朝鮮の第4回核実験は米韓の責任(李敦球文章)

2016.01.20.

1月18日付の中国青年報は、李敦球署名文書「ホットな対決 クールな思考」と題する文章を掲載しました。朝鮮の水爆実験に対して世界は大騒ぎしているが、こういう状況のもとではなおさらクールな思考が求められているとして、朝鮮半島に戦争または動乱が起こる可能性は必ずしもないこと、及び、朝鮮の行動は必ずしも予測不可能というわけではなく、実験をやる前に何度もシグナルや警告を出していたのに、それを正確にキャッチしなかった側に責任があるのではないかということを指摘しています。
 特に、実験の前にシグナルや警告を出していたという指摘は、1月7日付コラムで、私も指摘したポイントです。そして、このことをアメリカが正確にキャッチして対応していたならば、今回の核実験をミルには至らなかったはずだとする李敦球の指摘も、私が行ったことです。
 ただし、私が重視するのは、昨年、いわゆる8月危機(事態)を受けた10月1日の朝鮮外相の国連総会演説以後の朝鮮の外交アプローチ(停戦協定を平和協定に代える)ですが、李敦球は、2015年1月以来一貫してシグナルを送り続けてきたことを指摘しています。また、李敦球文章は8月危機(事態)についてまったく取り上げておらず、10月1日の朝鮮外相演説も取り上げていません。さらに奇異に感じるのは、朝鮮が、8月危機(事態)を受けて6者協議は失敗だったと断じている点についても、李敦球は黙していることです。
 私は、朝鮮が1月6日に水爆実験に踏み切ったのは、8月危機(事態)を踏まえた朝鮮の対米アプローチをアメリカがことさらに無視し続けたために、アメリカのそういう態度はどういう結果をもたらすかということを分からせるために行ったのが水爆実験だったと理解するのが自然(つまり、アメリカが朝鮮の提案に応じるならば、朝鮮は核実験を行わないし、今後の交渉如何では朝鮮半島非核化の一環としての朝鮮の核放棄にも応じることを考慮するというメッセージ)だと思います。もちろん、李敦球の最後の結論は、この点では私と同じです。
 以上をお断りした上で、朝鮮問題の第一人者である理敦球の所説が傾聴に値することは間違いありません。以下に紹介します。

 情勢が緊張し、世論が喧しくなるときこそ、クールな思考がもっと必要になるのであり、歴史的角度から現在の問題を考えることは、半島情勢及び今後の動きを見極めることにさらに有益だろう。
 クールな思考の第一:朝鮮半島情勢は緊張しているが、戦争または動乱が起こるとは限らない。
 まず、朝韓いずれも今回の件を契機に戦争したいとは考えていないし、戦争の代価は背負いきれず、双方の反応はコントロールできる範囲内だろう。アメリカは「戦略的忍耐」政策を行っており、その現状を打ち破ることは、アジア太平洋リバランス戦略の実行に不利であるだけでなく、中米が共に衝突に巻き込まれる可能性もあるので、アメリカとしては「戦略的忍耐」を続けるだろう。
 次に、朝鮮自身の努力が半島で戦争が起こることを防止する要因の一つとなっているということだ。ソ連解体・冷戦終結後、中ソ朝対米日韓の構造は朝鮮対米日韓の構造に変化し、3対3から1対3に変わった。日増しにアンバランスとなり、増大する安全保障上の圧力に対して、朝鮮は、政治、軍事及び外交等の手段で総合的な実力及びデタランスを増強し、38度線の相対的安定と動態的均衡を極力維持することで、戦争のリスクを最小限度まで引き下げている。
 第三に、国際社会が朝鮮に対して実施するであろう経済制裁は、朝鮮経済を崩壊させることはないだろう。朝鮮は、長期にわたって国際経済による封鎖と制裁を受けており、苦しい中で自力更生を学びとるほかなかった。新しい制裁が行われれば、朝鮮はもちろん更なる困難に直面するが、経済を発展させる基本的な方向・政策は変わらないだろう。
 クールな思考の第二:朝鮮の行動は必ずしも予測不可能ではなく、核実験の前に多くのシグナルと警告を発していた。
 人々は、朝鮮は常理に基づいてカードを切らず、その行動は予測できないと考えがちだ。しかし、これは全くの誤解だ。今回の核実験を例に取れば、朝鮮は昨年以来何度もシグナルさらには警告を発出してきたのであり、しかし、意識的無意識的にシカトされてきたというにすぎない。
 第1回のシグナル:早くも2015年1月10日、朝鮮中央通信社は声明を発表し、朝鮮政府が9日、関係ルートを通じてアメリカ政府に関連の提案を行ったと述べた。すなわち、朝鮮はアメリカが本年(2015年)の韓国及び周辺地域における合同軍事演習を暫定的に停止し、朝鮮半島の緊張情勢を緩和することに貢献することを提案すると共に、朝鮮としてもアメリカが危惧する核実験を暫定的に停止することで報いると述べた。
 韓国連合通信社の報道によれば、アメリカ国務省の匿名の人物は10日、米韓の定例合同軍事演習と朝鮮の核実験とをリンクさせるのは妥当ではないとして拒絶した。
 2015年1月19日付新華社電は、朝鮮の6者協議代表の李勇浩は同日、シンガポールで2日間行われた朝米非公式協議の後、今次会談の目的は朝鮮半島の緊張した情勢を解消することであり、地域の情勢の不断なエスカレーションを作り出している根本原因は米観が毎年行う大規模な合同軍事演習であると述べた。したがって、朝鮮が今回提案した核心は、米韓が合同軍事演習を停止するならば、朝鮮としても核実験を暫定的に停止することで応える、とした。
 第2回のシグナル:2015年9月15日付朝鮮中央通信は、朝鮮原子力研究院院長が同日、ウラン濃縮工場などの寧辺のすべての核施設及び5メガワットの黒鉛減減速反応炉の用途は調整・変更され、正常な運行を開始したと述べた。これは、公式メディアが世界に対して朝鮮が新しい核兵器を製造していることを公式に表明したものである(浅井注:私はまったくそのような意味合いを読み取れませんでした)。
 第3回のシグナル:2015年12月10日付朝鮮中央通信は、金正恩が2日前に平壌市の平川革命遺跡を訪れた際に初めて水素爆弾に言及したことを報道した。
 第4回のシグナル:朝鮮が水素爆弾の実験を行う1日前(1月5日)、朝鮮中央通信は「朝鮮が核デタランス強化を迫られる根本的原因」と題する論評を発表したが、これは、朝鮮がすぐに行う水素爆弾実験のための理論的根拠を提供し、世論の準備を行うためのものだった。この論評の最後で、不断に強まるアメリカの核の脅威が、朝鮮をして核デタランスを強化せしめる根本的原因であると結論している。
 遺憾なことは、朝鮮の核も明確な世論に対する準備が国際社会の注目を得られなかったことである。
 以上を要するに、2015年1月から2016年1月まで、朝鮮はアメリカと国際社会に向けて数々のシグナルと警告を発していたし、それらは連関性と論理性をもっていた。もしも米韓が軍事演習を暫定的に停止し、もしも朝鮮の度重なるアピールがことごとく無視、歪曲されることがなかったのであれば、今回の核実験はあるいはなかっただろう。しかし、やってくるものはいずれはやってくるのであり、朝鮮の核技術が成熟すればするほど、朝鮮が核を放棄する困難さはますます大きくなるのだ。一体誰の責任なのか、反省する価値がある。