シリアからのロシア軍撤兵(プーチン演説)

2016.03.20.

3月17日、ロシアのプーチン大統領はクレムリンでシリア作戦にかかわった700人以上の将兵(及び産軍複合体代表)に対して国家勲章を授与するとともに、演説を行いました。その内容は正にシリア作戦勝利演説と形容できるものです。また、現時点での大規模作戦終了がプーチンの戦略的判断に基づくものであることをも示しました。アメリカのオバマ大統領の対シリア作戦における迷走ぶりと鮮やかなコントラストをなしています。
もう一点私が注目したのは、プーチン演説は、この実戦を通じてロシアの軍事力が現代戦争遂行に耐えうるものであることを証明したことを誇示し、ソ連崩壊後の試練をロシア軍が克服したことを確認するとともに、更なる軍事力向上のためのデータをも収集することに役立ったことを明らかにしている点です。
私は、ウクライナ危機以後、指導者としてのプーチンに高い評価を与えるようになりましたが、今回の演説内容は改めてプーチンの指導者としての資質の高さを確認させる内容だと思いました。ということで、彼の演説内容(出所:ロシア大統領府WS英文版)のさわりを紹介します。

皆さんは、2015年9月の状況がいかなるものであったかは覚えている。当時、シリアのかなりの部分はテロリストによって占拠され、状況は悪化しつつあった。国際法に全面的に従い、正統政府及びシリア大統領の要請により、我々は軍事作戦を開始することを決定した。開始当時から、我々はその目標については非常に明確だった。すなわち、シリア軍のテロリストに対する合法的な戦いを支援するということだ。我々の行動は、テロリストに対する主動的な攻撃期間と設定された。我々は、シリア国内の紛争に巻き込まれるつもりはないことを明確に述べた。シリア人だけが最終的解決を探究し、自国の将来を決定するべきである。
我々の作戦の主要対象はテロリズムであった。国際テロリズムに対する闘争は公正かつ正義である。これは文明の敵、野蛮と暴力を持ち込む敵、世界が奉じる偉大な精神的、人道的諸価値を否認しようとする敵に対する闘争である。くり返すが、シリアにおける我々の行動の主要な目標は、世界的な悪をストップさせ、テロリズムのロシアへの波及を許さないということだった。そして我が国は、疑問の余地のないリーダーシップ、意思力及び責任を証明した。
我々が達成した成果について。皆さんの行動及び戦闘努力によって状況はがらりと変わった。我々は、テロリストの腫瘍が成長するのを許さず、彼らの隠れ家及び武器庫を破壊し、彼らの主要な資金源である石油密輸ルートをブロックした。
我々は、合法的シリア当局を支援する大量の仕事を行った。我々は、シリア軍を強化した。シリア軍は今や、テロリストの攻撃を食い止めることができるだけでなく、テロリストに対する攻撃作戦も行い得るようになっている。シリア軍は戦略的主導権を掌握し、テロリストの支配地域を掃討し続けている。
重要なことは、我々が和平プロセス開始のための条件を創造したことだ。我々は、アメリカ以下の多くの国々及び、戦争を終わらせ、紛争の政治解決を見出すことを真に願っているシリアの責任ある政治諸勢力との間で、積極的で建設的な協力を達成することに成功した。平和への道を切りひらいたのはあなたたちロシア将兵である。
反対派とシリア政府軍との間で停戦協定が達成された後、我が空軍部隊の任務は大幅に減少した。1日の出撃回数は、60-80回から20-30回へと1/3に下がった。その結果、我々がシリアに展開する軍事力は過剰となった。我が軍の人員と装備を大幅に撤去するという決定は、アサド大統領との協調のもとで行われた。アサド大統領は事前に我が計画を通報され、それを支持した。
露米共同声明においては、国連によってテロ組織と認定されたものに対する戦いは継続されることをロシアとアメリカが強調していることをつけ加えておきたい。また、停戦にコミットした反対派の軍事力に対しては、シリア軍はいかなる行動も取らない。同時に、停戦に違反するグループはアメリカが提供するリストから削除され、それとともにすべての報いを受けるということを強調したい。
以上との関連で、シリアに引き続き駐留するロシア軍の任務について明らかにしておきたい。主要な任務は、停戦を監視し、シリアにおける政治的対話の条件をつくり出すことである。シリアにおける我が基地はタルトゥス(Tartus)とクメイミム(Khmeimim)にあるが、同基地の人員は陸海空から確実に保護されている。配備されている防空システム(短距離及び長距離を含む)はすべて通常の任務に就いている。我々がシリアの防空軍の能力を大幅に回復させたことも指摘したい。すべての関係者はこのことを知らされている。我々は基本的な国際的規範に従っている。すなわち、誰も主権国家(ここではシリア)の空域を侵犯する権利はない。
我々は、アメリカと協力して空域での事故を防止するための有効なメカニズムをつくった。しかし、ロシアの将兵に対して脅威となると見なす標的に対しては、我が防空システムが動員されることをすべての関係国に通報した。いかなる標的に対しても、ということを強調したい。
我々が合法的なシリア政府に対する支援提供を継続することは当然である。この支援は包括的であり、金融支援、装備及び武器の提供、シリア軍の訓練及び建設の援助、偵察支援並びにプランニングを行う司令部に対する支援を含む。最後に、直接支援として、各種空軍力の使用も含まれる。シリアに留まるロシア軍はこの任務を行うのに十分である。我々は、シリアの軍及び当局がイスラム国、ヌスラ戦線その他の国連安保理によって宣言されたその他のテロリスト集団に対して行う戦闘を支援し続ける。テロリズムに対する我々の妥協なき姿勢は変わらない。
縮小後のロシア軍の軍事力バランスはどうなるか。バランスは確保されるだろう。さらに言えば、シリア軍に対する我々の支援及び強化により、愛国的勢力はテロリズムに対する闘争で、近い将来に成功を収めることになるだろう。パルミラ周辺及び同市に通じる地域においては激しい戦闘が行われている。この世界文明の宝庫がシリア人民及び世界全体のもとに回復されることを希望する。
必要となれば、ロシアはもちろん数時間以内に状況の必要に応じた規模にまで軍事力を高めることができるし、利用可能なすべての選択肢を行使することもできる。我々としてはそうしたくはない。軍事的エスカレーションは我々の選択するところではない。我々は、双方の常識、和平プロセスに対するシリア当局及び反対派の遵守を期待している。
この点に関連して、アサド大統領の立場について述べたい。彼の用意、平和を願う誠実さ、妥協と対話の用意を知っている。我々が一部の軍事力を撤退したという事実そのものが重要な積極的サインであり、シリア紛争のすべての当事者がこれを正当に評価すると確信する。シリアにおける平和確立を支援し、テロリストの脅威で長らく苦しんできたシリア人民を解放し、シリア人が自国を回復することを支援するため、我々は各国と協力するべくあらゆる努力を行うだろう。
あなたたちは、我が軍が強力で、先進的で、十分に装備されていること、我が戦闘員は不屈で、訓練が十分に行き届き、もっとも困難な大規模な任務をも克服できることを証明した。対テロ作戦において、あなたたちは9000回以上の出撃を完遂した。射程1500キロの高精度カリブル巡航ミサイルは、カスピ海及び地中海における艦艇及び潜水艦からテロリスト施設に対して発射された。我が海軍の専門的行動は誇りだ。長距離戦略空軍もよくやった。射程約4500キロの新型X-101ミサイルが使用された。最後に、短期間のうちに先進的で有効な防空システムを配備し、すべての軍事力間の協力体制を開発し、支援体制を組織した。輸送空軍部隊及び海軍支援艦艇もよくやった。ほとんどすべての重要な支援に関する問題、遠隔地での戦闘における諸戦力の組織化という課題が見事にかつタイムリーに解決され、ロシア空軍の質が向上したことを証明した。
軍産複合体の代表にも感謝したい。ロシアの最新鋭の兵器はテストをパスした。射程だけではなく実戦においても。これは最善かつもっとも深刻なテストだった。この経験は、必要な変更を導入し、装備の効率と信頼性を改善し、新世代の兵器を開発し、諸軍種を改善し、その戦闘力を向上することを可能にするだろう。
我々は、第二次大戦開始時の悲劇的な出来事を含めた歴史の教訓、軍隊の建設及び設計における誤りそして新しい軍備の不足のために支払った代価を想起するべきだ。すべてのことを適時にやっておくべきだ。弱さ、怠慢そして手抜きは常に危険である。
シリアにおける軍事作戦には一定の金額が必要だった。もっとも必要資金の捻出は主に国防省の財源でまかなった。約33億ルーブルの軍事支出が国防省の2015年予算で割り当てられた。これらのコストは、シリア向けに再割り当てしただけであり、実戦条件のもとにおける戦闘スキルの訓練及び向上ほど優れた方法はない。
兵器、装備及び弾薬の再備蓄並びにシリアで使用された装備の修理などのために追加的資金が必要になる。しかし、これらのものを戦闘でテストし、欠点を見つけて修正するチャンスだったのだから、こういったコストは妥当かつ必要だと考える。これらのコストは我が国の防衛力を高め、ロシアの安全保障を確保するための戦略的及び現在の課題を解決することに役立つ。我々は、将来にもっと高い代価を支払うのを避けるため、今そうする必要がある。