中国の目指す国際秩序構想

2016.04.04.

私は、中国が21世紀の国際関係のあり方についてどのような認識を持って臨んでいるのかについて大きな関心を持っています。米ソ冷戦終結後のアメリカの一極支配構造が破産した今日、急台頭する中国は新しい国際秩序のあり方を提起する最有力の存在であることは、それを望ましいと見るか否かについては議論が分かれるとしても、否定しようもないことだからです。
4月1日付の環球時報は、中共中央党校国際戦略研究院副院長の劉建飛教授が行った講演をまとめた文章「中国はいかなる国際秩序を追求するか」を掲載しました。この文章で劉建飛は、建国後の中国の主張の変化を簡潔に整理した上で、今日における中国の考え方を提示しています。
最大のポイントは、一時期は新国際政治経済秩序の実現を主張していたが、今日では、米欧諸国がこのような主張を警戒したことを踏まえ、戦後形成された米欧主導の国際秩序に正面から挑戦するということではなく、むしろそれをより公正かつ合理的なものにすることを目指しているとしている点にあると思います。また、国際システムと国際秩序との関係性に関する指摘も私にとっては目新しい内容があります。

中国は国際構造の進化の中でもっとも活発な存在であるとともに、国際秩序変革の積極的な推進者でもある。中国はこの問題に十分な認識を有しており、一貫して国際秩序問題に関心を払ってきた。
<国際秩序に対する一貫した独自の主張>
まずは毛沢東の「三つの世界」の区分があるが、これは国際構造を再構築する構想であるとともに、国際秩序を変化させる意味合いをも持っていた。次いで1974年の国連総会で、鄧小平は初めて国際経済秩序に関する立場を表明し、多くの途上国による国際経済新秩序建設の主張を支持した。
1980年代末、急変する国際情勢に直面して、鄧小平は国際政治新秩序を建設する問題を提起した。鄧小平は次のように述べた。「世界では二つのことを同時にする必要がある。一つは国際政治新秩序を建設することであり、もう一つは国際経済新秩序を建設することである。」ソ連東欧における急変が始まった後、鄧小平は新秩序建設をさらに強調した。すなわち1990年3月3日、彼は数人の党中央の責任者との会談の中で次のように述べた。「我が国の対外政策はやはり二つだ。第一に覇権主義及び強権政治に反対して世界平和を維持すること、第二に国際政治新秩序及び経済新秩序を建設することだ。」
1992年、江沢民は中国共産党第14回大会の報告の中で、新秩序建設を中国の対外政策の重要事項と定め、新秩序の内容について次のように詳述した。「歴史的経験及び現実の情勢に基づき、我々は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等互恵、平和共存等原則の基礎の上に、平和、安定、公正及び合理的な国際新秩序を建設することを主張する。この新秩序の中には、平等互恵の国際経済新秩序を建設することを含む。」この政策は一貫して堅持され、15回及び16回党大会の報告は、新秩序建設問題を独立して叙述している。
総合的に見れば、この時期に中国が主張した新秩序は、経済面では現行の西側主導の国際経済秩序を改革しようというものであった。政治面での核心的な内容は次の2点であった。一つは覇権主義及び強権政治に対する反対、もう一つは平和共存5原則を基礎とするということだ。この新秩序の基本精神は国連憲章の趣旨と一致しており、相互に背反するものではない。冷戦終結以後の中国の対国連政策と結び合わせれば、中国が建設しようとする新秩序は国連秩序を放り出して「まったく新しいものを作る」ということではなかったことが分かる。中国は、中国が国連の役割を重視し、国連の事業に積極的に参与し、世界平和維持等の国際的事業において国連が積極的役割を果たすことを支持するということを明確にしていた。要約すれば、中国が建設しようとした国際政治新秩序とは、西側の強権的秩序を弱体化させると同時に国連秩序を強化するということだった。
<理性的、実務的になった中国の認識>
中国の新秩序にかかわる主張は、一部大国の積極的反応を得た。1997年4月、中国はロシアとの間で「世界多極化及び国際新秩序建設に関する共同声明」に署名し、多極的世界及び国際新秩序を建設する主張を展開した。2005年7月にも、中露は再び「21世紀国際新秩序に関する共同声明」に署名し、新たな国際情勢に基づいて国際新秩序を建設する主張を展開した。
EU、インドその他の多くの途上諸国は中露のように旗幟鮮明に国際新秩序建設の主張を行ったことはないが、これら諸国の外交実践及び対外政策表明から見れば、これら諸国も公正で合理的な国際新秩序の建設及び国連の地位を向上することに賛成している。例えば、国連において次第に相対的に独立した政治勢力となっているEUは、改革を通じて国連の地位及び役割を強化することを主張しており、国連は「一部国家が自国の利益を追求するための道具になるべきではない」としている。
しかし、国際秩序の変革は複雑で曲折のあるプロセスである。世の中の変化に従い、国際秩序問題に対する中国の認識はますます理性的かつ実務的になっている。中国共産党第17回大会報告は、国際秩序問題を述べるに当たって叙述の仕方に変化があり、「新秩序を建設する」を「国際秩序が公正かつ合理的な方向に向かって発展することを推進する」という表現に代えた。18回党大会報告もこの提起の仕方を堅持している。
18回党大会以後、国際構造の進化の加速化に直面して、中国指導者は国際秩序問題をさらに重視することになった。習近平主席は、2014年党中央外事工作会議の席上で国際情勢を詳述した際、「国際秩序の争いの長期性を十分に計算すると同時に、国際システムの変革方向が変わり得ないということをさらに見て取るべきである」と強調した。習近平は、国際秩序と国際システムとを関係づけて捉え、両者の間の関係性を明らかにした。すなわち、国際システムにおいて比較的活発な要素である国際構造の進化の方向は逆転しえないのであり、したがって国際システムの変革の方向も変わり得ない。しかし、国際秩序は相対的に安定的であるので、国際秩序にかかわる争いも長期性を有するということだ。
<国際秩序変革に対応した中国の積極的役割>
総じて見る時、国際秩序変革における中国の役割はさらに積極的となるだろう。中国の目指すことは、国際秩序をさらに公正で合理的にし、途上国にとって有利な方向に向けて変革させるということだ。経済秩序及び政治秩序という2つの異なる側面に即し、中国自身の利益及び外交的な戦略配置と結合させ、中国はそれぞれに即した政策方針を採用するべきである。
国際経済秩序に関しては、中国は積極的に現行の国際システムに参与し、その中での地位を向上することを図り、さらに大きな役割を発揮するとともに、積極的に新しいことに取り組み、メカニズムの革新を進めるべきであり、アジア投資開発銀行はその一例である。メカニズム革新に当たっては、開放性を保ち、西側諸国の参加を容れ、新メカニズム建設を途上国と先進国の協力のプラットフォームとし、対決の堡塁とはしない。
国際政治新秩序に関しては、中国は国連改革を積極的に推進するべきであり、改革の大方向をしっかり掴み、途上国の発言権を増加し、国連の権威を守り、国連の効率を向上させる。正しい方向を歪めるような改革案が提出される可能性に対しては、中国は旗幟鮮明に反対する。中国の立場と相反する提案国に対しては、それぞれの状況に即してそれぞれの対策を講じる(浅井注:これは、日本がインド、ブラジル、ドイツなどとともに国連安保理改革案を推進していることを念頭においてものです)。さらに、国連改革と中国の全体としての外交戦略とを結合させる必要もある。
国際安全保障に関しては、中国は、重点的に周辺安全保障共同体及びアジア安全保障共同体を構築するとともに、新型大国関係及び新型国際関係の建設によって世界平和を維持し、共通の安全保障を実現し、人類安全保障共同体を構築していく。