中露米首脳の国際情勢認識:第3回(アメリカ)

2015.10.08.

9月28日、オバマ大統領は国連総会で演説しました。オバマ演説は、イラク及びリビアに対するアメリカ及びNATOの軍事介入の教訓を学ぶ必要があることは認めましたが、全体を通じるのは、アメリカの政策に対する正当化、弁解と弁護です。
「我々は、いくつかの主要国が…国際法に違反する(パワー・ポリティックスの)やり方で自己主張をしているのを目にしている」として、オバマが具体例としてあげたのは、アメリカ自身の行動への反省ではなく、ロシアによるクリミア併合とウクライナ南部への軍事介入であり、中国の南シナ海における行動です。
そこには、アメリカ自身が最大のパワー・ポリティックスの権化であり、国際法違反の常習者であるという自己認識が完全に欠落しています。また、今日のISの台頭を許し、大量の難民問題を生み出した中東・北アフリカに事態に対する責任の大半がアメリカ自身にあるという認識もまったくありません。要するに、21世紀に入った国際社会の平和と安定を脅かしている最大の元凶がアメリカ自身であるという自覚がないのです。
習近平及びプーチンの演説と比べると、オバマ演説は及第点以下のレベルであるというのが私としての結論ですが、ご判断は皆さんに委ねます。

  アメリカは、第三次大戦を防止するためにこの国連総会の多くの国々と、かつての敵国と同盟を結ぶことにより、自国民に対して責任を負う強力な民主国家の着実な台頭を支持することにより、そして協力よりも紛争を選ぶ国家に対して代価を課す国際システム及びすべての人々の尊厳と等しい価値を承認する秩序を建設することにより、協力してきた。
  それがこの70年間の仕事である。それがこの組織が追求してきた理想である。もちろん、この理想を実現できない時が数多くあった。しかし、我々は、国際的な規則及び規範のシステムがより良く、より強くそしてより一貫したものになるようにするべくゆっくりと、着実に前進してきた。世界の主要国間の外交的協力を実現し、10億人以上の人々を貧困から救い出した世界経済を育てたのは、この集団的努力である。大国が小国に意思を押しつけることを制約し、すべての大陸にデモクラシーと開発の台頭及び個人の自由を推し広めたのはこれらの原則である。
  進歩は本物である。しかし我々は、人類の進歩の歩みは一直線ではなく、我々の仕事は完成からはほど遠く、危険な潮流は我々を暗く、秩序のない世界に引き戻す危険があることを認識するに至っている。
  今日、我々は、紛争を生み出し、無辜の人々を前例のない規模で難民化した独裁者及び脆弱国家の崩壊を見届けている。残虐なテロのネットワークがその真空状態に入り込んできている。人々に力を与えているテクノロジーが今や、虚偽の情報をまき散らし、抵抗を抑えつけ、若者を過激にしようとする者たちによって利用されるようにもなっている。世界的な資本の流れは、成長と投資の源となっているが、同時に労働者の交渉力を弱め、不平等を加速している。
  我々はこれらの傾向に対して如何に対応するべきか。国連憲章に体現される諸々の理想は実現不可能であり、あるいは時代遅れであると議論するものがいる。彼らは、人類史のほとんどの期間に当てはまってきた、そして国連に先立っているルール、即ち、パワーはゼロ・サムのゲームであり、力は正義であり、強国はその意思を弱国に押しつけるべきであり、個人の権利は重要ではなく、急速な変化の時代には力によって秩序を押しつけなければならないという信念に戻ることを主張している。
  我々は、いくつかの主要国が、以上の基礎の上に立って、国際法に違反するやり方で自己主張をしているのを目にしている。我々は、国連の使命の中心に座る民主的原則と人権が損なわれつつあり、情報が厳格に支配され、市民社会のスペースが制限されつつあるのを目にしている。そういう引き締めは無秩序を回復するために必要であり、テロリズムを根絶し、外国の介入を防止する唯一の方法であると聞かされている。この論理に従って、我々はアサドのような独裁者を支持するべきだとされるのだ。
  我々の国際秩序に対する懐疑的な姿勢は最先進国の中でも増大している。アメリカも例外ではない。アメリカ大統領として、私は、我々が直面している危険について自覚している。私は世界最強の軍隊を率いており、我が国及び同盟国を守るためには、単独でかつ必要な時には力で行動することを絶対にためらわない。しかし、私は、世界の国々は紛争と強制という古いやり方に戻ることはできないと確信している。我々は、統合された世界、即ち、すべてのものが互いの成功にかかわりを持つ世界の中に生きている。
  アメリカの軍事力が如何に強大で、その経済がいかに強いとしても、我々は、アメリカ一国では世界の諸問題を解決できないことを理解している。イラクにおいて、アメリカは、数十万の軍隊、数兆ドルの財政支出を行っても外国の地に安定を押しつけることはできないという困難な教訓を学んだ。我々の努力に正統性を与える国際的な規範、原則及び法のもとで各国と協力するのでなければ、我々は成功できない。
  具体的な例を挙げよう。国連の主要な成果の一つである核不拡散体制がイランによるNPT違反によって脅かされてきた。安全保障理事会はイラン政府に対する制裁を強化し、多くの国々がその実施に参加した。そのことにより、法律と協定とが意味があることを示した。
  しかし、制裁の目的はイランを罰するだけということではない。我々の目的は、イランが政策を変更し、制約を受け入れ、その核計画が平和目的であることを世界が検証することを受け入れるかどうかを試すということでもあった。その結果は、イランが核兵器を取得することを防止し、イランの平和的エネルギーへのアクセスを認める長期的包括的取引となった。この取引が完全に実行されれば、核兵器禁止体制は強化され、戦争の可能性は回避され、世界はより平和になる。これこそが、国際システムが機能する時の力である。
  ロシアによるクリミア併合とウクライナ東部への侵略について考えよう。アメリカは、ウクライナには経済的関心を持っていない。ロシアとウクライナとの間の深い複雑な歴史も理解している。しかし、我々は、一国の主権と領土保全が赤裸々に犯される時には傍観することはできない。ウクライナにおいて起こっていることは、ほかの国でも起こりうる。アメリカ及びパートナー諸国がロシアに対して制裁を課しているのはそのためである。冷戦に戻りたいためではない。
  南シナ海においても、アメリカは領土的な主張はない。しかし、国連に集うすべての国と同じく、我々は、航行の自由及び通商の自由という基本的原則を守り、紛争を力の法則によってではなく国際法によって解決することに関心がある。したがって、我々はこれらの原則を防衛し、中国及び権利主張国が問題を平和的に解決することを促す。
  もちろん、世界にはなお、これらの歴史の教訓を拒否する国々も存在し続けるだろう。秩序が完全に破壊された時には、我々は行動しなければならないが、一緒に行動する時にはより強力たり得る。
  そのような場合、我々は自分のやるべきことを常にやるだろう。行動する際には、イラクの教訓だけではなく、国連の授権のもとで大虐殺を防止するために国際的連合に加わったリビアの例も含め、過去の教訓を踏まえるだろう。我々は、リビアの人々が暴君の支配を終わらせることを支援したのだが、その後に残された真空状態を埋めるためには、もっとできること、するべきことがあった。我々は、将来においては、困難な状況にある国々が崩壊する前に能力を身につけるよう、もっと効果的に協力しなければならないことを承認しなければならない。
  国際秩序に対するコミットがシリアにおいてほど試されているケースはほかにない。独裁者が数十万人の国民を虐殺しているというのは、もはや一国の内政ということだけではなく、我々すべてにかかわる規模の人類的な災難である。ISのような狂信的な教義を許容する余地はなく、彼らを追い詰めるために、広汎な連合の一環として我が軍事力を行使することをためらわない。
  しかし、シリア情勢を解決するためには、軍事力は必要だが、それだけでは十分ではない。アメリカは、この紛争を解決するため、ロシア及びイランを含めいかなる国とも協力する用意がある。しかし我々は、かくも巨大な流血と虐殺があった後は、戦争前のステータス・クオに戻ることはできないということを承認しなければならない。
  シリアの状況がどのようにして始まったかを思い出そう。アサドは、平和的な抗議に対して弾圧と殺人をエスカレートさせ、そのことが現在の争いの状況を生みだす環境をつくり出した。であるから、アサドとその仲間は、広汎な大多数の人口を平和にすることはできない。ISを根絶するためには妥協が必要であるというリアリズムはある。しかし、管理された移行においてはアサドに代わる新しい指導者が必要であり、シリアの人々が再建を始めることによって混乱を終わらせなければならないというリアリズムも必要である。
  (この後オバマは、持続的開発と貧困根絶、環境汚染、各国の民主化を取り上げた。)