朝鮮経済の好調原因(李敦球文章)

2015.12.28.

朝鮮の李洙墉(リ・スヨン)外相が10月1日の国連総会演説で朝米平和協定締結を提案して以来、朝鮮は明確に6者協議方式が失敗だったとし、朝米直接交渉方式を優先させる姿勢を打ち出してきました。アメリカが朝鮮の呼びかけにまったく冷淡であることから、12月に入って以来、朝鮮は再びアメリカに対する批判的論調を増やしていますので、先行きは不透明です。この点については、12月11日付のコラムで紹介したとおりです。
 私が注目してきたのは、以上の10月以来の朝鮮外交、特に6者協議は失敗だったと明言したことに対して、6者協議の主催国である中国がどのような反応を示すかということです。残念ながら、この問題を直接取り上げる中国側論評には、私が特に注視してこのコラムで度々取り上げて紹介している李敦球を含め、いまだお目にかかっていません。
 その李敦球が、金正恩政権になってからの朝鮮経済の好調の原因を分析する文章を発表しました。私としても、厳しい国際制裁のもとにあるにもかかわらず、韓国側の推計でも朝鮮経済がプラスの経済成長を続けていることについては、どうしてそのようなことが可能なのか常々興味を感じていたテーマでした。12月26日付の中国青年報所掲の李敦球の「金正恩執政以来、朝鮮経済は何故に連続成長しているのか」と題する文章は、主に韓国側数値に基づいてではありますが、金正恩が政権について以来、朝鮮経済が5年連続でプラス成長を続けている原因について分析しています。参考までに訳出して紹介します。

  韓国統計庁は12月15日、資料「2015年朝鮮主要統計指標」を発表したが、それには、韓朝統計比較、自然環境、経済総量、韓朝交流など14領域の131の統計表が含まれている。この資料によれば、朝鮮の本年のGDPは+1.0%である。韓国メディアの報道によれば、朝鮮は2011年以来プラス成長を続けており、2011年+0.8%、2012年+1.3%、2013年+1.1%、2014年+1.0%だった。ということは、朝鮮経済は5年連続でプラス成長を維持したということだ。
  10月8日の英紙ガーディアンは、朝鮮はかなりの経済成長を遂げており、GDPの成長速度は、悲観的見方によっても+1.5%、楽観的見方によれば+4%と見こまれていると報じた。朝鮮のGDP成長率が何%であるかということはともかくとして、新指導者が政権について以来の朝鮮経済が年々成長を続け、民衆の生活も年を追う毎に改善しつつあることは争いのない事実である。
  朝鮮経済がこのような成績を収めることはすこぶる容易なことではない。周知の原因により、朝鮮は長期にわたる国際的な厳しい経済制裁と封鎖を受けているのみならず、例年自然災害に見舞われ、特に今年は特大の日照りに遭遇しており、このような条件の下で経済の連続成長を維持するということはまぎれもなく少なからぬチャレンジである。
  アメリカはかつて、朝鮮が飢餓による人道主義的災難を引き起こしたと非難したことがあるが、ここ数年来の朝鮮が自力更生に立脚して経済の連続成長を維持していることに対して、アメリカ及びその追随国は正面から評価しないばかりでなく、朝鮮に対する制裁を不断に強化している。12月9日付韓国連合通信社によれば、アメリカ政府は8日、朝鮮のミサイル部隊を所管する朝鮮戦略ロケット軍を全面制裁の対象とすることを明らかにし、また、アメリカの行政命令に違反した違法活動を行った嫌疑で朝鮮軍人6名及び団体4に対しても特別の制裁を行うことにしている。すでに本年1月に、アメリカはアメリカにサイバー攻撃したとして朝鮮に制裁を行っているから、アメリカは本年2回にわたって朝鮮に対して制裁を実施したことになる。
  これに対して朝鮮外務省報道官は12月16日に談話を発表し、「アメリカが朝鮮の軍隊、軍需並びに貿易の機関及び幹部ひいては外交官を恣意的に「制裁」リストに入れたのは、朝鮮の国際的イメージを塗りつぶし、他の国々が朝鮮と交易を行わないようにさせ、それによって軍需工業部門さらには民需部門を含む朝鮮経済全体を窒息させようとするよこしまな政治的意図によるものだ」と述べた。
  10月9日に習近平総書記は金正恩第一書記に祝電を送り、朝鮮労働党成立70周年を祝賀した。習近平は祝電の中で、ここ数年、金正恩は金日成主席及び金正日総書記の遺志を受け継いで、朝鮮労働党及び朝鮮人民を指導し、経済発展、民生改善等で大きな成果を収めたと述べた。
  確かに、長期にわたって経済制裁と封鎖を受けているにもかかわらず、朝鮮は数々の困難を克服し、国情に基づき、経済管理を改善し、新たな経済政策を策定し、人民の生産意欲を動員し、経済が毎年成長を遂げるための推進力を提供してきた。
  第一、経済管理を大幅に改善したこと。金正恩が政権について以来、経済分野においては一連の重要な調整が進められてきた。すなわち、経済管理機構を再編し、内閣の経済管理の権限を拡大し、「内閣中心制」または「内閣責任制」を実行し、合営投資委員会、国家経済開発委員会及び貿易省を合併して対外経済省を設立し、外資導入促進を強化した。また対内的には、「朝鮮方式の経済管理体系建設」(2012年6月28日公布、「6.28措置」と略称)、「現実の発展需要に基づく朝鮮方式の経済管理体系確立」(2014年5月30日公布、「5.30談話」と略称)という金正恩の指示を公布、実施した。この2つの文献の主要内容は、農業及び工業を核心とし、経営権を生産単位に与え、生産計画制定、生産投入から収益の分配に至るまで、生産単位の自主的権限を大幅に拡大したものである。国家買い上げ及び上納計画を完成した剰余部分については、共同農場または生産企業が自ら配分し、設備投資、拡大再生産及び職員労働者の生活改善等に向けることができるため、労働者の積極性及び生産効率を顕著に向上させた。
  第二、市場経済を大いに発展させたこと。朝鮮は、計画経済システムのもとで市場経済を不断に拡大してきている。ジョンズ・ホプキンズ大学の高級国際問題研究院(SAIS)米韓研究所は、2015年10月に発表した「衛星画像の新証拠:朝鮮国内市場の増加と地理」と題する報告において、朝鮮の国内市場の規模と数がともに増加しつつあると指摘した。他の報道によれば、朝鮮にはすでに国有資産の看板のもとにおける私営経済要素が出現しており、それには鉱山、トラック会社、製油工場などが含まれ、すべからく市場ルールに従って運行しているという。海外メディアの推計によれば、朝鮮の国内総生産の30%から50%が市場経済企業によるものだとされている。
  第三、内需を大いに拡大していること。韓国統計庁の資料が示すとおり、2015年の朝鮮の貿易総額はわずかに76億ドルであり、朝鮮のGDPに対する対外貿易の貢献率は極めて低く、朝鮮経済の成長は主に内需拡大によっている。ガーディアンの報道によれば、平壌の平均以上のマンションの価格は10万米ドル、最上位クラスになると20万米ドル以上に達するという。朝鮮の不動産価格は10年で10倍に跳ね上がった。平壌の至るところでオープンしている高級レストランの食事は15~25米ドルだが、商売は上々である。朝鮮の金持ちが住宅及び欧州製の乗用車を買うのに対して、ますます多くの一般人が肉を食べられるようになっている。11月20日付共同通信は、朝鮮で携帯業務を展開しているエジプトの会社が最近明らかにしたところによるとして、朝鮮の携帯所持者は約300万人にまで増えたと報じた。朝鮮人口が約2500万人だとすれば、8人中1人が携帯を使用していることになる。
  第四、ツアリズムを大いに開発していること。朝鮮は度々国際旅遊区における投資説明会を開催しており、朝鮮におけるお土産の種類は不断に豊富になりつつあり、それらの商品を扱う商店の品数も豊富である。朝鮮がツアリズムを大々的に発展させるのは、経済発展のためだけではなく、それ以上に、外部世界に対して自信を持って朝鮮の発展の新しい様相を見せるためである。平壌国際空港の新ターミナルは、朝鮮の民族的特色と国際化とを有機的に結合し、様々なサービス施設・設備が揃っており、朝鮮の輝かしい名刺と呼ぶにふさわしい。
  第五、力を入れて経済特区を建設していること。11月18日付韓国連合通信社によれば、朝鮮の対外宣伝WSである「我が国(ネ・ナラ)」が同日、羅先経済特区の投資に関する50余の法規を公表するとともに、羅先特区総合開発計画をも公表した。韓国メディアが特に注目したのは、朝鮮が特区における外国企業の経営活動を保障している点である。韓国IBK銀行経済研究所の首席研究院である趙奉賢は、「朝鮮は羅先を「囲い」こんで、単独で管理しようとしており、このことは、「開放」が朝鮮政府の具体的スケジュールに入れられたことを意味している」と述べた。10月26日付韓国・中央日報は、朝鮮対外経済省と中国遼寧省の間で協議が成立し、新義州特別行政区が13年ぶりに再び動き出すと報じた。朝鮮は、今後5年以内に特区のインフラ建設を完成させ、10年以内に特区建設を完成させることを計画している。韓国政府の推計によれば、インフラ建設投資は1000億米ドルに達し、総投資規模は4000億米ドルに達する可能性があるという。上記2つの経済特区の開発が順調に進めば、朝鮮経済は画期的な発展段階を迎えるだろう。