朝鮮労働党第7回大会と米露中

2016.05.26.

金正恩が朝鮮労働党第7回大会で行った党中央委員会活動報告の内容に関しては、これまでのところ、朝鮮中央通信が部分的に報道しているものしか私は知り得ないでいます。私は特に、米韓の出方如何では朝鮮が核先制使用も辞さないと度々明らかにしてきている点について、3月14日のコラムで明らかにしたように、重大な懸念があります。この点に関しては、5月7日付の朝鮮中央通信が報じた活動報告の中で、金正恩は「責任ある核保有国として、侵略的な敵対勢力が核でわれわれの自主権を侵害しない限り、すでに闡明した通りに先に核兵器を使用せず、国際社会に担った核不拡散義務を誠実に履行し、世界の非核化を実現するために努力するであろう」と述べたと紹介されました。
この発言を、上記コラムで紹介した、弾道ロケット発射訓練を視察した際の金正恩の発言(「共和国に対する最も露骨な核戦争挑発を仕掛けてきた以上、これに対するわれわれの自衛的対応措置もより先制的で、より攻撃的な方式にならなければならない」、「神聖なわが祖国の一木一草に少しでも手出しするなら、核手段を含むすべての軍事的打撃手段に即時の攻撃命令」を下す)と比較しますと、先制攻撃に力点が置かれていたのから、先制不使用への力点の移行が明らかに読み取れます。このニュアンスの違いは、米韓合同軍事演習さなかで緊迫した状況のもとで行われた発言と米韓合同軍事演習が終了し、最悪の事態が起こらなかった後の党大会での発言との違いと理解することも可能です。しかし、核兵器の先制不使用に力点が置かれていることは、私の朝鮮に対する懸念を和らげるものではあります。
金正恩の以上の活動報告における発言に直接反応したわけではありませんが、アメリカ・ホワイトハウスのアーネスト報道官は朝鮮の核問題について、またロシア外務省のザハロヴァ報道官は朝鮮の党大会を受けて発言を行っています。
アーネスト報道官は、5月18日の定例記者会見で、共和党の大統領候補に至近距離にあるトランプが大統領に当選した場合には金正恩と会談する用意があると発言したことに対するコメントを求められたのに対して、次のように発言しました。

「北朝鮮に関する問題に関して、オバマ大統領は最近多くの機会に我が方の立場を明確にしている。アメリカは、ロシア及び中国を含む国際共同体とともに、核計画に関する国際的義務を遵守しようとしない北朝鮮を孤立させるべく効果的に動いてきた。圧力を増やし、孤立を深めさせることに成功してきた。圧力と孤立化は北朝鮮政権に対して所期の効果を持つまでにはまだ至っていないが、彼らがこの圧力を感じていることを示す証拠は十分にある。
我々が言ってきたことは、彼らが朝鮮半島非核化に対するコミットメントを明らかにし、より広範な地域の不安定化をもたらしている挑発的言動を止めさえすれば、この圧力は直ちに解除され、国際共同体は北朝鮮と交渉する用意があるということだ。したがって、北朝鮮政府にとっての孤立からの脱却の道筋は明確だ。これまでのところ、彼らはその道筋を拒否しているが、我々が敷いた戦略はそういうことである。」

また、5月19日に定例記者会見を行ったロシア外務省のザハロヴァ報道官は、冒頭のブリーフィングの中で「朝鮮半島情勢」と題して次のように発言しました。

「我々は、アジア太平洋地域におけるもっとも長い不安定の温床の一つであり、かつまたロシア極東に接してもいる朝鮮半島の情勢を注意深く観察している。
朝鮮労働党第7回大会中に朝鮮が国連安保理決議違反するのではないかという懸念(浅井注:朝鮮が核実験を行うのではないかという推測が流れていたことを指すとみられます)が現実のものにならなかったことに満足している。このリスクについていろいろ言われ、ロシアの立場について質問された。幸いにも我々の懸念は現実にならなかった。我々は、北朝鮮が責任ある政策を行い、国連加盟国としての約束を守ることを期待する。
我々は、党大会で北朝鮮指導部が打ち出した、南北間の緊張を緩和し、朝鮮半島の雰囲気を改善するためのイニシアティヴに注目している。我々は、平壌のアピールの対象となっているすべての国が妥当な考慮を払わずに拒否したり、軽率な結論を下したりしないことを希望する。そうではなく、朝鮮の諸提案は忍耐強く分析し、責任ある決定につなげられるべきである。
我々は、北東アジアの平和と安定に向けた進展は相互的なものであるべきであり、この地域のすべての当事国を積極的に巻き込んだものとなるべきであると確信する。これまでに幾度となく述べてきたように、かかるアプローチにより、北朝鮮と韓米日との関係を正常化し、すべての当事国間の無差別平等に基づく、地域の安全保障及び協力のための多国間メカニズムを作るための現実的な努力に向けた移行への条件が整えられるだろう。そうすることにより、朝鮮核問題の解決の可能性も見えてくるだろう。我々は、この問題を解決しないことがこの地域における軍事的政治的緊張の主要原因であるという見解に立っている。
この関連で、我々は、この地域における軍事諸活動を減少することの重要性を強調したい。我々は、いわゆる「北朝鮮の核ミサイル脅威」を口実にして、一方的に軍事的利益を得ようとし、この地域に最新式の兵器を大量に持ち込むこと、特に、アメリカの世界的なミサイル防衛のこの地域における一環として新たなABMを配備することは受け入れられない。
ロシアは、この地域の平和と安定のため、また、朝鮮核問題を政治的外交的方法で解決するために、すべての利害関係国ともっとも緊密に協力する用意がある。」

中国政府・外交部は朝鮮労働党大会について特段のコメントを行っていません。5月11日付の新華社平壌電は、「朝鮮労働党七大はどのようなシグナルを送っているか」と題する記事を掲げ、大会の4つの成果として、新指導部の選出、党内部の整頓強化の強調、経済活動に関する具体的アレンジメント及び外交路線の確立(特に、朝鮮と敵対関係にある国々でも、朝鮮の主権を尊重し、朝鮮と友好的に共存する用意がありさえすれば、朝鮮として関係を改善し、正常化する用意があるとしたことを特記)を指摘しています。また、党大会後の朝鮮の政策的方向性としては、経済における内閣責任制及び企業の責任管理制を明確にしたこと、核問題では核保有堅持で「国際社会の朝鮮半島非核化の願いとは背馳していること」、朝韓関係では「朝鮮の態度が若干緩和していること」などを指摘していることが注目されます。