ロシアに対する中国の見方

2016.04.10.

かつてのソ連時代ほどではありませんが、日本におけるロシアに対する見方は概して批判的でネガティヴなものが多いと思います。これは優れてアメリカをはじめとする西側諸国の対ソ連・ロシア観が私たちの見方に色濃く影を落としているからだと思われます。
しかし、今日の中国におけるロシア観は極めて肯定的かつポジティヴなものが多いのです。4月9日付環球時報社説「プーチンとロシア 何故くり返し西側に叩かれるのか」及び4月7日付の中国青年報所掲の海軍工程大学・李大鵬署名文章「シリアにおけるロシアの軍事行動 大国の軍隊の風格を示す」は、日本を含む西側で支配的な見方とは画然と一線を画する中国の対ロシア(プーチン)観を如実に示す文章であり、私たちの固まった見方に対する反省材料を提供しています。参考までに要旨を紹介します。

<環球時報社説>

 この文章は、ロシア及びプーチンが西側から排斥の対象になっている原因を解明する内容ですが、それだけには終わっていません。むしろ、西側にとっての今のロシアは明日の中国である可能性があるという認識を表明しているところが重要なポイントだと思います。

 ロシアは国民近衛軍の成立を公表した。総人数は40万に達し、プーチンの指導に直属する。このニュースは西側世論の悪意に満ちた解釈を招いている。ロシア経済は困難に直面しており、ロシア政治は安定していないとするスペキュレーションは様々な原因により大量に流布されており、プーチンが設立した近衛軍に関しては、西側世論はロシアが国内で深刻な政治的挑戦に直面していることのシグナルだと見なしている。西側世論は近く成立する部隊に対して「プーチン近衛軍」というあだ名をつけている。
 プーチンは西側から「独裁者」と称され、今はまた国外に数十億ドルの資産を持っているように疑惑的に描かれ、しかも、友人を通じてマネー・ロンダリングによって蓄財しているとされている。プーチンは自らの安全に極度に神経質になっており、「枕を高くして眠れず」、そこで大慌てで自らに忠誠を尽くす「近衛軍」を作ったというのだ。西側世論は、一つ一つの材料をかき集めてこういう情景を描き出している。
 プーチンはロシアで約80%という高い支持率を維持しているが、西側世論においては、カダフィやサダムと同列の「悪魔」と見なされている。西側のエリートたちは、プーチンを死なせなければ気が済まないかのようだ。国家としてのロシアも同じように悲劇に遭っている。ソ連はとっくの昔に解体したし、ロシアは西側の選挙制度を受け入れたが、西側におけるロシアのイメージは相変わらず最低であり、西側は、かつてのソ連に対する恨み辛みをほとんどそのままロシアに対して引き継いでいる。
 仮にロシアのデモクラシーが「不徹底」というのであれば、かつてソ連の一部だったアゼルバイジャン、カザクスタン、トルクメニスタンなど、多くの新生国家も強権体制であり、これら諸国における個人支配政治の色彩はロシアをはるかに凌駕している。しかるに西側はこれら諸国に対しては友好的で、包容ある姿勢を維持しているのであって、独りロシアだけが西側の眼鏡にかなわず、何が何でもプーチンの「専制帝国」となるのだ。
 西側との矛盾を緩和するという角度から見ると、モスクワは明らかに失敗例である。ロシアは先にバルト3国を差し出し、その後はソ連解体、共産党下野という天地がひっくり返るほどの変遷を経験し、この上ないほどの社会的代価を支払った。しかし、モスクワから西側を見ると、ロシアは相変わらずNATOに敵視され、しかもロシアがこの敵対に対処するための資源や手段はほとんどゼロに近いのだ。それら失われた資源の一部は西側の戦利品となり、ロシアに対処するために使われている有様だ。
 そうなる根本原因は、今日のロシアが相変わらず大国であることにある。その国土はユーラシアを跨いで9つの時間帯を擁し、人口は1億4千万人だ。もっとも重要なものは、ソ連の核戦力を継承し、今日でも相変わらず「アメリカを10分以内に壊滅できる」唯一の国家であるということだ。
 西側の国際政治学は力の規模をもっとも重視しており、この種の力が善意の扱いを受けることは短期的にはほとんどない。ロシアの超弩級の軍事力は引き続き米欧の不安材料であり、ロシアを西側主導の世界に溶け込ませることを不可能にしている。
 ピーター大帝の時代以来、西側に溶け込むことはロシア人の夢だったが、彼らの夢はくり返し挫折してきた。プーチンの強硬政策は、エリチン時代の西側に溶け込もうとする努力が失敗した後の一種の反発と見ることができる。このような反発は感情的な部分もあるが、より多くは防御線再構築のための止むに止まれぬ対応である。
 西側システムは人々が考えるほど開放的ではなく、その利益の中心は相対的に固定化されており、新しい外部の力が溶け込み、利益の分け前に与ることは極めて難しい。日本も完全に「西側国家」となったわけではなく、むしろアメリカの軍事占領下の「準西側」に近い。ロシアがかくも多くの核弾頭を持ちながら西側件の平等なメンバーになろうとすることは、さらに考えられないことである。
 ロシアは、大国が西側にこびを売って追随した揚げ句、バッサリやられて再び自分自身の途を歩まざるを得なくなった悲惨なケースである。しかし、ロシアが全面的に回復することには一定の困難がある。西側のロシアに対する敵視及び圧力は尽きることがなく、それに対するロシアの現在の経済的実力及び世論の力は、西側の攻勢に対する抵抗を支えるのには明らかに無理がある。ロシアは軍事力を中心にした国家の力の構造をなしており、民生とエネルギー価格との関係が緊密に過ぎて、外からのリスクに抵抗する能力は比較的脆弱である。
 大国であるものは必然的に地縁政治上の競争に直面するのであり、西側システムの外で大国であることは極めて厳しいものがある。アメリカが他の大国の力を削ごうとするのは本能的なものがあり、西側の長期にわたる発展においては、他の大国の力を削ぐための大量の資源と手段を蓄積している。西側以外の大国が台頭するに当たっては、次から次へと繰り出される全方位の試練と洗礼に曝されるのだ。
 中国はすでに世界第2位の経済大国になったが、今後についてはますます順調であると期待できないかもしれず、むしろ、西側システムによる「排他的反応」の焦点となる可能性がますますあるかもしれない。我々としては、これに対する思想的準備を十分にしておく必要があるかもしれない。

<中国青年報所掲文章>

 私は軍事問題にはまったくの素人ですし、正直あまり関心がありませんが、この文章に示された中国側のロシアの軍事力に対する高い評価は素直に納得できる内容でした。これが中国のロシアに対する過大評価ではないことは、最近、NATO司令官がロシアの軍事力は極めて高い水準にあると発言したことによっても確認できます。

(主要目標を達成したロシアの軍事行動)
 ロシア軍のシリアにおける行動は順風満帆であり、戦果はめざましく、世界の注目を引きつけた。同時に、ロシア軍の人員及び装備の損失は極めて軽微であり、かかる背景のもとでロシア軍が突然撤兵を宣言し、しかも3日以内にそれを完成させたことは、少なからぬ意外感をもって受けとめられた。
 ロシア軍のシリアにおける大規模な軍事行動はすでに5ヶ月を超えており、その時間だけに限っていえば、冷戦終結以後の西側諸国の参加したいくつかの局地戦争と比較した場合、この5ヶ月という時間は「短い」とは言えない。1991年の湾岸戦争では42日間の空襲と100時間の地上戦闘があったし、1999年のコソボ戦争では78日間の空襲が行われ、2011年のリビア戦争では7ヶ月間の断続的空襲が行われた。
 ロシア軍の持続的かつ高強度の空中からの攻撃は、イスラム国の「すさまじい」と形容するに足る短期的拡張の勢いを有効に抑え込み、その大量の戦力と施設を消滅させ、戦争する実力と潜在力を大々的に弱め、シリア国内の軍事的政治的情勢を安定化させ、シリア政府と反対派との間の停戦の条件をつくり出し、それを実現した。
 地縁政治の観点から見ると、ロシアはシリアにおける軍事プレゼンスを強固にし、シリア及びその周辺のイラク、イラン、トルコ等国家、さらには地中海東部地域並びに中東問題に対する影響力を高め、今後のシリアひいては中東問題は、ロシアなしでは真に有効な解決は得られなくなった。
 地縁政治の衝突は往々にして「波及的」効果を伴う。現在の欧州は、シリア内戦及びテロの脅威、難民問題が深刻であり、ロシアの欧州及び中東問題に対する影響力が不断に高まることにより、西側としては、ロシアの安全保障及び利益にかかわる要求に対して慎重に対応しなければならなくなっている。
 3月はじめに、EU委員会主席は、ウクライナは今後20~25年間はEU及びNATOのメンバー国にはなれないと述べた。しかもウクライナの東部及び西部は分裂的エネルギーが長期にわたって存在しており、ウクライナ東部の危機解決の見通しはウクライナにとってますます楽観できない状況だ。
 ロシアのシリア出兵は、西側に対する対抗であると同時にデタランスでもあり、ロシアは世界に対して軍事手段で自国の安全保障、利益を防衛する決意と能力を明らかにし、NATOの東方拡大及びミサイル防衛システム配備による戦略的圧力に対抗し、西側との全面的対決において、受け身的対応の局面を抜け出し、局部的には地縁上の主動的地位を占めるに至った。
 2015年のロシアの新版「国家安全保障戦略」においては、ロシアはまず政治的、外交的、法律的等手段で国家利益を維持することに力を尽くすが、非軍事的手段が効果ない状況のもとでは、軍事手段を運用して国家の利益を防衛するとしている。シリア出兵は、新版「国家安全保障戦略」中の「軍事手段を運用」する「積極性」及び「主動性」を体現した。
(出兵の合法性堅持による道義的高地の確固とした支配)
 近年、西側の抑え込み及び圧力に対し、ロシアは頑として引かず、そのことが国際社会でロシアを西側によって孤立させられ、その地縁政治環境を楽観が許さないものにしてきた。ロシアと西側との全面的対決という大きな背景のもと、ロシアのシリア出兵の目的に対して疑問が提起されるのは自然なことだ。
 したがってロシアとしては、シリア出兵の合法性及び戦争する道義性を考慮し、自らが置かれた国際的及び地縁政治的な環境をさらに悪化させることを避けなければならない。したがってロシアはたびたび、出兵はシリア合法政府の請求に応えたものであって国際法に完全に合致しており、ロシアはシリアの内政に干渉する意図はなく、ロシア軍の行動は「テロに対する打撃」という目標に終始し、軍事的に拡張することはロシアの選択肢にはないことを明らかにしてきた。
 ロシア軍は慎重かつ精確に打撃目標を選択し、シリア軍による地上作戦行動主導を堅持し、空中からの打撃を主たる作戦形態として採用し、附随する殺傷を回避し、西側との「軍事摩擦」を起こさず、トルコによるロシア軍機撃墜はあったにせよ、ロシアは自制を維持した。
 イスラム国にとって石油は資金の主要なソースである。その石油輸出ルートを切断し、石油関連のインフラを壊滅し、効果的にその基盤を弱めたことは、国際的に広く人心を得るものだった。ロシア軍はイスラム国の石油運搬ルート及び基礎インフラを重点的に叩くと同時に、国際世論に対する宣伝を重視し、イスラム国の石油販売の証拠を明らかにし、道義的圧力をかけ、関係方面がイスラム国と石油の取引をすることを躊躇せざるを得ないようにし、それらによってイスラム国の石油販売収入を半減させた。
 国内の支持を取り付けるため、プーチン大統領、メドベージェフ首相、ラブロフ外相は、出兵はアサド政権を守るためではないとし、国外のテロ分子を消滅しないと彼らがロシアに来るとし、現在行動を取らないと将来さらに大きな代価を支払うことになるとしきりに強調した。世論調査によれば、2015年10月にはプーチンに対する国内の支持率は空前の90%に達したし、本年3月には、プーチンが再び大統領職に留まることを希望するものが去年の57%から65%にまで上昇した。
 ロシアのシリアにおける軍事行動は、「根拠、理屈、力及びけじめがすべて備わっている」と言える。外交及び世論の宣伝は行き届いており、出兵の合法性及び正義性を堅持し、最大限に国際的及び国内的支持を取り付け、兵力の輸送、配備、展開、撤収等はすべて円滑かつ迅速であり、軍事打撃は精確、果断、断固たるもので、戦果は赫々たるものだった。
(強い軍隊の風格を見せつけたロシアの軍事行動)
 ロシア軍のシリアにおける軍事行動は、2008年から2010年にかけて行われた一連の軍事改革の成果を十分に反映したものであり、「2020年に至る兵器装備発展綱要」で計画した兵器及び装備の建設の成果を示し、ここ数年の間にロシア軍が大規模軍事演習等によって戦闘力水準を大幅に向上させてきたことを見せつけた。
 ロシア軍のシリアにおける軍事行動を通観するとき、その戦備状況及び迅速に対応する能力は賞賛に値する。また、イスラム国に対する打撃行動において、ロシアの最新戦闘機や主戦用装備がことごとく登場し、強大なデタランス能力を証明した。ロシアの公式発表によれば、5ヶ月半のシリアにおける軍事行動の総費用は330億ルーブルであり、これは5億ドルに満たず、その金額の低さはいぶかるほどのものだ。ロシアの年度軍事費は500~600億ドルであり、これと比較するとはした金に過ぎない。プーチンは、平時の訓練と比較すれば、シリアでの作戦で出費することにはさらに値打ちがあるし、兵器や装備の問題点は実戦の中で初めて明らかになると述べた。同時に、この出費で済んだことは、ロシア軍の作戦の組織、指揮及び管理がかなり効率高いことをも示している。