朝鮮の対米提案に関する中国側好意的論調

2016.01.18.

朝鮮の第4回核実験以来の中国官民双方の論調には興味深い変化の兆候を看取することができます。これらの変化が来たるべき国連安保理における中国の態度にどのように反映されるのかは分かりませんが、中国国内で真剣かつ様々な検討が行われているであろうことは容易に推定されます。
 1月18日付環球時報は、北京大学国際関係学院教授の陳峰君署名の「アメリカは朝鮮の核放棄に関する提案を真剣に考慮すべし」と題する文章を掲載しました。この文章は、朝鮮の提案は合理的かつ積極的意味があると評価すると同時に、アメリカ(及び韓国)の頑なな「戦略的忍耐」政策こそが問題であるとし、アメリカに対して、朝鮮の核放棄が先決条件だとする政策を見直すことを主張しています。陳峰君の文章は、私のあやふやな記憶の中にはなく、これが初見です。こういう主張が人民日報系列の環球時報に掲載されること自体が極めて注目すべき現象だと思われます。以下、その内容を紹介します。

 朝鮮は15日、「核実験を停止する」ための2つの条件を提起した。すなわち、アメリカとの間で平和協定を達成することができ、及び、アメリカが韓国との合同軍事演習を停止するのであれば、朝鮮は核実験を停止するというものだ。これは、朝鮮が第4回核実験を行って以後の重要な態度表明であるが、実は朝鮮は過去においても何度も似た提案を行っている。例えば2015年1月、朝鮮は国連で公式にアメリカに対し、「核実験をしないことと軍事演習を行わないこととを交換する」という提案を受け入れるように促し、アメリカがこのことでの対話に同意するのであれば、「多くのことが可能となるであろう」し、「深遠な影響」が生み出されるだろうなどと述べたことがある(浅井注:私は、朝鮮外相の10月1日の国連総会演説が最初の対米提案だと理解してきました。1月にすでに国連でそういう提案をしているということは知りませんでした)。
 客観的に言って、朝鮮の提案は合理性と積極的意義とを有する。
第一、朝鮮が平和協定を以て停戦協定に代えることを渇望するのはなんの根拠もないということではない。
実は6者協議の9.19共同声明にはこれに関して、「6者は、東北アジア地域の永続的な平和と安定に共同で力を尽くすことを約束する。直接関係当事国は、朝鮮半島の永続的な平和メカニズム構築のために別途交渉する」、同時に、「6者は、東北アジアの安全保障協力を強化する方途を探究することに合意する。朝鮮とアメリカは、主権を相互に尊重し、平和裡に共存し、それぞれの政策に基づいて関係正常化を実現するためのステップを取る」という規定がある。しかし、これらの規定は過去においてはほとんど棚上げされ、空文と化していた。朝鮮だけが一貫して、「平和協定」締結を呼びかけてきた。それに対してアメリカは、朝鮮が先に核を放棄することを前提条件としてきた。
筆者は、この規定を確実に実現することが半島の平和と安定及び非核化を実現するための根本的保障だと考える。平和協定を以て停戦協定に代え、米朝間に信頼が確立してのみ、半島の核問題は根本的な解決を得る可能性がある。単純に核放棄問題を論じ、これを条件とすることはもはや妥当ではない。朝鮮の核放棄と平和メカニズムが同時に効力を生むということに何の不都合があろうか。もしそれが達成されれば、それこそが半島の冷戦構造を「一括」して全面的に終結させる方法であると言うべきである。
 第二、朝鮮の安全保障に関する関心は理解できるし、注目に値するものでもある。朝鮮の核保有は、畢竟するに自らの安全を保つためのものである。軍事力において数倍の力がある米韓は、朝鮮にとって一貫して恐怖の対象である。したがって、アメリカが軍事的威嚇と米韓合同軍事演習を停止するならば、朝鮮は核実験を停止するという朝鮮の提案は、納得できるし理由があることと言わざるを得ない。米韓にとっては、そうすることは難しいことではない。ところがアメリカは、軍事的威嚇に固執し、朝鮮の安全保障という問題と核問題とが同等に重要なことだとみなそうとしない。「朝鮮の安全保障上の関心」というポイントを解決せずして、朝鮮の核放棄をどのように論じることができようか。
 アメリカは一貫して、朝鮮の以上の提案を断固拒否し、朝鮮に対していわゆる「戦略的忍耐」政策を採用し、「朝鮮が先に妥協しない限り、米韓は絶対に動かない」としている。この政策が意図するのは、朝鮮が「理性的軌道」に戻るまでは朝鮮の挑発及び恐喝を無視するということであり、朝鮮が本当に核を放棄してのみ、経済援助及び政治的妥協を行うというものだ。
しかし実際は、アメリカは決して朝鮮に対して「忍耐」も「自制」もしておらず、反対に、さらに激しい手段を取ることによって朝鮮に対処している。例えば、経済制裁を強化し、「軍事力で軍事力を抑え込み」、「核によって核を制し」、朝鮮の政権の崩壊を促すというが如きだ。
 以上がアメリカの「戦略的忍耐」の本質であり、アメリカには、半島の平和メカニズムを構築することを通じて根本的に朝鮮核問題を解決することに対しては関心がないのだ。ある分析によれば、アメリカは故意に朝鮮を怒らせ、賢明でない行動を取るように導き、それによって最大の戦略的利益を獲得しようとしている。すなわち、様々な機会を利用してアジア太平洋リバランス戦略を貫き、軍事的重心をこの地域に傾斜することを強めるというのがアメリカの現在及び長期的な重点目標の一つなのだ。そして、炯眼なものであればたちどころに分かるように、ワシントンは朝鮮核問題を手がかりにしてこの目標を実現しようとしているのだ。
 かくも長期間にわたり、朝鮮半島情勢ははっきりした緩和に向かうのでなく、ますます緊張が増大しており、朝鮮は核を放棄しないだけではなく、核武装を強める流れにある。様々な推測があるにせよ、朝鮮のこの種の「身勝手さ」は、何よりもまず自らの安全保障上の考慮に基づくものであることは間違いない。そして、朝鮮をして安全感を持てなくさせている責任について、アメリカは逃げるわけにはいかない。アメリカの政策は調整すべき時だ。朝鮮の提案を客観的に評価し、考慮することこそが賢明である。