朝鮮の人工衛星打ち上げと米韓のTHHAD配備計画(中国反応)

2016.02.09.

2月7日に朝鮮が人工衛星・光明星4号を打ち上げたことに対して、韓国国防部の柳済昇国防政策室長は同日、「韓米は朝鮮の核実験及び「長距離ロケット」打ち上げが韓国ひいてはアジア太平洋地域の平和と安定に対して深刻な脅威となることを証明するものと一致して認識し、それにより、韓米のミサイル防衛能力を高めるための措置として、在韓米軍基地にTHHADシステムを配備する問題について協議する議題を正式に開始する」と述べました(同日付中国新聞社ソウル電)。
 中国外交部の華春瑩報道官は同日、記者の質問に答える形で、朝鮮の人工衛星及び韓米によるTHHAD配備問題について中国政府の立場を表明しましたが、その内容は極めて興味深いものです。
 まず、朝鮮の人工衛星打ち上げに関しては、中国外交部の劉振民次官が朝鮮の池在龍大使を緊急に召致して「朝鮮が弾道ミサイル技術を利用して衛星を打ち上げたことに対して抗議し、中国の原則的立場を表明」するとともに、関係諸国の強烈な反応に対する中国側の反応如何という質問に対しては、「朝鮮には本来宇宙を平和利用する権利はあるが、現在この権利は安保理決議で制限を受けている」と前置きの上、「朝鮮が国際社会の普遍的反対を顧みず、頑固に弾道ミサイル技術による打ち上げを実施したことに対して遺憾を表明する」と述べました(強調は浅井。以下同じ)。さらに同報道官は、「中国は、関係諸国が冷静に対応し、慎重に行動し、半島情勢の緊張の更なるエスカレーションを招くような行動を取らないようにし、この地域の平和と安定を共同で維持することを希望する。中国は、対話と協議を通じてのみ半島の平和と安定を実現する方法を見出すことができると一貫して考えている。各国は速やかに接触と対話を再開し、情勢がさらにエスカレートすることを回避するべきだ」とつけ加えて、朝鮮の人工衛星打ち上げを受けた後も、話し合いによって問題を解決するべきだとする中国の従来の立場に変更がないことを明らかにしました。
 これに対して、韓国政府がTHHAD配備計画について発表した問題に関する華春瑩報道官の発言は次のとおりです。

 (質問)韓国は、韓米が韓国にTHHADシステムを配備することを協議する旨発表した。中国は韓米に抗議したか。  (回答)2月7日、劉振民次官は韓国の金章洙大使を緊急に召致し、韓米が韓国にTHHADシステムを配備する問題について正式に協議することを開始する旨韓国が発表したことについて、中国の厳正な立場を表明した。中国は、外交チャンネルを通じてアメリカにも立場を表明した。  (質問)韓国国防部は7日、韓米が在韓米軍基地にTHHADシステムを配備することについて正式に協議を開始すると正式に発表した。中国のコメント如何。  (回答)中国はこの点について深刻な関心を表明する。ミサイル防衛問題に関する中国の立場は一貫して明確である。ある国が自国の安全保障を追求するに当たっては、他国の安全保障上の利益を損なってはならない。関係諸国が地域ミサイル防衛配備を推進する行動を取ることは、情勢の緊張の更なるエスカレーションを刺激し、地域の平和と安定に不利であるし、各国が当面の情勢に妥当な対応を行うことにも不利である。我々は、関係諸国がこの問題に慎重に対応することを促す。

 以上の二つの問題に対する華春瑩報道官の発言内容(衛星打ち上げには「原則的立場」と「遺憾」を表明という表現であるのに対して、THHHADに関しては「厳正な立場」と「深刻な関心」を表明)を比較すれば、中国が人工衛星問題よりもTHHAD問題をはるかに重視し、深刻視していることが一目瞭然です。この違いは、朝鮮の人工衛星打ち上げは地域の緊張した情勢をさらに高めるとともに、安保理決議違反の行動だから批判するのだけれども、その軍事的意味合いは大したものではないという判断があるのに対して、THHAD配備問題は中国の安全保障、より直接的には中国の核戦略のあり方そのものに重大な影響を及ぼす深刻な問題であるという判断が働いていることによるものです。
 米韓がこの時点でTHHAD配備問題について正式に協議を開始すると発表した理由は明らかにされていません。考えられる理由として私が当初頭に思い浮かべたのは、①中国が米韓の対朝強硬姿勢に同調することを引き出すためのブラフ、②米韓が主張する朝鮮に対する更なる強硬措置に中国が慎重姿勢を崩さないことに対する一種の「報復」(中国が同調しないときには代償を伴うというメッセージ)、③米韓としてはTHHAD配備を進めることは実は既定路線であり、朝鮮の人工衛星打ち上げ及び制裁強化に対する中国の慎重姿勢をTHHAD推進の格好の口実にした、などです。
しかし、米韓は「正式決定」と発表しましたから、①の可能性はなくなりました。ということは、②の理由によるにせよ、③の理由によるにせよ、米韓は、中国を狙い撃ちにした新しい軍事的ステップの段階に進むことを明らかにしたということです。中国に対する軍事的包囲網を強化していくことは、アメリカからすれば既定路線ですが、米中間でバランスを取ることに腐心してきた朴槿恵政権にとっては、極めて重大な戦略・路線の転換を意味します。韓国政府(朴槿恵自身)はそのつもりはないと主張するかも知れませんが、それは中国には通じるはずがありません。華春瑩報道官のTHHAD問題に関する上記発言の含意は非常に重大なものがあることはほぼ間違いないでしょう。「木を見て(朝鮮の人工衛星打ち上げに対する反発)、森を見ず(THHAD配備によって中国との信頼関係において、九仞の功を一簣に虧く結果を招く)」とは、いまの韓国(朴槿恵政権)にピッタリです。
以上の事態の急展開(少なくとも中国にとっては)を念頭において、中国側の論調をさらに紹介しておきます。
 まず、朝鮮の人工衛星打ち上げの軍事的意味に関しては、10月2日付の新華社記事「朝鮮の「ロケット」打ち上げ 衛星打ち上げとミサイル発射にはいかなる違いがあるかに注意」は、2人の中国の専門家の説明を紹介しています。
 中国現代国際関係研究院の劉天聡助理研究員は、弾道ミサイルと民間用運搬ロケットの最大の違いは3つの点にあると指摘しています。
第一は搭載するものの違いです。弾道ミサイルの場合は弾頭であり、大気圏再突入(超高温超高圧に堪えうること)という問題をクリアする必要があります。しかし運搬ロケットの場合は軌道に正確に送り込めばよく、大気圏再突入の問題を考える必要はありません(浅井注:私のような素人は、運搬されるものが衛星か弾頭かの違いと理解し、説明してきましたが、さすが専門家の説明は違います)。
 2つめは制御ナビシステムの必要があるかないかの違いです。弾道ミサイルの目的は正確に目標に到達させることなので、弾頭の制御ナビシステムが必要ですが、民間用運搬ロケットにはこれが必要ありません。
 3つめの違いは配備及び打ち上げ方式の違いです。敵による攻撃から守るために、弾道ミサイルは地下サイロ、移動軌道または潜水艦から発射されますが、民間用運搬ロケットに関しては公開での打ち上げで良いわけです。
 国防大学教授の王宝付は、大気圏再突入時の高温高圧に堪えるために求められる技術水準は極めて高く、朝鮮が現時点でこの再突入技術を掌握しているかどうかは疑問だと指摘しています。また、これまでの4回の打ち上げによって朝鮮の弾道ミサイル技術は進歩しているし、射程距離は伸びているけれども、毎回の打ち上げはすべて完璧というわけではなく、打ち上げたロケットが最終的にどこに落下するかについては朝鮮もはっきり掌握していないと指摘しています。
王宝付はさらに、朝鮮の技術水準がどのレベルに到達しているかについては、アメリカは先進的な技術及び強力な情報収集能力を通じて、完全とは言えないまでもかなり正確に把握しているはずだが、対外向けにことさら朝鮮のミサイルの脅威を誇大宣伝していると指摘します。彼は、アメリカがそうするのは、日韓等との同盟関係を強化し、アジア太平洋リバランス戦略を推進し、ミサイル防衛システムを配備し、関係諸国を牽制するといった一連の戦略的考慮に基づくものだとしています(私も同感です)。王宝付はさらに、それに対して朝鮮は、計画したらそのままやることによって自らの技術を宣伝しようとするために、外部の誤った判断を生みやすいとも指摘しています。
 環球時報は、この二つの問題について別々に取り上げる2つの社説を発表しました(2月7日付環球網に発表されましたが、恐らく8日付紙面で掲載されるものだと思います)。その内容は、華春瑩報道官の発言に端的に示された中国側の問題意識の所在をさらに敷衍するものです。

<「朝鮮は中国の核ミサイル(「両弾」)の途をコピーすることはできない」>
 朝鮮の長距離弾道ロケット及びミサイル技術は明らかに着実に進歩しているが、成熟した長距離ミサイルシステム及び戦略デタランスからはほど遠い。朝鮮はアメリカ本土を有効に威嚇したいと願っているが、物事を簡単に見すぎている。
 アメリカは朝鮮の打ち上げ活動を「深刻な挑発」としており(浅井注:「脅威」と見ておらず、「挑発」として扱っているというニュアンス)、国際的にも、朝鮮が予見できる将来に兵器の小型化及びロケットへの弾頭化に結びつけ、アメリカを震い上がらせるだけの長距離核打撃力を擁するまでになると見るものはほとんどない。
 長距離ミサイルに関して言えば、ロケット技術とおおむね同じとは言え、違いはやはりある。まず、液体燃料による長距離ミサイルのデタランスは、燃料注入時間が長くかかりすぎるので、ミサイルの機動性と反応速度が大きく制限されるという制約がある。固体燃料ミサイルには新しい革命が必要であり、また専門家のほとんどは、朝鮮の長距離ミサイルの液体燃料自身がまだ比較的遅れている状態で、信頼性が高くないと分析している。朝鮮には、長距離ミサイルテストに関する成功例はまだなく、光明星ロケットに関して言えば軌道に入れば成功だが、ミサイルとロケットとは畢竟違うのであり、前者は大気圏に再突入する必要があるが、後者にはその必要はない。
 長距離ミサイルのテストには膨大な技術システムの支えが必要であり、ミサイルの発射、飛行姿勢、軌道の精度、さらには落下点の正確性などをすべて計測する必要がある。しかし、朝鮮にはこのような計測システムの支えはなく、米韓は、朝鮮の能力は「望遠鏡によって収められる距離の範囲内」におおむね限られていると見なしている。さらに、朝鮮のミサイル及びロケットは海上に落下した後の回収ができず、したがって、朝鮮がミサイルテストについてのデータを収集することは極めて困難だ。
 また、朝鮮の工業システムでは長距離ミサイル及び核弾頭を製造するために必要な材料及び部品をすべて製造することは不可能であり、一部については海外で調達する必要がある。国際的制裁がますます厳しくなるので、その調達はますます厳しくなるだろう。
 人によっては、朝鮮が直面している核兵器及び長距離ミサイルの研究開発における困難は1960年代の中国と似ていると見るものもあり、中国が成功したのだから、朝鮮も「突破できる」とするものもいる。しかし、中朝の状況はまったく比較できず、このような見方は明らかに戦略的判断の誤りである。
 まず、時代が違うのであり、中国の当時の状況と朝鮮の現在の環境とを同日に論じることはできない。中国の当時にはまだ核不拡散条約はなかったのであり、この不拡散体制ができた後は、いかなる国家による核開発も国際的に違法と見なされることになった(浅井注:2月5日付のコラムで指摘したとおり、この認識は完全に国際法の大原則を理解しない初歩的間違いです。しかし、中国国内ではこの間違った認識が広く共有されているという重大な問題があります)。
 第二に、中国は大国であり、砂漠に膨大な核実験場を建設したし、ミサイルテストも十分な国土で行った。朝鮮は国土が小さく、海外にも属領はないので、多くのテストを行いようがない。
 このほか、中国の初期の戦略デタランスには限界があったが、その後の改革開放によって科学技術の総合力が強化され、核ミサイルのその後の現代化を支えてきた。また、中国の戦略デタランスは、地上発射弾道ミサイルの機動化及び潜水艦発射ミサイルシステムの不断の向上によって信頼性及び打撃力を着実に向上させてきた。
 朝鮮は現段階ではまだ「核装置」及び「遠距離ロケット」の段階であり、その技術は朝鮮全体の科学技術の進歩及び経済的レベルとは結びついておらず、明らかに孤立しており他の分野による支えを欠いている。今までのところ、核ミサイルが朝鮮の国家的安全保障を支えるためにもたらした効果が大きいとは言えず、むしろ戦略的にマイナスがより大きい。
 朝鮮の核ミサイルがどの程度まで発展するかは平壌の政治的決心によって決まるものでは絶対にない。核ミサイルが引き起こす地縁政治的駆け引きはすこぶる複雑であり、これまた朝鮮が「機転」によってどうこうできるものでもない。ますます深刻になっていく状況から如何にして抜け出すかについて、平壌は大いに再考する必要がある。

 朝鮮の核戦力開発に内在する問題点についての環球時報社説の指摘は、私にとっては説得力があるものです。国土が狭く、海外に拠点を持たないことは、確かに長距離ミサイルのテストを行う上での致命的制約でしょう。また、朝鮮の工業力・科学技術力が大きなネックとなることも十分に予想されることです。
 そういう制約の中で、果たして朝鮮は本気でアメリカ本土まで到達する長距離弾道ミサイルの開発を追求しているのか、朝鮮側公式論調を踏まえても、私個人としてはなおはなはだ疑問です。朝鮮としては、アメリカの緊密な同盟国である韓国及び日本を射程に収める核ミサイル戦力さえ保有すれば、十分に対米デタランスとして機能しますから、大陸間弾道ミサイルや水中発射弾道ミサイルの開発にまで手を伸ばす必要はないと思うのです。朝鮮としては、人工衛星打ち上げ用運搬ロケットの開発一本にしぼった方が、国際的な無用な摩擦を取り除く上でも賢明だと思います。

<「韓国がアメリカとTHHAD配備を協議するのは戦略的短視眼だ」>
 韓国の決定は、東北アジアの安全保障情勢が一段と複雑化することを意味している。ほとんどの軍事専門家は、在韓米軍がTHHADシステムを配備することは、同時に中国のミサイルの動向を監視する能力を作り上げることであり、中国の安全に対する潜在的損害となると見なしている。韓国は7日、THHADシステムは朝鮮に対するもので、中国には影響を与えないと述べたが、このような解釈は白々しい。
 韓国がTHHADを配備するという話は十数年前からのものであり、中国政府は一貫して明確に反対してきた。韓国は「配備したい」という気持ちがあると見られてきたが、中国の反対などに阻まれて応じてこなかった。韓国のこれまでの態度は、「3つのノー」、すなわち、「提案しない、協議しない、決定しない」だった。
 ソウルはいま、朝鮮の長距離ミサイルにかこつけて態度を変更したが、正に「口実」のようなものだ。韓国がこのようにするのは極めて戦略的視野に欠けており、自らの安全のために見境なく行動したものであり、更なる戦略的触発によっていかなることが起こるかについて考えていない(浅井注:中国の韓国に対する憤りと苛立ちが伝わってくるようです)。
 予想できることは、韓国にTHHADを配備すれば東北アジアの混乱が深まるだけであり、それは地域内の各種の要素の悪循環に対してピリオドを打つものではなく、韓国は潜在的なバランス失調局面の中心に座るだろうということだ。
 中国は朝鮮半島に隣接し、以上の問題によって損害を受ける側だが、他の分野におけると同じく、情勢をコントロールするための主導権は中国にはない。中国はこの地域の緊張を低めたいと切望しているが、我々の善意は報われていない。
 半島情勢がこのような形でズルズルといってしまうのであれば、中国ができることはまずは自分のことをうまくやるということだ。すなわち、半島情勢の悪化を防止するための十分な能力(THHADシステムに対抗できる十分な軍事的用意を含む)を建設するということだ。
 THHADシステムがいったん配備されれば、それは取りも直さず中国解放軍の戦略的考慮及び戦術的計画の中に織り込まれることになる。THHADは朝鮮に対するものだという米韓の主張は軽信できず、我々の韓国の国家戦略に対する認識も事態の発展にしたがって実事求是で追いついていく必要が出てくる(浅井注:。「我々の韓国の国家戦略に対する認識も事態の発展にしたがって実事求是で追いついていく必要が出てくる」という指摘は韓国に対する厳重な警告です)。
 中国の周辺環境におけるコントロールできない要素は明らかに増えつつあり、中国にかかわるかかかわらないかはともかく、中国に対する安全保障分野の摩擦はさらに高まっていくだろうから、中国としては「症状に応じて処方箋を書く」というだけでは主導権を握ることはできないだろう。中国としては、総合的国防力を増強することでこれらの挑戦に対処するということにしなければならないだろう。中国がどの程度まで強くなるかについては、これらの挑戦の性格によって決定的に決まっていくだろう。
 例えば、中国が戦略ミサイルの数及び突破能力を増大することは、米韓のTHHADシステムを阻止するよりも容易だろう。というのは、THHADの主導権は米韓の手にあるが、戦略ミサイルの数及び突破能力を増大することは我々自身の努力にかかっているからだ。
 ミサイル防衛システムはまだ大国間で実践において用いられたことはなく、その効果如何は総じて言えばまだ理論的なものだ。過去においては戦略的恐喝としての役割を発揮してきたし、アメリカといくつかの同盟国との政治的紐帯ともなってきた。韓国にTHHADシステムを配備することは、政治的意味の方が軍事的意味より大きいと考える学者もいる。
 中国はTHHADシステムの韓国への配備を阻止できないかも知れないが、結果はどうであれ、反対する姿勢は明確であるべきだ。半島問題は、見たところ、次第にエスカレートし、決着をつけるまでになっていく可能性があるようであり、そうなるときに対処する万全の策は存在しないが、中国としては、中国国家の安全を守る意思は各国に明確に認識させておかなければならない。そうしておけば、いかなる国家が選択を行うときにも、中国に対しては極力迂回することを真剣に考えるだろうからである。

 THHAD問題に関する社説の後半部分は、アメリカが韓国にTHHAD配備を進めるならば、中国としてはTHHADを突破してなお余りある核攻撃力を増やして対抗するという考え方を、私の知る限りでははじめて表明したものです。
中国のこれまでの一貫した核戦略は最小限核抑止戦略といわれるものです。それは、相手からの核攻撃に対して必要最小限の核報復を行うための能力を具えるというものです。その最大の政治的意味・メッセージは、自分から相手に対して核攻撃を仕掛ける攻撃用核戦力は持たない、つまり、先制核攻撃することはあり得ないことを相手側に伝え、安心させるということにあります。
しかし、THHAD配備が進めば、理論的可能性として、中国の報復用核戦力がTHHADによって無力化されるわけですから、相手(アメリカ)は中国に対して先制核攻撃を仕掛ける誘因に駆られる可能性が増えるということになります。これに対抗するためには、自らもTHHADのようなミサイル防衛システムを開発する方法か、あるいは環球時報社説が指摘するように報復用核戦力を量的に増やす方法があります。前者が必要とする科学技術力及び開発研究コストを考えれば、中国にとっては後者の方法が現実的選択となります。ちなみにロシアのプーチン大統領は、当面は量的対抗手段を考え、後々ミサイル防衛システムの開発も行っていくという考えを明らかにしています。
いずれにせよ、アメリカの一極軍事支配の永続化を狙う世界軍事戦略が、朝鮮をして核開発に突っ走らせる元凶であると同時に、その戦略の一環としてのミサイル防衛が中露両国をして核戦力強化・増大を余儀なくさせる最大の要因になっているというわけです。日米核軍事同盟を当然の前提として物事を考えることに慣らされきった私たち日本人は、諸悪の元凶がアメリカにこそあるという現実を直視しえないでいます(だからこそ、安倍政権の危険な政策に対する認識も深まらない)が、この悪弊を振り払わない限り、私たちは何時までもアメリカ発の情報操作によって思考・判断を支配され続けるのです。私たちが本気で世界の核廃絶を考えるのであれば、何よりもまずアメリカの核政策を根本的に改めさせなければなりません。その点を踏まえないどのような核廃絶論もしょせん机上の空論です。