朝鮮の水爆実験と半島情勢

2016.01.30.

*以下の文章は、朝鮮新報の誘いで寄稿したものです。1600字という字数制限なので、かなりはしょっていますが、内容を掴むのには良いのかもしれません。

<朝鮮が水爆実験に踏み切った理由>
 誰もが驚いた朝鮮の1月6日の水爆実験だったが、朝鮮が実験に踏み切ったのは、米国が朝鮮の新提案を無視した結果というのが、「8月事態」後の経緯を追った私の結論だ。
 8月事態とは、昨年8月4日に起こった地雷爆発による韓国兵士の負傷事件をきっかけに一触即発の対決が起こり、北南の最高位接触によって辛うじて危機を乗り越えた一連の事態に対する朝鮮の呼称だ。
 朝鮮が8月事態の教訓を如何に重視しているかは、李洙墉外相の10月1日の国連総会演説に明らかだ。
同外相は、「8月の事態は国連と非正常な関係にある朝鮮半島に現存する平和がどれほど脆弱であるかを明らかにした」と指摘し、「停戦協定を平和協定に替えることは、一刻の猶予も許さない切実な問題となった」として、「米国が停戦協定を平和協定に替えることに同意するならば、わが国政府は朝鮮半島で戦争と衝突を防止するための建設的な対話を行う用意ができている」と提案した。その後朝鮮は、11月末まで米国に提案をくり返した。
しかし、米国は朝鮮の提案を完全に無視した(8月事態の教訓を得たはずの韓国は米国の意のままだ)。これに対し、昨年12月24日付朝鮮中央通信は、2015年の半島情勢詳報を発表し、最後に「米国が対朝鮮敵視政策を撤回せず、あくまでも「北朝鮮崩壊」という妄想の道を選択するなら、それに対するわれわれの応えは米国の想像を絶するものになる」と警告した。その「応え」が1月6日の水爆実験だった。
米国が朝鮮の提案に応じていれば、朝鮮が実験を行うことはなかった。これが、朝鮮の米国及び国際社会に対する最大のメッセージだ。つまり、朝鮮の核開発にストップがかかるかどうかはひとえにアメリカの対朝鮮政策如何ということだ。
対米直接交渉に的を絞る朝鮮は、「われわれは過去…6者会談で非核化の論議を先に行ってみた…が…失敗を免れなかった」(昨年10月18日付朝鮮外務省声明)として、6者協議を見限る姿勢も示している。
<中露の反応>
中露両国政府は、朝鮮の水爆実験を安保理決議違反と批判している。しかし、強硬対応を主張する米韓日に対しては、関係諸国の自制を強調し、6者協議による外交的解決を呼びかける共同歩調だ。
中露が慎重姿勢を堅持しているのは、8月事態の一触即発の危険性を深刻に認識したからと思われる。朝鮮に対する先制攻撃を織り込んだ「米韓共同局地挑発作戦計画」の発表(2013年)、半島有事に一つの照準を合わせた安倍政権による安保法制制定(2015年)にも、中露は警戒を強めているに違いない。 ただし、中国メディアで8月事態を正面から取り上げたものはなく、また、中露両政府は6者協議再開を強く主張している。
<核問題解決に有害無益な日本>
広島・長崎を体験した日本人の反核感情は根強い。しかし、日米安保体制を肯定する多くの日本人は、朝鮮の「核の脅威」に対して米国の「核の傘」を当然視もする。その結果、朝鮮の核開発に対する拒否感は留まるところがない。しかも日本人は安全保障問題については大勢迎合の傾向が強い。したがって日本は、朝鮮の核問題に建設的役割を担う主体的能力はゼロだ。
<朝鮮半島非核化の展望>
米日韓は朝鮮の非核化だけを問題にする。しかし、6者協議の主題は朝鮮半島の非核化だ。つまり、朝鮮の非核化と米国の韓国に対する「核の傘」提供の撤回がセットだ。
これを実現するためには、米日韓と朝鮮との間の相互不信除去が不可欠だ。朝鮮の10月以来の対米提案は、「平和協定締結→半島非核化→相互信頼確立」を目指す。これに対して6者協議は、「約束対約束、行動対行動」の原則に従い、「非核化に向けた約束相互履行→相互信頼蓄積→朝鮮半島の平和と安定構築」を考える(2015年のイラン核問題に関する国際合意の事例)。
ただし、両者のアプローチが両立しないわけではない。要は、頑なな米国の対朝鮮政策に風穴を開けることであり、半島情勢打開のカギはここにある(2016年は米大統領選挙なので、事態が動くのは2017年以後だろう)。