朝鮮の第4回核実験への対応:米中の応酬

2016.01.09.

朝鮮の第4回核実験に如何に対応するかに関し、アメリカのケリー国務長官は1月7日に中国の王毅外交部長と電話会談を行い、朝鮮に対してとるべき選択肢について話し合い、「我々は、いつもながらの対応ではならない(there cannot be business as usual)ことで合意した。核実験に関する我々の懸念の増大に向きあうべく取る措置を緊密に協力していくことにも合意した」と述べました。さらに、記者の質問に答えて、「中国としては特別なアプローチの仕方があったし、それを実行する彼らなりのやり方を我々は尊重してきた。しかし、本日の会談で、私は、中国のこれまでのやり方は有効ではなかったし、これまでどおりではダメだということを明確にした」と述べました(同日付米国務省WS)。
1月8日付の中国外交部WSは、米中外相電話会談でのやりとりを紹介しましたが、その内容は、次のとおり簡潔なもので、王毅がケリーと合意したという内容は皆無でした。

「ケリーは、朝鮮の再度の核実験に対するアメリカの立場を説明し、当面の情勢について中国側と意思疎通及び協調を保っていきたいと述べた。王毅は、中国は半島非核化の目標に力を尽くし、半島の平和と安定を維持することに力を尽くすことを堅持している。中国は、アメリカを含む関係国すべてと意思疎通を行っていきたい。」

ちなみに王毅は同日、フランスのファビウス外相及び韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相とも電話会談を行って朝鮮核問題について協議を行いました(中国外交部WS)。尹炳世との会談における王毅発言は興味深いので紹介しておきます。

「王毅は、半島核問題は様々な試練を経ているが、中国の終始一貫した原則は、半島非核化堅持、半島の平和と安定擁護堅持、対話を通じた問題解決堅持である。この三つは相互に関係しており、一つたりとも欠くことはできない、と述べた。王毅は、中国が朝鮮の核実験に反対するという既定の立場を重ねて述べ、中国が韓国と意思疎通を維持し、現在現れた複雑な局面に対応し、半島核問題が速やかに交渉軌道に戻るよう断固として推進することを希望していると重ねて述べた。」

以上から容易に理解できることは、ケリーが述べたような「合意」は米中間にあったとは考えられず、明らかにケリーの勇み足だったということです。しかもケリーは、中国のこれまでの朝鮮に対する対応の仕方ではもうダメだということも王毅に明確に述べたとしたため、中国側は猛反発しました(1月8日の中国外交部定例記者会見における華春瑩報道官発言、同日付環球時報社説及び同日付同紙所掲の金燦栄署名文章)。
私は、第4回核実験を行った朝鮮に対して、中国は、アメリカ(及び日韓)が主張する安保理による制裁強化措置決議の採択を阻止し、事態の沈静化にこそ努めなければならないと確信します。その理由は次のとおりです。

1. 政治的理由
朝鮮が置かれている状況は1964年に中国が核開発を行った当時同様あるいはそれ以上に深刻であること。
アメリカは2006年に先制核攻撃を織り込んだ「おあつらえデタランス」戦略(tailored deterrence)を採用、韓国は2010年の天安号事件及び延坪島砲撃事件を受けて、これまた先制攻撃を織り込んだ「積極抑止戦略」を採用、そして2013年には米韓が以上の戦略を具体化した作戦計画を採用した。したがって、朝鮮としては、いつ何時米韓から先制攻撃の戦争を仕掛けられるか分からない、極めて緊張せざるを得ない環境に身を置くことになった。それが現実化したのが2015年8月の一触即発の事態(「8月危機」)だった。
中国としては、自らの1964年当時の状況を想起し、他者感覚を十分に働かせて、朝鮮がハリネズミの心境にあることを正確に認識しなければならず、したがって、米日韓主導の安保理決議の採択を阻止することにより、朝鮮が中国に対して温めるようになっている不信感と警戒心を解くことが何よりも求められている。
ちなみに、2015年12月28日付環球網所掲の葛漢文(解放軍国際関係学院副教授)署名の「硬軟両様 朝鮮はこのように大国とプレイする」と題する文章及び本年1月6日付環球時報所掲の中国現代院世界政治研究所の任衞東副研究員発言も、朝鮮の核開発戦略を1960年代の中国のそれと比定している。
朝鮮に対する従来の国際的強硬対応は何ら朝鮮の譲歩を引き出したためしがないこと。
過去3回の朝鮮の核実験に対する安保理制裁はなんらの実効をも挙げていない。中国が制裁を強化すれば朝鮮は屈伏せざるを得ないだろうとするアメリカの主張は、なんらの説得力もないのみならず、朝鮮半島の平和と安定を最重視する中国の基本政策からしても、決して取るべき政策ではない。
2.国際法的理由
国際法の基本原則は、慣習法を別として、約束した当事国のみを拘束するということ。
朝鮮はNPTから脱退しており、核実験を行う朝鮮に対してNPT 違反として制裁を課すことは無理である。安保理は、インド、パキスタン、イスラエルの核武装に対して、朝鮮に対して取ったような制裁措置を講じていないのはそのためである。
人工衛星打ち上げを含む宇宙の平和利用の権利は、宇宙条約で万国に認められた基本的権利であること。
第2回及び第3回の朝鮮の核実験に対する制裁に関しては、それに先行する朝鮮の人工衛星打ち上げを非とする安保理決議に朝鮮が反発して核実験を強行するという流れがあった。宇宙条約というもっとも基本的な国際条約で認められた朝鮮の権利を、安保理決議によって取り上げたり、制限したりすることはできないはずである。もし、そのようなことが許されるとすれば、国際社会は5大国の専横が支配するヤクザの世界になってしまう。その点を中国はしっかり認識するべきである。
安保理決議は国際法を構成しないこと。
中国(及びロシア)は、安保理決議そのものが国際法を構成するという認識に立っているが、それは誤りである。安保理決議の拘束力は、国連憲章第25条により、国連加盟国は安保理決議を受諾し、従うという規定に基づくものであり、それに尽きる。
しかし、私人間の契約であっても公序良俗に反する内容のものは無効で、効力を有しないのと同じく、国際条約によって認められた一国の国際法上の権利を制限または禁止する安保理決議は無効である。
(結論)
したがって、NPT加盟国ではない朝鮮に対してNPT違反として制裁を課したり、宇宙条約で認められている権利を制限したりするような安保理決議は無効でなければならない。
中国は、すでにこれまで取ってきた立場をくつがえすことはできないと難色を示すかも知れない。しかし、ゼロ・サムの権力政治を否定し、協力共嬴の民主的国際関係を標榜する習近平外交は、2006年以来の対米協調国連外交の誤りを率直に承認してこそ、国際的信頼を獲得する所以であると確信する。

以上の私の認識からすると、華春瑩、環球時報社説及び金燦栄署名文章に示された中国側のアメリカに対する反発は当然であり、今後の中国の対応に対しては若干期待が持てるようになったという感じを受けます。ということで、その内容を紹介しておきます(金燦栄署名文章の内容は華春瑩発言をひもとく感じのものなので省略します)。

<華春瑩報道官発言>
 (中米外相電話会談の内容如何という質問に対し)王毅外交部長は、申し込みに応じてケリー国務長官と電話を行い、中国の立場を全面的に詳しく述べた。王毅は、朝鮮の核実験後に出現した新たな情勢に対し、中国は国際的な核不拡散システムを擁護する立場から、各国と共同して対応していきたいと述べた。中国の基本的立場は、いかなる変化が出現しようとも、半島非核化の目標を推進することを堅持し、半島の平和と安定を擁護することに力を尽くすことを堅持するということだ。中国は、朝鮮が非核化の約束を守り、戻ってくること、情勢を悪化させるいかなる行動も停止することを促し、同時に、他の各国に対しても、冷静に事に処し、平和解決の大方向を堅持し、矛盾を激化し、情勢の緊張がエスカレートするような行動を回避することを促す。
 (ケリーが述べた、中国の対朝政策及びこれまでの中国のやり方ではダメだとした発言に対する見方如何という質問に対し)中国は朝鮮半島の近隣である。東北アジアの平和と安定を擁護することに着眼するにせよ、中国自身の良好な周辺環境を擁護することに着眼するにせよ、中国としては半島非核化の目標を推進することを堅持しており、このことは関係諸国の共通の利益に合致する。中国は一貫してこのために巨大な努力を払ってきた。
 半島問題の由来及び原因は中国ではなく、問題解決のカギもまた中国にはない。そうではあるにせよ、国際核不拡散システム及び東北アジアの平和と安定を擁護するという大局に立って、中国は一貫して、6差協議の枠組みのもとで対話と協議を通じ、関係諸国の合理的な関心を適切に解決し、半島の長きにわたる安定を実現する根本的な道筋を探すことを主張し、かつ、力を尽くしてきた。
(朝鮮は、朝鮮戦争を正式に終結する平和協定を望んでいるが、中国の見解如何という質問に対し)我々は、6者協議の9.19共同声明の精神に従い、各国の合理的関心のバランスある解決を推進し、この地域の長きにわたる安定を実現することを主張している。
<環球時報社説「朝鮮核問題における「中国責任論」は道理を歪めた空論だ」>
 朝鮮が水爆実験に成功したと発表したことは、国際社会に対して大きな挫折感を与えるものだった。安保理は速やかに声明を発表して朝鮮を非難した。遠からず新たな対朝鮮措置が作られることが予想される。
この時に及んで、アメリカ及び西側の一部世論は、中国をまな板に乗せ、朝鮮核問題における「中国責任論」を打ち出している。中国が対朝鮮制裁に参加していることを否定できないため、米欧の主要メディアは中国の対朝鮮制裁の力の入れ方が足りないと非難し、中国は朝鮮が全面的に混乱することによる影響を懸念するべきでないとしている。ということは、中国はすべての可能なことをやって、様々なリスクを一手に背負い込むべきだということに等しい。
朝鮮核問題の根っこは極めて複雑であり、朝鮮政権が国家の安全保障政策の方向性の選択を誤ったという問題もあるが、アメリカが朝鮮敵視政策を堅持しているという外部的要因もある。
 朝鮮半島が今日もなお平和協定を締結できないことは、平壌をして深刻な安全保障上の焦りを生ませている。アメリカは、多くの責任を負担し、半島の緊張した情勢を緩和し、朝鮮が核を放棄することに積極的になるようにすることを考慮するべきだ。
 朝鮮の核問題は今、各国をがんじがらめにしており、朝鮮もそうである。朝鮮の核政策がさらに広汎な核拡散を刺激するならば、全世界が敗者となる。この歪んだ流れを打ち破ることは、いずれかの国が単独で促進することはできないのであって、各国が努力し、集団的な妥協を創造することが求められている。国際問題をそらんじているはずのアメリカの主要メディアが中国だけにこうしろああしろと教えを垂れるのは、朝鮮核問題に対するアメリカ全体の認識がでたらめであることを反映している。
 米韓日が積極的に条件をつくり出さず、北京が平壌に圧力をかけることだけでその核開発計画を放棄させることができると考えるのであれば、それは極めて幼稚な考えだ。アメリカのエリートたちは実はそう考えているのではなく、要するに責任を負いたくないだけで、ほかに方法もないために「中国責任論」を言っているのではないかとも疑いたくなる。
 中国は、米韓日がやるべきことを代わりにやることはできない。元はといえば、朝鮮と米韓日が敵対することによって核問題の出現を招いたのだ。中国は、中朝関係を敵対関係にすること、ひいては中朝敵対を地域情勢の最大の焦点とするようなことはできないし、するべきでもない。中国社会は、政府がそうすることを許すはずがない。
中国は国連の対朝鮮制裁に参加し、安保理決議を真剣に履行した。その結果、中朝関係の雰囲気は過去のそれに遠く及ばないまでになっている。中国がさらに厳しく朝鮮を制裁するかどうかは、安保理での討議の結果を見る必要がある。
 我々は朝鮮の核保有には断固反対だが、半島の平和と安定にも関心がある。ある問題の解決に当たっては、他の問題がコントロール不能になるという代価をもたらすことはするべきでなく、中国のこのような総合的判断は中国の国家的利益に対する考慮から決定されるのであり、中国の対朝鮮政策は全体としての安定性を維持しなければならない。
 情勢が引き続き悪化すれば中国としては辛いが、中国がいちばん辛い当事者だと思うものがいるとすれば、それは間違いだ。したがって、中国に対してもっと多くを要求する前に、まずは彼らに先んじて行動を起こすことをお願いする。