日露関係(ラブロフ外相発言)

2016.04.18.

安倍首相の何ら成算もないままの訪露希望にロシアが応じる姿勢を示しています。プーチン大統領は、4月14日に行った国民との直接対話の後の記者団からの質問に答える中で、安倍首相訪露及び北方領土問題に関し、ロシアはどのような妥協を考える意思があるのか」という質問に次のように答えました(ロシア大統領府WS-英文版-)。

 「妥協について考えるためには、継続的で妨げられることのない対話を行うことがまず必要だ。しかし、日本はある時点で我が方との接触を制限する決定を行った。私は、そのことは日本及び日本国民の利益になるとは思わない。
 しかし同時に、アメリカを筆頭とする国々からの圧力にもかかわらず、日本の友人たちは我々との関係を維持しようとしている。したがって、我々は日本の首相の訪露を歓迎する。我々はもちろん様々な問題を議論するだろう。第二次大戦終結以来解決していないこれらの問題を解決するため、我々が設定した装置が継続的に機能しなければならない。私は、なんらかの妥協は見つけられると考えている(some kind of compromise can and will be found)。」

  プーチンの行った「なんらかの妥協は見つけられる」という発言においてロシアが意味していることは何なのかに関しては、日本訪問を前にしてラブロフ外相が日中蒙3国のメディアとのインタビューで行った発言がその真意を理解する豊富な材料を示していると思います。日本のメディアが紹介したラブロフ発言は片言隻句なので、ここで改めて、同日付のロシア外務省WS(英文版)が紹介した同外相の発言を紹介しておきます。

 (質問)(ラブロフ外相の)訪日は、安倍首相の訪露及びプーチン大統領の訪日を含む一連の首脳レベルの接触の幕開けとなる。とはいうものの、ロシアとG7諸国は相変わらずウクライナ危機について異なる見解を有している。露日間にも違いが存在する。例えば、去る1月の記者会見の際、貴方は、平和条約と領土問題を解決することとは同義ではないと述べた。日本側は、平和条約締結は領土問題解決と不可分であり、それは一つで同じことだと主張している。露日指導者の立場の違いを前提とした場合、平和条約に関する政治的対話の見込み如何。露日関係のレベル及び両国間の対話の進展について貴方はどう考えているか。
 (回答)G7外相会議が、ウクライナ危機に関連した諸問題の解決を容易にするためにロシアはもっと積極的に動くべきだと主張したことに関して、G7はウクライナ危機を議論する場だとは誰にも認められていない。この問題は、2015年のミンスク合意を基礎にして議論され、解決されるべきだ。国連安保理はミンスク合意を修正なしに承認した。安保理はまたコンタクト・グループと4つのワーキング・サブグループの方式にもお墨付きを与えた。ウクライナ政府、ドネツク、ルガンスク、OSCE及びロシアが直接仕事することが予定されている。これは、キエフ、ドネツク及びルガンスクが行った約束を実行するための具体的方式だ。
 露仏独及びウクライナ4ヵ国指導者による宣言に書かれているように、4ヵ国のノルマンディ方式というものがあり、これがミンスク合意をモニターすることになっている。キエフに対して決定的な影響力を行使しているアメリカ及び欧州のパートナーが、キエフに対してミンスク合意を公然とひっくり返すことさらには書き換えを要求することをやめるよう説得できていないため、ミンスク合意の実行は思うようにはなっていない。
 米仏独及びG7諸国はミンスク合意遵守の必要性を言い続けている。G7が本当にその気があるのであれば、ポロシェンコ大統領がその署名した合意に従うよう、影響力を行使するべきだ。ただし、ロシアにとってG7は抽象的存在であり、正直言って、国際政治に影響力があるとは感じていないことをつけ加える。
 露日関係に関しては、我々はそれ自身に価値があると考えている。周知のとおり、プーチン大統領と安倍首相は、その定期的な会合の中で、貿易、経済、投資、文化及び最重要なこととして対外政策を含め、あらゆる分野で2国間協力を進めることに合意した。もちろん我々は、日本のような主要国が国際関係に更なるウェイトを占めることにより、その発言力が強まり、日本人の利益を反映するようになることを見届けたい。
 私は岸田外相と良好な関係を持っている。彼が外務大臣に指名されたとき、我々は彼が2014年3月または4月に訪露することを期待した。我々がどうすることもできない理由により、岸田氏は2015年9月にやっと訪露した。まあそれはともかく、我々は今もなお良好な実務関係を維持している。今回の訪日において、我々の協力関係をさらに強化する方途について議論できることを希望している。我々は、露日閣僚級協議に関する包括的計画に署名する予定であり、そこでは両国が共通して関心を払うことが求められるすべての主要事項をカバーすることになる。
 さて、平和条約だ。確かに私は、1月の記者会見において、平和条約問題は、日本側のいういわゆる北方領土とは直接関係がない(the issue of the peace treaty is not directly connected to the so-called Northern Territories, as you say in Japan)と述べた。プーチン大統領及び安倍首相の指示に従い、我々は、この問題に関する次官級対話を行う特別のチャンネルを設定した。我々がこの問題に関して対立する見解を有しているという納得できる理由により、この対話は定期的に行われているが、非常に難しいものである。2回行われた対話は、第二次大戦の結果というコンテクストにおいて歴史的諸相を議論することに当てられた。我々は、これらの結果を受け入れることなしには前進できないだろう(We won't proceed forward unless we accept these results)。
 両国が署名し、批准した唯一の文書である1956年の共同宣言は、両国が「すべての請求権を相互に放棄する」と述べ、かつ、両国の当面の目標は平和条約を署名することである(their immediate goal is to sign a peace treaty)と述べていることだけからしても、平和条約問題は領土紛争ましてや領土的請求に限定することはできない(The issue of the peace treaty cannot be limited to territorial disputes, let alone territorial claims)。我々は日本の同僚に対し、第二次大戦の結果というかかわりにおけるこの問題の背景及び終戦以来両国が達成してきたことについて注意喚起したい(We'd like to remind our Japanese colleagues about the background of this issue in the context of the results of WWII, as well as about Moscow and Tokyo's achievements since the war's end)。我々は目下次回対話について準備中だ。我々は、以上に述べた範囲の文脈で(in the context of the above mentioned parameters)露日の立場について議論を継続していくだろう。
 この問題に対する回答の締めくくりとして、プーチン大統領と安倍首相が両国関係を様々な分野で包括的に発展させることに合意したことをくり返したい。我々は以下のことを確信している。すなわち、両国の経済及び市民社会のより緊密なインタラクション、ビジネス関係者間の良好な関係の確立、相互投資並びに経済、貿易、インフラ及び対外政策に関する共通イニシアティヴにより、もっとも困難な問題についても協定を締結するためのより好ましい雰囲気がつくり出されるだろう。今の雰囲気が好ましくないと考えているわけではないが、ロシアと日本とのポテンシャルを考えれば、雰囲気をもっと良くすることができることは間違いない。
 私は、日本のビジネス界がロシアに対する積極的関心を表明していること、しかも伝統的な自動車産業だけではなく、薬品、通信設備、農業さらには日本が大いに先を行っている都市環境創造等にわたっていることを指摘したい。我々はそういう経験を利用したい。もちろん我々は、エネルギー分野でも協力しており、その中には、日本の業者と共同で進めている樺太第1及び第2プロジェクトが含まれている。我々はまた、暫定的に露日エネルギー・ブリッジと名付けているプロジェクトの実行可能性、液体水素を含めた代替燃料の生産についても議論している。これはハイテク分野だ。これらのブレークスルー的な経済プロジェクトと、日本で毎年行っているロシア文化祭、国際レベルでのより緊密なインタラクション等を含む両国の緊密な文化的紐帯とが結びつくことにより、両国人民の利益を守り、議題に上がっている残された課題を解決するのに役立っていくだろうと確信している。