中露「同盟化」進展とアメリカの世界戦略(環球時報社説)

2016.06.14.

6月12日付環球時報は、「日本にやましいところがないのであれば、中露の協調を何故に恐れる必要があるのか」と題する社説を掲げ、6月8日から9日にかけて中露両国の軍艦が尖閣諸島の接続水域を航行したことに対する日本の対応をからかい気味に批判しました。この問題は国内マス・メディアも大々的に取り上げたので、事実関係は御存知の方が多いと思います。
 この社説のタイトルは、日本の中露両国に対する対応の違いを揶揄することにありますが、内容的には、中露に対して絶対的軍事優位を確立しようとするアメリカの世界軍事戦略こそが中露の協力関係強化を促す根本原因であり、アメリカがそういう世界戦略を改めることこそが21世紀の国際関係を平和なものにする所以であるという重要な指摘を含んでいることを見忘れるべきではないと思います。特に、アメリカのやることについては無批判で肯定的に受けとめる雰囲気の強い日本においては、アメリカの軍事戦略こそが世界の平和と安定を揺るがす根本原因であることを認識する意味でも、環球時報社説の指摘を噛みしめるべきだと思います。
 環球時報社説の最後の段落(「日本はアメリカを恐れ、ロシアをも恐れている。なぜならば、両国は日本をやっつけたことがあるからだ。今回東京が中露の軍艦の釣魚島付近海域での出現に対してまったく異なる姿勢をとったことは、日本のイメージの滑稽極まる姿を際立たせた。これこそは、日本に対して如何に処するべきかを世界に告げているかのようである。」)の意味するところも同じように重要です。
日本人の多くは、アメリカや安倍政権が吹聴する「中国脅威論」を額面どおりに受けとめ、中国の軍事力強化については口を極めて批判する一方、安保法制による日米軍事同盟の変質強化に関しては、「憲法違反だ」とする批判は行っても、日米軍事同盟そのものを批判する声はほとんど出ません。しかし社説の最後の段落は、アメリカの威を借りて中国に強腰で臨む安倍政権の対応そのものが中国からすれば噴飯物であり、強いもの(ロシア)にはペコペコと卑屈に対応し、弱いもの(中国)には居丈高に振る舞うのが日本であるならば(それが今回の事件の実相だと中国は捉えています)、中国としても日本に対してこれからは力で対応するぞと警告しているのです。そういう社説の対日メッセージを、「中国脅威論」を裏付けるものと捉えるか、それとも、安倍政権(ひいてはアメリカの世界戦略)の危険性に関する率直な指摘と捉えるかは、私たち自身の国際観・認識如何にかかっているのです。

 8日夜から9日の明け方にかけて、ロシアと中国の軍艦が2方向から日本が言うところの釣魚島「接続水域」に進入した。日本側によるとロシア艦3隻、中国艦1隻だった。日本ではこの件について様々な解釈と推測を行い、これは「中露が手を結んだ日米同盟に対するシグナル」ではないかと頭を悩ませた。東京は中国大使には抗議したが、ロシア軍艦が釣魚島接続水域を通過したことに対しては「合理的」解釈をこじつけ、「注意」を促すだけで事態を拡大しようとしなかった。
 ロシアはその軍艦が「釣魚島接続水域」を正常に通過したことに対して日本から「重大な注意喚起」を受けたことに対して「驚き」を表したが、ロシア艦と中国艦とが「示し合わせた航行」だったかどうかに関しては、ロシアは回答を拒否し、中国は回答しなかった。
 露中の軍艦が「ほぼ同時」に釣魚島付近に出現し、しかも「同時に出現した」ことの性格について中露双方が説明しなかったということが、この事件における主要な事実関係である。おまけとしての事実は、日本は極端に緊張し、数日間にわたって議論したということだ。
 中露海軍が西太平洋で戦略的協力に向かうことは日本にとって悪夢であるようだ。この件について、東京はワシントンより緊張したようだ。現在の情勢とは、アメリカは中露の戦略的スペースを同時に狭めようとしているが、日本は中国には圧力、ロシアは引っ張り込むということであり、西側全体に対して中露がおかれている状況は似通ったところがあるということだ。
 アメリカは相変わらず歴史の大きな潮流に逆らってグローバルな軍事同盟システムを強化しており、日本はこのアメリカの戦略にもっとも積極的に協力する同盟国になっている。中露はともにアメリカの圧力に直面しており、双方が「同盟関係」を発展させることについては推進力がないわけではないし、中露国内には中露が「手を結んでアメリカに対抗する」べきだとする声もある。しかし両国の指導者はそうはしておらず、そのことは、21世紀の人類社会が深刻な分裂と対決に向かわないようにするために中露が貢献していると言うべきである。
 日本は何故、露中の軍艦が同時に釣魚島付近海域に出現したことに対してかくも緊張するのだろうか。それは、やましいところがあるためだ。米日同盟自身がアジア太平洋の平和に対する破壊的性格をますます突出させており、周囲の世界としては、米日のやり過ぎに対して長期にわたって無反応でありうるわけがない。
 中露は全面的な戦略協力パートナーシップを堅持しており、グローバルな問題に関する両国の協力はますます増え、両国の陸上及び海上での合同軍事演習も日増しに頻繁になっているが、中露が接近する上での最大の推進力は明らかにアメリカ以下の西側による中露に対する様々な圧力である。中露は、いずれか一方が圧力で押しつぶされることは自分自身にとってきわめて不利であることを明確に認識しており、したがって外的要因によっていずれか一方が全面的苦境に陥ることがないようにすることは、両国それぞれにおいて熟成した戦略的認識となっている。
 中国もロシアも大国であり、総体としては、自分の力で挑戦に対応する能力を備えている。それと同時に、アメリカが同盟国を糾合して中露いずれかに圧力をかけることに対しては中露ともにやり過ごすことはできないし、こういうやり方は21世紀における国際紛争処理の方法ではないと認識している。
 米日及び西側ではつねに中露が「接近する」ことを話題にしており、中露の協力に対しては極めて敏感であると言える。しかし、このような敏感さが拠ってくる原因はこれらの国々が国際的にお山の大将主義をやっているからであり、これらの国々自身、自らの中露に対する圧力行使が正当ではなく、中露のナショナル・インタレストを害していることを知っている。だからこそ、これら国々は、中露が手を組んで抵抗する可能性に対して心配するのだ。
 そういう憂慮は必要なことだ。中露が協力を強化して挑戦に対処する余地には巨大なものがあり、それが今後どうなるかは、米日及び米欧がますますやり過ぎになるかどうかと関係するだろう。米日が本気で西太平洋における中露のより緊密な戦略的協同を見たくないのであれば、自分たち自身がもっと自制することだ。アメリカは、中露の安全保障に対して深刻な脅威となる絶対的軍事優位を追求するべきではなく、その同盟システムが中露に対して窒息感を生じさせないようにするべきであり、日本もまた、対米同盟関係について調子に乗りすぎて中露を刺激しないようにするべきだ。
 日本はアメリカを恐れ、ロシアをも恐れている。なぜならば、両国は日本をやっつけたことがあるからだ。今回東京が中露の軍艦の釣魚島付近海域での出現に対してまったく異なる姿勢をとったことは、日本のイメージの滑稽極まる姿を際立たせた。これこそは、日本に対して如何に処するべきかを世界に告げているかのようである。