朴槿恵発言に対する中国側反発

2016.01.15.

昨日(1月14日)のコラムで紹介したように、朴槿恵大統領は、朝鮮の第4回核実験に対して、従前どおりの制裁措置では不十分だとするアメリカの立場に完全に同調しただけではなく、中国がもっと厳しい措置を取ることを要求する点でも、アメリカの立場と歩調を合わせました。しかもご丁寧にも、THHAD導入まで口にする始末です。1月13日付の環球時報社説は、そういう米韓の強硬一本槍の対朝政策は、朝鮮をへこます効き目がないばかりか、戦争という最悪の事態を招致しかねず、その被害をモロにかぶることになるのは韓国自身だと諭すことで、韓国の自制と再考を促すものでした。
 しかし、私は、アメリカに完全に同調した朴槿恵発言は、これまで米中間でバランスを取ることに腐心してきた同大統領の立場を大きく逸脱するものであり、中国としては心穏やかならざるものがあるだろうなと推測していました。昨日のコラムで、「朴槿恵大統領の上記無鉄砲発言」と紹介したのは、私にそういう受け止めがあったからでした。
 果たせるかな、というべきでしょうか、今朝チェックした1月15日付環球時報社説「朝鮮が身勝手であることについて、韓国世論は中国を恨むことはできない」は、韓国世論に反論している形を取っていますが、明らかに朴槿恵の「勇み足」に対する厳しい批判を行っています。中国は朴槿恵に対する期待値が高かったのですが、任期3年を過ぎた彼女に対して最近は失望、不満を洩らす論調を掲載することも出ています。今回の彼女の「失言」には、中国指導部を含めてかなり「頭に来ている」ことが窺われる興味深い文章なので紹介しておきます。
 なお、朝鮮の第4回核実験に対する対応に関しては、1月13日にオバマ大統領がプーチンに電話会談を申し込んで話した際に、シリア問題、サウジ・イラン関係と並んで、朝鮮問題も取り上げられました。同日付のロシア大統領府WSは、次のように内容を紹介しています。すでに紹介したロシア外務省の慎重対応を強調する立場をプーチン自身がオバマに対して直接述べたという点が重要だと思います。

 北朝鮮指導部による水素爆弾実験の声明に鑑み、米露両首脳は、もし確認されるならば、国連安保理決議に対する重大な違反であり、厳しい国際的対応を受けるべきだと述べた。同時にプーチンは、朝鮮問題の外交的解決が好ましいとするロシアの一貫した立場を確認した。情勢の更なるエスカレーションを回避するため、ロシア大統領は、関係諸国すべてが最大限に自制し、北東アジアにおける軍事的エスカレーションを招きうる行動を取らないことが望ましいと述べた。

 もう一つつけ加えておくことがあります。昨日紹介した環球時報社説でも、「中国は朝鮮政権を「死に追いやる」制裁決議を支持はしないだろうが、核材料が朝鮮に入ることをさらに遮断する措置には同意するだろう」と、安保理制裁決議に対する中国の含みある立場が表明されていました。1月14日付の環球時報所掲の曹世功(アジア太平洋学会朝鮮半島研究会委員)署名文章でも、「適度にエスカレートした対朝鮮制裁決議を支持する」という発言がありますので、中国が今後の安保理での審議にいかなる態度で臨むかについては、確たることは今の段階では見通せません。
 それでは、1月15日付の環球時報社説の内容を紹介します。すでに述べたように、社説は韓国世論・社会に向けるという体裁を採っていますが、内容的には明らかに朴槿恵に向けたものです。

 韓国世論は、最近不断に朴槿恵に圧力をかけ、中国が朝鮮を取り締まるように韓国政府が中国に促すことを要求している。朴槿恵は13日、中国が朝鮮を厳しく制裁することを呼びかけ、中韓関係に関する更なる議論を惹起した。朝鮮の「水爆」実験に対して韓国社会が若干浮き足立っていることは理解できるが、彼らが中国に対して焦りの気持ちをぶつけるのは道理が立たない。韓国社会は、自らの思考及び感情を整理する必要がある。
 韓国人は、中朝関係が「さしてよくない」ことを明確に知っているくせに、自他共に欺瞞する形で、北京には「平壌に話を聞かせる方法がある」と信じてもいる。朝鮮が第4回核実験を行ったのは、朝鮮の核放棄を求める中国の立場が不十分だからであり、中国には朝鮮核問題を解決する「黄金の鍵」があると、彼らは考えている。
 もちろん、中朝関係は韓米日と朝鮮との関係とは同じではないが、中朝は韓米のような同盟ではない。少し以前に朝鮮のモランボン楽団が中国に来て、演奏もしないで帰国したということ自体、中朝関係の複雑さを見事に表している(浅井注:モランボン楽団の件を中国メディアが正面から取り上げたのは、私の目にとまった限りでは、これが最初です)。朝鮮の核問題でその政策決定及び方向性について影響を及ぼそうとするのであれば、中朝関係に頼るだけでははなはだ不十分であり、米韓等は自らの責任を負わなければならない。
 指摘しなければならないのは、米韓はここ数年、自らの意味ある努力をほとんど放棄していることだ。米韓は、朝鮮に対して軍事圧力をかけ、軍事力をひけらかしているが、これほど簡単なことはない。しかし、すでに20年以上にわたってこじれきっている朝鮮核問題を、脅しあげるだけで簡単に解決できるだろうか。
 朝鮮は常に、韓国という「米帝の走狗」を厳しく征伐すると言っているし、延坪島にも砲撃したことがあるが、韓国は腰を抜かしただろうか。韓国が怖がっていないのに、何をもって、「空前の制裁」及びさらに極端な軍事的威嚇によって朝鮮の腰を抜かすことができると信じているのだろうか。
 朝鮮核問題は「負の連鎖」による結果であり、制裁によって朝鮮に圧力をかけることは膠着した事態の重要な突破口であるとしても、さらに広汎な、関係諸国が相互に妥協し、貢献する方案を出すことで、それを裏付けなければならない。米韓は、朝鮮に安全感を与えることについて実際の行動を取らなければならない。しかし現実の状況はといえば、朝鮮及び米韓は自ら果たすべき義務を果たしておらず、惰性のまま従来どおりの途をひた走りしているだけだ。
 韓国は長期にわたって「アメリカの保護下にある」が、これは保護であると同時「足かせ」でもある。アメリカの朝鮮半島政策は韓国の利益になるように設計されたものではなく、ワシントンのアジア太平洋戦略の一環である。多くの人は、アメリカは半島が決定的に緊張緩和することを望んでいないし、したがって自ら朝鮮と完全に和解することに興味がないと信じている。
 韓国世論はアメリカの機嫌を損じたくないのかも知れないし、アメリカによってもはや独立した思考ができなくなっているのかも知れないが、彼らが中国に対して朝鮮の核放棄について求めるのは、話すべき相手を間違えている。韓国はアメリカに対して圧力をかけ、アメリカが朝鮮と対立を緩和するために同じ方向に向かって進むことを要求しないだけではなく、韓米の利益が一致するときも一致しないときでも常にアメリカの言うなりになり、朝鮮に対して過度に軍事力をひけらかしている。
 ワシントンと東京は、中国が朝鮮核問題解決の荷物をすべて背負い込み、対朝鮮政策を180度転換し、中朝が東北アジアの新たな衝突の焦点となり、東北アジアのほとんどすべてのリスクを一手に引き受けて消耗することを熱望している。韓国人の中にもそう考えているものもいるようだが、これはまったく道理に合わない。
 中朝関係はすでに朝鮮核問題の影響を被っており、中国は、朝鮮の核放棄を促すためにほかのどの国よりも高い戦略的代価を支払ってきた。中国は引き続き国際社会とともに朝鮮に対して制裁を行うべきではあるが、多くの国々が共に担うべき責任を中国だけが担うということは、中国にはそんな義務はないし、実際上できっこもない。
 中国に対してああしろ、こうしろと言いながら、自らは責任を担うことを拒否し、軽々しくやっつける、殺すとわめきながら、中国だけに貴重な戦略資源を使い果たして「尻ぬぐい」しろと要求する。アメリカは常にそうだが、韓国はそんなアメリカに学ぶべきではない。
 韓国は、次のことをよくよく考えるべきだ。朝鮮半島で「戦って共倒れになる」ことを一番懼れているのは韓国自身なのか、それともアメリカ、日本なのかということを。韓国が米日と「高度に一致する」という道理はどこにあるかということを。重要なことは、無制限に制裁をエスカレートしていっても効果はないのみならず、新たにいかなる新しい変数が持ち込まれるか分かったものではないということだ。仮に制裁及び軍事的威嚇というもっとも簡単に組織できる方法だけで世界の難題が解決できるというのであれば、世界の多くの地方がこんなに乱れていることはないはずだ。