ヴェトナム共産党第12回全国代表大会(環球時報社説)

2016.02.02.

ヴェトナム共産党第12回全国代表大会は1月20日-28日に行われ、27日に行われた中央委員会総会でグエン・フー・チョン(阮富仲)が書記長に再任されました。日本を含めた西側メディアで書記長就任が有力視されていたグエン・タン・ズン(阮晋勇)首相は「勇退」となり、様々な憶測が行われています。というのは、グエン・タン・ズンは「改革派」「親米派」であり、グエン・フー・チョンは「保守派」「親中派」というレッテル貼りが行われてきたからです。
 しかし、共産党大会の前後に出された1月21日付及び28日付の環球時報社説は至って冷静に観察・分析を行っていました。私は前々から、西側メディアによるレッテル貼りに基づく「分析」には信頼を置いていません。ただし、ヴェトナムについてはまったく基礎知識もありませんので、今回の共産党大会に関して分析する力はもとよりありません。環球時報社説の冷静な分析は読み応えがありますので、大要を紹介します。

<1月21日社説「ヴェトナム共産党12回大会 西側分析は必ずしも当てにならず」>
 今回の党大会は新指導部を選出する選挙であり、かつ、立候補者数が当選者数を上回る選挙であるために人事変動に懸念材料があり、ますます外部の関心を集めている。
 ヴェトナムの基本問題は国家発展を図り、政治の安定を保持することであるが、経済情勢は比較的に良好であり、中国の労働力コストの上昇によって外資のヴェトナム流入の勢いは強い。これと同時に、外部の政治的影響がヴェトナム社会に浸透しつつあり、国家の現在の政治的進路に対する挑戦が見え隠れしており、この問題はヴェトナム内外における議論の重要テーマの一つとなりつつある。
 西側世論は、人事問題が大会の焦点であるとし、ヴェトナム共産党内部の様々な「派閥」を描き出している。しかし、これまでの経験から明らかなとおり、西側はこの種の「党内派閥闘争」の状況と意味を誇大評価するのが常であり、その結果、分析は偏ったものとなる。
 ヴェトナムの国家の進路は、西側が予測するよりははるかに安定性が高い。まず、誰が指導者になろうとも、社会主義の途を歩むという大方向は変わりようがない。改革のペースが速まったり、遅くなったりすることはあり得るが、世界的な教訓は数多く、また、ヴェトナムのこれまでの改革の歩みは内外公認の成果を挙げており、ヴェトナム共産党がこの時点で方向性を改めると見るのは理屈に合わない。
 もちろん、内外の一定の力が「政治自由化」を扇動することはあり得るし、それに如何に対応するかはヴェトナム共産党にとっての長期にわたる試練である。
 ヴェトナム外交の大きな方向性も人事異動によって変化することはあり得ない。ヴェトナムは、引き続き対中関係を重視し、越中協力と領土紛争とのバランスを取るように注意するだろう。ヴェトナムは対米関係も発展させ、越中関係と越米関係との更なる「戦略的均衡」を図るだろう。ヴェトナムは対中友好のために領土紛争をやめることはあり得ないし、アメリカの力を借りて南海での紛争における立場を強化するために中国との戦略的関係をぶちこわしにすることもあり得ない。
 中越の摩擦は恐らく長期にわたって存在するだろうが、ヴェトナムにとっての中国の重要性については、ヴェトナムのエリート層の認識はますます明確になっている。中越間では両党関係が最高級の安定器の役割を果たしてきている。強大な社会主義・中国を隣国としていることは、ヴェトナムが国家の政治的リスクに抵抗する上でもっとも重要な力の一つとなっている。
 ヴェトナムが政治的安定を保つことは中国の国家的利益にも合致する。西側の政治的浸透が相変わらず活発な今日、中越のこの分野の国家的利益は交じり合い、一致しており、そのことは両国関係をして他に代わるもののない特殊性を備えさせているし、中越関係の様々な複雑さもこの点でコントロールされている。
 中越貿易額は2015年には900億ドル以上に達し、中国は連続12年にわたってヴェトナム最大の貿易パートナーだ。ヴェトナムがアメリカ主導のTPPに加盟しても、最大の貿易パートナーとしての中国の地位が取って代わられることはまずないだろう。中越は典型的な「運命共同体」である。
 越米関係も引き続き進化発展する潜在力を持っているが、米越両社会が大規模に交流する上では潜在的なリスクを取り除きにくい。南ヴェトナムが崩壊したときにアメリカに逃げたヴェトナム系の人々はヴェトナムの現在の体制の転覆を願っており、アメリカ社会の一部メインストリームは彼らの仲間だ。したがって、ヴェトナムが国家の政治的安定を維持することは長期にわたって挑戦であり続けるだろう。
<1月28日付社説「グエン・フー・チョン再任は積極的ではあるが絶対のシグナルではない」>
 ヴェトナム共産党大会は西側世論の高い関心を集めた。西側世論は越共内部の「派閥」分析で誇張した分析を行い、グエン・フー・チョンを「保守派」「親中派」とし、グエン・タン・ズンを「改革派」「親米派」とした。西側メディアは一貫して、TPP加盟を推進したグエン・タン・ズンが新書記長になると推測し、彼がヴェトナム改革の「新次元」を切りひらくだろうと宣伝した。
 大会の直前になって風向きが変わった。グエン・タン・ズンは新中央委員会入りせず、グエン・フー・チョンが書記長になることが決まった。一部の西側世論は、「保守派」及び「親中派」が風上に立ったと見なした。
 しかし、西側世論の越共内部の状況に関する分析はあまりにも薄っぺらであり、これは西側が共産党国家を分析する際の旧弊である。彼らはことのほか「改革派」と「保守派」とで越共指導部を区別するのが好きで、「親中」あるいは「親米」のレッテルを貼りたがる。しかし、誰が政治を担おうとも、ヴェトナムの党及び国家の利益をトップに据えるのであって、彼らの間の認識上の違いを調和することは不可能ではなく、書記長が別の人物になろうとも、それによって国家の路線がひっくり返る可能性は高くない。ヴェトナムがその道筋から離れて西側モデルの「改革」に大きく向かうという可能性は極めて小さい。ヴェトナムの開放に伴い、西側の政治的浸透はすでに正面切って入り込んでいるし、在米ヴェトナム人の政治制度転覆の意思は強烈であり、このことは越共の警戒心を高めずには済まず、改革の方向性の問題にも注意させることとなっている。
 中米両大国との関係を妥当に処理することは、多くの東アジアの国々の外交にとっての「生命線」であり、ヴェトナムも例外ではない。ヴェトナムは中米をともに重要と考えているが、両大国に対する警戒心もある。
 中国はヴェトナムにとっても「巨大かつまごうことない」隣国であり、ヴェトナムがTPPに入っても、最大の貿易パートナーとしての地位は変わらない。特に重要なのは中越が共に社会主義国家であり、ヴェトナムの改革は、経済から党再建、さらには西側の政治的浸透に対する防衛に至るまで、中国から大量の経験をくみ取っているということだ。中越間の問題は領土紛争だが、かくも長年にわたってやりとりしている間に両国は冷静になり、領土紛争に然るべき位置づけを与え、中越関係のすべてにはさせてはならないというようになっている。
 アメリカは西側のトップであり、当然ながらヴェトナムの対外開放の重点目標だ。それ以外にも、領土紛争で「アメリカを引っ張って中国を牽制する」という誘惑もある。米越関係の発展は大勢の赴くところだ。しかし、アメリカの問題は、対越協力をすると同時に、ヴェトナムに対して「カラー革命」の種をまこうとすることだ。ヴェトナムは中国と違い、外からの政治転覆に抵抗するという仕事はさらに重く、情勢もさらに厳しい可能性がある。
 ヴェトナムは、一連の相互に矛盾し、牽制しあう要素のなかで国家の発展を図らなければならず、真偽を弁別し、軽重緩急を区別する能力を持つ必要がある。このような状況の下で、ヴェトナムとしては、徹底した「親中」も「親米」もあり得ず、「親・穏健」「親・利益バランス」をもっとも必要としているだろう。
 グエン・フー・チョンが再任され、グエン・タン・ズンが「退任」したことで、西側世論は意気阻喪かも知れないが、中国としては、西側の分析ロジックに取り憑かれ、中越関係はこれによって「よくなる」と考える理由はまったくない。中越の南海の紛争はすでに一つの新事態としてコントロールされるかも知れないが、止まることはないだろう。越米協力もグエン・タン・ズンの退任によって下り坂となることもないだろう。
 とは言え、グエン・フー・チョンの当選は中越が全面的戦略パートナーシップを発展させるための積極的なシグナルである。越共の体制は「多頭」という特色を持っているが、書記長の国家路線に対する影響力は最大である。中国人は、この72才の労党員を慶祝すべきであり、彼が越共を率いて中国のいい友だちとなり、両国の発展の大計において相互に呼応し合い、両国間の問題を協議を通じて解決するように希望しよう。