安定をもたらしたと評価しました。

 「今、世界各地が戦争の惨禍に見舞われ、多くの国の人民が生きる道を求めてさまよっていますが、わが国ではこの数十年間一度も戦争の砲声が響いたことがなく、朝鮮人民は裕福に暮らすことはできなくても、戦争を体験することなく平和で安定した生活を享受してきました。これはほかならぬ先軍政治のおかげであり、まさにここにわが党の最大の功績があるのです。」

 報告は、「歴史的な第4回党代表者会を契機」として、「党を組織的、思想的にさらに強化」し、経済建設と核戦力建設を並進させる並進路線を打ち出したと指摘しました。

 「朝鮮労働党は、新たな情勢と革命発展の要求に即して経済建設と核武力建設を並進させるという戦略的路線を打ち出し、それを貫徹するために積極的に闘いました。わが党の新たな並進路線は、激変する情勢に対処するための一時的な対応策ではなく、朝鮮革命の最高の利益からして恒久的に堅持していくべき戦略的路線であり、核武力を中枢とする国防力を鉄壁のごとく打ち固めながら経済建設に一層拍車をかけて、繁栄する社会主義強国を一日も早く建設するための最も正当かつ革命的な路線です。」

 以上の報告の中で特に注目されるのは、並進路線が「激変する情勢に対処するための一時的な対応策ではなく、朝鮮革命の最高の利益からして恒久的に堅持していくべき戦略的路線」であると述べている点です。つまり、核武装は戦略的方針であると位置づけていることです。報告は、そういう戦略的方針を裏付けるだけの核戦力の成果が成し遂げられてきたと指摘しています。

 「総括期間、国防工業と国防科学技術部門では世界を驚嘆させる飛躍的発展を遂げました。(中略)今、われわれの国防科学技術は最高の境地に達し、国防工業部門では精密化、軽量化、無人化、知能化された朝鮮式の先端武力装備を意のままにつくり出しています。核兵器研究部門では3度にわたる地下核実験と初の水素爆弾実験を成功させることによって、わが国を世界的な核強国の前列に堂々と立たせ、アメリカ帝国主義の血なまぐさい侵略と核の脅威の歴史に終止符を打たせるという誇るべき勝利を収めました。われわれの国防工業は、敵のいかなる近代的な武力装備も一撃の下に粉砕できる威力ある武力装備を生産、供給する自立的国防工業、革命工業に発展しました。」

 この成果には人工衛星打ち上げ成功も含まれます。

 「歴史的な第7回党大会を控えて、チュチェ朝鮮の誇るべき英雄である宇宙科学者たちは、全世界が注視する中で地球観測衛星「光明星4」号の打ち上げを成功させて、わが国の権威と偉大な朝鮮人民の不屈の気概を轟かせました。」

 今後の朝鮮の進む上での指針として、報告は「自強第一主義」(金正恩は「自分の力と技術、資源に依拠して主体的力量を強化し、自分の前途を切り開いていく革命精神」と定義)を掲げました。その背景には、「今日、われわれが信じることができるのはただ自分の力だけです。誰もわれわれを助けてはくれず、誰もわが国が統一され、強大になり、富み栄えることを望んでいません。」という厳しい情勢認識があります。特にアメリカに対しては報告の随所で極めて厳しい姿勢を示しており、朝鮮の核戦略がそれに対抗するために不可欠なものであると強調しています。

 「アメリカは停戦協定の締結後、今日に至る60年以上にわたって南朝鮮とその周辺に膨大な侵略兵力を引き続き引き入れ、毎年各種の北侵核戦争演習を狂乱的に行って朝鮮半島と地域の情勢を激化させてきました。今、アメリカがわれわれの自衛的な国防力の強化措置と平和的な宇宙開発に言いがかりをつけ、何かの「脅威」について喧伝しているのは、自分たちの侵略的な対朝鮮敵視政策とアジア支配戦略を合理化するための口実にすぎません。アメリカは、核強国の前列に立っているわが共和国の戦略的地位と大勢を直視し、時代錯誤の対朝鮮敵視政策を撤回するとともに、停戦協定を平和協定にかえ、南朝鮮から侵略軍と戦争装備を撤収しなければなりません。」
 「わが党は総括期間、自主政治、先軍革命指導によってアメリカ帝国主義を頭目とする帝国主義連合勢力の反共和国圧殺策動と支配主義者の圧力を断固排撃し、国の政治的・軍事的威力を全面的に強化して、共和国の戦略的地位を一層強固にし、チュチェ朝鮮の威力を誇示しました。今日、水素爆弾まで保有した強大無比の国力を持つわが共和国は、国際舞台で帝国主義者の核の脅威と恐喝、強権と専横をはねのけ、正義の世界秩序を構築していく責任ある核保有国、チュチェの核強国として威容を轟かせています。」
 「わが党は、アジア・太平洋地域の情勢を科学的に分析した上で、核抑止力を中枢とする自衛的軍事力を築き、アメリカの戦争挑発策動をことごとく粉砕することによって、朝鮮半島と世界の平和と安全をしっかり守りました。」
 「今国際舞台では、アメリカを頭目とする帝国主義勢力の横暴な支配と干渉策動のため、世界的に公認された国際関係の基本原則が公然と無視され、帝国主義列強の利害関係によって正義も不正義として犯罪視されています。国連をはじめ国際舞台でアメリカの侵略と戦争策動を合理化、合法化する決議とは言いがたい「決議」が採択され、正義と真理が踏みにじられるという不正常なことがこれ以上容認、黙認されてはなりません。世界の進歩的人民は、政見や信仰、経済及び文化の発展程度を問わず、国際正義を実現するために積極的に闘わなければなりません。
真の国際正義を実現するためには、帝国主義、支配主義者が前面に押し立てる鉄面皮な「正義」のベールを焼き払い、「正義」の看板の下に不正義がまかり通る古い国際秩序を打ち壊し、公正・正義の新しい国際秩序を確立しなければなりません。国と民族の自主権と生存権を踏みにじる帝国主義者の強権と専横、二重基準と不正義を排撃し、対テロ問題と紛争問題、環境問題をはじめ国際問題において公正性を保障するために積極的に闘わなければなりません。」

 報告には中国及びロシアに対する明確な意思表示はありませんが、「周辺諸国」に対して朝鮮の「自主権を尊重」した肯定的な役割を要求した次の一文は、中露が朝鮮の核武装を含む並進路線を承認することを要求したものとも解釈できます。

 「周辺諸国はわが国の自主権を尊重し、朝鮮の統一問題が朝鮮民族の要求と意思に即して自主的に、平和的に解決されるようにする上で肯定的な役割を果たさなければなりません。」

 社会主義・中国に対しては、アメリカに対する闘いを行うことを呼びかけています。

 「社会主義諸国は、共通の目的と理想を実現するための闘いで互いに支持し、連帯を強め、協力と交流を深めるべきです。社会主義を志向する国々は、社会主義の旗印、反帝・自主の旗印を掲げて帝国主義者の侵略と専横を粉砕し、社会主義偉業を推し進めなければなりません。自主性を擁護する世界の国々と人民は、社会主義偉業を支持声援し、帝国主義者と反動勢力の反社会主義策動に抗して闘わなければなりません。」

 そして、朝鮮の核政策を次のようにまとめています。

 「われわれは帝国主義の核脅威と専横が続く限り、経済建設と核武力建設を並進させるという戦略的路線を恒久的に堅持し、自衛的な核武力を質的、量的に一層強化していくでしょう。わが共和国は、責任ある核保有国として侵略的な敵対勢力が核でわれわれの自主権を侵害しない限り、すでに明らかにした通りに先に核兵器を使用しないであろうし、国際社会に対して担っている核拡散防止の義務を誠実に履行し、世界の非核化を実現するために努力するでしょう。」

 ちなみに、「侵略的な敵対勢力が核でわれわれの自主権を侵害しない限り、すでに明らかにした通りに先に核兵器を使用しない」という報告の指摘は、先制核攻撃を行わないという趣旨として受け取ることができる(5月26日付コラム)ものでしたが、6月23日付朝鮮中央通信が報道した「金正恩元帥が地対地中長距離戦略弾道ロケット「火星10」の試射を現地で指導」と題する記事は、そういう見方は甘いことを明らかにしました。すなわち、金正恩は「米国をはじめ敵対勢力の恒常的な脅威から祖国と人民の安全を確固と保証するには、われわれも敵を恒常的に脅かすことのできる強力な攻撃手段を持たなければならないとし、先制核攻撃能力を持続的に拡大、強化し、多様な戦略攻撃兵器を引き続き研究、開発すべきだと述べた」としており、先制核攻撃という選択肢を明言しています。

 以上の朝鮮の政策が中露の基本的立場と大幅に乖離するものであることは、プーチンの訪中において6月26日に発表された中露共同声明の次のくだりとの対比において明らかであることをつけ加えておきます。ただし、「国連安保理の関連する要求を全面的に履行するという前提」(この点において中露は決定的に間違っていることはこれまでのコラムで度々指摘しているとおり)のもとであるにせよ、朝鮮が「核エネルギー及び宇宙を平和利用する主権的権利を確実に行使することができる」と明確に述べたことは、私の記憶による限り初めてのことです。

 「中露はともに、朝鮮民主主義人民共和国の繁栄、成功及び発展を希望し、核エネルギーの平和利用及び宇宙の平和的開発を含め、国際関係における積極的かつ建設的な一員となることを希望する。同時に双方は、半島の非核化という目標の実現を堅持し、朝鮮の核ミサイル戦略を受け入れない。朝鮮は、国連安保理の関連する要求を全面的に履行するという前提の下でのみ、核エネルギー及び宇宙を平和利用する主権的権利を確実に行使することができる。
 中露は、政治的外交的チャンネルを通じて朝鮮半島問題を解決するべきであると強調する。関係諸国は、軍事的優位だけによって自らの安全を保障しようとすることは非建設的であることを認識することを希望する。関係諸国は、対話と協議を通じて問題を解決し、2009年の9.19共同声明及び安保理関連決議を確実に履行し、速やかに6者協議を再起動し、朝鮮半島非核化プロセスを推進し、半島の緊張した情勢を緩和し、この地域の平和と安定を擁護するべきである。」

 ただし、中露共同声明は、アメリカのアジア太平洋における軍事戦略(韓国へのミサイル防衛システム配備を含む)に対しても両国が明確に反対することで足並みを揃えていることも明らかにしています。

 「中露は、域外の勢力が東北アジア地域における軍事プレゼンスを強化することに反対し、朝鮮の核ミサイル計画に対処することを口実として、この地域にアメリカのグローバルなミサイル防衛システムの太平洋地域の構成部分である新たなミサイル防衛拠点を配備することに反対する。政治的軍事的対決及び地域の軍拡エスカレーションは受け入れられない。
 中露は、東北アジア地域の国々が地域の政治的軍事的緊張を緩和し、軍事活動レベルを低下させ、二国間関係の正常化を推進し、互恵的協力を推進し、東北アジアの平和と安全のメカニズムを作るために条件を創造するべく実質的に働くこと、そしてこれに基づき、平等及び非差別の基礎の上で相互信任と安全の多国間メカニズムを構築することを呼びかける。」