リスヨン(李洙墉)訪中

2016.06.07.

5月31日付朝鮮中央通信は、「朝鮮労働党中央委員会政治局委員である党中央委員会の李洙墉副委員長を団長とする朝鮮労働党代表団が、中国を訪問するために31日、平壌を発った」と速報するとともに、6月1日付で5月31日に行われた中国共産党中央委員会の宋涛対外連絡部長との会談内容、6月2日付で6月1日に行われた習近平(肩書については「中国国家主席で中国中央軍事委員会主席である中国共産党中央委員会の習近平総書記」と紹介。ちなみに6月1日付の新華社電と外交部WSは「中国共産党総書記、国家主席」と紹介)との会見の模様を報道しました。
ちなみに、5月30日付朝鮮中央通信は、「朝鮮労働党委員長、共和国国防委員会第1委員長、朝鮮人民軍最高司令官である金正恩元帥が、朝鮮小白水男子バスケットボールチームと中国オリンピック男子バスケットボールチーム間の友好競技を観覧した」ことを報道しました(崔龍海等がともに観覧したことも紹介)。私はこの記事に唐突さを感じたのですが、翌日の李洙墉訪中記事の掲載で「なるほど」と納得した次第です。また、この記事での金正恩の肩書紹介は6月2日付記事での習近平の肩書紹介と釣り合っていることも分かります(中国側発表では中央軍事委員会主席が抜け落ちている)。
中国側の報道ぶりにも興味深いいくつかの特徴がありました。まず、朝鮮労働党代表団であるにもかかわらず、新華社のみならず政府機関である外交部も報道したこと、また、朝鮮中央通信によれば、習近平との会見における中国側出席者として「楊潔篪国務委員、中国共産党中央委員会の宋涛対外連絡部長、中国共産党中央委員会弁公庁の丁薛祥常務副主任、中国共産党中央委員会対外連絡部の劉洪才副部長、外交部の劉振民副部長」の順序で名前の紹介があること(中国側発表文では楊潔篪国務委員の名前だけ)です。つまり、両党間交流であるのに、中国側は政府・党両レベルで対応したのです。これも金正恩の肩書紹介と見合っていると判断されます。
もう一つの注目点は、人民日報海外版WSは、5月17日に行われた中共中央主催の哲学社会科学工作座談会(この座談会における習近平の演説内容はとても重要なので、また改めて紹介するつもりです)に関して5月18日付で「学習小組編(中国語:「按」)」とする解説記事を掲載した(この記事の末尾には、「本文章は微信(ウィーチャット)ネーム「学習小組」が海外網のみに権限を与えて発表するものであり、転載する場合には必ず「海外網-学習小組コラム」とソースを明記すること」と注記があります)のですが、これを皮切りにその後しばしば「学習小組編」の文章が載せられるようになり、6月2日付でも、「習総書記、朝鮮代表団と会見して何を話したか」と題する記事を掲載したことです。
さらに、6月2日には、環球時報社説「中朝友好堅持は半島情勢の重要なプラスの資産」及び中国網所掲の中国社会科学院アジア太平洋及びグローバル戦略研究所の王俊生副研究員署名文章「李洙墉訪中 「驚きはあるが喜びはない」という悪循環から如何に抜け出すか」が発表されましたが、それぞれが興味深い内容だったことです。
以下に詳しく紹介します。

1.朝鮮中央通信記事

〇金正恩元帥が朝鮮小白水男子バスケットボールチームと中国オリンピック男子バスケットボールチーム間の友好競技を観覧

【平壌5月30日発朝鮮中央通信】朝鮮労働党委員長、共和国国防委員会第1委員長、朝鮮人民軍最高司令官である金正恩元帥が、朝鮮小白水男子バスケットボールチームと中国オリンピック男子バスケットボールチーム間の友好競技を観覧した。
友好競技では、朝鮮小白水男子バスケットボールチームが中国オリンピック男子バスケットボールチームに82対73で勝った。
先に行われた二度の友好競技でも、朝鮮小白水男子バスケットボールチームが中国オリンピック男子バスケットボールチームを81対70、65対56で破った。
金正恩元帥は、朝鮮と中国両国のスポーツマンが厚い友好の感情を抱いて素晴らしい競技動作で立派な競技を行ったことに大きな満足の意を表した。
崔龍海、呉秀容、李日煥、金與正、金成男、趙甬元、李宗茂の各氏と平壌市内のスポーツマン、青年学生、首都市民が競技を共に観覧した。

〇朝鮮労働党代表団が中国訪問へ

【平壌5月31日発朝鮮中央通信】朝鮮労働党中央委員会政治局委員である党中央委員会の李洙墉副委員長を団長とする朝鮮労働党代表団が、中国を訪問するために31日、平壌を発った。>

〇朝鮮労働党代表団団長が中共中央委対外連絡部長と会見

【平壌6月1日発朝鮮中央通信】朝鮮労働党代表団団長として中国を訪れている朝鮮労働党中央委員会政治局委員である党中央委員会の李洙墉副委員長は5月31日、北京の釣魚台国賓館で中国共産党中央委員会の宋涛対外連絡部長に会って談話を交わした。
李洙墉副委員長は談話で、歴史的な朝鮮労働党第7回大会で金正恩同志を全党員と人民軍将兵、人民の一様な意思と念願をこめて朝鮮労働党委員長に推戴したと語った。
また、金正恩同志が朝鮮労働党第7回大会の報告で、総括期間に金日成・金正日主義旗印の下で朝鮮労働党と軍隊と人民が収めた輝かしい勝利と成果を全面的に総括し、社会主義偉業を完成するための戦略的路線と闘争課題を明らかにしたことについて通報した。
そして、金正恩同志が経済建設と核戦力建設を並進させる戦略的路線を恒久的にとらえて朝鮮半島と地域の平和と安全を守っていくという朝鮮労働党の原則的な立場を闡明したことについて強調した。
宋涛対外連絡部長は、朝鮮労働党第7回大会が成功裏に行われ、金正恩同志が朝鮮労働党の委員長に推戴されたことについて中国共産党の名義で再度熱烈な祝賀を送ると強調した。
また、中国の党と政府は金正恩委員長同志を首班とする朝鮮労働党と人民が自己の実情に合う発展の道へ前進することを確固不動のごとく支持し、朝鮮労働党第7回大会が提示した雄大な目標を立派に実現して社会主義の建設でさらなる成果を収めることを心から願うと語った。
そして、中国共産党は両党、両国の老世代指導者たちがもたらし、開花させた貴重な富である伝統的な中朝友好関係を高度に重視し、新しい環境に合わせてより強化発展させていくと確言した。
宋涛部長は、尊敬する金正恩委員長同志に自身の心からのあいさつを伝えてくれることを頼んだ。
これには、朝鮮労働党代表団員、中国駐在朝鮮大使と中国共産党中央委員会のメンバーが参加した。
同日、朝鮮労働党代表団のための宴会があった。

〇朝鮮労働党代表団が中共中央委総書記と会見</p>

【平壌6月2日発朝鮮中央通信】中国を訪問中の朝鮮労働党中央委員会政治局委員である党中央委員会の李洙墉副委員長を団長とする朝鮮労働党代表団 が1日、人民大会堂で中国国家主席で中国中央軍事委員会主席である中国共産党中央委員会の習近平総書記に会って友好的な雰囲気の中で談話を交わした。
朝鮮労働党の金正恩委員長が中国共産党中央委員会の習近平総書記に送る温かいあいさつと口頭親書を朝鮮労働党代表団の李洙墉団長が丁重に伝えた。
習近平総書記は、 金正恩委員長同志が同志的で友好的なあいさつと口頭親書を送ってくれたことについてたいへんうれしく思うとし、委員長同志に自身の心からの願いのあいさつを伝えてくれるよう頼んだ。
李洙墉副委員長は、朝鮮労働党第7回大会で全党員と人民軍将兵、人民の一様な意思と念願をこめて金正恩同志を朝鮮労働党委員長に推戴したと語った。
そして、金正日同志は朝鮮労働党の象徴、永遠の首班であり、朝鮮労働党は偉大な金日成・金正日主義党であると宣言したことについて強調した。
また、朝鮮労働党第7回大会はわが党が終始一貫堅持してきた社会主義建設の総路線、自主路線、先軍革命路線、チュチェの統一路線、新たな並進路線は毛頭変わりがないということを示したとし、われわれのすべての党員と人民軍将兵、人民が党大会決定の貫徹に邁進していることについて述べた。
続けて、われわれは戦略的眼識を持って地域の平和と安全を守りながら、両国人民の共同の富である朝中友好を変わることなく強化発展させていくと強調した。
さらに、尊敬する習近平同志を総書記とする中国共産党が中国人民を導いて「中国の夢」を実現するための闘争でさらなる成果を収めることを願うと語った。
習近平総書記は、尊敬する金正恩同志が朝鮮労働党委員長に推戴されたことについて再度熱烈な祝賀を送るとし、朝鮮労働党第7回大会が成功裏に行われたことを非常に喜ばしく思うと強調した。
また、朝鮮労働党代表団の中国訪問は中朝両党間に戦略的意思の疎通を行う立派な伝統を再び示したと述べた。
そして、中朝友好を守り、強化発展させていこうとする中国の党と政府の方針は不変であるとし、両国老世代指導者たちが自らもたらし、手間を掛けて育んでくれた中朝友好関係を代を継いで発展させることによって、中朝人民に幸福を与え、地域の平和と安全、発展を守るために朝鮮側と共に積極的に努力すると確言した。
さらに、金正恩委員長同志を首班とする朝鮮労働党の指導の下で、朝鮮人民が朝鮮式社会主義強国建設偉業の遂行においてより大きな成果を収めることを心から願うと強調した。
これには、池在龍中国駐在朝鮮大使と中国の楊潔篪国務委員、中国共産党中央委員会の宋涛対外連絡部長、中国共産党中央委員会弁公庁の丁薛祥常務副主任、中国共産党中央委員会対外連絡部の劉洪才副部長、外交部の劉振民副部長が参加した。

2.中国側報道

〇外交部華春瑩報道官の定例記者会見での発言内容(5月31日)

(質問)メディアの報道によると、朝鮮前外相の李洙墉が北京を訪問中だが、確認できるか。彼の今回の訪問の目的は何か。
(回答)関係部門の発表する情報に注目して欲しい。
(質問)報道によれば、朝鮮労働党中央副委員長の李洙墉がすでに訪中を開始したとのことだが、中国側コメント如何。
(回答)関係部門の発表する情報に注目して欲しい。中朝関係については、我が方の立場は一貫している。中朝は重要な隣国であり、朝鮮と正常かつ友好的な協力関係を発展することを希望している。

〇外交部華春瑩報道官の定例記者会見での発言内容(6月1日)

(質問)朝鮮労働党代表団の訪中情況、特に双方会見の情況を紹介して欲しい。会見はどのような成果があったか。
(回答)5月31日、中共中央対外連絡部部長の宋涛は北京で、朝鮮労働党中央政治局委員、中央副委員長、国際部部長の李洙墉及び彼率いる朝鮮労働党代表団と会談を行った。関連情報はすでに発表された。

〇習近平が朝鮮労働党代表団と会見(6月1日)

中共中央総書記、国家主席の習近平は、6月1日に北京で朝鮮労働党政治局委員、中央副委員長、国際部部長の李洙墉が率いる朝鮮労働党代表団と会見した。
習近平は、朝鮮労働党が代表団を中国に派遣して第7回党大会の模様を通報したことを歓迎した。習近平は、このことは中朝両党が重要問題について戦略的意思疎通を行うという伝統を体現し、金正恩委員長、朝鮮労働党中央の両党両国関係重視の表れであると述べた。経済発展、民生改善、朝鮮の社会主義建設事業において、朝鮮人民が更なる成果を達成することを祈る。
李洙墉は金正恩委員長の習近平総書記に対する口頭メッセージを伝達するとともに、朝鮮労働党第7回大会の模様を通報した。金正恩は口頭メッセージにおいて、朝鮮は中国とともに努力して、中朝の伝統的友好関係を強化し、発展させ、朝鮮半島及び東北アジア地域の平和と安定を擁護することを希望していると述べた。
習近平は、中国は中朝友好協力関係を高度に重視しており、朝鮮と共に努力し、中朝関係を守り、強固にし、発展させたいと願っていると強調した。習近平は、中国の半島問題に関する立場は一貫しており、明確だと述べた。関係国が冷静と自制を保ち、意思疎通と対話を強化し、地域の平和と安定を擁護することを希望すると述べた。国務委員の楊潔篪等が会見に参加した。

3.中国メディアの報道

〇学習小組編

6月1日、習総書記は李洙墉率いる朝鮮労働党代表団と会見した。この代表団の中国訪問の主要任務は、朝鮮労働党第7回大会の模様を通報し、金正恩の習総書記に対する口頭メッセージを伝達することだった。
習総書記は会見の中で何を語ったか。発表文の内容には4つのキー・ワードがある。
伝統:習総書記は、労働党が代表団を派遣して訪中し、第7回党大会の模様を通報するという行為そのものが、中朝両党が重要問題について戦略的意思疎通を行うという伝統を体現していると指摘した。
願い:労働党第7回大会後の朝鮮が経済、民生及び社会主義建設等の分野で更なる成果を達成することを願う。
重視:中国は中朝友好協力関係を高度に重視しており、朝鮮と共に努力し、中朝関係を維持し、強固にし、発展させることを願っている。
立場:中国の半島問題における立場は一貫した、明確なものだ。関係国が冷静と自制を保ち、意思疎通と対話を強化し、地域の平和と安定を擁護することを希望する。
(以下、新華社発表文を掲載)

〇環球時報社説

中朝関係が朝鮮の第4回核実験によって冷たくなり、中国が国連の対朝鮮厳格制裁に参加しているとき、李洙墉の今回の訪問は国際世論の注目を集めている。その前の5月29日に金正恩が平壌で中朝バスケットボール親善試合を見物したことも「尋常でない」と見なされた。
中朝は明らかに両国間の伝統的友好を維持し、現在の関係を緩和したいという希望を有しており、李洙墉が訪中して労働党第7回大会の模様を通報し、中国が厚遇したことは、両党の関係及び紐帯が両国間でカギとなる役割を担っており、両国間の重大な分岐を相殺していることを物語っている。
同時に、核問題を巡る中朝の立場は相変わらず異なり、中国側の発表文では北京の半島問題に関する立場は一貫しており、明確だと述べているのに対して、朝鮮側の発表文では平壌が「経済建設と核兵器建設を併行する」戦略路線を堅持すると強調している。
 複雑な中朝関係は今後も続くということのようだ。北京は疑いなく半島非核化の立場を堅持し、かつ、朝鮮が「水爆実験」を行った後の安保理の制裁決議を厳格に執行していくだろう。朝鮮が断固として核を放棄しない状況のもとで、双方のこの突出した分岐は今後も影響して、両国関係を悩ませるだろう。
 他方、中朝関係は朝鮮核問題における重大な分岐の存在に適応しつつあるかのようであり、衝動的にならず、核における分岐が他の分野にまで広がらないようにするための模索が進んでいる。中国が厳しい制裁に参加している状況のもと、国際的には中朝対立を煽ろうとし、中朝間の違いが東北アジアの主要矛盾にエスカレートすることを図る多くの力が働いているが、これは中朝両国にとって不利である。李洙墉の今回の訪中は、中朝がともに理性的にこの落とし穴を避けようとしていることをハッキリと示している。
 朝鮮核問題を含む朝鮮半島問題は一大ゲームであり、中朝のみならず、このゲームのルールを主導できる者は誰もいない。中国は、半島の非核化を主張すると同時に半島の平和と安定を重視している。非常に遺憾なことは、現在の半島情勢のもとでのこの2点の関係が通常考えられるようには統一されていないことであり、いくつかの錯綜した要素が深刻な膠着をもたらしている局面はすぐには打開できず、しかも、中国の安全保障上の利益にとってはこの両者が確実に守られなければならないということだ。
 何はともあれ、中朝が正常で友好的な関係を維持することは、朝鮮核問題の解決を促進し、東北アジアの平和を維持する上でのプラスの資産であり、この点については米日韓の見識のあるものの間でますます認識されるようになっている。中国は、朝鮮が対外発信を行う重要なチャンネルであり、情勢が困難なとき、北京が各国間の外交的斡旋を行うことは、常に情勢打開の希望を増やしている。
 しかし、中国は魔術師ではなく、米韓と朝鮮の相互の敵対がますます深まってくると、中国は半島の毒を消し去るような解毒剤は持っていない。
 米韓は、中国が引き続き朝鮮に対する圧力を強化すること、甚だしきに至っては中国が朝鮮の核放棄という目標を実現することを一手に抱え込むことを希望している。これは身勝手な考え方だ。中国はすでに努力してきているし、しかも中朝関係を損なうという代価を支払っているのに、米韓はTHHADの議論を開始し、中国の安全保障そのものに脅威を与えようとしている。米韓と朝鮮の緊張関係が長期にわたって続いている状況のもと、中国の担っていることについては各国の尊重があって当然である。
 いずれの一方が中国に対してその方の側につくことを要求するとしても、それは半島情勢の安定という真の利益と矛盾することになる。目下のところ、中国は朝鮮核問題のブレークスルーを促進する力はないが、中国は情勢が爆発しないことを確保するカギとなるバランサーである。中国は半島問題について戦略的な下心はなく、我々が希望するのは各国がすべて受け入れることができる方法で長きにわたる平和を維持することであり、そのことはまた半島問題に関する各国間の最大公約数でもある。

〇王俊生署名文章

 李洙墉の朝鮮外交における地位、中朝関係の現状、習近平主席が自ら朝鮮代表団一行を接見したことを考慮するとき、今回の李洙墉の訪中は中朝関係における一大事件であり、国際メディアの広汎な注目を集めた。しかし、一部の西側メディアの中には、読み過ぎの嫌いのあるものもあり、その典型的表れは次の2点である。一つは、今回の李洙墉の訪中は中朝の最高指導者の会合のために協議するというものだ。二つ目は、今回の訪問によって安保理の対朝鮮決議2270が形骸化するというものだ。これらはともに事実に合わない。
 筆者の分析によれば、今回の訪問は純粋に中国共産党と朝鮮労働党との正常な党際交流である。そのもっとも端的な例証として、李洙墉が1ヶ月以上前に北京経由でワシントンの会合に赴いたことがある。しかし、その時は中国の高官が出向いて接待したことはなかったし、朝鮮側にもそのような計画はなかった。ところが1ヶ月後何故今回の訪問が行われ、しかも厚遇を受けたのか。原因は、李洙墉の身分が変化し、彼は労働党政治局委員の資格で訪中し、その主要目的は終わったばかりの労働党第7回大会の模様を通報することにあったからだ。
 当然のことだが、これは両党間の交流であるから、このことが中国の決議2270を執行することに影響するだろうとするのはもっともらしい嘘である。なぜならば、まず、中国共産党と中国とは別ものであり、決議2270を執行するのは国家としての中国であり、中国共産党が決議2270を執行しているわけではない。また、中国は国連加盟国として決議2270を執行しているのであり、中国が決議を執行するのは中朝関係がどうのこうのというからではなく、国際社会の共同の意思に基づき、中国はその一員として決議を執行しているのだ。
 事実として、国際関係において2国間関係に影響を与える要因は多いし、政党間関係も重要な要素の一つではある。しかし、政党関係が両国関係の発展を推進できるかどうかについては、さらに多くの条件が必要だ。朝鮮労働党と中国共産党はともに政権党であり、重要問題での分岐を縮めることができるかどうか、共通認識を拡大できるかどうかが重要だ。中朝間では、周知のとおり、最大の分岐は朝鮮核問題における分岐だ。中国は、国家の安全保障、地域の平和と安定、さらには国際的責任といった角度から、朝鮮を核保有国として受け入れることは不可能だ。他方、労働党第7回大会及び李洙墉の最近の発言から見て、朝鮮は核保有国としての立場を堅持している。このように見れば、李洙墉の今回の訪中も、「驚きはあるが、喜びはない」という悪循環から抜け出すことはできっこない。
 朝鮮指導者の登場以来の立場を見ると、朝鮮は明らかにインド及びパキスタンのような地位(浅井注:核不拡散体制に入らず、しかも国際的に事実上の核保有国と見なされる)を追求しているようだが、これは明らかに非現実的すぎる。第一、朝鮮半島における南北対決及び大国間の激しい駆け引きからして、朝鮮半島は近代以後東アジアの「火薬庫」であり、核兵器がさらに加わったら、地域の安全保障に対する巨大な脅威であるのみならず、朝鮮民族にとっても災難である。第二、朝鮮の最重要隣国として、中国はいかなる角度からも朝鮮を核保有国として受け入れられず、朝鮮がインド及びパキスタンのような地位を追求することは、中朝関係における分岐を公然化させ、後戻りの余地をむずかしくする。
 しかし同時に、中朝関係の中朝両国関係にとっての重要性及び地域の平和と安定にとっての重要性もいうまでもないことだ。中朝はともに両国関係を発展させることを重視するシグナルを発してきている。習近平主席が李洙墉を接見したときに指摘したように、「(朝鮮代表団の今回の訪中は)金正恩委員長及び朝鮮労働党中央の両党両国関係に対する重視の表れである。」習近平主席は、「中国が中朝友好協力関係を高度に重視していると強調した。」2011年11月に金正恩が朝鮮の最高指導者に就任した後、中国は祝電を送った最初の国家である。同時に、米韓が金正恩政権に対して疑って掛かった時、中国は積極的に米韓と意思疎通し、金正恩政権を承認するように促した。
 両国はまた、李源朝副主席、崔龍海特使、劉運山常務委員等の相互訪問も行ってきた。しかし、これらの相互訪問もまた「驚きはあるが、喜びはない」状況を生んできた。外国メディアからすると、「驚き」とは、両国関係がかくも冷たい状況のもとで、かくもハイ・レベルの訪問が行われているということである。今回、李洙墉が訪中し、習近平主席の接見を得たことは最新の例だ。このことは再度、両国が中朝関係発展の重要性を認識していることを体現している。「喜びはない」ということは、これらの訪問において実質的な成果がないし、結果的に、両国関係のブレークスルーを促していないということだ。その根本原因はやはり朝鮮核保有問題における分岐である。
 中国も、朝鮮が核兵器を開発することが国家の安全を保障するという初志を体得しているし、米韓の朝鮮に対する圧力が今日の局面を生み出した重要な根源であると再三にわたって指摘してきた。事実、中国は朝鮮に対して核を放棄することを要求するだけではなく、韓米の合同軍事演習に対しても批判し、韓米が朝鮮の安全保障に対する関心を正視するようくり返し要求してきた。しかし、朝鮮が核保有の道を走れば走るほど、韓米が朝鮮に対する圧力を強化することは必然だ。こうなると、調停者としての中国はなすすべがない。したがって、「驚きはあるが、喜びはない」局面を抜け出すためには、朝鮮が柔軟な姿勢を示すことがどうしても必要となる。例えば、金正日の時期に戻り、朝鮮半島の非核化は朝鮮の最終目標であると指摘することだ。こうなれば、中朝関係が大幅に改善するのみならず、朝鮮半島情勢が一変する可能性も大いにあるだろう。中朝が半島情勢で受け身である局面及び圧力も大いに緩和するだろう。
 疑いないことだが、今回の李洙墉訪中にもっとも関心があるのは韓国だ。今回の訪問は韓国に2つのことを物語っている。第一、中朝関係の紐帯は相変わらず堅固だということだ。それは、中朝双方の利益であるというだけではなく、中国がこの地域の平和と安定の重要な担い手であるということでもある。第二、韓国は、朝鮮を「併合」して統一を実現するという幻想を放棄するべきだということだ。ということは、制裁するべきは制裁するが、最終的には対話という軌道に戻る必要があるということだ。