朝鮮の戦略的アプローチ(中国軍関係者分析)

2015.12.29.

12月28日付の環球WSは、葛漢文署名の「硬軟両様 朝鮮はこのように大国とプレイする」と題する文章を掲載しました。葛漢文は私にとって初見の人物ですが、肩書は解放軍国際関係学院副教授と紹介されています。この文章を私が特に注目したのは、朝鮮の核政策を批判するのではなく、朝鮮が置かれた国際環境のもとで、デタランスとして意味あるものとして捉える見解を示していることです。このような見解は、私としては違和感がありませんが、中国側研究者なかんずく軍関係者の発言として出現したことは、管見による限り初めてのことです。極めて短い文章ですが、参考までに訳出して紹介しておきます。

  冷戦終結当初、朝鮮はソ連の援助を失い、経済崩壊スレスレまでいったこともあった。しかし、朝鮮は速やかにまったく新しい戦略を採用し、外敵の侵攻の可能性を脅迫によって退け、有利な局面を勝ち取り、国家の生存を確保した。この戦略とは、不断に外部世界に対して自らが保有する壊滅的な力を顕示し、かつ、その力を使用する確固たる決意を持つということであり、ほんのちょっとした挑発であろうともそうするということである。この壊滅的な力は、最初は韓国に対する圧倒的な通常兵器の数であった。朝鮮は早くより、いったん挑発を受けるならば、38度線沿いの強大な火砲力によって韓国の首都を徹底的に壊滅し、これを「火の海に化す」と宣言してきた。21世紀に入ってからは、核実験(2006年、2009年、2013年)及び運搬手段の研究開発の不断の発展に伴い、朝鮮は、顕在的及び潜在的ライバルに対し、朝鮮の核戦力の存在により、対朝関係の問題について「取り返しのつかない」リスクを冒さないように不断に警告してきた。
  この戦略の他の一面は「貧しさを泣いてみせる」(中国語:「哭贫」)ことだ。朝鮮は、経済的なぜい弱性、特に食品及びエネルギー上の広範囲な欠乏状態をためらわずに口にする。朝鮮がこのようなぜい弱性を明らかにする目的は、意図的か無意識的かはともかく、朝鮮を敵視する国々及び諸勢力に対して、タイミングよく朝鮮に経済、燃料及び食糧などの援助を提供しなければならず、さもないと、朝鮮の内部的要因が集中することによって最終的にリスクのある選択を行い、朝鮮半島という火薬庫の爆発をもたらすということをほのめかすことにある、という可能性がある。
  以上を要するに、このような硬軟両様の戦略の目的は、朝鮮が最終的に崩壊することを望んでいる国々に対して、敵意に基づくいかなる挑発行動も必ず巨大なかつ非対称的な代価を支払わなければならず、両手が空っぽな朝鮮としてはいつ何時爆発するかも知れない大戦争においても豊かな国々と共倒れになることを懼れていないと言うことであり、したがって朝鮮と共存するベストな方法は、朝鮮がカードを切るのをおとなしく待っていることだ、と言うことにある。
  この戦略は、いいか悪いかとは関係がない。極端に劣勢にある国家であって、強敵が機会を窺っているという状況のもとでは、このような戦略を採用することは国家の生存を保障するためには確かにあり得る選択だ。1990年代からの歴史的展開は、くり返して朝鮮のこの戦略の有効性を証明している。すなわち、対内的には、この戦略は政権の安定強化を確保することができてきたし、時には巨額の外国援助の流入もある。対外的には、東北アジアの国際関係において、朝鮮は、地域の強国と渡り合い、高度のイニシアティヴを取り、時にはカギを握る変数としてのプレーヤーとしての存在であることを保証する。もちろん、軍事的に虚勢を張り、経済的には意図的に弱さをひけらかすこの戦略は、朝鮮がことさらに広めようとする虚像であることが明らかにされてしまうと、主なライバルを戦略的にひるませる有効性及び外国の経済援助を獲得する可能性は大きく損なわれてしまう可能性があることは確かだ。