中露米首脳の国際情勢認識:第1回(中国)

2015.10.02.

 最近読み直している『丸山眞男集 別集』(第2巻)の「内と外」という文章に、以下のようなくだりがあります。ちなみに、別集所掲の文章は、丸山眞男が推敲したものではありませんので、読みづらい部分もあることをお断りしておきます。

  「われわれが政治の世界において、たとえばある政治的な選択をするというのは、こういう外の世界におけるまず状況の判断能力、外の世界からくるいろんな通信、いろんな出来事に対するわれわれの受信装置というものをできるだけ完全にしていくことによって、われわれの政治的選択能力というのは、それだけ高まるわけであります。そうでなくてちょうど政治的な選択を、自分の中にある好き嫌いとか、好悪とか偏見というものを外に輸出する形で政治的選択がなされる場合には、それだけある種の外からくる情報というのは、われわれの受信装置というものに受信できないわけですから、それだけそこから出てくる判断というものが誤るおそれというものが多くなるわけです。これが政治的選択というものにとって、状況の吟味ということ、またわれわれの中にある偏見というものをたえずわれわれの内部から取り出して、吟味するということがどうしても不可欠になるゆえんなのであります。」

 国連成立70周年の今年は、米中露首脳をはじめとする各国首脳が国連総会に出席し、演説を行いました。私は、ホワイトハウスWSを通じてオバマ大統領、中国外交部WSを通じて習近平主席、また、ロシア大統領WSによってプーチン大統領それぞれの総会演説を読んだのですが、その読後感として真っ先に思い出したのが、上記の丸山眞男の発言でした。丸山が言う「自分の中にある好き嫌いとか、好悪とか偏見というものを外に輸出する形で政治的選択がなされる場合には、それだけある種の外からくる情報というのは、われわれの受信装置というものに受信できない」という事例が、正に習近平及びプーチンの演説に対する私たち日本人の反応に端的に表されているのです。
  しかし、虚心坦懐に読む時、習近平演説の思想的高みは誰もが否定しえないレベルにあると思います。また、プーチン演説は、21世紀国際社会のあり方に関して極めて説得力ある主張を展開しています。そして両者に共通するのは、アメリカが固執する一極支配に対する痛烈な批判であるということです。それに対してオバマ演説の空虚さには唖然とせざるを得ません。
  ところが、アメリカ発の情報の洪水の中にどっぷりつかってしまっている日本国内では、習近平及びプーチンの演説の内容すらが私たちには届かないのです。しかし、これでは「われわれの受信装置というものに受信できないわけですから、それだけそこから出てくる判断というものが誤るおそれというものが多くなる」(丸山)ということになるほかありません。
  そこで、せめてこのコラムで中露米首脳が国連総会でどのような内容の演説を行ったかを、大要だけでも紹介しようと思い立ちました。第1回は、習近平:「手を携えて協力共嬴の新たなパートナーを作り、心を合わせて人類運命共同体を作りだそう」(9月28日)です。

  歴史は鏡である。歴史を鑑とすることによってのみ、前轍を踏むことを避けることができる。歴史を改めることはできないが、未来は創造できる。歴史を銘記することは恨みを長引かせるためではなく、共に戒めとするためである。歴史を受け継ぐことは過去にこだわるためではなく、未来を切りひらき、平和のたいまつを子々孫々に伝えるためである。
  新しい歴史の起点に立つ時、国連は、世界の平和と発展という重要課題に対して如何に答えるかを深く考える必要がある。
  世界は正に変化を加速させる歴史的プロセスの中にある。世界の多極化は更に進み、新興市場国家と途上諸国の台頭は、もはや阻止することのできない歴史的潮流となっている。経済のグローバル化と社会の情報化は、社会的生産力を最大限に解放し、発展させ、かつてない発展のチャンスを創造するとともに、真剣な対応を要する新たな脅威及び新たな挑戦をもたらしている。
  平和、発展、公正、正義、民主、自由は全人類の共通の価値であり、国連の崇高な目標でもある。今日の世界では、各国は相互に依存し、苦楽を共にしている。我々は、国連憲章の精神と原則を継承、発揚し、協力共嬴を核心とする新型国際関係を構築し、人類運命共同体をつくり出すべきである。そのため、我々は以下の努力を行う必要がある。
-我々は、平等で相対し、互いに協議し、理解し合うパートナー関係を作り上げるべきである。国連憲章を貫くのは主権平等原則である。世界の前途と命運は、各国の共同によって掌握しなければならない。世界各国は一律に平等であり、大が小を圧迫し、強が弱を侮り、富が貧を欺すことがあってはならない。主権原則は、各国の主権及び領土の保全は侵犯を許さず、内政は干渉を許さないことに体現されているだけではなく、各国が自主的に社会制度及び発展の道筋を自主的に選択する権利は擁護されるべきであり、各国が経済社会発展を推進し、人民生活を改善する実践は尊重されるべきであるということにおいても体現されるべきである。
  我々は、多国間主義を堅持するべきであり、一極主義をやるべきではない。双贏、多贏、共贏という新しい理念を奉ずるべきであり、勝った負けた、勝者が総なめという古い思考を捨て去るべきである。協議はデモクラシーの重要なスタイルであり、現代国際ガヴァナンスの重要な方式ともなるべきであり、対話によって紛争を解決し、協議によって違いを解消することを唱道するべきである。我々は、国際及び地域のレベルで、グローバル・パートナーシップを構築し、「対話・不対立、結友・不同盟」という国家観に基づく交わりという新しい道筋に進むべきである。大国関係は、衝突せず、対抗せず、相互に尊重し、協力し共贏するべきである。大国と小国との関係においては、平等で相対し、正しい義利(正義と利益)観を実践し、義と利を兼ね備えるとともに、義を利より重んじるべきである。
-我々は、公正で正義な、ともに建設しともに享受するという安全保障環境を構築するべきである。経済がグローバル化した時代においては、各国の安全保障は互いに関連し、相互に影響し合っている。一国は己だけの力だけでは絶対的な安全保障を謀ることはできず、他国の激動によって安定を獲得することもできない。弱肉強食はジャングルの法則であって、国家関係における道筋ではない。みだりに武力を行使することは覇権的やり方であり、結局は自らを傷つけるだけである。
  我々は、あらゆる形の冷戦思考を捨て去り、共同、総合、協力、持続可能な安全保障という新しい観念を樹立するべきである。我々は、国連及び安全保障理事会の停戦・平和維持における核心的役割を十分に発揮し、平和的紛争解決と強制行動という二重トラックにより、戦争を友好に変えるべきである。我々は、経済及び社会という両領域における国際協力を並行して進め、伝統的及び非伝統的脅威に総合的に対処し、戦争の危険性を未然に防ぐべきである。
-我々は、開放創新、包容互恵という発展の展望を追求するべきである。2008年に爆発した国際金融危機が我々に告げたのは、資本の利潤追求を放任することがもたらす結果は新たな危機であるということだ。モラルを欠く市場は世界の繁栄・発展というビルディングを支えることは難しい。富めるものはますます富み、貧しきものはますます貧しくなるという局面は維持することが難しいだけではなく、公正と正義にも反する。「見えざる手」と「見える手」とを巧みに用いて、市場の役割と政府の役割との有機的統一の形成、相互促進に努力し、効率と公正をともに考慮する規範構造をつくり出すように努力するべきである。
  みんなが一緒に発展してこそ真の発展であり、持続的な発展こそが好ましい発展である。この目標を実現するためには、開放精神を引き継ぎ、互幇互助及び互恵互利を推進するべきである。今日の世界においては今も8億人が極端な貧困の中で生活しており、600万に近い子どもが毎年5才以前に死亡しており、6000万に近い子供たちが教育を受けられないでいる。閉幕したばかりの国連開発サミットは、2015年後の開発アジェンダを制定した。我々は、約束を行動に変え、人々が欠乏から免れ、開発を獲得し、尊厳を享受する明るい展望を共同で作り上げるべきである。
-我々は、和して同ぜず、吸収するとともに蓄える文明交流を促進するべきである。人類の文明の多様性は、この世界に絢爛豪華な彩りを付与しており、多様性が交流をもたらし、交流が融合を育み、融合が進歩を生み出している。
  文明の共存には和して同ぜずの精神が必要である。多様性の中での相互尊重、相互学び合い、調和共存によってのみ、この世界は豊富多彩で活気に溢れたものとなることができる。異なる文明は、異なる民族の知恵と貢献を凝縮しており、高低の区別はなく、ましてや優劣の区別はない。文明間では対話が必要であり、排斥するべきではない。交流するべきであり、取って代わるべきではない。人類の歴史は、異なる文明の相互交流、学び合い、融合の雄大な絵巻物である。我々は、様々な文明を尊重し、平等に相対し、互いに学び合い、吸収するとともに蓄えることにより、人類文明が創造的発展を実現するように推進するべきである。
-我々は、自然を尊崇し、地球に優しい発展という生態系を構築するべきである。人類は、自然を利用し、自然を改造することができるが、最終的には自然の一部であり、自然を保護しなければならず、自然の上に立つことはできない。我々は、工業文明がもたらした矛盾を解決し、人と自然の調和的共存を目標とし、世界の持続可能な発展と人の全面的な発展とを実現するべきである。
  生態文明の建設は人類の未来にかかわっている。国際社会は、手を携えて共に歩み、グローバルな生態文明建設の道をともに模索し、自然を尊重し、自然に順応し、自然を保護する意識を確固として樹立し、地球に優しい、低炭素な、循環型、持続可能な発展の途を堅く歩むべきである。この分野において、中国は他者に転化できない責任を負っており、引き続き自らの貢献を行っていくだろう。同時に、我々は先進国が歴史的責任を担い、排出削減の約束を実現し、同時に、途上国の気候変動に対する適応を支援することを促す。
  チャイナ・ドリームの実現は、平和な国際環境と安定した国際秩序を抜きにはあり得ず、各国人民の理解、支持及び助力抜きにはあり得ない。中国人民が夢を実現することは、必ずや各国に対しより多くのチャンスを創造し、世界の平和と発展を更に促進するだろう。
  中国は、一貫してグローバルな発展の貢献者であり、共同して発展する途を歩むことを堅持し、互利共贏の開放戦略を奉じ続け、自らの発展の経験とチャンスを世界各国と分かち合い、各国が中国の発展という車に相乗りすることを歓迎し、一緒に共同発展を実現するだろう。
  中国は、一貫して国際秩序の擁護者であり、共同発展の途を歩むことを堅持するだろう。中国は、最初に国連憲章に署名した国家であり、国連憲章の精神と原則を核心とする国際秩序及び国際システムを守り続けていくだろう。中国は、広汎な途上諸国の側にあり、途上諸国とりわけアフリカ諸国が国際統治システムにおける代表性及び発言権を増加することを確固として支持するだろう。国連における中国の一票は永遠に途上諸国に属する。
  ここに、私は以下のことを宣言する。中国は、10年を期間とし、10億米ドルを総額とする中国・国連平和開発基金の設立を決定し、国連の仕事を支持し、多国間の協力事業を促進し、世界平和及び開発に新たな貢献を行う。中国は、新たな国連平和維持能力待機メカニズムに参加し、そのために率先して常備部隊を組織し、8000人規模の平和維持待命部隊を作る。中国は、今後5年間に、アフリカ機構(OAU)に対して総額1億米ドルの無償軍事援助を提供し、アフリカ常備軍及び危機対応迅速反応部隊の建設を支持する。