アラブの春5周年:環球時報総括

2016.01.17.

1月21日は、「アラブの春」のきっかけとなったチュニジアでの事件が起こって5周年になります。1月16日付環球時報社説「「アラブの春」 歴史は後悔という薬は売らない」は、「アラブの春」に関する歴史的総括を行っています。その内容は、私がこの問題に関して抱いている感想と基本的に一致していますので、その内容を紹介します。

 (5周年を前にして)世界のメディアはこの革命に対して盛んに議論している。そのトーンは全体として重苦しく、気落ちしたというものだ。荘重な記念活動を行う国はなく、多くのメディアは冷ややかな「アラブの冬」という新しい形容詞でこの革命の洗礼を受けた地域のことを描いている。
 「アラブの春」の歴史的役割を完全に否定することは恐らく妥当ではないだろう。何と言っても中東地域の強権政治秩序を打破し、多くの国々における人々の支配者に対する萎縮する気持ちを消し去り、人々の自己解放を促進したのだから。長期的にみれば、「アラブの春」は中東における旧秩序から新秩序へと移行する歴史的転換点となる可能性がある。
 しかし、「アラブの春」が支払った代価は、中東から西側社会に至る多くの人々が予期したものをはるかに越え、予期もしなかった苦しみは世界を震撼させた。現在5年が過ぎて、チュニジアにおけるデモクラシーが一定の格好がついておおむね安定していることを除けば、エジプトは「復古」が指摘されて議論は多いし、他の国々に至っては「厳冬」に落ち込んでおり、リビア、イエメン、シリアの状況はいずれも厳しく、2つの政権があり、あるいは厳しい内戦があり、人々は安閑としておられず、欧州を襲った大量の難民を生み出している。
 人によっては、これらの国々ではムバラクとかカダフィとかの強権政治家がいた方がよかったというものもいるが、このような後悔薬を煎じてみても始まらない。事実として、中東の強権政治家は確かに時代遅れになっていた。彼らは改革を拒否し、国家の問題を解決しようとは考えず、社会における異なる意見の持ち主を抑えつけることで、自ら及び支配集団の権威を維持しようとした。これらの国々は困難から抜け出す力がなく、「アラブの春」が爆発したのは必ずしも偶然ではない。
 革命は破壊と再建とが必要だが、不確定性が極めて高い。しかし、革命は爆発を誘発しやすく、社会の激情を引き出すのは簡単だが、改革は途方もない政治的技術という内容があり、長期にわたる議論を誘発しやすく、世界中でも成功例は極めて少なく、本当に幸運な国々だけが改革を通じて社会のモデル・チェンジを実現し、小さな代価を払うことで社会全体の明るい将来を勝ち取ることができている。
 現代的ガヴァナンスが脆弱な社会であればあるほど、革命はますます生きるか死ぬかの壮絶な局面を現出しやすいし、当初の政治目標からますます乖離しやすく、社会の異なる利益集団の長期にわたる駆け引きと化しやすい。このような革命をどのように評価するかということは極めて困難な事柄である。
 100年後に「アラブの春」を評価する場合、現在の「アラブの冬」という苦しみは忘れ去られてしまうかも分からず、「革命は代価がつきもの」という軽いタッチで今日の人々が体験していることを回顧することになるのかも知れない。
 問題は、人間の正常な寿命はせいぜい70数年であり、青春及び強壮な年代はさらに短いということだ。「アラブの春」を支持した圧倒的に多くの人たちは子々孫々のために「身を捧げよう」とは思っていないことは間違いなく、革命が自分自身に大量の現実的な利益をもたらしてくれると考え、何よりもまず良い生活ができるようになると考えたに違いない。彼らは難民になるとは考えなかったし、ましてや愛するものが戦乱によって命を失うとは考えもしなかった。歴史は数十年にわたる乱を懼れはしないが、この時代の人間は絶対にそういうことを望んでいない。
 人類の政治科学はまったく未発達でしかも普及しておらず、数理公式をそらんじるように政治の基本原理を理解しているものはほとんどおらず、政治の変遷が意味するリスクに関しては、社会のエリートの間でも意見の違いが生まれるのはいつものことだ。
 「アラブの春」は西側が一手に仕組んだものと言うことはできず、その爆発は内部の要因によるものである。しかし、西側が熱烈に拍手し、実質的な支持を行ったことも確かなことだ。「アラブの春」が現在の様相を呈していることは、西側デモクラシーという普遍的価値の有効性を宣伝したものにとってはショックであり、移行期の国々を慎重にさせうるだろうし、国家の進路に関する模索ということはさらに価値があることになる。
 改革は簡単ではなく、革命はかくも危険であり、後発国の現代化の道筋は間違いなく簡単なものではない。「アラブの春」は、21世紀の人類の政治的ガヴァナンスに対して高価な見本を提供した。中国は、間違いなく現代全世界における改革の中心であり、中国の改革規模、深度、成果及びぶち当たる困難は全人類的意義を持っている。ソ連解体、東欧の激変及びその後の経済的社会的発展の分化、さらにはカラー革命、それらの外部世界の変化はすべて我々の視野を広め、我々の思想材料を豊富にした。「アラブの春」を真剣に学び理解することは、時代が我々に課している新しい宿題である。