南シナ海問題(環球時報社説)

2015.11.12.

11月11日付環球時報社説「南海に関するアメリカの発言を聞き流そう」は、ラッセル国務次官補とカーター国防長官が最近中国に関して行った発言を取り上げ、アメリカの南シナ海問題にかかわる対中政策について論評したものです。私は10月30日付コラムでこの問題を取り上げ、環球時報社説の明らかに上からの指示による「書き直し」というまれに見る形で、中国指導部が南シナ海問題に関してアメリカに対して極めて強い決意を持って臨んでいることを紹介しました。11日付社説はこの線上にあるものですが、さらに一歩進んで、今や中国がアメリカの腹の底を見透かしていることを大胆に表明するものです。ここまで言われたら、アメリカとしては到底穏やかではいられないと思いますが、中国の自信のほどを理解するには格好の文章だと思います。ということで、その内容を紹介しておきます。
  ちなみに、カーターが中国とロシアを潜在的脅威だと発言したことに対するロシアの反応としては、10日にプーチン大統領が軍事力開発に関する会議で行った発言があります(同日付ロシア大統領府WS)。プーチンはカーター発言に直接言及したわけではありませんが、アメリカがイラン及び北朝鮮を対象として進めているとするミサイル防衛システム開発は表面的理由であり、真の狙いはほかの核兵器国特にロシアの核戦力を無力化し、アメリカの決定的な軍事的優勢を得ようとするものだと断定しました。そしてロシアとしてもミサイル防衛システムに着手すると述べるとともに、第一段階としては、いかなるミサイル防衛システムをも突破できる攻撃システムにも力を入れると表明しました。
  このように、アメリカの「強がり」は、中露両国をして怖じ気づかせるのではなく、逆にますます強硬な姿勢を導き出す結果になっています。アメリカもいい加減、1957年当時の大英帝国が自ら幕引きしたように、身の丈に応じた判断を行う必要があることを認識するべきだと思います。

  アメリカのラッセル国務次官補は最近、中国は協力を代価にしてアメリカが中国の「核心的利益」を尊重することを獲得しようとしているが、その実質は、中国がその「勢力範囲」で自由に行動することをアメリカが承認することを要求しているということであり、アメリカはそんな取引には応じないと述べた。
  アメリカのカーター国防長官も最近強硬な発言を行い、中露は世界における「潜在的脅威」だと称した。カーターは、アメリカの戦略的重心がアジア太平洋に移っており、「最先進最先端」の海軍及び武器装備を派遣し、宇宙、ネット、ミサイル防衛及びエレクトロニクス等領域で投資を行い、中国の行動に対処すると述べた。
  ラッセルのいう中国の「勢力範囲」とはまずは南海を指している。アメリカ人は、今日は中国との協力を言い、明日はまた脅威と言い、この種の硬軟織り交ぜた態度表明で中国人は耳にたこができてしまった。彼らがさらに何を言おうとも、多くの中国人は聞きながら居眠りしていることだろう。
  アメリカがソフトな物言いをする時、我々はその言は心ならずのものだと疑う。アメリカが強硬な物言いをする時、中国社会はますますアメリカには「そんな肝っ玉はない」と信じるようになっている。我々は、アメリカの当局者は大国としての数え切れない内外の腐れ縁のために南海問題に関する態度表明の調子を不断に調整しているのだという考えに傾いている。
  中国人のほとんどは今や、南海に出没するアメリカを「張り子の虎」と本気で見なしている。我々は、アメリカが軍艦を派遣して南海で「巡航」するのはジェスチャーであり、中国の建築している島礁に対して何かする勇気は絶対にないと確信している。アメリカは最近一騒ぎしたけれども、逆にその行動をとる前の「威厳」(のからっぽさ)を暴露した。
  現在の局面とは、アメリカは中国の島礁建設を阻止できないし、中国はアメリカの「巡航」を阻止できないということであり、このように相対する時期における結果とは、アメリカは相変わらず「巡航」し、中国は、アメリカの挑発に対処するという正当な理由によって島礁に軍事力を配備し、施設を作るということだ。このゲームの結果は中国人にとってハッピーなものとなるだろう。
  アメリカが中国とやりとりする上でのカードは少なくなっており、アメリカは、南海を中国が耐えることが難しい新たな「切り札」にしようとしているようだ。残念ながら、アメリカはできっこない。アメリカの取る小細工に対しては、中国は相手にしないこともできるし、「抗議、抗議」とくり返すこともできる。仮にアメリカが思いきった行動に出るならば、中国が急速に力を蓄えてきた軍事力は正にこの種の不作法な行動に対処するために準備されたものである。アメリカは取引を行うことを考えないだろうか。見たところそう考えている節は見られる。しかし、中国にとって(南海は)主権にかかわることであるので、(取引については)夢想したことすらない。
  アメリカが最先進の軍事装備をアジア太平洋に配備することを歓迎する。中国は先端兵器システムを全面的に開発中であり、当局は決して公言しないが、中国人は毎年10%以上の軍事費の増大を支持している。それは、中国軍がアメリカの「最先進」の武器による脅威に十分に対処できる手段を持つことを希望しているからだ。我々は、中国の先進的国防力の成長速度が遅くないことを知っている。
  中米がアジア太平洋で本当に軍事緊張を迎え、アメリカの「最先進」の武器が投入されるとすれば、この緊張スポットは絶対に中国の門口だけに限定されることはあり得ない。中国もすでに多くの「極めて先進的な」武器システムを持っており、同時に投入されうる。その時には、はるか先の米軍基地さらにはアメリカ本土も同じく緊張することになるだろう。
  南海は、アメリカが中国に対処する上での「切り札」とはなり得ない。先週、マレイシアの首都クアラルンプールで、アメリカはASEAN諸国の防衛相たちに南海問題を含む共同声明を通過させようとしたが、多くのASEAN諸国は同調することを拒否した。アメリカは、南海における自らの影響力の限界をよくよく考えるべきだろう。
  中国は一貫して中米協力を強調し、中米が衝突を避けることを希望している。しかし、中国はほかの一手も明確に準備している。そうであればこそ、我々は国際法の基礎の上に立って南海島礁拡張建設という行動を行っているのであり、アメリカの反対姿勢を馬耳東風と聞き流しているのだ。
  中国は、とっくの昔にアメリカと闘争もすれば協力もするという複雑な関係に適応しており、両国間にいかなる状況が現れても、今の中国社会は意外だとはまったく感じない。アメリカの顔が「真っ赤」になったり「真っ青」になったりすることに対処するのはもはやルーティン化しており、ますます流れに任せて事務的に処理するということになっている。
  ラッセルとカーターの発言に関しては、中国としてはやり過ごすだけだ。アメリカの軍艦が来れば、中国の軍艦はそれを挟み撃ちにして「護送」する。それと同時に、中国の島礁建設は忙しさを極めるだろう。中国人は、こういった状況が極めて心地よいと次第に感じるようになっている。