米誌:ケリー長官の朝鮮問題に関する対中アプローチ批判

2016.02.11.

米誌"the National Interest"WSは、1月31日付でコラムニストであるダグ・バンドウ(Doug Bandow)の文章「朝鮮問題で中米は真っ向から向きあわないのか」('Why China and America Don't See Eye to Eye on North Korea')を掲載しました。この文章は、朝鮮の核開発を止められないのは中国の責任であると非難するケリーの発言を厳しく批判し、中国は主要な当事者ではないし、責任を負ういわれもないとする中国側の主張はまっとうであるとするもので、ケリーに対して朝鮮問題に関する対中アプローチの非現実性を厳しく批判する、アメリカ人の手になるものとしては極めて異色な(私から見れば至極まともな)ものです。大要を紹介します。

 ケリーは北京に行き、朝鮮の核計画について中国が朝鮮に圧力をかける必要性について再びレクチャーを行った。予想どおり、ケリーのミッションは失敗した。習近平政権は朝鮮の核計画に対して何かをする必要があることには同意したが、金王朝及び朝鮮国家の生き残りを脅かすことには乗り気ではなかった。
 朝鮮の第4回核実験後、ケリーは北京の政策を攻撃し、「この政策は効果を上げなかった。我々はいつもどおり(business as usual)を続けることはできない」と述べた。北京訪問中、ケリーは、朝鮮は「世界に対する明白な脅威である」と大げさに言い立てた。
 ケリー到着前から、中国は彼の分析には同意しないことをはっきりさせていた。中国外交部の女性報道官は、「朝鮮半島核問題の原因と本質は中国ではない。問題解決のカギは中国ではない」と述べた。彼女はケリー到着前に「他人に責任をなすりつけるやり方」を退け、ケリー滞在中には、ほかの当事国の行動が「半島非核化プロセスが困難に陥っている主要原因である」とした。中国政府は朝鮮に対する苛立ちを隠さないが、この面倒な隣国のことを懼れているわけではないことを態度で示している。確かなことは、中国は自らの同盟国(朝鮮)を破滅させ、北東アジアにおけるアメリカの立場を強化させることについて納得していないということだ。
 ケリーは、米中双方が朝鮮に対して「新たな重大な措置を織り込む強力な決議」を国連安保理が採択するべく努力を加速させることに合意したと発表することで、状況をますます面倒にした。ケリーは、共通のゴールを達成するだけでは十分ではないと述べた。彼は、「ゴール達成に必要な意味のあるステップについて合意する必要があると確信する」と述べたのだ。
 しかし、これらのステップの意味内容について一々詮索するべきではない。王毅外交部長は、中国政府の朝鮮に対する立場に関する批判を「根拠のないスペキュレーション」として退け、「我々は我々の義務を履行してきた」と主張した。王毅は、「新しい決議」を採択することを支持するというケリーには同意したが、次のようなぶちこわしの発言をつけ加えた。すなわち、「同時に、新決議は、情勢に新たな緊張を引き起こすべきではなく、ましてや朝鮮半島をさらに不安定化させるべきではない」と述べたのだ。王毅は、「制裁はそれ自身が目的ではない」とし、交渉を促進するためのものであるべきで、制裁するためであってはならないと強調した。
 新華社通信は、王毅が外交的に控えたことを次のように述べた。「アメリカが冷戦メンタリティで引きずっている敵対的アプローチを続ける限り、朝鮮が核計画を放棄するよう圧力をかけることを中国任せにしようというのは非現実的である。」これは平壌に話すことを拒んでいるようなものだ。  新華社はさらに次のようにも述べている。「中朝関係は、朝鮮が中国のいうことを何でも聞き入れる上下関係と理解するべきではない。」つまり、朝鮮が無視するような非現実的な要求を行うことで、中国の対朝鮮関係を壊すようなことを期待するな、ということだ。
 ワシントンは、モスクワからもっと強い支持が得られるという可能性もないようだ。ラブロフ外相は、朝鮮との話し合いを拒否した。ラブロフの説明では、同じような圧力の試みはイランに対しても行われたが、「積極的な結果は得られず」、イランは核開発を続けるだけだった。ラブロフは、「朝鮮に対して同じ誤りをくり返すことはできない」と述べた。
 ケリーが今後中国の誰かに講義をたれる誘惑に駆られる場合には、ケリーは説得に切り換えるべきだろう。明らかに中国は、アメリカの言うとおりにすることは自分たちの利益にならないと確信している。ケリーとしては、アメリカの提案が、地域における軍事的同盟国を崩壊させるリスクを冒し、中国の隣接地帯に混迷と紛争を引き起こし、朝鮮半島全体を反中同盟ネットワークにすることが、中国の利益を促進するものであるということについて、中国に対して確信させなければならない。グッド・ラック!
 実際、北京の立場は、ワシントンにとっては完全に歓迎できないものであるとしても、中国の立場からすれば理解できるし、実に合理的なものだ。
 アメリカの中国に対する軍事的包囲網は厳然としたものだ。北京からすれば、核武装した朝鮮は、アメリカと同盟する統一朝鮮と同じようなものだ。米軍が存在しないとしても、より強力な韓国は中国にとってチャレンジになる。統一朝鮮は地域の競争相手となるし、中国の朝鮮系住民にとって強力な吸引力となるだろう。さらに、朝鮮における中国の有利な経済的立場は、韓国マネーが席巻することで失われるだろう。また、統一朝鮮への道筋は悲劇的なものとなるかも知れない。朝鮮の歴史から分かることは、外からの支配におとなしく従うことはないということだ。仮に中国が石油及び食糧の制裁によって金王朝と袂を分かつとすれば、その結果の一つは、鴨緑江を越える大量の難民である。したがって、中国は何故に、ワシントンの目的をかなえるために、その地政学的立場を破壊するべきなのかを、ケリー長官に説明してほしいものだ(浅井注:最後の段落はかなり縮めて、趣旨だけを紹介しました)。