8月危機以後の朝鮮外交と朝鮮半島情勢

2015.12.11.

 韓国兵士が地雷で負傷した事件をきっかけにして起こった朝鮮半島の一触即発の危機(以下「8月危機」)が南北トップクラスの直接交渉で瀬戸際で回避(8月24日の南北共同報道文)されてから約4ヶ月が経ちます。朝鮮半島で戦火となれば、日本への波及は必然ですし、「集団的自衛権行使は合憲」とした安倍政権が対米支援と称して参戦することも不可避ですから、私は8月危機に際しては本当に固唾を呑む思いで事態を見守り(大げさではなく、23日の夜はおちおち寝てもいられぬ状況でした)、南北合意の成立によって危機がひとまず回避されたときには本当に胸をなで下ろしました。
  しかし、私は、9月14日に朝鮮国家宇宙開発局長が朝鮮中央通信社記者の質問に対して、「朝鮮労働党創建70周年を一層高い科学技術的成果で輝かせる」ため、「新しい地球観測衛星の開発を最終段階で進めており」、「世界は今後、先軍朝鮮の衛星がわが党中央が決心した時間と場所によって、大地から空高く引き続き打ち上げられるのをはっきりと見ることになるだろう」と回答したという記事を読んで、再び朝鮮半島情勢の先行きに緊張が覆い始めたと感じずにはいられませんでした。
  しかも、翌日(9月15日)には、朝鮮原子力研究院院長が同じく朝鮮中央通信社記者の質問に答える形で、米国等が「意地悪く行動するなら、いつでも核の雷鳴で応える万端の準備が整っている」と述べたのです。これは、朝鮮の人工衛星打ち上げに対してアメリカが安保理を動かして制裁措置を取るのであれば、朝鮮は核実験を行うことを警告したものにほかなりません。
私は、第2回及び第3回の核実験に至る過去の経緯を踏まえ、「朝鮮の人工衛星打ち上げ→安保理の制裁→朝鮮の対抗措置としての核実験」というパターンがあることに注目してきました。つまり、アメリカの朝鮮敵視政策のもとでは、朝鮮にとって核開発は既定路線です。しかし、核開発の一環である核実験に関しては、外交カードを欠く朝鮮としては、カードとして使わざるを得ない状況があるということです。外交カードが豊富にあれば、核実験は軍事的な核開発計画・判断に従って粛々と進めることになるはずですが、外交カードが少ない朝鮮としては、核実験をいかなるタイミングで行うかということについて、対外政策の一環として決めざるを得ないのです。以上の私の判断は経験知を踏まえた判断だったわけですが、朝鮮原子力研究院院長の上記発言は、私の判断が間違っていないことを公に確認する初めてのものです。
ちなみに、9月18日付の朝鮮中央通信社論評は、「誰がなんと言おうと、(人工衛星打ち上げ)の権利を堂々と行使していくという確固たる決心」、「敵対勢力がわれわれの宇宙計画を侵害すればするほど、われわれの対応強度は日を追ってさらに強まる」と述べ、以上の局長及び院長の発言を公的に確認しました。
したがって、朝鮮労働党創建70周年(10月10日)記念の意味を込めて朝鮮が人工衛星を打ち上げ、それに対してアメリカ以下が強烈に反応し、それにさらに対抗して朝鮮が核実験を行うことにより、朝鮮半島情勢は再び高度の軍事的緊張に見舞われることは不可避のように思われました。私のこの見方は広く国際的にも共有されたことは、当時の様々な報道によって確認することができます。
しかし、12月も中旬に入ろうとする現在に至るまで、朝鮮が人工衛星を打ち上げる兆しはありません。それは何故だろうかというのが、「人工衛星打ち上げは不可避」という判断をしたことに対する反省を込めた私の問題意識です。この問題意識について私なりの答を得たいということで、9月から現在までの関連報道を整理してみました。
結論として言えることは、①人工衛星打ち上げについての朝鮮の方針が基本的に変更されたとは判断できない、しかし、②朝鮮は8月危機に関する総括を踏まえ、休戦協定を平和協定に変えることによって朝鮮半島の安全保障環境を安定化させるための対米外交アプローチを優先させており、その結果として人工衛星打ち上げは先送りされているのではないか、ということです。③朝中関係の動きにも注目すべき中身がありますが、そのことが朝鮮の人工衛星打ち上げ先送りと直接関係があることを窺わせる材料は見つけられません。ただし、今後朝鮮が人工衛星を打ち上げる際に、中国がこの事態に如何に対応するかは決定的な意味を持ちます。以上の諸点をさらに詳しく見てみたいと思います。

1.人工衛星打ち上げに関する朝鮮の立場

 朝鮮の人工衛星打ち上げの方針が基本的に変更されたわけではないという私の判断は、すでに紹介した朝鮮国家宇宙開発局局長及び朝鮮原子力研究院院長の発言と朝鮮中央通信社論評の後にも、人工衛星打ち上げにかかわる報道がさみだれ式に続いているからです。
  すなわち、9月28日付労働新聞は署名入り論説を掲げ、「われわれの衛星の打ち上げと核抑止力の強化は誰もけなすことも、侵害することもできない主権国家の正当な自主的権利の行使」であると論じました。また10月1日に国連総会で演説した李洙墉(リスヨン)外相は、2.で紹介するように新しい対米アプローチを打ち出したのですが、同時に「平和的衛星打ち上げを問題視する不当な行為に対してはあらゆる自衛的措置によって最後まで強硬に対応し尊厳を守ることが、わが国政府の確固たる決心であり立場である」という立場を再確認することを忘れていません。
また、11月26日付の朝鮮中央通信は、「宇宙科学技術討論会が25、26の両日、金日成総合大学で行われた」ことを紹介し、その中では「より発展した地球観測衛星と通信衛星の開発において提起される科学技術上の問題を新しく解決した論文、人工衛星から受けた画像データを人民経済の発展に積極的に利用するうえで提起される問題を深く解明した価値ある論文も紹介された」とつけ加えました。この記事は、人工衛星を近々に打ち上げる趣旨の内容は入っていませんが、人工衛星打ち上げ計画が進んでいることを窺わせるには十分なものだと思います。

2.新たな対米外交アプローチ

朝鮮がアメリカとの全面対決路線を修正し、新たな対米外交アプローチを試みようとする姿勢は、10月1日に国連総会で演説した李洙墉(リスヨン)外相によって打ち出されました。同外相の演説の柱は、国連安保理に対する厳しい批判と新しい対米アプローチの表明とが二つの柱になっていますが、安保理批判についてはまた機会を改めて考えてみたいと思います。
李洙墉(リスヨン)外相の新しい対米外交アプローチは、「8月の事態は国連と非正常な関係にある朝鮮半島に現存する平和がどれほど脆弱であるかを明らかにした」という8月危機に関する朝鮮としての総括が出発点になっています。そして、「名ばかりの現在の停戦協定では朝鮮半島においてこれ以上平和を維持することはできない」とし、「東北アジアだけでなく、全世界が息をのんだ今回のような事態まで起きてしまった今日、停戦協定を平和協定に替えることは、一刻の猶予も許さない切実な問題となった」と主張したのです。
その上で李洙墉(リスヨン)外相は、「今こそ、米国が平和協定締結に応じるべき時である」とし、「米国が停戦協定を平和協定に替えることに同意するならば、わが国政府は朝鮮半島で戦争と衝突を防止するための建設的な対話を行う用意ができている」、「米国が大胆に政策転換をするならば、朝鮮半島の安全環境は劇的に改善され、米国の安全保障上の憂慮も解消されるだろう」と、アメリカに対朝鮮政策を根本的に改めることを呼びかけました。ここで重要なことは、アメリカが政策転換すれば、「米国の安全保障上の憂慮も解消される」という表現で、アメリカが最重視する朝鮮の核問題の解決を朝鮮側が踏まえていることを示唆していることです。
10月7日付の朝鮮外務省報道官談話は、李洙墉(リスヨン)外相の演説を受けて、「(8月危機のような)深刻な事態を防ぐための根本方途は、朝米が一日も早く古びた停戦協定を廃棄し、新たな平和協定を締結して朝鮮半島に恒久平和保障システムを樹立することである」、「米国が大胆に政策転換をするようになれば、われわれも建設的な対話に応じる用意があり、そのようになれば朝鮮半島の安全環境は劇的な改善を迎えることになり、米国の安保上の懸念点も解消されるであろう」と述べ、「われわれは、米国が平和協定の締結に関連するわれわれの提案を慎重に研究し、肯定的に応じることを期待する」とアメリカに呼びかけました。
さらに朝鮮外務省の10月18日付の声明は、朝鮮の新しい対米アプローチが8月危機に関する総括だけではなく、6者協議を含むこれまでの交渉は失敗だったという認識にも基づいていることを明らかにしました。すなわちこの声明は、「われわれは過去、非核化問題を先に論議すべきだという関係側の主張を考慮して6者会談で非核化の論議を先に行ってみたし、また核問題と平和保障問題を同時に論議してみたがそのすべては失敗を免れなかったし、たとえ一時、部分的合意にこぎついたことはあっても、その履行にはつながらなかった」として、朝鮮が6者協議は失敗だったと認識していることを初めて明確にしました。
そして、「平和協定の締結を先行させなくては米国を含む関係国の関心事となっているほかのいかなる問題も解決できない」という表現で、アメリカの最重要関心事である朝鮮の核問題も米朝交渉の枠組みの中で扱うべきことを示唆しました。この声明では、「朝米間に信頼を醸成して当面の戦争の根源を取り除くことができるなら、核軍備競争も究極的に終息させることができ、平和を強固にしていくことができる」とも述べ、「核軍備競争も究極的に終息させることができ」るという表現で核問題も交渉テーマとなることを再度確認しています。
また、朝鮮の以上の新しい対米アプローチが真剣なものであることについて、10月20日付朝鮮中央通信社論評は、「(8月危機を)解消するためのわれわれの主動的な努力によって北南高位級緊急接触が行われ、関係改善のための合意が成されたのは、朝鮮半島での戦争を防止し、地域の平和と安定を守ろうとするわが共和国政府の誠意ある努力の明白な証拠となる」と述べました。「新たな平和協定を締結して朝鮮半島に恒久平和保障システムを樹立する」という恒久平和保障システムの提案は10月7日の朝鮮外務省報道官談話が初出ですが、この論評をはじめ、その後もくり返し提起されています。 10月31日付の朝鮮通信社論評は、朝米平和協定の締結が朝鮮半島だけではなく世界の平和と安定にも直結することを強調します。すなわち、「朝鮮で戦争が起これば、それはすなわち世界的な核戦争に広がりかねない。このような深刻な事態を防ぐための根本方途は、朝米が一日も早く古い停戦協定を廃棄し、新しい平和協定を締結して朝鮮半島に恒久平和保障システムを樹立することである」というのです。そして、「米国が大胆に政策転換をするようになれば、朝鮮半島の安全環境は劇的な改善を迎えることになり、こんにち、米国が懸念する安保上の問題点も解消されるであろう」という表現で核問題の解決を交渉する用意があることもくり返しています。
しかし、アメリカは朝鮮の新しい外交アプローチに対して頑なな態度を崩していません。11月から12月にかけて、朝鮮は引き続き対米呼びかけをくり返していますが、アメリカの硬直した姿勢に対する反応も見せるようになっています。例えば11月7日付の労働新聞の書名入り論説は、「米国が平和協定の締結を後回しにすればするほど、それだけわれわれの核抑止力はいっそう強化されるであろう」と述べました。
また、私にとって興味深かったのは、11月11日付の朝鮮中央通信社論評です。この論評は珍しいことに、ロシア科学院極東問題研究所朝鮮研究センターのアレクサンドル・ジェビン所長の以下の発言を紹介しているのです。

「米国は北朝鮮との平和協定締結を願っていない。北朝鮮と和解するのは北東アジア地域に対する米国の政策に反する。米国はいろいろな口実の下で朝鮮核問題の解決に取り掛かっていない。その理由は、東アジア地域で北朝鮮の脅威を口実にして自国のミサイル防衛(MD)システムの構築を正当化しなければならないからである。米国はアジア太平洋地域で北朝鮮を『悪』に規定してこそ、ロシアと中国の国境地域近くへの米軍駐屯を合理化することができる。米国は地政学的に重要なアジア太平洋地域、すなわち、東アジアという巨大な『将棋』盤で南と北を自国のための将棋の駒につくろうとしている」

この論評は、「世界の目はまさに、このように現実を見ている」と受けているのですが、アメリカの真の敵は中露であること、そのために朝鮮を『悪』と決めつける政策を採用していること、したがって、朝鮮が如何に真剣な対米アプローチをしてもアメリカは乗ってこないことを、自らの判断としてではなく、ロシアの朝鮮問題専門家をして言わしめているわけです。
また、11月13日には、朝鮮外務省報道官が朝鮮中央通信社記者の質問に答える形で、「先日、米国務省の対朝鮮政策特別代表はある討論会で、われわれの平和協定締結の主張が順序が誤ったものだとし、停戦協定を平和協定に転換する前にまず、非核化において重要な進展が遂げられなければならないと力説した。これは、完全な言語道断である。われわれはかつて、非核化論議を先にやってみたこともあり、また核問題と平和保障問題を同時に論議する会談も数多く行ったが、何の結果も見られなかった。その根底には、変わっていない朝米間の敵対関係が潜んでいる」として、アメリカの頑なさを批判しました。11月21日付の朝鮮中央通信社論評はさらに、「オバマ政権の対朝鮮「戦略的忍耐」政策は徹底した失敗作として米国の衰退を促している。…米国の対朝鮮圧殺策動によって国の最高の利益が侵害されている重大な事態の下で、われわれはやむを得ず自身を核で武装しなければならなくなった。われわれが核保有国の地位に上がり、強力な核打撃手段を保有するようになった責任は全的に米国にある」として、オバマ政権の「戦略的忍耐」政策そのものを批判のまな板に乗せました。
朝鮮は、無期限に対米直接交渉による問題解決という新しい提案を続けるつもりは恐らくないと思います。朝鮮としては、朝鮮がいくら誠意を示してもアメリカは乗ってこなかったという事実を中露両国に明らかにすることにより、また、上記のロシアの朝鮮問題専門家の認識にあるように、アメリカの朝鮮敵視政策の基本に座っているのは対中露戦略であることを示すことによって、今後の人工衛星打ち上げに際しては、中露が安保理でアメリカに安易に同調することがないようにアピールするという狙いがあっても不思議ではありません。

3.朝中関係の最近の動き

朝中関係の最近の動きでもっとも重要なのは、労働党創建70周年に際しての劉運山(中国指導部のNo.5)訪朝です。そのことは、10月9日付環球時報社説が、「(劉運山訪朝は)中朝関係形成にプラスに働き、中朝関係に対する世界の認識と解釈に影響を及ぼす重要な要素となるに違いない」と予告したことからも明らかです。同社説は、「朝鮮半島の非核化を要求する中国の立場は確固としたもの」としつつ、「だが、そのためには関係諸国が真に力を合わせる必要があり、中国だけがこの目標を推進する使命を担うことは不可能だ」と米日韓に釘を刺します。さらに意味深長であると私に思われたのは、社説が「世界がいかに挑発しようとも、両国は、率直かつ誠意をもって相まみえ、相互信頼を不断に増加させる基礎の上で様々な難題に共同で向きあうべきだ」とし、朝鮮に対して冷淡な傾向が強まっている中国世論を念頭に、「中国社会は、朝鮮が直面している様々な圧力の難しさを理解するべき」であると説いていることです。
この70周年に際して習近平は金正恩に祝電を送っていますが、朝鮮建国67周年に際しての祝電と比較すると重要な違いがあることも見逃すことはできません。すなわち、67周年の祝電では、習近平(国家主席)・李克強(国務院総理)・張徳江(全人代委員長)から、金正恩(国防第1委員長)・金永南(最高会議常任委員長)・朴奉(パク・ボン)珠(ジュ)(首相)への連名電でした(ちなみに、ロシアは、プーチン大統領から金正恩第1国防委員長への祝電でした)。しかし、70周年に際しては、習近平総書記から金正恩第1書記に対する1対1の電報になっています。もちろん中国からすれば、建国記念と党創建記念との違いを踏まえた対応の違いという説明はあるでしょう。とは言え、67周年に際しての中国の対応は、朝鮮にとっては満足できるものではなかったことは想像に難くありませんし、70周年に際しての中国側祝電は朝鮮にとって満足感を持って受けとめられたと思います。
また、祝電の内容に関しても、次のような違いがあることに留意しておく必要があります。すなわち67周年祝電は、「(中朝関係を強固にすることで)地域の平和と安定、発展に積極的に寄与するであろう」という当たり障りのない表現でしたが、70周年祝電は、「中朝友好を立派に守り、…地域および世界の平和と安定を守るために積極的かつ建設的な役割を果たす用意がある」と、地域と世界の平和と安定のために中国が重要な役割を果たす用意があると踏み込んだ表現を使っています。
10月9日に行われた金正恩と劉運山との会見については、翌日の朝鮮中央通信が比較的詳しく紹介しています(ちなみに、中国側報道ではこの会見の内容についての紹介は、私の目にとまった限りでは見当たりません)。金正恩の発言として注目されるのは次の諸点です(強調は浅井)。

「中国共産党代表団の朝鮮訪問が両党、両国間の立派な伝統を継承し、発展させることに積極的に寄与する意義深い訪問になることを願う。」
「朝中関係は単なる隣との関係ではなく、血潮でもって結ばれた友好の伝統に根ざした戦略的関係になってきた。」
「金日成主席同志と金正日総書記同志がわれわれに残した最大の対外事業業績と遺産も朝中友好である。」
「伝統は歴史の本や教科書に記録するのにとどまるのではなく、実践で継承し、輝かしていかなければならない。」
「伝統的な朝中友好を代を継いでさらに強化発展させていこうとするのはわが党と人民の意志である。」
「朝鮮と中国両国人民の共同の富である朝中友好の不敗の生命力が双方の努力によって、今後より力強く誇示されるものとの確信を表明
「賓客らと朝中両国関係の強化発展と互いに関心を寄せる問題について意見を交換した。」

抽象的な表現なのであれこれ詮索するのは無意味ですが、金正恩の発言が総じて積極的なトーンで紹介されていることは言えると思います。
ただし、朝中関係の前途が楽観できるものではないことも確かです。12月11日付の環球時報社説は、12月10日に金正恩が「水素爆弾の巨大な爆音を響かせることのできる強大な核保有国になることができた」と発言したことを織り込んだ上で、中朝関係が互いの違いに次第に適応しつつ新しい安定に向かいつつあるという判断を示していますが、次のように、朝鮮が第4回核実験を行うか否かが問題だという指摘を忘れていません。

「朝鮮の核問題で今後もっとも重要なのは朝鮮が第4回核実験を行わないことだ。…朝鮮が新たな核実験を行わない限り、中朝関係の改善はさらに進むスペースがある。逆の情勢のもとでは、新たな国際制裁が必ずや行われ、中朝関係に負の影響が生まれるのは避けがたい。中朝関係は伝統的な友好によって引っ張られていると同時に、朝鮮核問題の暗い影も覆っており、まことに尋常ならざる試練だ。」

ここでのカギは、冒頭に紹介しましたように、9月15日の朝鮮原子力研究院院長の発言及び9月18日付の朝鮮中央通信社論評で朝鮮が明らかにした、朝鮮の人工衛星打ち上げに対してアメリカが安保理を動かして制裁措置を取るのであれば、朝鮮は核実験を行うというメッセージ・警告を中国が真摯に受けとめて反応するかどうかです。具体的には、朝鮮の人工衛星打ち上げは宇宙条約に基づく至極まっとうな権利であり、安保理決議によって制約することは許されてはならないことを中国は承認しなければなりません。その上で、朝鮮が人工衛星を打ち上げたときに、中国はアメリカが安保理を動かすことを阻止しなければなりません。
最初の点に関しては、朝鮮の李洙墉(リスヨン)外相が国連演説で、「国連安全保障理事会は21世紀に入ってからもわが国に対しては、正義と国際法を無視する乱暴な専横を続けている」として、「今日の世界には、宇宙空間を利用することを各国の自主的な権利として明示した国際法があり、衛星を打ち上げる国は10カ国を超えるが、国連安全保障理事会は唯一朝鮮民主主義人民共和国に対してのみ衛星打ち上げを禁止するという不法な「決議」をつくり上げた」と指摘した批判を謙虚に受け入れるべきです。
第二の点に関しては、アメリカが朝鮮の外交アプローチに対して積極的に反応しないと朝鮮が最終的に判断を下せば、朝鮮は人工衛星の打ち上げに踏み切るでしょう。その場合、アメリカが安保理による制裁を行おうとすることは見えています。その時に、中国がアメリカに安易に同調すれば、朝鮮の核実験は避けられません。したがって、中国としては、朝鮮が核実験を行わないことを確保することを最優先課題とし、朝鮮の人工衛星打ち上げについて安保理が行動を取らないことを確保するべきです。中国は拒否権を持っていますから、それは可能です。
ちなみに、2009年に朝鮮が人工衛星を打ち上げた際の安保理の当初の反応は、「ミサイル技術を利用した発射そのものが認められないという認識」を踏まえ、2006年の安保理決議1718(「憲章第7章の下で行動し、同憲章第41条に基づく措置」として、朝鮮に対して「いかなる核実験又は弾道ミサイルの発射もこれ以上実施しないことを要求」し、加盟国による対朝鮮経済制裁を決定)に違反するという議長声明の発出でした。当時の中国としては、安保理議長声明は安保理決議よりも穏便な措置だから、朝鮮が強く反発することは回避できると踏んだのかも知れません。しかし、朝鮮は核実験に訴えたのです。したがって、中国としては2009年の苦い経験も踏まえ、中途半端な対応を取らないことです。
こうしてのみ、「朝鮮が新たな核実験を行わない限り、中朝関係の改善はさらに進むスペースがある」という環球時報社説の指摘が実現する道が開けます。中朝関係が本格的に改善軌道に乗るか否かは、朝鮮の人工衛星打ち上げは宇宙条約に基づく当然の権利であることを中国が承認するか否か、その認識に基づいて安保理で適切な対応を取るか否かにかかっているといっても過言ではないと思います。