プーチンの国際情勢認識

2015.10.27.

 10月19日から22日にかけて開催されたヴァルダイ国際討論クラブ第12回年次会合(今年の主題は「戦争と平和の狭間にある諸社会:明日の世界における紛争の論理を克服する」)の最終日の全体会合に出席したプーチン大統領は、様々な問題に関して自らの考えを披露しました。私はこの会合についてはまったく知識を持ち合わせていませんが、30ヵ国の専門家が出席したとありますから、「知る人ぞ知る」類の国際会議だろうと推察できます。
  10月22日のロシア大統領府WS(英語版)は、プーチンの発言の詳細を紹介しています。ロシア問題専門家はともかく、私たちのような専門以外の人間にとって、様々な国際問題に関するプーチンの考えを理解する機会はあまりないと思われます。主要なテーマ毎にプーチンの発言を紹介します。

<国際情勢の基本認識>
  欧州及び世界の歴史において、平和な時期の基礎となっていたのは常に現存する諸勢力のバランスを確保し、維持するということだった。核兵器の登場により、世界規模の紛争において勝利者はないことが明らかとなった。あり得るのは確証相互破壊という結末だけである。ちなみに、1950年代、1960年代、1970年代さらには1980年代の世界の指導者は、武力行使を例外的措置として扱っていた。その意味において、彼らは責任ある行動を取っていた。
冷戦の終結はイデオロギー上の対決に終止符を打ったが、論争及び地政学的紛争の種は存在し続けた。すべての国々は、それぞれのさまざまな利害を持っているし、今後もそうであり続けるだろう。また、世界の歴史は常に、諸国間及びその同盟間の競争によって彩られるだろう。私の見解では、これは完全に自然なことだ。重要なことは、この競争が政治的、法的及び道義的に決まった規範及びルールの枠組みのもとで行われることを確保することだ。さもなければ、利害にかかわる競争及び紛争は、尖鋭な危機及び衝撃的な爆発に繋がる可能性がある。
  過去においてそういう事例は多い。今日、不幸にして我々は似た状況に遭遇している。(アメリカによる)単独支配モデルを推進しようとする試みにより、国際法及び世界的規制のシステムがバランスを失わされており、その脅威によって政治的、経済的あるいは軍事的な競争が制御不能になる可能性がある。制御されない競争は、国際安全保障にとってどういう意味を持つだろうか。増大する地域紛争、なかんずく「境界的」地域における紛争は、主要国・ブロックの利害が交錯している。この事態は、大量破壊兵器不拡散システムが崩壊する可能性を導いており、そのことは新たな軍拡競争を生み出す可能性もある。
 この25年間で、武力行使の敷居は大幅に低くなった。2度の世界大戦の後で我々が獲得した反戦という潜在的及び心理的な免疫は弱められた。戦争という概念そのものが変化してきた。テレビを見ているものにとって、戦争はいまや見世物であり、誰も戦いで死なず、誰も傷つけられず、町も国も破壊されないかの如くである。
 我々は現実主義者であるべきだ。軍事力は、現在もまた今後も長きにわたって国際政治の手段たり続けるだろう。良いか悪いかは別として、それが現実だ。問題は、他のすべての手段が尽くされた時にのみ軍事力が行使されるかどうかということだ。 例えばテロリズムのような共通の脅威に抵抗しなければならない時でも、国際法において定められた公知のルールに従って軍事力を行使するのか。それとも、勝手な口実をでっちあげ、世界のボスは誰であるかを知らしめるために、武力行使の正統性については顧みずに、問題を解決しないどころか悪化させるだけのために軍事力を行使するのか。
<アメリカのミサイル防衛システム問題>
  すでに、いわゆる武装解除第一撃(disarming first strike)という概念が登場しており、その中にはその破壊効果で核兵器に匹敵する高精度長距離非核兵器の使用が含まれる。
  (この概念を正当化するために)イランによる核攻撃という脅威が口実として使われ、現代国際安全保障の根幹であるABM条約が崩壊させられた。即ち、アメリカはこの条約から一方的に脱退した。ちなみに、イラン問題は今日すでに解決され、イランの脅威はもはやないし、そもそもはじめからなかった。
  ミサイル防衛システムを作ることをアメリカが正当化していた原因はなくなったのだから、アメリカがこのシステム開発をやめることを期待するのは当然なことだろう。しかし、現実はどうか。そのようなことは何も起こっておらず、すべてはこれまでどおりだ。
  最近、アメリカは欧州でミサイル防衛システムの最初の実験を行った。このシステムは、ルーマニアでは本年末までに、ポーランドでは2018年ないし2020年までに配備されるだろう。
ということは即ち、我々がアメリカに対して行ってきた主張は正しかったということだ。アメリカは我々及び世界をミスリードしようとしてきた。有り体にいえば、アメリカはウソをついてきたのだ。ミサイル防衛システムは、ありもしないイランの脅威という虚構に対処するものではない。ミサイル防衛システムとは、戦略的バランスを打ち壊し、軍事力のバランスを自らに有利になる形に変え、自らの意思を同盟国を含むすべての国々に押しつけようとするものである。これはアメリカ自身を含むすべての国々にとって危険を極めるシナリオだ。核デタランスはその価値を失った。世界紛争において一方が勝利するという幻想を抱くものすら出てきた。
<不公正化する国際経済>
  不幸なことに、軍事用語は日常生活の一部となりつつある(浅井注:日本における「抑止」の乱用現象はその最たる例)。こうして、貿易戦争及び制裁戦争は今日の世界経済の現実となっている。
  我々はまた、不透明な経済ブロックをつくり出す動きを目撃している。その目的は明らかで、支配によってより多くの利益を引き出すことが可能になるように世界経済を作り替えようということにある。自分たちの言い分を強制する経済ブロックの形成は、世界をより安全なものにするものでないことは明らかで、時限爆弾を作るものでしかなく、将来における紛争の種となる。
  WTOにおける議論は円滑なものでないことは確かで、ドーハ・ラウンドは暗礁に乗り上げているが、我々としてはやはり解決と妥協の可能性を探し続けるべきである。なぜならば、経済を含めあらゆる分野における長期的なシステム作りには妥協が欠かせないからだ。もしも一定の国々の関心を無視し、素通りする場合には、矛盾はなくなるのではなく、いつの日にかそれが表面化するだろうからだ。
  我々のアプローチは違う。ユーラシア経済連合(EEU)を作りつつ、中国のシルク・ロード経済ベルト構想に基づくものを含め、関係国との関係を発展させようとしている。平等という基礎の上で、BRICS、APEC、G20において活発に活動している。
<国際的情報分野の動き>
  グローバルな情報の領域も、いうならば戦争によって揺るがされている。「唯一正しい」見解及び出来事の解釈が人々に強制的に押しつけられ、一定の事実は隠されるか操作されている。レッテル貼りと敵のイメージが氾濫している。
  言論の自由及び自由な情報提供といった価値を訴えてきたように見える国々が今や客観的な情報及び自分たちとは異なる意見が広がることを妨げている。彼らは、そうした情報及び意見を敵対的な宣伝であり、やっつける必要があるとしている。そのために彼らは明らかに非民主的な手段を使っている。
  不幸なことに、異なる文化、宗教及びエスニシティの人々の関係について語る時に、以前にも増して、戦争とか紛争とかの言葉を耳にするようになっている。今日、数十万の人々が異なる社会に溶け込もうと努力している。それに対して、その社会の住民たちはいらだっている。もちろん、多くの人が難民に同情し、手を差し伸べようともしている。問題は、これらの国々の住民の利益をおかすことなく難民を助けるには、どうしたらよいかということだ。
<中東情勢>
中東で起こっている事態を見てみよう。数十年、いや数世紀にわたって、この地域においては、エスニシティ、宗教、政治にかかわる紛争及び深刻な社会問題が蓄積されてきた。一言で言えば、嵐が醸成されようとしていた。それに対して、力尽くで地域のあり方を作り替えようとしたために、暴発、国家の破壊、テロリズムの勃興、そして世界的リスクが起こったのだ。
イスラム国というテロリスト集団は膨大な領域を支配した。仮に彼らがダマスカスまたはバグダッドを占領するならば、彼らは事実上公権力のステータスを手に入れ、世界的拡大の足がかりをつくり出すだろう。このことを考えるものはいるだろうか。今こそ、我々の相手は何であるのかを国際社会が認識するべき時だ。それは世界文明の敵である。
我々は言葉遊びをする必要はない。テロリストを穏健なテロリストと穏健でないテロリストとに区分するべきではない。我々が目にしているのは様々なテロリスト・グループが混ざり合っていることだ。確かに時として、イスラム国、ジャブハート・アル・ヌスラその他のアルカイダ・グループが互いに戦うことはある。しかし、それは金が目当てであり、あるいは支配地域を得るためである。彼らの本質及び手段は同じだ。即ち、テロ、虐殺、人々を従順な羊とすることだ。
これまでの数年で状況は悪化している。テロリストのインフラは成長し、人数は増え、いわゆる穏健派の反対派に提供された武器はテロリストの手に渡っている。さらには、穏健派グループ全体がテロリストの側に寝返っているケースもある。
アメリカ及びその同盟国のイスラム国に対する戦いが目に見える成果を挙げていないのは何故だろうか。それは、あなたたちがテロリストに対する戦争を宣言しながら、同時に、彼らの一部を利用して自分たちの利益を実現しようとしているからだ。自分の好みに合わない政権を打倒するためにテロリストの一部を利用しようというのでは、テロリストと戦うことは不可能である。後の段階で彼らを除去したり、権力を彼らから取り上げたり、あるいは彼らと妥協したりすることができるなどと考えるのは幻想に過ぎない。リビアの現状はその最たる例である。
中東で戦っている過激派は、ロシアを含むすべてのものに対する脅威である(浅井注:プーチンは別の機会に、イスラム国には4000人のロシア人が参加していること、ロシア人口の15%がムスリムであることを紹介しています)。我々ロシア人は、テロリストの攻撃が意味すること、北コーカサスの一団がしたことを知っている。我々は、ブデンノヴスク、モスクワ、ベスラン、ヴォルゴグラードその他の都市における血なまぐさいテロリストの攻撃を覚えている。ロシアは、あらゆる形のテロリズムと常に戦ってきたし、この悪に対して全世界が力を合わせることを常に訴えてきた。私が国連総会演説で広汎な対テロ連合の結成を呼びかけたのもそのためである。
<シリア及び地域の情勢>
シリア当局がロシアの支援を要請してきたのを受けて、我々は同国における軍事作戦を展開することを決定した。再度強調するが、これは正統なものであり、その目的は平和を回復するということに尽きる。私は、ロシアの行動が情勢にとって所要の積極的効果を持ち、シリア当局が政治解決を達するために必要な条件をつくり出し、ロシアに対して脅威となるテロリストに対するシリア当局の先制攻撃を展開することに助けとなると確信している。かくして我々は、これらのテロリストが自国に戻った時の脅威からすべての国々及び人々を救っているのである。
地域の長期的解決を支援するために我々がやらなければならないことは次のとおりだ。
第一に、シリア及びイラクの領域をテロリストから解放し、彼らがその活動を他の地域に拡大させないことだ。そのため、イラク及びシリアの正規軍、クルド民兵、テロリストとの戦いに本当に貢献してきた様々な反対派グループを糾合し、地域内外の国々の対テロ行動を協調しなければならない。同時に、対テロ共同行動は国際法に基づいて行わなければならない。
第二に、過激派に対する軍事的勝利だけではすべての問題を解決できないことは明らかであるが、すべての健全で、愛国的なシリア社会の諸勢力が参加する政治プロセスを開始させるという大きな事柄のための条件をつくり出すだろう。自らの運命を決定するのはシリア人自身であり、最後通牒や脅しという外部からの圧力があってはならない。
例えば、シリア当局が崩壊すれば、テロリストを勇気づけるだけだ。今やらなければならないことは、シリア当局の力を削ぐことではなく、それに力を与え、紛争地域における国家の支配を強めることだ。
(第三に、)中東は、その歴史全体を通じて様々な帝国及び列強の衝突が起こった地域である。これらの帝国及び列強は、自らの利害に基づいてこの地域の政治構造を作り替え、境界を線引きし直してきた。その結果というものは、この地域に住む人々の利益になるものとは限らなかった。実際、帝国及び列強は現地の人々の意見をも徴することはなかった。
今こそ、この地域に住む人々とともに、国際社会の力を合わせる時ではないだろうか。これらの人々は、他のいかなる人々同様、敬意をもって遇されるべきだ。政治解決プロセスには、ムスリム宗教者、イスラム指導者及びムスリム諸国首脳の参加が不可欠だ。
第四に、我々は、地域の経済的社会的発展のためのロードマップを作成し、基礎的なインフラ、住宅、病院、学校を回復する必要がある。こういう現場での創造的な活動のみが難民の欧州への流れをストップさせ、自国に戻ることを可能にする。
シリアが戦争の傷を癒すためには、財政、経済及び人道面での巨大な援助を必要としていることは明らかだ。この活動を可能にする方式を決定し、支援提供国及び国際金融機関を巻き込む必要がある。もっとも重要なことは、互いを共通の闘いにおける同盟者と見なし、正直でオープンであることだ。
シリアは、共通の利益のためのパートナーシップにおける、すべての者に影響を及ぼす問題を解決し、有効な危機管理システムを展開するためのモデル・ケースとなることができるだろう。我々は、冷戦終了後にそのチャンスがあったが、それを実現できなかった。2000年代初期に、ロシア、アメリカその他の国々がテロの攻撃に直面した時にも同じような機会があったが、やはり協力のためのダイナミズムを作り出すことができなかった。今こそ、過去に起こったことから正しい教訓をくみ取るべきだ。
シリアにおけるロシアの軍事行動に関して、ロシアが攻撃する対象を間違えているという批判がある。私は最近、「あなたたちが正しい攻撃目標を知っているならば教えて欲しい」と述べた。しかし、返事はない。そこで私たちは、どの目標を避けるべきかについて教えて欲しいと尋ねた。しかし、やはり答はない。
ロシア軍とシリア軍による当初の作戦は一定の成果を挙げたが、十分ではない。地域のすべての国々及びアメリカを含む域外諸国が力を合わせれば素晴らしいことだ。それをロシアは提案している。我々はまずアメリカの軍事代表団がモスクワに来ることを提案したが、次にはロシア首相が率いる高級使節団をワシントンに派遣する用意があるとも述べた。しかし我々の提案は拒絶された。
アメリカ、ロシア、サウジアラビア及びトルコの外相が会うことになっているが、地域の他の国々も参加するべきだと考える。私の念頭にあるのは主にイランだ。ロシアはイランとの間に緊密なコンタクトがあり、イランはシリア問題の解決に重要な貢献を行っている。
アサドの去就に関しては、そういう問題を出すこと自体が間違っていると考える。特定の国家の指導者の去就について外部が指示し、決定するなどということがどうしてできるのか。この問題はシリア人自身が決めることだ。ただし、政府は透明な民主的手続で決められるべきだということはつけ加えておきたい。これらの手続を国際的に監視することは話し合っても良いが、その監視は客観的であるべきであり、もっとも重要なことは特定の国家または国々に与するような偏向があってはならないということだ。
アサド大統領との話の内容を少し披露しよう。私は彼にこう尋ねた。「シリア国内に武装した反対派がおり、本気でテロリズム、イスラム国と戦う用意があるとした場合に、我々がシリア軍を支援しているように、彼らの戦いをも支援するとしたら、あなたはどう対応するか。」彼はこう言った。「それはプラスになるだろう。」我々は今この問題について考えており、可能ならば現実のステップにするだろう。
<ソ連崩壊とロシア>
ソ連崩壊に関して何が最大の原因であったかといえば、国内的諸要因が主要なものだと考える。即ち、ソ連の政治的経済的システムの非効率性が国家崩壊の主原因だ。しかし、このプロセスに誰が手を貸したかということは別問題である。地政学的なライバルたちが何もしなかったとは考えない。
ソ連崩壊は2500万人のロシア人を外国に残した。ソ連崩壊は突然だったので、誰もそのことについて考えもしなかった。ロシア人は世界最大の分裂民族となったのであり、間違いなく悲劇である。ソ連崩壊は、社会システム及び経済をも道連れにした。確かに旧経済は効率的ではなかったが、その崩壊は300万人を貧困に追い込むという、ロシア人及びその家族にとっての今一つの悲劇だった。
<ウクライナ問題>
ウクライナ問題がロシアにとって危険を生むことは間違いない。問題は、ウクライナ問題をつくり出したのは誰かということだ。ヤヌコヴィッチが選挙で負け、ユーシェンコが政権に就いたことを覚えているか。ユーシェンコがどのようにして政権に就いたかを見てみよう。それは第3回目の投票の結果であるが、そのことはウクライナ憲法の規定にすらなかったことだった。しかし、西側諸国はそれを積極的に支持した。これは完全に憲法違反だった。これがデモクラシーと言えるか。混乱以外の何ものでもなかった。しかし、彼らはもう一度憲法違反をやった。しかも、クーデターというさらに荒々しいやり方によってだった。
ロシアの立場は、ウクライナの人民の選択に反対するということではない。我々はいかなる選択も受け入れる用意がある。ウクライナは本当に兄弟国であり、兄弟の人民だ。私は、ロシア人とウクライナ人との間でいかなる区別もしない。しかし、我々は政府交代に関する以上のやり方には反対だ。世界の何処においてでもこのようなやり方は良いとは言えないが、旧ソ連邦地域に関してはまったく受け入れることはできない。なぜならば、多くの旧ソ連邦諸国では国家についての伝統はなく、安定した政治システムが育っていないからだ。とは言え、憲法違反の第3回目の投票で権力についた人々とも付き合う用意はあった。我々は、親西側の政治家とみられていたユーシェンコ及びティモシェンコとも付き合った。
しかし、クーデターに対してはどうすればよいのか。あなたたちはウクライナにイラクまたはリビアを作ろうというのか。アメリカの当局者は、ウクライナで数億ドル使ったことを隠していない。彼らは公の場で反対派支援に5億ドル使ったと述べた。
アメリカがロシアにおける政治システム及び政府を変えようとしていると考えるのは間違いだというものがいる。私はそういう議論には同意できない。アメリカにはウクライナに関する法律があるが、その中にはロシアに対する直接の言及があり、法律の目的はロシア連邦の民主化だと述べている。我々がロシアの法律に、我々の目標はアメリカを民主化することだと書き込んだ場合を想定してみて欲しい。
反対派の存在は普通のことだが、反対派は自力でやっていくべきであり、そういう反対派に外国が数億ドル出して支援するということは正常なことだろうか。そういう行為が国家間の信用を築くことに資するだろうか。私はそうは考えない。
デモクラシーがロシアの国境に近づいてくるという問題だが、ここであなたたちが言うデモクラシーとは何か。NATOがロシア国境に迫って来ることを指しているのか。それがあなたたちのいうデモクラシーなのか。NATOは軍事同盟だ。我々が懸念しているのはデモクラシーが国境に迫って来ることではなく、軍事的インフラが迫って来ることなのだ。そういうケースに対して、あなたたちはどう対応せよというのか。これまでにNATOの東方拡大は2度の波があり、そして今はミサイル防衛システムの問題もある。これらすべては我々にとっては当然の関心であり、対処しなければならないことだ。
ミンスク合意に関しては遵守する以外の道はない。ドイツ首相とフランス大統領は、今ではかなり客観的になっていると信じている。確かに政治的理由により、彼らは今のキエフ当局を支持しているが、情勢についてはかなり公正な評価を行っているようだ。彼らは、ウクライナ東部で蓄積されてきた問題は単純なシロかクロかではなく、もっと複雑だと理解している。また、ニューヨークでアメリカの大統領と会った時、私は、欧州とアメリカの参加なしには情勢を解決することはできないだろうと述べた。
キエフ当局がミンスク合意の主要な点について遵守しない限り、ウクライナ東南部の未承認共和国当局に対してロシアがミンスク合意を実行するように働きかけることを怠っているとする非難は的外れだ。キエフ当局は遵守していないのだから。
政治解決を達成するために為されるべき最初のポイントは、ミンスク合意に明記されているように、未承認共和国との合意に基づいてウクライナ憲法を改正することだ。
キエフ当局は憲法を改正したが、これらの未承認共和国との合意を経たものではない。キエフ当局はヴェニス委員会との合意を達成したと主張している。しかし、ミンスク合意はヴェニス委員会については何も規定していない。必要なのはドンバスとの合意だ。
  次に、憲法改正は恒常的でなければならない。実際には、キエフ当局は過渡的な規定を作ったのであり、一時的な措置だということだ。相手側は逆のことを言っているが、そうだとすれば、それはしっかり憲法において定められなければならない。
  次に、未承認共和国における選挙に関する議論がある。ミンスク合意は、ウクライナ議会は選挙に関する法律を通過し、かつ、選挙はウクライナ法に従って行われるべきだとしている。しかし、この法律は、未承認共和国と合意されなければならない。未承認共和国は提案を3回送ったが、返事に接していない。
  さらに、すでに通過した法律は、これら未承認共和国での選挙には適用されないと明確に述べている。ではどうすれば良いのか。未承認共和国が自分自身で選挙を行うと宣言したのはこのためだ。我々は、未承認共和国を説得して選挙を延期させることにこぎ着けた。我々は、法律はキエフと共同で作成するべきことで同意した。しかしまだ実現していない。
  またミンスク合意は、同合意署名後30日以内に、キエフ議会は未承認共和国の法的地位に関する法律を提案する決議を通過すべきであると明確に述べている。キエフ議会はそれを通した。キエフ当局はどうしたか。彼らは正式にその決議を承認したので、ミンスク合意に従っている。しかし同時に、彼らは、ドンバスとの合意なしに、第10条の規定を設け、法律はドンバスでの選挙が行われた後に効力を生じるとしている。ということは、彼らはまた延期したということだ。これはごまかし以外の何ものでもない。
  最後に、彼らは恩赦の法律を通過させるべきだ。誰もが我々に、選挙はOSCE標準に従って行われなければならないと言うが、OSCE標準においては、選挙活動における一つの重要な条件として、いかなる人物も刑事的訴追を受けないと定めていることを忘れるべきではない。現実には、ルガンスク及びドネツクのすべての指導者が刑事訴追を受けているのだ。アメリカ及び欧州も含めて、恩赦に関する法律は通過しなければならないことは誰もが認めている。しかし、法律はできていない。
  ほかにも多くの問題があり、解決されていない。要するに、ボールはキエフ当局のもとにあるということだ。