朝鮮労働党第7回大会と米露中

2016.05.28.

5月25日付の中国青年報は、李敦球署名の表題の文章を掲載しました。しかし実は、5月20日に環球網は、同じタイトルで、「国内最重量級の朝韓問題専門家、中国社会科学院教授、浙江大学客員教授、環球網特約評論員」である李敦球を招いて、5月18日に講演会を行ったと紹介し、25日付の中国青年報に掲載された文章の骨子を紹介していたのです。しかも環球網記事は最後に、今回の講座は、環球網ニュース・センターが主催する一連の国際問題講座第1期「あなたの知らない朝鮮」であることを紹介しています。
 私は、これまでに何度もこのコラムで李敦球の文章を紹介してきました。私は、並み居る中国の朝鮮問題専門家の中でも、李敦球は最も優れた分析と評価を行う人物だと最重視しているからです。その彼が、かつて所属していた中国社会科学院の教授に復帰していること、しかも、環球時報が「国内最重量級の朝韓問題専門家」という、私がこれまで見たこともない賛辞を呈して紹介していることは、他人事ながらとても嬉しいことでした。何にも増して重要なことは、そういう彼がこれから朝鮮半島問題に関する中国の情勢判断及び政策決定にもますます重要な影響力を発揮することが十分予想されるということです。
ちなみに、私は4月7日付のコラムで李敦球の3文章を紹介する中で、3月8日の王毅外交部長の中朝関係に関する発言を李敦球が解説した文章を紹介し、「この文章は、王毅の発言を解説することによって、朝鮮を非難する中国国内の多数説は間違っており、李敦球自身の考え方こそが正当であるのだと主張する内容」と指摘しましたが、以上の李敦球の中国国内での地位向上(回復?)という背景を踏まえれば、李敦球はすでに3月時点で中国政府の政策を公式的に解説するだけの立場にあった可能性も十分にあると思います。
 私は2月5日付のコラムで「中国の国際法上の立場を糾す」と題して、南シナ海問題と並んで朝鮮の核実験及び人工衛星打ち上げに関する中国政府の国際法上の政策における重大な問題点を指摘しました。私の目にとまった限りでは、李敦球は私の問題意識に直接応える発言はまだ行っていませんが、私としては、李敦球がこれら二つの問題についても中国政府の誤りを正す影響力を行使してくれることを心から期待します。そうすることが、中国の対朝鮮半島政策をさらに公正なものにするに違いないからです。
 さて、表題の文章ですが、本年の米韓合同軍事演習は1976年以来で最大規模のものであり、しかも、朝鮮に先制攻撃を仕掛ける演習をも同時に行うという危険極まるものであったこともあり、環球時報でも、アメリカが核兵器開発を放棄しない朝鮮に対して戦争を仕掛ける可能性を深刻に憂慮する単仁平署名文章が出たほどでした。李敦球はそういうことをも指摘しつつ、しかし結局演習はロー・キーで終了し、戦争は起こらなかったとして、イラク及びリビアでは実力行使したアメリカが朝鮮に対しては「釘を抜く」ことができなかったのは何故かという問題について解明を行ったものです。軍事問題にはずぶの素人の私ですが、李敦球の文章は確信と自信に満ちた内容であることはしっかり伝わってきます。その内容を紹介します。

 米韓合同軍事演習「キー・リゾルブ」と「フォール・イーグル」は、3月7日から4月30日まで2ヶ月近くにわたって行われた。この期間中、米韓と朝鮮は怒髪天を突く勢いで対峙し、半島の上空には戦雲が充ち満ち、全世界の注目を引きつけただけではなく、多くの「歴史上前例のない」記録を残した。
 第一、今回の軍事演習は1976年以来規模がもっとも大きい演習であり、韓国軍の参加人数は30万人以上で韓国軍65万人の兵力のほぼ半数であり、米軍は1万5000人が参加した。
 第二、アメリカは大量の最先端の戦略兵器を半島に送り込んだ。例えば、B-52戦略爆撃機、F-22ステルス戦闘機(アメリカの現役最先進戦闘機)、「ノース・カロライナ」原潜、「ジョン・ステニス」核空母等であり、かくも多くの戦略兵器が半島に集中するのは歴史上かつてないことだった。
 第三、この演習期間中には、「ダブル・ドラゴン」と称する軍事演習が行われ、韓国は3000人の海兵隊員と2000人の海軍将兵、アメリカは7000人の海兵隊員と5隻の強襲揚陸艦を派遣したが、これは2012年にこの演習が開始されて以来規模が最大のものだった。「ダブル・ドラゴン」演習は、韓米合同軍が朝鮮の東部及び西部から同時に上陸作戦を行い、最短期間に平壌を占領することを想定したものだ。
 第四、軍事力による威嚇に伴った言葉の「暴力」もまた歴史上最高のものとなった。演習期間中、米韓は声高に「先制攻撃」、「平壌占領」、「斬首」、「自ら招く滅亡」等と宣伝した。朝鮮側も、「青瓦台砲撃」、「勝敗を決める最終決戦の時到来」などと称した。
 明らかに当時の情勢は、朝鮮半島は今や戦争前夜であるかの如き印象を与えたし、少なからぬ人々がアメリカは朝鮮に対して必ず開戦すると予測した。ところが、今回の軍事演習は華々しく始まってロー・キーで終わり、戦争は勃発しなかった。では、アメリカは何故イラクやリビアに対して対処したようにはせず、朝鮮に対しては「釘を抜く」ことをあえてしようとしなかったのか。アメリカのオバマ大統領は4月26日にCBSのテレビ・インタビューを受けた際、「朝鮮問題には簡単な解決案はない」とため息した。筆者は、少なくとも以下のいくつかの原因があると考える。
 第一、朝鮮半島はアメリカにとって傷心の地であるということだ。20世紀50年代初期のあの戦争がアメリカ人に与えた心理的影響は長期にわたって払い去ることができておらず、また、当時の交戦双方間の武器装備のレベルの違いは際立っていたが、今日における朝米双方の武器装備のレベルの違いは当時と比してさらに大きいというわけではない。アメリカとしては、本土に対する脅威がないのであれば開戦するというわけではなく、心理的要素や傷亡等のコストなども考える必要がある。朝鮮は総合的実力では劣るが、戦争に恐れおののくわけではなく、強硬に立ち向かおうとするのであり、志気及び心理的要素は戦争において無視できず、アメリカは朝鮮半島で再び戦争するだけの肝っ玉はない。
 第二、朝鮮の総合的軍事力の増強は半島で戦争が勃発することを抑止する主要原因の一つであるということだ。朝鮮の軍事力は、サダム・フセインのイラク及びカダフィのリビアと比較して別次元にある。朝鮮は110万人の訓練された正規軍を擁し、その中には10万人以上の特殊部隊が含まれ、さらに数百万人の工農赤衛軍と民兵を持ち、規模のスケール及び戦闘力の高さは世界的にも稀である。武器装備においてアメリカにはるかに及ばないとしても、やはり無視することはできないし、それなりの特徴と優位性を持っている。
 第三、朝鮮には「長剣」と「匕首」がある。周知のとおり、朝鮮の中短距離ミサイルは韓国及び日本の全域をカバーしており、朝鮮の伝統的火力はソウルをカバーするに十分だ。4月6日、韓国の韓民求国防部長はインタビューを受けた際、朝鮮が最近「最終的に試射した」新型大口径ロケット砲を完成したこと、最速では年末までに配備可能であること、最長射程距離は200キロであることを明らかにした。ということは、ソウル首都圏以南の地域も朝鮮のロケット砲の射程内にあるということであり、京畿道平澤の駐韓米軍基地、全羅北道群山の駐韓米軍基地、及び忠清南道鶏龍台の韓国総司令部などの韓米両軍の核心的施設も朝鮮のロケット砲の攻撃範囲内にあるということだ。集中的に発射するので、防禦システムはほとんど役に立たない。これが、朝鮮が正面に据える「長剣」である。
 4月23日、朝鮮は「北極星1号」潜水艦発射弾道ミサイルを打ち上げ、成功裏に30キロ飛行した。韓国・中央日報は4月25日、韓国国防部の文尚均報道官の発言として、「朝鮮は目下潜水艦発射弾道ミサイルを鋭意開発中であり、水面下発射等の分野で部分的かつテクニカルな進展を達成している。実戦能力までには3,4年かかると予測されるが、さらに速まる可能性はある」と報じた。潜水艦発射弾道ミサイルは背後から米韓を狙う「匕首」である。
 第四、朝鮮は戦場を移し換える能力を有していることだ。アメリカがイラク、ユーゴスラヴィアを簡単に打ち負かしたことから、朝鮮も数週間で攻略できると断定するものがいる。しかし、朝鮮半島の地理的状況はまったく異なっている。朝韓は土地が繋がっているため、米韓連合軍の精緻な打撃計画がいかに周到であるとしても、朝鮮の陸上部隊が韓国域内に突入することは可能であり、戦場を移し、直接に韓国を攻撃することを通じて米軍の進攻圧力を移動させるだろう。朝鮮軍がいったん韓国域内に進入すれば、非接触戦争は接触戦争に変わり、米軍が得意とする戦法は効力を失う可能性がある。地上戦闘についてみれば、米韓連合軍の優位性は必ずしも明確ではなく、朝鮮は武器装備が劣るにしても、訓練の質量は極めて高い。しかも朝鮮の国土は90%近くが山地であり、タンクは思うに任せない。朝鮮山地にはトンネル網が走っており、戦略戦力は何時でも地下に潜ることができ、そのことは米軍の空中からの攻撃の効果を大幅に低下させる。
 第五、核兵器を含む朝鮮の武器装備に関しては往々にして過小評価されていることだ。1月6日の朝鮮の核実験における爆発が震度4.9規模であったことから、それが「水素爆弾の実験」であったことを否定する向きもある。しかし1月12日、朝鮮中央通信は論評を出し、「地理的条件の制約がなかったならば」さらに大規模の水素爆弾を爆発させるだろうと述べた。また、小型化及び運搬手段が実現していないとしても、数個の核装置及びロケット砲を組み合わせて配備すれば、米韓連合軍は打ち返す手を持たない。というのは、ソウルは38度線付近の核装置から離れることわずか数十キロであるからだ。核兵器は戦略的デタランスであり、アメリカは今日に至るまでいかなる核保有国に対しても戦争を発動したことはない。
 朝鮮と中露の地縁政治関係は特殊であり、アメリカが朝鮮に戦争を行おうとするときは中露の態度を考えざるを得ない。中国は朝鮮半島の非核化を主張しているが、対話と交渉の方法で平和的に解決するという立場だ。アメリカが戦略的敵に対する場合、一般的にはまずやっつけようとし、それがダメな場合にのみテーブルに座る。したがって、アメリカが軍事的手段で朝鮮を消滅することはできないし、経済制裁で朝鮮をつぶすこともできないと認識するに至ったときにのみ、朝米の正式な交渉が可能となるだろう。