中国の核戦略(環球時報社説)

2016.05.29.

5月28日付環球時報は、「戦略核原潜の常時配備は中国の安全保障を高める」と題する社説を掲載しました。社説自ら紹介しているように、イギリスの『ガーディアン』紙など西側メディアが、中国は太平洋に核ミサイル搭載の原潜を派遣すると報じ、ペンタゴンの「2016年中国軍事力報告」が、中国は2016年のある時期に核デタランス原潜を展開させるだろうと予想していることを受けて、環球時報としての立場を明らかにしたものという形を取っています。中国の核政策の最新動向を窺わせる内容なので、大要を紹介します。
 ちなみに、この社説が最後に言及している、オバマ政権が鋭意推進してきたミサイル防衛システム開発及び配備は、社説が指摘するとおり、米露及び米中間に存在する核バランスを突き崩し、アメリカに対抗するための中露による核戦力増大努力を誘発するものです。広島を訪問したオバマが本当に世界の非核化、核軍縮に対して真剣に取り組む決意があるのであれば、最低限、ミサイル防衛システムを推進してきた自らの核政策に対する反省を表明するべきだったでしょう。私がオバマの広島訪問と同地での長ったらしいスピーチをゼロ評価せざるを得ない原因の一つはその点にあります。オバマの広島訪問及びそこでのスピーチに対する私の評価についてはまた文章を改めて書くつもりですが、中露以下の核保有国がオバマのスピーチを無視するのは当然なのです。

 戦略ミサイル搭載原潜は、目下のところ隠蔽性がもっとも優れた、生存能力ももっとも高いと考えられている核兵器発射プラットフォームであり、安保理常任理事国はすべてこれを有しており、また、中国を除く4核大国は原潜を戦略常時配備している。中国の原潜を戦略常時配備することは明らかに必然の流れである。
 戦略核ミサイルは大国の主要兵器であり、大国の軍事デタランスにおける最終的よりどころだ。中国の核デタランスは「限定的」だと見なされている。一方で、中国の核弾頭数が比較的少なく、西側メディアでは260とカウントされている。アメリカは7000以上、またロシアもその程度だ。もう一方、中国は核大国中唯一核先制不使用を宣言した国家であり、中国の核デタランスは主に第二撃能力であり、つまりは核報復能力であるということだ。
 つまり、中国の核兵器の防禦的性格は極めて明確であり、これはすなわち中国の世界平和に対する一つの善意である。
 しかし、中国の核デタランスは本物で有効なものであり、アメリカの対中姿勢を形成する中で隠然と影響力を発揮するものであるべきだ。それは、我々がアメリカの力を評価するときに、その空母戦闘力を直ちに想起するほか、アメリカが世界最強最大の核保有国であることを想起するようなものだ。そのことによって世界各国は、進んでアメリカと軍事的に対抗することは極めて理性的でない戦略的冒険であると確信することになる。
 ところが、アメリカ社会の中国戦略核デタランスに関する認識は浅く、重視度が足りない。あるアメリカの学者は2006年に、アメリカは一度の先制的攻撃によってロシア及び中国のすべての長距離核戦力を破壊することができるという計算上の結論を出したことがある。2012年のアメリカ大統領選挙に参加した一人の候補は、中国が核保有国であることを知らなかった。これらのことは、アメリカが中国の戦略に対するリスペクトが十分ではないことを示している。
 中米間の戦略的緊張が高まり、アメリカの戦略を担う人々の中国に対する冷戦的思考が頭をもたげている現在、中国が信頼できる第2撃核能力を強化することは極めて必要だ。そのことは、アジア太平洋地域のバランスを促し、中国に対するアメリカの平和的意図を増大することに対してプラスの役割を果たすだろう。
 国際的な軍事分析においても、中国の原潜及び潜水艦発射戦略ミサイルの技術は長足の進歩を遂げており、中国が戦略原潜を太平洋深部に進出させて常時配備する条件はすでに熟している。これに加え、中国の陸上配備の移動式大陸間弾道ミサイルの技術も進展しており、中国の戦略核の生存能力は今や昔日の比ではない。
 こうすることは、南シナ海情勢に対する中国の反応ということではなく、核大国としてのロジックにしたがった戦略能力の構築ということだ。今後中国が常時配備する原潜は1隻には留まらないし、陸上配備の移動式大陸間弾道ミサイルの常時配備システムもますます整えられていくだろう。中国は、強大な核報復能力を保有する国家であり、このことは、世界の戦略関係者が中国の力を評価する際に避けて通れない要素の一つであるだけではなく、アメリカ等大国の中国に関する基礎的認識に深刻に影響を与えることになるだろう。
 中国の核兵器の数は米露と比較してレベルが低いだけに、国家の安全保障を守るために信頼できる核デタランスを増加することには十分な正当性がある。歴史が証明しているように、大国間の力のバランスが取れている方がバランスの崩れているときよりも平和の実現にとってより有効だ。中国の人々は、中国の核兵器をさらに増やし、その生存能力をさらに高め、奇襲対応能力もより先進的にすることを希望している。以上は、中国の国家的安全保障にとってもっとも重厚な礎石である。
 アメリカは核兵器保有数世界第一を達成した後、ミサイル防衛システムを大規模に開発し、他の大国の核デタランスを瓦解させることによって天下を独り占めにしようとしている。中国は必ずアメリカのこの計画を失敗させなければならない。非核化の世界は、核バランスがある前提の下においてのみ実現可能であり、一国だけが強大という情況では(非核世界に向けた)エネルギーを生み出すことはあり得ず、核デタランスの濫用あるいはそれを基にした覇権確立の誘惑に駆られるようにするだけである。