「従軍慰安婦」問題に関する日韓合意

2016.01.10.

2015年12月28日に行われた岸田外相と韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相とによる日韓両外相共同記者発表(以下、便宜的に「日韓合意」と略称)は、韓国のいわゆる「従軍慰安婦」問題に関する「最終的かつ不可逆的」解決を達成したものとして喧伝され、日本国内では政府・与党のみならず、野党もおおむね肯定的に評価しました。野党が肯定的に評価したのは、①岸田外相発表文が「当時の軍の関与」を明記したこと、また②韓国政府が設立する、元「慰安婦」支援を目的とする財団に対して「日本政府の予算で資金を一括で拠出」するとしたことによるものでした。
まず、①の点に関しては、安倍政権が旧日本軍の関与を認めた1993年8月4日の河野官房長官談話を問題視してきた姿勢を改めたと受けとめられたこと、また②の点に関しては、1995年に設立されたアジア女性基金が民間の拠出によるものであることに対して、日本政府の法的責任を回避することを正当化するためのものという強い批判があったことに鑑みたものであると受けとめられたことが、野党の肯定的評価を導いたと判断されます。
しかし、私自身は、このような受けとめ方には強い違和感を覚えます。①に関しては、今回の「政治決着」のための「戦術的譲歩」であるにすぎず、安倍政権のこの問題に関する基本的認識・立場が微動だにしていないことは、日韓合意直後からの安倍首相の数々の発言が如実に示すところです。また②に関しても、政府が資金を拠出することは法的責任を認めるものではないという発言がくり返されています。
果たして韓国国内では、日韓合意の発表直後から、その評価に関して激しい議論が起こりました。しかも、日韓合意内容に関して安倍首相及び岸田外相から数々の問題発言が飛び出し、これがさらに韓国国内世論を刺激してきました。さらに、朴槿恵政権が今回の日韓合意に応じた背景には、日韓関係膠着がアメリカのAPR軍事戦略に支障をきたしていることを深刻に懸念するオバマ政権の強い圧力があったという反発も広がっています。
正直に言いまして、私は韓国メディアの報道を直接フォローしていません(主要メディアは日本語版WSを開設しているので、物理的にフォローが難しいわけではありませんが、何分にも主要メディアだけでも数社はあるので、とても手が回りません)が、中国の主要通信社(新華社及び中国新聞社)が韓国メディアの報道にはかなり力を入れてフォローしているので、今回の件に関しても大体の様子はつかめます。
以下におきましては、昨年末から今日までの韓国国内における議論の所在を時系列的に整理することで、日韓合意を検証してみたいと思います。また、「従軍慰安婦」問題は、韓国だけではなく、朝鮮、台湾、中国、フィリピン、オランダなどにも被害者がおり、今回の日韓合意に対しては声があがっている状況があります。断片的ではありますが、中国メディアの報道に依拠してその点についても事実関係を整理します。また言うまでもなく、中国も当然ながらこの問題に対して強い関心を持って注目していますし、かなりの論評も出ています。そういう論評についても紹介します。

1.韓国国内の議論

朴槿恵大統領は、12月28日、日韓合意成立後に「国民向け談話」を発表しました。その中で朴槿恵は、韓日関係を改善するという大局から今回の合意を理解して欲しい、と被害者及び国民に訴えました。また彼女は、多くの被害者はすでに高齢であり、2015年だけでも9人の方が亡くなっており、存命者はわずか46人になっているという時間的な緊迫性と現実的な条件を考えて、最大の努力を行った結果が今回の合意であると説明し、今回の合意によって被害者の精神的苦痛が和らげられることを希望すると述べました。また、これからの重要課題は、速やかにかつ確実に日韓合意を履行し、必要な措置を講じて被害者の苦痛を軽減することだとも述べました。さらにまた彼女は、交渉を通じて、被害者の名誉回復と受けた傷を癒すべく問題を解決するという確固とした原則を一貫して堅持し、国際世論の圧力には一貫して屈せず、韓日関係を改善する前にこの問題を解決するという立場を堅持してきたとも説明しました。
これに対して、韓国の「慰安婦」を支援する団体である「挺身隊問題対策協議会」(以下「協議会」)は同日、達成された日韓合意は「被害者・慰安婦及び韓国の人々の熱い期待に背く外交的妥協」であると厳しく非難しました。「慰安婦」だった李溶洙(李容洙とも)さんは、「取り戻したいのは法律的正義であって、カネではない」と述べました。協議会が出した書面での声明はさらに、日本政府は「慰安婦」問題に対して責任があると述べたが、合意内容にはこの犯罪が日本政府及び軍隊が犯した組織的犯罪であることは入っていないと指摘し、合意は日本政府が犯罪の主体であることを明らかにしておらず、安倍首相は日本政府を代表して自ら謝罪するべきであるのに、その謝罪形式は他人による代読であり、謝罪対象もあまりにも曖昧だとする疑問を突きつけました。さらに、韓国政府が、日本政府による合意実行を前提として、「慰安婦」問題の最終的かつ不可逆的な解決を確認し、駐韓日本大使館前の少女像の問題を解決する方法を講じることを約束し、「慰安婦」問題で国際的に相互非難を行わないように約束したのは、小を得て大を失う「屈辱外交」だと厳しく指摘しました。
12月29日付新華社電は、ソウル駐在記者の報道として、「今回の合意は、両国が歴史問題を適切に解決して未来に向かう必然的選択であり、両国が関係を改善する上でチャンスを提供する」という好意的見方(韓国議会筋、韓国経済関係者など)があるとともに、「今回の韓国政府の決定は被害者の意見を反映しておらず、両国の政府レベルの政治的妥協であり、基本的に偏っている」という批判的見方もあって、世論は二分されているという見方を紹介しています。後者の典型的な見方として、同日付の中国新聞社電は、「慰安婦」支援施設関係者は、日韓交渉の過程において、両国政府は一度として被害者と接触しなかったと指摘し、法律に基づく賠償ではない人道的な援助は絶対に受け取らないと明確に述べたことを紹介しました。
韓国外務省の林聖男第一次官はこの日、一部の被害者を訪れ、日韓合意に対する理解を求めました。林聖男は、事前に被害者と協議しなかったのは交渉の成功を確保するという考慮に出たものだとし、政府としての最大目標は彼女たちがこの世を去る前にその名誉と尊厳を回復することだったと説明しました。しかし、被害者たちはこの説明に納得せず、被害者の金君子さんは、「政府は何故に合意達成をかくも急いだのか。私たちは受け入れない」と突き放しました。
日本大使館前の少女像の移転に関しては、12月29日付の中央日報社説は、日韓合意を全体として肯定し、歓迎する一方、韓国政府が「最終的かつ不可逆」の解決を行い、国際社会で相互非難を慎むと合意したこととともに、少女像の移転について約束したことは極めて論議を呼ぶ危険なことだと指摘しました。12月30日には、「慰安婦」問題の解決を促進する民間団体主催の「週3集会」が予定どおりに日本大使館前で開かれましたが、少女像の制作者である金曙景は新華社記者に対し、韓国政府が交渉において少女像問題で譲歩を行ったことに怒っているとし、少女像を撤去するのは「ばかげている」と告発しました。また韓国連合通信は、少女像は市民がわずかなお金を持ち寄って設置した歴史的シンボルであり、子々孫々が歴史を理解し、学ぶためのものであり、韓国政府または日本政府が勝手なことをいうのは許さないと述べる被害者の声を紹介しました。
なお、「週3集会」の集会者は、両国政府が被害者の訴えを尊重しないで合意したことに抗議し、日本が正式な謝罪と法律的な賠償を行うことを要求しました。集会者は、「当事者が参与しない交渉は無効」、「日本軍が強制的に「慰安婦」を動員した事実を承認し、法律的な賠償を行え」などと書いた横断幕を掲げ、「交渉無効」、「正式謝罪」などのスローガンを叫びました。李溶洙さんは、韓国政府が交渉の前に当事者たちと意思疎通を図らなかったと表明し、今回の合意は「厚顔無恥なでたらめ合意」であると批判しました。
12月30日付韓国連合通信は、前日(29日)の安倍首相の発言(28日の日韓合意で問題はすべて解決された。28日の朴槿恵大統領との電話会談では、問題はすべて終わったことについて了解し合った。自分は今後二度と謝罪しないし、2016年に行う日韓首脳会談でもこの問題を取り上げない)に関する産経新聞の報道を批判的に紹介しました。また、日本政府が10億円の基金を拠出するのは韓国側が少女像を大使館前から撤去することが前提条件だと報道されたこと(12月30日付の朝日新聞)は、岸田外相が、日韓外相会談直後に、韓国側は少女像を撤去するものと確信していると述べたことと併せ、韓国国内で激しく批判されました。
12月31日付の中国新聞社電は、韓国メディアの報道として、日本側が次々と合意内容と一致しない解釈を示していることに対して、韓国外務省は「合意の精神を傷つけるべきではない」旨外交ルートを通じて日本側に申し入れたと報じています。同電はまた、尹炳世外相が30日の記者懇談会で、日本側は誤解を生むような発言を慎んで欲しいと述べたことを取り上げ、これは日本に対する警告だとしています。
同電はさらに、同じく30日、日本外務省の責任者が、日本側拠出は少女像撤去が前提条件とした日本メディアの報道は日韓合意の内容に含まれていないと釈明したこと、また、韓国外務省がフェイス・ブックで、①「最終的かつ不可逆的解決」としたのは日韓双方に関係するものであり、日本が合意内容に違反する行動を取るべきではないことを明確に表明したものだと説明したこと、②日韓合意中の「双方が「慰安婦」問題で相互に非難し合わない」としているのは日本政府が合意内容を確実に履行することが前提になっていることも紹介しました。また同電は、韓国外務省が、少女像移転に関して韓日間では合意を達成していないし、「慰安婦」に関する記憶遺産申請を見合わせるという報道も事実ではないと否定したことも報じています。
尹炳世外相は12月31日に与党・セヌリ党の議員大会で今回の日韓合意について説明した際、合意内容を勝手に解釈することは許されないと発言しましたが、これは、日本政府が韓国政府とは異なる解釈を示していることを念頭においたものと受けとめられました。同外相はまた、韓国世論の中に政府は妥結を急ぎすぎたという批判があることに対して、今回日本側が出した内容は過去のいかなる時と比べても進んだ内容があり、もしこの機会を失ったならば、交渉は長期化し、問題は永遠に解決できないかも知れなかったからこそ、韓国政府としては46名の被害者が存命中に合意を達成しようとしたものであると釈明しました。
1月4日付の新華社電は、日本メディアの報道を紹介する形で、12月30日に韓国民間世論調査期間が行った世論調査の結果、韓国国民の50.7%が日韓合意を達成したことは間違いだと考えている、また、66%が少女像の移転に反対であるという数字であったことを紹介しました。
1月4日、岸田外相は日韓間には共同発表の内容以外の合意はないとしつつ、少女像は然るべく移転されると考えていると述べました。これに対して韓国外務省筋は即日反応し、日本側は被害者の名誉と尊厳を回復し、彼女たちの受けた傷を癒すために確実に日韓合意を履行するべきであると述べるとともに、少女像は民間が自発的に設置したものであり、韓国政府は民間の自発的な行為に関与することはできないと述べました。また、韓国外務省は同日、日本大使館員を召致して岸田外相発言に対して激しく抗議しました。韓国メディアによれば、尹炳世外相が12月30日に日本側を牽制する発言を行った(浅井注:上記参照)にもかかわらず、再び岸田外相が誤解を招く発言を行ったため、韓国外務省が日本側に警告を行った可能性があるとしています。またこの韓国外務省関係者は、記憶遺産申請に関しても民間の活動であり、政府は干渉する権利がないと述べました。
1月4日付東亜日報は、日韓合意成立後、韓国各界は少女像移転の可能性に対して関心を寄せているとし、ソウルの多くの大学生の団体が組織した「日本軍慰安婦問題日韓合意廃止対策委員会」は、12月30日の「週3集会」以来連日、野宿して静座の抗議を行っており、一般市民に対して日韓合意の誤りを述べ、人々が少女像を守る活動に参加することを呼びかけていると紹介しました。
また、1月5日付中国新聞社電は、韓国世論の日韓合意に対する怒りは、①韓国政府が事前に被害者の意見を聴取しなかったこと、②合意が「最終的かつ不可逆的解決」と明記したこと、③韓国政府は日本メディアの意図的な報道に反駁できていないこと、の3点に特に向けられている、という見方を紹介しています。同日、韓国外務省の趙俊赫報道官は定例記者会見で、少女像は民間が自発的に設置したもので、移転するかどうかについて政府は干渉できないと重ねて発言しました。

2.関係諸国の反応

以下では、朝鮮、台湾、フィリピン、オランダにおける反応を紹介します。

<朝鮮>

  1月1日、朝鮮外務省報道官は朝鮮中央通信記者の質問に答える形で、次のように批判しました。注目する必要があるのは、被害者が多くの国々にいることに注意喚起していることと、アメリカの関与を指摘して批判していることです。朝鮮メディア及び関係団体(朝鮮日本軍性奴隷・強制連行被害者問題対策委員会、朝鮮民主女性同盟(女盟)中央委員会)の批判もおおむねこの3点に集約されます。

「うわべだけの「謝罪」と廉価の資金支出で日本の極悪な性奴隷犯罪行為を覆い隠すことにした今回の合意は徹頭徹尾、国際的正義と被害者らの正当な要求に顔を背けた政治的駆け引きの所産で、絶対に許されない。」
「日本国家が20万人の朝鮮の女性をはじめ世界の諸国の女性らを相手に働いた性奴隷犯罪は国際的な特大型の反人倫犯罪で、その被害者は朝鮮半島の南だけなく北にもおり、他のアジア諸国と欧州にもいる。」
「注目されるのは、今回の合意について米国が急いで「祝賀」と「全面的履行支持」をうんぬんしたことである。米国は、日本と南朝鮮を自分らが推進している侵略的な三角軍事同盟に縛っておくために「日本軍慰安婦」問題の「妥結」をあおり立ててきた。日本軍性奴隷犯罪は特定の国の操りや仲裁でいい加減に妥協して解決する性格の問題ではなく、特にいくばくかの金でうぶな相手をだまして解決できる問題ではない。」

1月2日付の「民主朝鮮」署名入り論評は、「日本軍性奴隷問題が完全に解決されるには、日本がそれに対する国家的・法律的責任を認めて公式謝罪と徹底した賠償をしなければならない」と具体的に指摘しました。しかし、「日本は今回の会談で日本軍性奴隷問題に対して「謝罪と反省」の心を表明するという現執権者の面映い発言を伝達し、幾ばくかの資金を支援することにしただけである」とし、「これは、日本当局の今回の措置が彼らの心からのものではなく、歴史をわい曲し、真実をまどわす自分らの策動が内外から糾弾されるとやむを得ず取ったずる賢い措置だということを物語っている」と本質を突いた批判を行っています。
この論評はまた、「特に、看過できないのは今回の会談が米国・日本・南朝鮮の三角軍事同盟を形成しようとする米帝のシナリオによるものであるということである」と指摘し、「朝鮮半島に核戦争の火雲をもたらすこのような米国の策動に南朝鮮当局が巻き込まれている」として、韓国政府を非難しました。
1月3日付の「労働新聞」の署名入り論評も、「南朝鮮当局が日本との「合意」を通じて日本軍性奴隷問題をうやむやにしたのは100年来の敵に民族の尊厳と利益をためらわずに売り渡した、それこそ驚愕すべき親日逆賊行為だ」と韓国政府を厳しく批判し、返す刀で「南朝鮮で日本軍性奴隷問題に関連する屈辱的な会談が行われ、それが全民族を憤激させるいわゆる「合意」につながったのは米国の介入策動と絶対に切り離して見られない」として、アメリカの関与を指摘しています。

<台湾>

台湾総統の馬英九は、日韓合意の翌日(12月29日)にメディアの訪問取材を受けて、台湾は一貫して、日本政府が台湾籍の「従軍慰安婦」に対して謝罪し、賠償し、その正義と尊厳を回復することを要求してきたと発言しました。また、台湾外交部の責任者も同日、馬英九が過去20年来「慰安婦」問題に関心を払ってきたとし、3度にわたって被害者と執務室で会っていると紹介しました。その上で同人は、関係組織からなるワーキング・グループが今後日本側と接触するだろうと述べました。

<フィリピン>

フィリピンの国会議員は12月30日、フィリピン政府が韓国政府に倣って日本政府との間でフィリピンの「慰安婦」に関して合意を達成することを促しました。同議員は、合意には謝罪と賠償などを含め、「日本がフィリピン籍の「慰安婦」に最低10億ペソ(2120万米ドル)の賠償を支払うとともに、永遠に戦争を再発動しないことを約束する」ことを要求しました。フィリピンの一女性団体を代表する女性下院議員も、アキノ政権が具体的措置を取り、日本が第二次大戦においてフィリピン女性に対して犯した暴行を承認することを迫るべきだと述べました。また1月6日、フィリピンの著名な弁護士は、アキノ大統領がフィリピンの「慰安婦」を支援せず、日本政府に対して行動をとっていないことを批判し、大統領の任期が終了した後に訴訟する可能性があると発言しました。

<オランダ>

オランダの日本道義債務基金(The Foundation Japanese Debts of Honor)の理事長は、明らかなことは、日韓合意はアメリカが日韓両国に圧力をかけた結果であるとしつつ、日本がついに70年前の犯罪を承認したことは喜ばしいとし、オランダの「慰安婦」についても日本の謝罪を確保したいと述べました。報道によれば、オランダの被害者は約400人前後で、10年前にアジア女性基金から補償金を受け取ったものもいますが、多くの被害者は妥協を拒み、日本政府が謝罪することを期待しているとされます。

3.中国の反応

中国の公式の反応としては、12月28日、同29日及び1月5日に、中国外交部報道官が定例記者会見で記者の質問に答えた発言があります。特に注目されるのは1月5日の華春瑩報道官の以下の発言です。

(問)報道によれば、日韓合意後、日本側はたびたび、韓国側は少女像を移転する意思があるし、中国と連合して「慰安婦」の案件を世界記憶遺産に申請することはないと言っているのに対して、韓国政府は、政府は民間の自発的行為には干渉できず、日本側は誤解を招く言動をするべきではないと反応している。中国のコメントいかん。
(答)「慰安婦」強制徴用は、日本軍国主義が第二次大戦中に犯した深刻な反人道行為であり、関係資料は人類共同の記憶となるべきであり、全人類の重視と保護を得て、歴史を銘記し、平和を珍重し、未来をともに築き、人類の尊厳を防衛するという積極的な役割を十分に発揮するべきだ。小さなそろばんをはじき、さらには歴史を否定するような言動は、歴史問題に関する日本側の真意及び態度を疑わせることになるだけである。日本は、誠実に責任を負うという態度に基づき、歴史をしっかりと正確に認識し、かつ、深刻に反省し、関連する問題を妥当に解決し、アジア隣国及び国際社会の信頼を獲得するべきである。

この問題に関する中国側論評としては、12月29日付環球時報社説、同日付人民日報海外版所掲の華益文(国際問題専門家)署名文章、同日付京華時報所掲の賈秀東署名文章、12月30日付人民日報所掲の龐中鵬(中国社会科学院日本研究所)署名文章、同日付環球時報WS所掲の侯隽(外交関係学院国際関係研究所)署名文章、同日付中国網所掲の李若愚(中国社会科学院日本研究所政治研究室)署名文章、1月2日付中国網所掲の趙衛涛(中国人民大学国家発展戦略研究院)署名文章、1月8日付中国網所掲の張敬偉(チャハル学会)署名文章などがあります。ここでは、私がもっとも読み応えを感じた1月6日付環球時報WS所掲の労木(同紙評論員)署名の「日本の屈辱的操作に対して、韓国人はいつまで辛抱できるか」の大要を紹介します。

12月末に日本と韓国は「慰安婦」問題で合意を達成し、安倍は、頭痛の種を取り除き、日韓間の障害を取り払ったと大いに得意になった。しかし、事態の展開が明らかにしているように、安倍が大喜びするのは早すぎであり、問題は終わってはいない。
日韓合意が明らかにされてから、韓国の人々は憤激しており、世論調査によれば、66%が日韓合意に反対で、支持するものはわずか19%に過ぎない。激高した民衆は、政府を「売国」「妥協」と非難している。
韓国民衆の憤激には十分な理由がある。「慰安婦」問題は日本が第二次大戦中に犯した重大犯罪の一つであり、解決の前提は日本が真剣に罪を認め、公開で謝罪し、正式に賠償することだ。しかし今回の合意にはこれらの内容は含まれておらず、日本は罪を認める意思表明をせず、正式に謝罪をせず、法律上の賠償も行っていない。有り体に言えば、日本はカネで罪を買い戻したのだ。韓国の民衆は当然応じるはずがない。
火に油を注いだのは、日本はこの10億円ですら潔く支払うのではなく、韓国が日本大使館前の少女像を移転しなければ、10億円は出さないとしたことだ。しかも、今回の合意にはそのことは何も書いていない。韓国世論は、隴を得て蜀を望む日本の貪欲さは、日本の操作するところに韓国がどこまで意のままになるかを試そうとしているのであり、韓国に対する蔑視と恥ずかしめは留まるところを知らないとみている。
外から見るとき、韓国当局の今回の日本に対する妥協はまったく必要がなく、あまりにもひどい。アメリカの圧力と日本の欺瞞的誘惑は今日に始まったことではなく、抵抗することができないわけではないことは明らかだ。「慰安婦」問題に関しては、韓国の民意は分厚いものがあるし、国際的な同情、支援もある。「慰安婦」問題の公正な解決のため、韓国は国をあげて長年にわたって抗争してきたのであり、このような結果で場を収めるというのは、あまりにも値しないし、だらしがなさすぎる。
合意成立の翌日、安倍は「謝罪は今回限り、二度としない」と言い放った。これは、韓国向けであると同時に、日本に対して「慰安婦」問題を持っている国々に対して向けたものでもあり、挑発的含意が極めて濃厚だ。
日韓合意はアメリカの強圧と日本の巧言令色の産物であり、早産で呼吸器によって命を保っている赤子のようなものだ。無理やり生き続けるとしても、それは日韓両政府レベルだけのことで、世間はまったくシカトするだろう。さらに言えば、アメリカは一貫して韓国に対して日本との関係を改善するように圧力をかけ、それによってぼろぼろの米日韓軍事同盟のほころびを取り繕おうとしているが、「慰安婦」問題を突破口として選んだのは明らかに処方箋を間違えている。