対朝鮮制裁決議と中露

2016.03.03.

3月2日に朝鮮に対する国連安保理の制裁決議が採択されました。決議の採択及びその内容については、2月23日に行われた米中外相会談によって基本的に合意されましたが、それを受けてアメリカが作成した決議案をロシアに渡したのに対して、ロシアは、「1ヶ月以上前に決議案の作成作業が始まったのに、誰も我々に案文を送ってこなかった。我々は受け取ったばかりだ」(2月26日に行われたロシア外務省定例記者ブリーフィングでのザハロヴァ報道官発言)と、米中だけで物事を進めたことに対して不満を露わにしました(ロシア外務省WS)。そして、3月1日のラブロフ・ケリー及び3月2日のラブロフ・王毅という外相レベルでの電話会談を経て、ロシアが修正案を提起し、それを盛り込んだ安保理決議が採択されるという経緯を経ました。
 この決議採択の前後には、朝中間及び朝露間で興味深い出来事も起こっていますし、決議採択直後に、新華社が「中国が対朝新決議に賛成した3大要因」と題する新華社記者(閻亮、包尓文、趙悦)署名文章もいち早く載せて、制裁が目的ではなく、交渉による解決をあくまで追求するべきだと主張するなどの動きもあります。
一連の出来事を紹介しておきます。

<2月26日のザハロヴァ報道官発言>

 ロシア外務省のザハロヴァ報道官は、記者からの質問に対して次のように答えました。

 (質問)アメリカと中国は、北朝鮮に対する安保理制裁を拡大する決議案に合意した。制裁決議は、中国が過去には阻止したいくつかのポイントが含まれている。例えば、航空機燃料の提供禁止、北朝鮮からの天然資源輸入、北朝鮮船舶の世界各地の港湾への寄港などだ。したがって、大規模建設や核ミサイル計画がこれらの制裁の対象になる可能性がある。北朝鮮に対して制裁を行う(この決議の)立場に対してロシアは合意するか。この制裁決議は経済協力に対して制限を課すものか。露朝韓の間にはハッサン-羅津共同プロジェクトがある。ロシアは、韓国がキャンセルする場合には新しいパートナーを探すのか、それともこの決議はこのプロジェクトには影響しないのか。
 (回答)言及のあった決議に関しては、案文が我々に渡ったことを確認する。この案文は、いくつかの国々と協議したアメリカが起案したものだ。1ヶ月以上前に決議案の作成作業が始まったのに、誰も我々に案文を送ってこなかった。我々は受け取ったばかりだ。
 この案文については、関係する問題点を考慮し、ロシア外務省内部及び関係省庁間で詳細に検討する必要がある。したがって、関係省庁間の接触を含め、我々がこの決議案にどう対応するか、また、メディアに対して我々の立場及び全般的な政府のアプローチについて説明するのに検討する時間が必要だ。そのために時間を設定中だ。
 (質問)アメリカと中国は、北朝鮮に対する新しい制裁に関する安保理決議案について合意した。決議案が投票に付されるときのロシアの考え方如何。
 (回答)すでに述べたとおり、ロシアは安保理のメンバーであり、問題を検討する時間が必要だ。というのは、問題はロシア外務省がどう政治的に対応するかだけではなく、多くの問題にかかわっているので、関係省庁による専門的評価も必要だ。したがって時間が必要だ。今のところ、投票期日について見通しはない。このケースに関して重要なのは、何時投票するかではなく、如何に投票するかということだ。
 (質問)この決議は露朝関係にいかなる影響があるか。
 (回答)我々は、北朝鮮及び他の国々との二国間関係を発展させている。しかし、国際法にかかわる反応は一定のステップが必要だ。我々は情勢の評価において一貫している。国連安保理は、我々が正統と見なす制裁を含む文書を採択することができる唯一の機関だ。違いがあること、そしてもっとも重要なことだが、安保理による決定のメカニズム及び内容さらにはその目的を理解することが不可欠だ。くり返すが、二国間の結びつきについては発展させていく。同時に、安保理に基づく対応に関しては、国際法にかかわる問題がある。

<ラブロフ外相の米中外相との電話会談>

 3月1日にラブロフ外相は、米側要請に基づき、ケリー国務長官と電話会談を行いました。この会談ではシリア問題が中心でしたが、「朝鮮に対する措置に関する安保理決議及び朝鮮による情勢を不安定化させる核ミサイル計画についても討議された」と紹介されました(3月2日付ロシア外務省WS)。
 また翌3月2日には、ラブロフ外相は王毅外交部長と電話会談を行い、「朝鮮民主主義人民共和国が行った核ミサイル実験に対する国連安保理決議について、及び北東アジアの安全問題に関するモスクワと北京の協調を深めることを目的として、朝鮮半島の事態の見通しについて討議した」ことが紹介されました(同日付ロシア外務省WS)。
 ちなみに、3月2日付の中国外交部WSも、中露外相電話会談について、より詳しく立ち入って次のように紹介しています。

 王毅は、中露は全面的戦略パートナーシップとして、重要な国際及び地域問題に関して緊密な協力を維持していると述べた。現在の時点では、中露は安保理が朝鮮に対する新決議を採択することに関して有効な意思疎通を行っており、朝鮮がさらに核ミサイル計画を発展させることを阻止し、半島に戦乱が生じることを回避し、中露の正当な権益を擁護することに関して重要な共通認識を形成することで、中露の高いレベルの戦略的協力を体現している。
 王毅は次のように強調した。半島核問題の解決の最終的出口は対話交渉の軌道に戻ることが必要だ。そのため、中国は、半島の非核化と停戦メカニズムを平和メカニズムに転換することとのダブル・トラックで進めるという考え方を提起しており、これについてロシアと協力を強化したいと考えている。
 ラブロフは次のように述べた。ロシアは、安保理で露中が新しい朝鮮に関する決議に関して行っている緊密な協調を高く評価しており、引き続き中国と意思疎通を保ち、核不拡散体制の権威を守り、半島の平和と安定を守ることを願っている。

<中朝間及び中露間の動き>

 中朝間及び中露間には、次のような出来事が起こっています。
2月24日付朝鮮・労働新聞WS(中国語版)は、前日(2月23日)に、朝鮮対外文化連絡委員会、朝中友好協会中央委員会、中国文化部及び中国駐朝鮮大使館が共同主催した2016年朝中友好迎春音楽会がモランボン劇場で行われ、朝中友好協会中央委員会委員長で保健相の姜河国及び李進軍駐朝大使などが出席したことを報じました。私がチェックした限りでは、朝鮮中央通信にはこの報道がありません(私は、朝鮮中央通信WSがしばしばアクセスできなくなるので、ダメ元で労働新聞WSにアクセスしてみたのですが、そこで中国語版があることを見つけ、最近フォローするようにしています。その中で、この記事をたまたま見つけた次第です)。
また、3月2日付朝鮮中央通信は、「朝鮮にロシア政府が世界食糧計画(WFP)を通じて寄贈する食糧が2月26日、南浦港に到着した。ロシア政府の食糧支援は、両国間の伝統的な友好・協力関係をよりいっそう発展させることに寄与するであろう」と報道しています。同日付の中国新聞網もこの報道に注目して紹介し、さらにロシア・メディアの報道として、昨年4月に朝鮮対外経済部長の李龍男が、露朝政府間委員会会議の席上、平壌はロシアから5万トンの小麦を優遇ローンで購入することを希望していると発言したことも紹介しました。さらに中新網は、ロシアは2014年に総額5,490億ルーブルの46,250トンの小麦を朝鮮に提供したとも報じています。
私が注目するのは、米中外相が対朝鮮制裁決議について協議した直後に朝中友好迎春音楽会が行われたことを労働新聞が報じていること、また、安保理決議が成立するその日に朝鮮中央通信がロシアからの食糧「寄贈」を報じ、しかも「ロシア政府の食糧支援は、両国間の伝統的な友好・協力関係をよりいっそう発展させることに寄与するであろう」と好意的に紹介していることです。あまり深読みするべきではありませんが、朝鮮が安保理新制裁決議の成立、特に中露両国がこの決議に賛成することについて織り込み済みであることを示唆するものであることは間違いないでしょう。

<新華社記事「中国が対朝新決議に賛成した3大要因」>

新華社のこの記事は、「新決議は朝鮮に対する新しい制裁措置を含んでいるが、全体としてバランスが取れたものであり、方向性が明確なものだ」としたうえで、「中国は何故に新決議に賛成票を投じたのか」と自問して次のように説明しています。新華社記者の記事という体裁を取っていますが、中国政府の立場を明らかにするものであることは明らかです。

第一に、グローバルな角度からいえば、朝鮮は何度も国連決議に違反し、核不拡散体制に危機を及ぼし、国連安保理の権威を損なった。また地域レベルから見れば、朝鮮は、関係諸国が「核関連」及び「ミサイル関連」の問題で達成した多くのマルチまたはバイの協定に違反し、朝鮮半島の平和に脅威となり、東北アジア情勢に変数をもたらした。
以上に鑑み、また、東北アジアひいては世界の平和を守るため、中国は、国連が朝鮮による核実験及び衛星打ち上げに対して必要かつ適度の反応を行うことを支持するのであり、その目的は朝鮮が核武装の道をますます進めることを阻止することである。中国は、国連安保理常任理事国として、国際の平和及び安全に対して重要な責任を担っている。
復旦大学国際問題研究院朝鮮韓国研究中心の鄭継永主任は、新華社記者のインタビューに対して、朝鮮が不断に軍事的緊張を招く行動を取ることに対して適度な対応を行わなければならないと表明した。
第二に、中国が新決議に賛成したのは、当該決議が朝鮮の核兵器及びミサイル開発計画に着目しており、朝鮮の正常な民生に対するものではないからである。
鄭継永は、新決議は朝鮮の軍事関連の行動、とりわけ「核関連」及び「ミサイル関連」措置に向けられており、重点は予防であると指摘した。鄭継永は同時に、次のように述べた。すなわち、関係諸国は、制裁にかこつけて朝鮮を「崩壊」の類の予定した状況に故意に引っ張っていくことがあってはならない。新決議は朝鮮の誤った行動に対する反応であり、朝鮮に対する新たな包囲及び封殺を形成することではない。関係諸国は、これをチャンスとして朝鮮が軍事的動きに出るように仕向け、さらに深刻な対決と衝突を招くようなことがあってはならない。
第三に、中国が新決議に賛成したのは、朝鮮核問題を再び対話交渉の軌道に引き戻すためである。
半島核問題の根っこは中国にあるわけではないにせよ、中国は一貫して客観かつ公正な立場から、関係国とともに問題解決の可能な道筋について積極的に探究してきた。
中国はくり返し、各国は交渉再開の努力を放棄してはならず、半島の平和と安定に対するコミットと責任を放棄してはならないことを強調してきた。中国は各国が交渉のテーブルに戻ることを希望する。なぜならば、交渉のみが問題解決の唯一かつ正しい道筋であるからだ。
公正かつ客観的立場から、中国は半島非核化と半島停戦メカニズムを平和メカニズムに転換することとを併行して推進するという考え方を提起した。この考え方は非核化の大方向を明確にするとともに、各国の合理的関心をもバランスして合理的に解決するものであり、朝鮮半島の長期にわたる平和と安定の実現に有利である。