ロシアの対外強硬姿勢(中国側見方)

2016.02.16.

2月15日付の環球時報は、中央党校国際戦略研究院教授である左鳳栄署名文章「プーチンがいるかいないかに関係なく、ロシアは強硬だろう」を掲載しています。このような内容のロシア政治分析は、日本を含む西側のロシア問題専門家からは余りお目にかからないものだと思います。私としてはとても納得いく興味深い内容ですので、短い文章ですが紹介します。

 アメリカなど西側諸国の包囲に対して、ロシアのメドヴェージェフ首相は先日のミュンヘン安全保障会議で、世界は「新冷戦」に向かっていると警告し、ロシアの「強硬」を再び印象づけた。2014年以来、ロシアはクリミア支配、西側制裁に対する反制裁、鳴り物入りでのシリアにおけるイスラム国空爆など、強硬外交で一貫していると言える。このような強硬さはプーチン大統領の個人的スタイルと無関係とは言えないが、それよりもむしろ、ロシアが直面する地縁政治環境及びその歴史的文化的伝統さらには民族的特性との関係が大きい。
 ロシアが強硬であるのは、西側諸国がロシアの戦略スペースを圧力で狭めようとすることに対する反応である。冷戦終結後、ロシアはいったん西側の抱擁に身を投じようと試みたことがあるが、ロシアを失望させたのは、西側が必要としたのは弱くて強くないロシアだったということだ。ロシアが再び欧州にとって脅威となることがないよう、NATOは不断に東方拡大を行った。同時に、ロシアがかつてのソ連邦を構成していた新独立諸国と関係を強化しようとするいかなる努力をも、西側はすべてロシアの勢力拡大と見なし、ロシアを抑え込み、これと奪い合いを演じた。ウクライナ、グルジアはすべてそういったケースであった。これらの国々の中には、西側モデルの方に魅力があると感じ、「西側に向かう」ものがあったのは非とするに当たらないが、問題だったのは、西側がこれら諸国を「引っ張る」ことによってこれら諸国とロシアとの対立を深め、図らずしてロシアとの関係を引きちぎる結果となったことである。その結果、これら諸国の反露傾向は深刻となり、これら諸国在住のロシア人の権利は保障されないことになってしまった。こういった背景のもと、ロシアが自らの利益を死守しようとすれば、強硬になるしかなかったのだ。
 ロシアが強硬であるのには民意という基礎もある。クリミアを支配する前、ロシアと西側との関係は、起伏はあったにせよ、EUとの関係はまあまあだったし、ドイツ及びフランスとの関係は極めて良好で、貿易額は年々増加していた。ところが、クリミアのロシア編入がウクライナの領土保全を破壊し、EUとしてはこれを甘受できず、アメリカの対露制裁に積極的に参加することとなった。ロシアが公表した記録映画「クリミア復帰」によれば、クリミア「回復」の決定は、ヤヌケヴィッチが「カラー革命」で追い出された後にプーチンが行ったものであるが、その時までには多くのロシア人が自らの意思でクリミアに赴き、現地の分離派勢力を支援していた。クリミアの「復帰」以後、プーチンの支持率は急速に上昇し、大統領当選時には63%だったのが85%以上にまでなった。イスラム国に対する空爆開始以後は、プーチンの支持率はさらに上がり、89.9%までなった。西側の制裁と原油価格の下落のもと、ロシア経済の成長率は2015年にはマイナス3.8%となり、2016年も楽観を許さないが、人々は相変わらずプーチンの強硬姿勢を支持している。ロシアにおいては、愛国主義精神と民族主義とが主流を占めており、民意はプーチンを支持しているし、この点では反対党もプーチンと立場が一致している。
 ロシアの国家発展の歴史を通観すれば、国内の成り行きは往々にして対外政策の目標によって制約を受けている。プーチンは、1期目と2期目で国内秩序を整え、ロシアは急速に回復し、国力は増強し、外貨準備も増加した。クレムリンに再度戻ってからは、プーチンは旧ソ連地域での影響力を拡大し、ユーラシア連合を作ることを外交的重点とした。西側とウクライナについて争い、クリミアを再び支配することによってロシアが支払った代価は極めて大きいが、これは人々の大国感情に合致し、人々の強国願望を満足させたため、全国挙げての普遍的支持を得ることとなった。
 以上から分かるとおり、ロシアの強硬外交はもとよりプーチンの政治運営スタイルと関係があるが、彼一人に原因を帰することはできない。往年の冷戦は、ある意味、ロシアが一方的に対決政策を放棄したことで終結したのだが、「熱戦」終結とは異なり、冷戦「終結後」の世界秩序を整えるものではなかった。また、ロシアは失敗者として甘んじる気持ちはなく、自らの利益を死守し、主導権が取れる大国となろうとしたのであり、プーチンの強硬姿勢は正に、世界におけるロシアの地位と発言権を追求するためのものなのだ。プーチンは西側と対決すると口にしたことは一度としてなく、西側がロシアの利益を尊重することを要求しているだけなのだ。